1-20 ありえないモンハウ
足湯を離れ狩りを再開してから10分。効率が出ていない。モンハウができやすいポイントをいくつか周ってみたものの、小規模なモンハウを2個潰しただけだ。
「くそっ、ここもいねえのかよ!」
「そんなに焦らなくても、また会えますよ~」
サエラの言う通りだ。このダンジョンを俺たちが独占している以上くまなく探索すれば、どこかでモンハウにぶち当たるはず。
「だけどよぉ、せっかく独占できてるんだから、やっぱ効率出したいだろ」
「レイさんの経験値が上がるわけじゃないですけどね~」
レベル上げの当事者であるサエラは相変わらずマイペース。
それに比べて、自分のことでもないのに効率に一喜一憂するなんて、廃人の悲しい性だな。
しばらく歩くと三叉路に出た。
「どっちに行くべきか……」
湧泉洞のマップをにらめっこして進路を考える。
「とりあえず右行ってみましょー」
悩んでいる俺に構うことなくサエラは右に進路を決める。
物資もまだ余裕があるはず。こんな所で悩んでいても仕方ねえ。右へ行くか。
細い通路を進む。この通路を抜けると広い場所に出る。
先に近づくにつれキーキーというスパモンの鳴き声が大きくなってくる。洞窟の岩に当たって反響していることを考慮しても、かなりの数のスパモンがいるのは間違いないだろう。
「こっちが当たりみてぇだな」
「お猿さん、いっぱいいるといいですね~」
「30匹くらい、いたらいいのにな」
「いくらなんでも、そこまではいませんよ~。いても危ないだけですよ~」
談笑しながら角を曲がって通路を抜ける。抜けた先にいたのは――、
広い空間を埋め尽くすほどのスパモンキーとスパゴブリンの大群だった。その数合わせて、ゆうに50匹はくだらない。
な……、何だよ、このモンハウ。こいつら1年に1度のお祭りでもやってんのかよ。
こんなモンハウ、湧泉洞で見たことねーよ。
「わ、私、死んだかな……」
さすがの十五勇者のサエラでも、眼前の光景に凍り付いている。
どうする……? スパモンが気づいていないうちに、ダッシュの魔石を填めて撤退するか……。
撤退の2文字が頭をよぎったその時、その選択肢はあっけなく消え去る。
集団から3匹のドゥームズフライが飛び出してきた。ドゥームをダッシュで振り切ることはできない。つまり、逃げようとしてもドゥームに足止めをくらってしまうということだ。
そして、スパモンの大群がこちらに視線を向けてきた。
「サエラ、後ろに下がってドゥームだけを処理しろ」
「えっ、えっ。でもいくらなんでも多すぎ……」
「いいから早くしろ!」
サエラに向かって叫びながら魔石を外付けし、ハイディングというスキルを使用した。
ハイディングは、隠密状態になるスキルだ。隠密状態になると敵からターゲッティングされなくなる。
俺が消えたことにより、ドゥームの攻撃対象はサエラのみとなる。当然ドゥームはサエラに向かって行く。
サエラは俺に言われた通り、後ろに下がってドゥームとの戦闘を始めだした。
それを確認しハイディングを解除する。
さあ、ここからは俺の出番だ!
俺は装備ウインドウをタップし、武器を装備。得物はサエラのサブウエポンである三節棍。タイラン製の不良品だが、こいつで十分。そして急いで魔石を外付け。
三節棍を斜め下に構えて、大群に向かって吼える。
「おい、間抜け面した雑魚ども! 来るなら来やがれ! プロ級ゲーマーの腕前、たっぷり見せつけてやんよ!」
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