5-43 護る姉、護る妹2
投稿が遅くなって申し訳ありません。
5-42から今回(5-43)までは3人称ツフユ視点で話が進みます。
前回は評価をいただきました。本当にありがたいことです。
ブクマ、評価、感想は私たちの力になります。拙作を応援したいなぁと思っていただけたら、迷わずによろしくお願いします!
HUラムダオを手にしたサイクロプスは化け物だ。
そんなサイクロプスを抑える秘策がツフユにはあるという。秘策についてサエラがツフユに質問する。
「どうやって……、抑えるんですか?」
「脚を切断する」
「「……!!」」
JAOでは四肢の付け根が斬られると、切断という状態異常になることがある。
脚を斬られれば、斬られた脚が消滅。腕を斬られれば、斬られた腕が消滅。
「脚の1本でももげれば、まともに動けなくなる。そうなったら、あたしたちがやりたい放題できるだろ。時間差を置いてもう1本の脚も斬ってしまえば、5分後に脚が再生しても片脚の状態だから怖くない」
「切断って難しいでしょ。本当に狙ってできるの……!?」
ヒナツが深刻な顔をしてツフユの返答を待つ。
「ミートチョッパーの魔石を持ってきてるから、それでやる」
切断を決めるには、一定のラインに合わせて斬らなければならない。しかし、そのラインは非表示である。切断を意図的に起こすのは非常に難しい。
ミートチョッパーというアクティブスキルは、切断のモーションアシストがついている。だから切断を決めやすくなっている。
ただし、ラインの補正はdexで、切断ラインがずれた場合の切断確率はstrで判定がある。
ツフユのdexボーナスは3、strボーナスは5。決して切断に向いているステータスではない。
だが、ツフユには自信があった。これまでいくつもの死線を越えてきた経験がある。切断ラインも大体分かる。今、この状況を覆せるのは自分しかいない。
「ツフユさん」
行こうとしたツフユにサエラが声をかける。いつの間にかサエラは、装備をスピアーから、先祖伝来の剣ピートハイプラスターに変更していた。
「ミートチョッパーなら、私のほうがステ的に有利です。私が行きます」
「その剣は、こんな雑魚相手にはもったいねえよ」
「でも……!」
「あたしもレイもやられたら――そいつを抜け」
メッセージをサエラに伝えて、ツフユは1人飛び出した。
現在フェーリッツが巨人のタゲを抱えていた。
サイクロプスは青い瞳をせわしなく動かして、フェーリッツの姿を捉えようと必死になっている。
攻撃するなら――今だ。
「だりぃ。さっさと終わらせるか。ジャンプ!」
ツフユはラムダオを下手に構えたまま跳んだ。
「ミートチョッパー!」
狙うは右足の付け根。腕にぐっと力を込め、重い大刀を振り上げる。
スピード、角度、タイミング――完璧だ。あとはきっちり振り抜くだけ!
ラムダオの剣先がサイクロプスの肉を裂いた時、サイクロプスが足の向きをわずかに変えた。フェーリッツに対する攻撃モーションをとるためだ。
ツフユはサイクロプスの硬直まで計算してミートチョッパーを使った。だが、0.05秒、読みを誤った。
(ラインが……くそっ!)
一度ラインがずれてしまえば軌道修正することは不可能。
こうなったらスキルによる切断補正に賭けるしかない。
(斬れてくれよ!)
運を天に任せてツフユはラムダオを振り抜いた。
ダメージエフェクトを示す赤い光。それが消える同時に、
「やったか……?」
ツフユは後方を確認する。切断が成功したのなら、欠損した部分が赤いワイヤーフレームに変化しているはずだ。
サイクロプスは仁王立ちしていた。
――斬られる前と何ら変わりない、丸太のようながっしりとした脚で。
(駄目だったか……)
ミートチョッパーは弾数が1しかない。一度外してしまうと2分間は使用不可能となる。
今度はミートチョッパーに頼らず切断ラインを斬らねばならない。
(ミートチョッパーなしとか、マジ面倒くせぇな……)
失敗に気を取られたその一瞬、
「アース――、シェイカァァァーー!」
襲ってきた大地の津波にツフユは呑みこまれてしまった。
アースシェイカーのエフェクトが治まり、ツフユは起き上がろうと腕に力を込める。
腕が上がらない。首をわずかに動かすことすらできない。雷のアイコンが視界上部に表示されている。
(くそっ、麻痺かよ)
メマリーとフェーリッツが地面に倒れているのが見えた。
メマリーの頭上には回る星のアイコン、フェーリッツの頭上には自分と同じ雷のアイコンが浮かんでいる。
メマリーはスタン、フェーリッツは麻痺になってしまった。
スタンも麻痺も、行動不能となる状態異常だ。
タンク2人が行動不能になってしまった。しかも、ヒーラーである自分までも。
鍛冶中のレイを除けば、動けるのはサエラとヒナツの2人しかいない。
HU武器を振るうサイクロプスを抑えるのは、タンクの2人でもやっとだった。立て直すのは厳しい。
(動け……動け……。動けって言ってんだろ、あたしの体!)
どれだけ体中に力を込めても、指先さえピクリとも動かない。
(くそっ、くそっ! フィルドとザフィールと誓ったんだよ! フィルドから受け継いだ、この世界、何が何でも護ってみせるって!)
どれだけ怒っても、どれだけ奮い立たせても、ツフユは瞬き1つすらできなかった。
(あたしがやらなけりゃ、誰が護るんだよ!)
「ツフユ!」
ヒナツの赤い瞳が自分を見つめている。戦うことを諦めていない勇者の目。闘志はまだ消えていない。
遠く離れた知らない地へと旅立ったパートナーのことを思い出す。
(そうだ……。あたしやザフィールは、この目によく励まされたっけ)
お調子者で、危なっかしい妹。ツフユにとっては護るべき存在。
でも今は、その妹に励まされている。少し前までは自分の後ろをただ付いていくだけの頼りないやつだったのに。
(ああ……成長したな、こいつ……)
合同神楽を企画したことといい、節分イベント実行委員長を務めたことといい、自分を説得したことといい、本当にツフユの成長には驚かされる。
すっかり頼もしくなったヒナツを見て、ツフユの胸が熱くなる。
ヒナツが大きく息を吸い込み、そして叫んだ。
「絶対に、護るんだから!」
『護る』
その2文字にどれほどの決意が込められているか。ツフユは痛いほど、よく分かっている。
どんな危険も困難も、全て背負って立ち向かう必要がある。そのためにも、強くなくちゃいけない、賢くなくちゃいけない。
ツフユは心の中でほくそ笑んだ。
(言うようになったじゃない、ヒナツ)
その見開いた蒼い瞳で、ツフユは妹の成長を見守ることにした。
サイクロプスを攻撃しに行こうとするサエラを、ヒナツは腕を掴んで止める。
「待って。サイクロプスはアタシが相手する」
「ヒナツは、キュアコンでフェーリッツ君の麻痺を解除してほしい」
サイクロプスのタゲを抱えることができるのはフェーリッツしかいない。状態異常の解除はヒーラーであるヒナツの仕事。
しかし、ヒナツは首を横に振る。
「さっきの回復連打でサイクロプスはアタシへのヘイトを溜めてる。これ以上回復スキルは使いたくない」
回復スキルの使用はヘイトを大幅に上昇させる行為だ。
「でも……」
「フェーリッツが復帰したときに、アタシへのヘイトが1番だったらヤバい」
「……!」
「サエラ、フェーリッツの麻痺解除お願い。キュアコンじゃなくて、ポーションで」
麻痺解除のポーションをフェーリッツに飲ませれば、ヘイトが上昇することはない。時間はかかるが安全に立ち回ることができる。
ヒナツの判断にツフユは感心した。
(猪突猛進のヒナツのくせに、周りがよく見えてるじゃねーか)
「1匹残らず潰してくれるわっ! マインドアイ!」
サイクロプスが吼えた。もう巨人から隠れることは許されない。
「頑張って!」
サエラはフェーリッツの元へと走った。
サエラが助けに入る前にフェーリッツにとどめをさすつもりなのか、サイクロプスはラムダオを上段に構えて攻撃態勢に入る。
「虫けらどもめ、捻り――」
「インヒビション!」
勇ましい掛け声とともに魔法が発動。
紫色の粘液状の魔法弾がサイクロプスに命中。サイクロプスの動作がゆっくりになった。
ヒナツに速度低下の状態異常をかけられたのだ。
「ありがとう、ヒナツ!」
サイクロプスの攻撃よりも先に、サエラはフェーリッツを救出。フェーリッツを抱えたまま走り続けてサイクロプスから距離を取る。
「待たんか、虫けらぁ~~!」
髭を逆立て、サエラを必死に追う巨人。それでも距離はどんどん遠くなるばかり。
一方、ヒナツはサイクロプスに攻撃することも、サエラたちを支援することも、残り2人の状態異常の解除もしていない。
ただ、サイクロプスを追いかけるだけ。
サイクロプスのヘイトを溜める行為は最低限に。それでいて、何かあった時すぐ支援できるように杖の先はサエラたちに向けている。
ただひたすらに支援――護ることに徹したプレイ。
(あのバカでお調子者のヒナツでも、こんなクレバーな戦いができるんだな……)
いつもと違う妹の背中をツフユはただ見つめていた。
(ヒナツのあんな姿、見たことねえな……)
いや、違う。
(あの男と出会ってからというものの、何度も見てきたじゃねーか。あいつはもう……)
サエラがフェーリッツの麻痺解除に成功。そして、フェーリッツはサイクロプスの相手を引き受ける。フェーリッツはバフスキル、挑発スキルを駆使して順調にヘイトを稼いでいく。
タゲをフェーリッツに固定した状態で、ツフユとメマリーの状態異常を回復する。これならヒーラーが崩れることはない。
麻痺から回復したツフユがヒナツに声をかける。
「あの状況を立て直すなんて、本当に成長したな……」
これまで自分は妹のことを、護らなければならない存在だとずっと思い続けてきた。それが間違いだったとは思っていない。
けれども、その妹に護られた。偶然ではない。不利を乗り切るだけの実力と、確固たる意志。両方の賜物だ。
ヒナツは自分の想像をどんどん超えていく。自分ではもう止められない。止めたくもない。
「ヒナツ、あんたはもう立派な巫女だよ。これからは、あたしの代わりにたくさんのものを護るんだ」
「ツフユ……」
「ヒナツがあたしの仕事をやってくれたら、あたしも楽でき――」
ポカッ!
ツフユの頭にヒナツのげんこつが落とされた。
「またそうやって楽しようとする! ツフユも巫なら巫らしく務めを果たせ!」
「巫なんて1人いれば充分だろ。面倒くさ」
「1人より2人でやるんだよ!」
「2人で仕事をする意味は?」
「またへりくつ言う!」
バリバリバリッ!
サイクロプスの魔法、ジャッジメントサンダーの雷鳴が聞こえてきた。
軽い口喧嘩をしていた姉妹は「あははっ」と笑って武器を構える。
「巫業を引退するにはまだ早いんじゃない?」
「ボスを倒すまでは保留ってことで」
「行くよ!」
「行くか」
「その必要はねーよ」
ヒナツとツフユは振り返って声の主を見る。
麻のシャツに黒のズボンという無駄を排した服装。爛々とした鋭く黒い眼。スリルを楽しんでいるかのような危なげな笑み。そこはかとなく感じられる絶対的強者のオーラ。
「レイ!」
「レイ=サウス!」
「待たせたな、ヒナツ、ツフユ。こっからは、本気の時間だ!」
次回は12月9日の12時頃に更新の予定です。
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