5-42 護る姉、護る妹1
今回(5-42)から5-43までは3人称ツフユ視点で話が進みます。
HUラムダオを手にしたサイクロプスの圧倒的な力。これを何とかするには、レイもHU武器を作って戦うしかない。
サイクロプスに鍛冶を妨害されては反撃の芽が潰れてしまう。HU武器が完成するまでは、他のPTメンバーだけでサイクロプスの注意を引きつけなければならない。
現在、レイが鍛冶を始めて3分経過したところだ。
フェーリッツがサイクロプスの前に立ちふさがり、1人でタゲをとっている。
「虫けらふぜいがぁぁぁ!!」
メインタンクのメマリーを即死寸前までに追い込んだサイクロプスの斬攻撃。
誰もが恐れる強攻撃をフェーリッツはあえてもらう。
ダメージは――3863。
「効かねえよ!」
「おのれぇぇぇ~~!」
フェーリッツの挑発にサイクロプスは体を震わせて怒る。
「こっちだ、デカブツ!」
その隙にフェーリッツが20%エリアを斬りつけた。
フェーリッツの圧倒的優勢。
そんな様子を他のメンバーは固唾を呑んで見守っている。
フェーリッツが圧しているにもかかわらず、皆の表情は暗い。
フェーリッツが優勢なのは理由がある。
フェーリッツは道中で手に入れた耐人の魔石SSを外付けしているからだ。
耐人の魔石SSを使えば被ダメを大きく減少させることができる。ダメージを気にしないで戦えるため、攻撃にも転ずることができる。
攻撃を受け続けながらダメージを与える。タンクとしての基本的な役割を果たすことで、フェーリッツはサイクロプスのヘイトを自分に向けることに成功した。
しかし、外付けはあくまで外付け。限界がある。
フェーリッツが装備ウインドウを操作し外付魔石を変更。そして、ツフユたちを手招きで呼ぶ。
合図を見たツフユが苦々しげな表情で呟く。
「ここからが本当の勝負だな……」
外付魔石の効果時間は3分。どんなにランクが高い魔石であっても、これを伸ばすことはできない。
今までは安全に戦うことができた。だが、ここからはそうもいかない。1撃1撃が致命的な攻撃だ。
守りを固めなければ、あっさりと即死するだろう。守りを固めてもどうなるか分からないのだが。
耐人SSの効果が切れて30秒ほどが経過。
「当たんねーよ、下手くそ!」
「ほざけ。うぬこそ、さっきから手を出しておらんではないか」
サイクロプスの指摘にフェーリッツが苦笑する。
JAOは他のゲームと違い、回避を何度も続けるとヘイトが減少する。減少値はそれほど大きくないものの、いつかは下がりきってしまう。
ヘイトを稼ぐため次の攻撃ぐらいは受けておこうと思ったのだろうか。フェーリッツは足を止めて外付けを変更しにかかる。
「ヘッドシェイク!」
巨大なラムダオがフェーリッツの脳天に振り下ろされた。
フェーリッツの頭上にスタンアイコンが浮かぶ。フェーリッツはその場にバタリと倒れた。
「キュアコンディション!」
ヒナツがフェーリッツのスタンを解除。
だが、サイクロプスの攻撃は続く。
「死ねぃ、虫けらぁぁ!」
サイクロプスがフェーリッツ目掛けてラムダオを斬り下ろす。
フェーリッツのHPバーは赤色、つまり2割を切っている。もらったら死ぬ!
「ヒール」
「ファーストエイド、ファーストエイド、ファーストエイド!」
ツフユがヒール。ヒナツが回復スキル、ファーストエイドを連打。
HPが回復したことでフェーリッツは生き延びることができた。
「邪魔者がいるな……」
青い巨眼がじろりとヒナツを睨む。回復スキルの連打でヒナツに対するヘイトが上がってしまったのだ。
「虫けらふぜいがぁぁぁ!!」
容赦なく襲い来るサイクロプス。ヒナツのか弱い命など、一刀のもとに断たれてしまうに違いない。
「アームズブロック!」
朱の巫女への攻撃を蒼の巫女が弾いた。
強烈な反発を受け、サイクロプスはその巨体を後ろにのけぞらせる。
「ありがとう……」
ヒナツが赤い瞳を少し潤ませてツフユに礼を言う。
それを聞いて、ツフユは少しだけ口角を上げて返事をした。
「当然。先輩だし、姉だし」
いつだってツフユはヒナツを護ってきた。
おっちょこちょいで自分より弱い存在。自分が護らなければ、きっと命を落とす。
そんなことはさせない。そんなことはあってはいけない。
先輩として、姉として、今までもヒナツを護ってきた。そして、これからもずっと。
それに、ツフユには全てを護るという誓いがある。
フィルド、ザフィール、ツフユの3人で交わした約束――絶対に破るわけにはいかない。
それがフィルドから託されたツフユの仕事。
妹すら護れないようでは、使命は果たせない。
その後、メマリーがタゲを抱えてくれたこともあり、フェーリッツは無事復帰できた。メマリーと交代し、フェーリッツは再びサイクロプスのタゲを抱える。
「フェーリッツ、大丈夫かな……」
不安そうにヒナツがフェーリッツを見つめる。
いくらフェーリッツが技巧派だからといっても、サイクロプスとは戦闘力の差がありすぎる。フェーリッツよりもHPの高いメマリーでさえも数十秒でぼろぼろになったのだ。レイがHU武器を作るまで持ちこたえられるかどうかは分からない。
「心配すんな、ヒナツ」
頭をぽんと叩き、ヒナツにツフユが声をかける。
「あのデカブツは、あたしが抑える」
「正気!? 相手はHU武器持ってるんだぞ!?」
「あたしに秘策がある」
ツフユの言葉に、側に居たサエラとヒナツが驚いた。
「無茶です! レイ君が武器を作り終えるのは後1分ちょい……ううん、もっとかかるかもしれないんですよ!?」
サエラの指摘は正しい。
武器製造が1回で成功すれば1分持たせるだけでいい。だが、失敗したら、また始めからやり直しだ。
正直面倒くさい。早く家に帰ってごろごろしたい。
けれども、肝心な時に頑張れないほど、ツフユはダメな巫ではない。
「5分かかっても、10分かかっても構わないね。その間抑え込めれば――あたしたちの勝ちだ」
ツフユは外付けを変更し、
「見てろ、ひよっこども。これが――世界を護る巫女の本気だ」
ラムダオをドンと構える。
次回は12月5日の9時頃に更新の予定です。
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