5-37 サブウエポン
翌日の朝7時。レスターン神宮の社務所に巨人工房攻略メンバー6人が集まった。
「遅刻したやつは誰もいねえな」
「サエラちゃんが遅刻していないんだから、大丈夫っしょ」
朝からやる気にみなぎっているフェーリッツの言葉を聞いて、俺は愚痴をもらした。
「サエラは俺とメマリーが2人掛かりでなんとか叩き起こしたんだけどな……っていうか、寝るんじゃねえ」
早速夢の国へ戻ろうとしているサエラを、身体を揺さぶって起こす。
「早く武器を見せてよ!」
ヒナツが身を乗り出して催促する。
「慌てんじゃねえ。まずは対サイクロプス用アタッカー武器を配る」
そう言って、取引要請をサエラとヒナツに飛ばす。
まずは、俺の武器。
武器:Uスピアー(詳細省略)
サエラの武器。
武器:Uスピアー(詳細省略)
ヒナツの武器。
武器1:Uスピアー(詳細省略)
武器2:支援用ステッキ(詳細省略)
「あ、メインウエポンはスピアーかぁー。威力が出るから強いんだよね」
「ヒナツもスピアーだったの。私もだよ~」
「ちなみに俺もな」
場がシーンと静まりかえった。ここで、ツフユが一言。
「手抜きかよ」
「手抜きじゃねーよ。サイクロプス攻略には、スピアーが1番良いと思っている」
スピアーはJAOでもトップクラスに優秀な武器だった。
「よく聞け。サイクロプスは昨日も説明した通り、サイズが巨大のボスだ。武器もデケぇ。そんな相手に攻撃のチャンスを作ろうとするのなら、ちょっとでも長いほうが得なんだよ」
スピアーは長柄武器の中でも差し合いなら一番強い。
「なるほどねー」
サエラがうなずいてくれた。
「アタシもスピアーは好きだよ。威力出るしね」
「もちろん、ヒナツの言うことも理由の1つだな。アタッカーならDPS上げてなんぼだろ」
DPSというのは秒間ダメージのことだ。アタッカーはダメージを与えるのが仕事。DPSが低いアタッカーなんて仕事をしていないのと同じだ。
「この武器は威力を4個組み入れているから、DPSは高ぇぞ。存分に暴れまわろうぜ」
「「任せてよ!」」
サエラとヒナツが返事をした。
3人の武器のもう少し詳しいレクチャーを終えた後、ツフユが話しかけてきた。
「そろそろ、あたしの武器を見せてくれ。あたしのリクエストちゃんと応えてくれたよな」
昨日と同じく挑発的な態度。こいつはきっと厳しい客だ。だからこそ、やりがいがあるってもんだ。
「焦んなよ。サブウエポン使ってくれるって話だったよな」
「ああ」
「まずはサブウエポンを渡す」
武器1:Uスタッフ(ランカー武器 製造者:レイ=サウス)
DRA:10000
MAT(魔ATK):9796(int:99)
HIT:520(dex:40)
DOG:130(agi:11)
DEF:9210(res:1)
防御種族倍率:大種族人間 0.68倍、DOGとDEF175上昇
内蔵魔石:防御の魔石SS×4
威力の魔石SS×3
耐久の魔石SS×1
ジャンプの魔石SS×1
マジックバリアの魔石HS×1
耐人の魔石HR×1
サークルヒールの魔石R×1
「サークルヒール……?」
「知らねえか、ツフユ。術者の周囲RAN300以内にいる味方を全て回復するスキルだ。アースシェイカーからの立て直し用として組み入れた」
RAN300とは3mのことだ。
「……なるほど」
「ツフユ、お前にはこのスタッフで後衛ヒーラーをやってもらう。自陣を守ってくれ」
「…………」
俺の予想に反して、ツフユは何の不満も言ってこなかった。だるそうな蒼い眼は相変わらずだが。
2本目のサブウエポン。
武器2:Uワンド(ランカー武器 製造者:レイ=サウス)
DRA:7700
HIT:520(dex:40)
DOG:130(agi:11)
DEF:11510(res:1)
防御種族倍率:大種族人間 0.68倍、DOGとDEF175上昇
内蔵魔石:防御の魔石SS×5
耐久の魔石SS×1
ハイディングの魔石HS×1
キュアコンディションの魔石HS×1
ディフェンスアップの魔石HS×1
ブラインドの魔石S×1
パワーダウンの魔石S×1
耐人の魔石HR×1
「これはバフ、デバフ用のサブウエポンだ。サイクロプスのresはボーナス0だから、デバフはよく通るし、状態異常持続時間も長ぇ。デバフを積極的に使ってほしい」
「分かった」
他にも、防御用のナイフをサブウエポンとしてツフユに渡した。
「で、いよいよ、メインウエポンだ」
武器4:Uラムダオ(ランカー武器 製造者:レイ=サウス)
DRA:9800
SDRA:3800
BAT(叩ATK):19887(str:55)
CAT(斬ATK):29537
MAT(魔ATK):10243(int:99)
HIT:2820(dex:40)
大種族人間
BAT:29536
CAT:43868
MAT:15189
HIT:2995
DOG:130(agi:11)
DEF:6910(res:1)
防御種族倍率:大種族人間 0.68倍、DOGとDEF175上昇
内蔵魔石:威力の魔石SS×4
防御の魔石SS×3
耐久の魔石SS×1
命中の魔石SS×1
マジックアタックの魔石HS×1
滅人の魔石HR×1
耐人の魔石HR×1
ラムダオというのは、インド北部の刀剣だ。斧と剣の中間のような形をしている。先端部分が重く、生贄の首を一撃で切断することができる。
JAOでは貴重な魔法剣の一つであるが、魔法の威力は低い。その反面、物理攻撃の威力は高くなっている。
ツフユのリクエストは5つ。
・魔法を使用可能な武器
・火力重視
・雑魚戦とボス戦どちらにも対応できるメインウエポン
・マジックアタックの魔石を内蔵
・巨人工房で誰も死なない武器を作れ
魔法を使用可能な武器のうち物理攻撃で高火力が出るものは、ラムダオと仕込み杖だ。
仕込み杖はDRAが低くメインウエポンには不向き。しかも、魔法を使用するには鞘に納刀しなければならないので使いにくい。
ラムダオはWEIが2800と重いのが難点だ。しかし、ツフユのstrはボーナス5あるので問題ない。
よって、武器の種類はラムダオに決定。
威力の魔石を4個組み入れることで火力を高めた。斬攻撃でもかなりの高ダメージを与えることはできる。
MATもUスタッフよりも高いから、ヒールはラムダオで撃ったほうがいい。ものぐさのツフユにとっても好都合だろう。
命中を1個組み入れたからHITは3000近くになっている。
DOG10のサイクロプス相手には死に魔石だ。しかし、HIT3000を確保しておけば、雑魚戦でも武器をなるべく持ち替えずに戦うことができる。
マジックアタックの魔石はオーダー通り内蔵した。マジックアタックの魔石を外付けする手間が減るから、金コボに対する素早いフォローやグルメの即殺には悪くない。
一通り説明を聞いた後、ツフユがついに口を開いた。
「なぁ、防御3で本当に大丈夫なのか……?」
ツフユの疑問にヒナツが肩をすくめる。
「相変わらずツフユは心配性だなぁ~。ツフユは後衛でしょ。サイクロプスの魔法の火力って低いから問題ないと思うけどね」
「それは分かるけどさぁ。万一ってことがあるだろ……」
ヒナツの指摘はある意味正しい。
近接攻撃を受けるのはタンクの仕事だ。アタッカーやヒーラーはタンクがきっちり仕事をこなしていれば、理論上は攻撃を受けずに済む。
だが、ゲームはそんなに簡単ではない。どんな想定外の事態が起きてもおかしくないのだ。
想定外の事態でさえも、なるべく想定して武器を作る。それが一流の武器屋だ。
ましてや、今回はツフユから『巨人工房で誰も死なない武器を作れ』というオーダーを受けている。
ツフユを納得させることができなければ、武器屋としての務めを果たしたことにはならない。
「大丈夫だ、ツフユ。このラムダオで問題ない。だから、何でも聞いてくれ。全部説明する」
ツフユの目を逸らさずにじっと見つめる。
ツフユがどんな性格なのか、俺とツフユがどんな争いをしてきたか。そんなのはどうでもいい。
俺とツフユは、職人と客の関係。ただそれだけだ。
「分かった」
ツフユの短い返事。職人と客との真剣勝負の合図となる。
「――言うぞ」
「来い!」
電卓アプリを起動。
武器屋として自分の知識、経験、魂――全てを込めたものが、あのラムダオだ。
自分が作った武器のことぐらい、何だって答えてやらぁ!
「耐久0にしなかったのは何でだ?」
「スキルが打てねえ。ヒーラーとして動けねえぞ」
「ヒーラーとしての仕事が大切なのは分かる。でも、そのためのサブウエポンでしょ?」
「サブでDRA回ししたところで、素DRAだけじゃアタッカーとしても動けねえんだ。いいか、サイクロプスは叩防だから叩はいまいちだ。当然斬で攻めるわな」
「……」
「DRAが下がればSDRAも下がりやすくなる。SDRAが下がれば斬の威力も大幅に下がる。そんなの、アタッカーとして本末転倒だろ」
「ATKは十分あるよね、SDRAは下がらない。問題ないはず」
「ブロックされたらどうする? ウエポンクラッシュを叩き込まれたら? サイクロプスは武器破壊を積極的に狙ってくるんだぞ」
「…………でもさぁ、お前の研ぎだってあるだろ。問題なくないか?」
「俺が忙しくなったとき、研ぎできないじゃ困るだろ」
「まぁ……」
「ただでもアースシェイカーがあるから自陣は崩れやすいんだ。パフォーマンスをどうやって維持するかって考えの方が、サイクロプス戦では大事だ」
俺の説明が終わった後、ツフユは少しの間黙って装備ウインドウを見ていた。そして、再び質問する。
「じゃあ、外付けを防御0填めで耐火HRのみにした場合、アースシェイカーの直撃をくらっても、あたしは即死しないのか?」
ツフユが話し始めると同時に電卓を高速で叩く。そして、すぐさま解を出す。
「アースシェイカーが下振れしても、6935ダメージで即死」
ツフユのHPは5000だ。結果は分かりきっている。電卓を叩いたのは正確な数値を示したかったからだ。
「死なない武器っていう、あたしのリクエスト忘れたのか?」
「忘れちゃいねえよ。お前が想定する前提が間違っている。攻低をかけろ。バリアを張れ。そうすれば直撃しても大丈夫だ」
「でも、攻低もバリアもできなかったら死ぬんだろ」
「攻低もかかっていない状態で、アタックにいくほうが間違いだ」
「攻撃されるのはアタック直後だけとは限らないね。自陣が崩れているときだってある。そのときはどうするんだよ?」
「自陣が崩壊したのにぼーっとラムダオなんか持っててどうする。キュアコンでスタンや麻痺を解除しろ。攻低をかけろ。暗闇にしてタゲを散らせ。バリア、サークルヒール、ディフェンスアップ……ありとあらゆる手を尽くして味方を守れ」
「…………」
「誰も死なない武器――その答えが『サブウエポン』だ」
サブウエポンは地味な存在だ。
DEFが高いだけのもの、タゲ取り用のもの、緊急回避用のもの、状態異常を切るためのもの、ボスの取り巻きを片付けるもの……。色々な用途のものがあるが、メインウエポンと違って華々しい活躍はできない。JAOでも、サブウエポンを軽視するプレイヤーはわりといた。
しかし、サブウエポンは何か1つの役割に特化しているものが多い。サブウエポンを活用することで、メインウエポンでは手が届かない仕事をこなすことができる。
サブウエポンの力なしで、JAOを攻略するなんてことはできないのだ。
「レイ=サウス。あんたの解答――」
ツフユが肩をすくめて口を開く。
「――100点だよ」
「「「やったぁぁぁ~~~」」
俺とツフユ以外のやつらがなぜか大声を上げて喜びを爆発させた。
「――まだだ。まだ100点を付けるには早すぎる」
俺の言葉に皆ピタリと動きを止めた。
「どういうことだよ……?」
ツフユも訳が分からないという顔をしている。
「まだタンクの武器が残っているじゃねーか。それの検討が終わらなきゃ採点できないだろ」
タンク、アタッカー、ヒーラーのロールのうち、断トツで死にやすいのはタンクだ。
タンクが死んでしまうような武器ではツフユのリクエストに応えたことにはならない。論外だ。
「あたしの厳し~~い審査をくぐり抜けても、まだ審査を続けるつもりなのかよ」
「移動工房は世界一の武器屋を目指すんだ。厳しい品質チェックもクリアして当然だろ」
「じゃあ、見せてくれよ! 俺たちの武器を!」
「お兄ちゃん、わたしも見たい!」
フェーリッツとメマリーが俺にせがむ。
「タンクの武器こそ、誰も死なせない武器だ。俺の魂がこもった逸品、しっかり受け取ってくれよ」
次回は11月18日の12時頃に更新の予定です。
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