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5-28 ある底辺男の物語の舞台裏

 ようやく出発したか……。


 温かいお茶を飲んで、ほっと胸をなで下ろす。



『鬼は外、福は内』イベントが始まって5日目の昼にして、ついに中堅冒険者が豆狩りにやって来た。


 中堅冒険者はリスクを計算し慎重に行動する(俺から言わせればただのビビリ)。SSダンジョンでの豆集めなんて絶対にしない人種だ。

 そんな中堅冒険者がリスク覚悟で豆集めを始めた。これは大きな一歩だ。

 狩りを終えた彼らが、「移動工房の武器があれば安全だ」ということを広めてくれれば、多くの中堅もこのビッグウエーブに乗っかかるだろう。

 そうなれば、ヒナツが気にしている豆不足問題も解決する。豆集めを行う人数が増えるからだ。


 これをきっかけに、移動工房の武器を使いたいと思ってくれる中堅が増える。そうなれば、タイランの支配に穴が開く。

 もちろん結果はまだ分からない。でも、そんな未来がやって来ると俺は信じている。



「ただいまぁ~。FP溜まってクタクタだよぉ~」


 サエラが豆まきから帰って来た。サエラやフェーリッツは豆を集めるだけでなく、鬼を探すべくレスターン中を駆け回っている。


 去年はトップ10目指して俺も頑張ったんだけどなぁ。今年は運営委員なので俺はできねぇ。我慢のターンだ。


「おかえり」


「あれ? レイ君、何か嬉しいことがあったの?」


「俺のしかめっ面を見て言う台詞じゃねーだろ! こらぁ!」


「ふふふ……。でも、レイ君って、嬉しいことがあったら、そうやってわざと怖い顔をするよね」


「ちっ、うぜぇ。さっきの中堅たちはブルってたってのによぉ」


 実は、中堅冒険者がレンタルの手続きに来たとき、思惑通りに事が運んだ嬉しさで、にやけそうになった。それをこらえるために顔を強張らせていたのだ。それを見て、あいつらは情けないくらいビビっていたんだが。



「中堅冒険者ってことは、もう上手くいったんだ!?」


「ああ。さっそく超大吉福男が仕事した」


 俺は超大吉福男に指示して、「移動工房の武器があればSSダンジョンなんて全然怖くない。豆を集めて大金持ちになれる」ということを酒場で広めさせている。

 超大吉福男の話に刺激を受けた中堅冒険者が、豆集めに新たに参戦する。そんなストーリーを狙ったのだ。


「レイ君が20分脅迫した甲斐があったね」


「脅迫じゃねーよ。魂の説得って言ってくれ」


 超大吉福男は底辺らしく、最初はアキソロ狩りを拒絶していた。半狂乱になって「嫌だ~、死にたくない~」と泣きわめくのを抑えつけるのは、かなり骨が折れた。最終的には俺とサエラが同伴するということで何とか連れ出すことができた。

 まぁ、5分も経てば俺TUEEEを満喫していたがな。


「それだけじゃねーぞ。中堅冒険者の中に底辺が混ざっていたんだ」


「ほんと!?」


「ああ。超大吉福男の話を聞いて、豆を集めたいと思ったそうだ」


「レイ君は一般冒険者が来るって思った?」


「まさか! 来たとしても、もっと広まってからだろ」


 嬉しい誤算だった。あくまで俺のターゲットは中堅。底辺は筋金入りのビビりだ。すぐにはこないと思っていた。


「それに、その底辺は中堅が尻込みしているところを、真っ先に『やります』って言ったんだ。――底辺にも、あんなやつがいるんだな」


「いる――っていうよりは、私はレイ君がこの世界を変えているから、一般冒険者が勇気を出せたんだと思う」


「ま、そこまでは分かんねーよ」


 俺は椅子から立ち上がった。


「イベントはまだまだある。やることは満載だ」


「そうだね」


「この調子で俺たちはどんどん走り続けるぞ!」


 俺は拳を突き上げ叫んだ。


「頑張ろうね!」


 サエラも手を高く掲げた。






 こうして、俺たちは残りの5日間も全力でイベントを遊び尽くしたのだった。

次回は10月14日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある★★★★★のところを押して評価していただければ、非常に励みとなります。




こちらも読んでいただいたら嬉しいです。


【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~


本作の目次上部にあるJewel&Arms Onlineシリーズという文字をクリックしていただければ、飛ぶことができます。

参考までにURLも張っておきます。 https://ncode.syosetu.com/n6829gk/

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