5-27 ある底辺男の物語4
5-24から今回(5-27)までは3人称ある底辺男視点で話が進みます。
次回からはレイの1人称視点に戻ります。
一行は、移動工房の鍛冶屋レイ=サウスがいるレスターン神宮に向かった。がらがらのタイラン商会と違い、あちこちでトップ冒険者を見かけた。
社務所の一室で待機していると1人の黒髪の男が現れた。
麻のシャツとズボンという何の変哲もない恰好で、年齢も16かそこらの若造だ。
だが、こいつは相当な強者にちがいない。底辺男はそう感じた。人を刺し殺すような鋭い目つきが、これまでにいくつもの修羅場をくぐってきた凄みを感じさせた。
「お前ら見ねえ顔だな……」
雑魚を拒絶するようなドスの効いた声。たった一言で、男を含めて中堅一行は完全に呑み込まれてしまった。
「さては……中堅だな?」
駄作を眺める美術評論家のように、眉をしかめ武器屋は一行を値踏みする。全員の心臓を含めた筋肉という筋肉が石膏像のようにコチコチに固まっている。
「レベルとHP」
「は、はい……! レベルは62……」
レイ=サウスの質問に、角刈り中堅から順にガチガチのまま何とか答える。
次は糸目中堅の番だ。最後が底辺男の番になる。
糸目はレイ=サウスの質問に素直に答えなかった。
「あ……あのぅ……。トップ冒険者じゃない僕たち中堅冒険者で……本当に大丈夫なんでしょうか……?」
黙って自分たちを睨みつけていたレイ=サウスの顔に、いくつもの青筋が走り、
「知るかぁっ!!」
怒りの爆弾が破裂した。糸目は踏んではならない地雷を踏み抜いてしまったのだ。
「よく聞け中堅ども!」
レイ=サウスが猛獣のように吼える。中堅たちはこれまで以上に縮みあがってしまった。
「分かりきった結果じゃなきゃ動けねぇへたれに貸す武器なんてねえ! ダメだと怖気づいたやつは――とっとと帰りやがれ!」
中堅たちは皆動けなかった。反省したからではない。バジリスクに睨まれた蛙のように固まっているだけだ。
誰も動こうとしないのを見た武器屋は、少しトーンを落として再び語り始めた。
「ただ1つだけ言っておくがよぅ。俺の武器の性能は本物だ。SSの雑魚Mobなんてステで圧倒できる。普通にしてりゃ、サクサク狩れるし、死ぬこたぁねえ。タイランがパクったパチモンじゃ、こうはいかねえなぁ。――あとはお前ら次第だ」
自信たっぷりの武器屋の態度。さっきは「知るか」と言い捨てたが、自分の武器を使えば中堅冒険者でも狩りができる。そう武器屋は確信しているのだろう。
底辺男は信じられなかった。本当に強い武器を使えばあり得ないほどの大金をらくらくゲットできるのだろうか。
底辺男は怖かった。圧倒的なランクのMob相手に殺されるのではないか。
それでも――
「お、俺はやるぞ!」
男は最初の一歩を踏み出した。
「俺は楽して大金を稼ぐって決めたんだ。SSMobだろうが何だろうが、戦う前からビビって諦めるわけにはいかねえんだ!」
底辺男は中堅たちをキッと睨んだ。
「あんたらも、ビビってないで『やります』って言えよ」
底辺男の言葉に角刈り中堅がキレる。
「貴様、この臨時に寄生しに混ざった雑魚底辺の分際で、俺たち中堅冒険者に偉そうな口をきくな!」
「お前、さっきレベル62って言ったよな――俺もレベル62なんだけど。何が違うんだ?」
底辺男の指摘に角刈りがギリギリと歯ぎしりをする。
「…………底辺は底辺だろ……」
「底辺、中堅。それがどうしたぁ! お前らも一山当てたいんだろ。やっと転がってきたチャンスを前に動けないへたれのほうが、なっさけねーよ!」
男の正論に角刈りは黙り込んでしまった。
「旨い思いをしたかったら――お前ら、俺について来い!」
男はくわっと目を見開いて叫んだ。ソロ狩りだとレンタルサービスは利用できない。全員がやる気にならなければ、男はまた底辺生活に逆戻りだ。
一人一人の目を見つめ、他メンバーの参加を促す。
「言ってくれるねぇ~、底辺。狩場で足引っ張ったらヒールしねーからな」
眼鏡がニヤリと笑った。
「いいでしょう。ついて行きましょう」
「そうだ。ここで引いてちゃ、50位なんて夢のまた夢だ。やろう!」
「ええ。僕たちもやりますよ。武器屋さん、あなたの武器について教えてください」
おっさんもテニスルックも糸目も、次々に男に続いた。
「ひどいことを言ってすまん。一緒に戦わせてほしい」
角刈りが底辺男に頭を下げて謝罪、そして参加の意を表明した。
そんな彼らの様子を見てレイ=サウスは、赤ん坊が初めて立って歩き始めたのを見る父親のような眼差しで、少しだけ顔をほころばせた。
豆集め狩りはあっけないくらい簡単だった。何の波乱もなく狩りは終了。レイ=サウスのSS武器が強すぎたのだ。
2時間弱の狩りで男は、1,312,500マネという大金と豆10発を手に入れることができた。しかも、最初にひどい扱いをしたということで、中堅冒険者たちから1人1発ずつ豆をもらった。
たった1回の狩りで、富くじでスった額よりもマネが手に入ったうえに、神官連から支給される3日分の豆をゲットできた。超大吉福男の言う通り「らくらく大金ゲット」できたのだ。
男は帰宅するなり、帰る途中で買ったワインを1瓶インベントリから取り出した。底辺生活を続けていては買えないような良い代物。新たな一歩を踏み出した自分へのご褒美。
「ふふふ~ん~♪」
鼻歌を歌いながら、倉庫BOXからコップとつまみを取り出す。まだワインに口を付けてもいないのに、男はすでにほろ酔い気分だ。
現在の所持金は1,275,772マネ。
(さて、この金で何をしよう……)
金はまだまだある。色々な物が買えるだろう。何だったら、また豆集め臨時に行ってさらに稼ぐのも悪くない。
あれこれと膨らむ期待。男の夢は広がるばかり。
男の頭からは富くじで一発当てるという実現不可能な妄想は、とっくに消え去っていた。
「それではいただくとするか」
男はワインに口を付けた。
(う~ん。酒場のワインとあんまり変わらない気がするなぁ~)
安物にしか触れたことがない底辺男にとっては、良いワインの高貴で繊細なテイストは理解できなかったが――
「なんか、最っっっ高ぉぉぉぉぉ~~~」
男は腹の底から笑った。涙が出るほど笑った。顎が外れるほど笑った。お腹が痛くなるほど笑った。
嫌な現実から目を背けるための偽物の笑いではない。本当に愉快で心の底から自然にあふれ出た本物の笑い。
「俺の人生、最っっっ高だぁぁぁぁぁ!!」
男はコップを手にしたまま天井近くまで跳び上がった。
男が地面に着地すると同時に、思わぬ珍客が現れた。
「ガオー、ガオー」
鬼だ。しかし鬼といっても、【キオニ(鬼は外、福は内)】。福の神変化率が一番低い鬼だ。
「キオニか」
豆が少ない今までの自分なら、豆を投げずに豆まき隊に報告して退治させただろう。貴重な豆をキオニなんかに使うわけにはいかない。
しかし、手持ちの豆は15発もある。少しくらい使ってもまだ余裕だ。
何より今、男は気分がいい。結果に関わらず、なぜだか豆を投げたい気分だった。
「鬼はーそとー、福はーうちー」
豆が当たった。
「グオー」
キオニの体が光り、福の神に変化した。
「今年も一年良い年になりますように~」
福の神は男に微笑みを浮かべたまま、光の粒となってどこかに行ってしまった。
あっという間の出来事に男は呟いた。
「そうか。俺にも、ちゃんと来るんだな。福が――」
『笑う門には福来たる』
次回は10月11日の21時頃に更新の予定です。
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