5-24 ある底辺男の物語1
今回(5-24)から5-27までは3人称『ある底辺男』視点で話が進みます。
前回は評価をいただきました。本当にありがたいことです。
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「今回の富くじはこれにて、しゅう~りょう~~!」
舞台上の巫女の言葉に男は耳を疑った。
「みなさんに福は来ましたかー?」
男は怒りで震えた。福なんて来ていない――いや、いくら何でも少しぐらいの福が来てもよかったはずだ。
男は1枚9K(9000)マネもする富くじチケットを80枚も買った。しかし、1枚も当たらなかったのだ。
「後半の富くじチケットは本日1月25日の13時から授与所で販売開始しまーす。超大吉福男目指して、いっぱい買って下さいね~~☆」
男の手持ち金は38マネしかない。いっぱいどころか富くじチケット1枚、いや酒を1杯やることすら不可能だ。
巫女が舞台袖に引っ込んだ後、皆思い思いに叫び始めた。高額賞金が当たってはっちゃける者、次こそ当ててやるとリベンジに燃える者、大損したことで行き場のない怒りをぶつける者――あまりに多くの人が声を上げており、何を言っているのか判別できない。
会場を包む異様な熱狂に煽られたのか、男は腹の底から大声を上げる。
「底辺の俺にも、チャンスをくれたっていいだろ~~~!!」
この男の職業は冒険者だ。
冒険する場所は、そこそこ稼げて命の危険性がゼロのマップ――ミズナール水源かタランバのみ。いずれも、冒険という言葉が虚しく聞こえるほど簡単な低レベル狩場。
冒険なんて大嫌い。好きなときに起き、好きなときに酒を飲み、好きなときに遊び、好きなときに眠る。金が無くなったときだけ冒険すればいい。
過度に臆病で、自堕落で、刹那的な生き方。
彼のような冒険者は別段珍しくない。だから、彼らは一般冒険者と呼ばれている。
もっとも、より向上心のある冒険者たちからは蔑まれて、こうも呼ばれている――――
『底辺』と。
1回目の富くじは終わった。だが、2回目はまだ始まったばかり。底辺としての性が男を突き動かす。
「富くじ、買いてぇぇぇ~~」
しかし、男は今さっき一文無しになったばかり。金を稼がなければならない。
次の富くじを買おうとする者たちが境内をたむろしていた。どいつもこいつも脂ぎった顔をしている。
そんな様子を見ながら、男は後ろ髪を引かれる思いでレスターン神宮を後にした。
男が向かった先は第3豆まき隊詰所だ。
王都レスターンは広い。豆まき隊の迅速な出動を可能にすべく、レスターンは16のエリアに区分され、エリアごとに豆まき隊が配備されている。
受付で身分確認を済ませて、豆まき隊の待機所であるテントの中に入った。
カーテンをくぐると、むわっとした生温く不快な空気が男にまとわりついてきた。
そして、テントの中に居る全冒険者の視線が男に注がれる。邪魔者は来るな、と言わんばかりのとげとげしい態度。
だが、激しい敵対心は1秒もしないうちに収まり、だらけた空気に変わる。
「あちぃ~、誰か囲炉裏の火ぃ消せよ~」
「火ぃ消したら凍え死んじゃうだろ、ドァホ」
「お神酒一杯じゃ足んねぇよ。おい姉ちゃん、酒の注文いいかぁー」
「こっちの酒、まだ来てねーんだけどよぉ!」
中央に囲炉裏があり、やり過ぎなくらいメラメラ燃えている。
あちこちに長椅子が置いてあり、くだを巻いた冒険者たちがそこを占領している。
座れそうな椅子が無いので、男は地べたに座ることにした。
様々な酒を混ぜて濃縮したような臭いが室内に充満している。
テントには15人程の冒険者が待機していたが、ほとんど皆酒を飲んでいる。1日1杯もらえるお神酒だけではなく、待機所では酒やつまみが注文できるのだ。
「はぁ~~……。酒も飲めねーのかよ……」
今まで待機中は酒を飲んで暇を紛らわしていた。だが今はその金すらない。
座った地面が固いことに男はイライラする。
男が楽な体勢になろうと地面に寝転んだ時、カーテンが開くのが見えた。10人以上の冒険者が一斉に部屋の中に入って来る。
ライバルが一気に倍になってしまった。男を含む部屋の全住人が、敵意剥き出しの視線で招かれざる一団を睨む。彼らも負けじと敵意剥き出しの視線で睨み返す。そして、また澱んだ空気に戻った。
突然、冒険者の1人が叫んだ。
「くそぅ! 神官連、豆よこせ!」
この一言で、堰を切ったように声が上がった。
「噂では、神官連はトップ冒険者たちから豆を買っていたけど、豆の値段が上がりすぎたために豆を買う金が無くなったらしいぞ」
「さっき豆をもらったんだけど、5発しかなかった! 初日は8発だったのに!」
「ふざけんな、神官連!」
「あ~、豆投げまくりてぇ!」
男はあと1発しか豆を持っていない。午前中に投げすぎたのだ。
男も一緒になって叫ぶ。
「俺の豆があと1発しかないのは全部神官連が悪い!」
皆が思い思いに叫んでいると、神官がテントの中にやって来た。
「鬼が出現しました。場所は――」
冒険者の罵声はぴたりと止んだ。
次回は9月30日の12時頃に更新の予定です。
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