5-18 ツフユの神楽
「第2弾は――――合同神楽だよ!!」
「…………」
ヒナツのアイデアを聞いて、ツフユは首をかしげる。他の2人も同じようにきょとんとしている。
ここで俺が質問する。
「神楽って何だ?」
「そこからか……」
「まあまあ、ツフユ~。レイは巫じゃないから、知らないのは無理ないよ」
「俺もさすがに巫の仕事まで知らねーし」
「神楽っていうのはね、神様に対して奉納する踊りだよ。五穀豊穣や無病息災、安穏無事などを祈願するために行われるんだ」
「具体的には、神託を授かる前や、国王陛下の誕生日などで披露している」
ヒナツの説明をツフユが補足する。
「そうか」
「とはいっても、大したもんじゃねーよ。ただのダンススキルさ」
アイドル技能やダンス技能には、決められた曲のダンスをシステムアシストするスキルがある。巫にもあったのか。
「ただのダンスじゃないよ、ツフユ……。それはいいや。説明を続けるね。レイは知らないと思うけど、神楽って結構人気あるんだよ」
「そうなのか?」
「うん。神託発表の前にも神楽を奉納するんだけど、神託に興味はなくても神楽を見に来るっていう男の人も多いよ」
それってただのアイドルヲタクじゃねーか。この世界にもいるのかよ。さすが『萌え豚の萌え豚による萌え豚のためのVRMMO』であるJAOベースの異世界だ。
神楽の説明が終わったので、ツフユが話を戻す。
「そういや、合同ってどういう意味なのさ?」
ツフユの質問を聞いて、ヒナツはツフユに向かって右手を突き出した。
「最近はアタシ1人で神楽を舞ってたけど」
ヒナツは右手の人差し指を立て『1』を作る。
「神楽を踊れるのはアタシだけじゃない――、でしょ。ツフユ!」
ヒナツは折り曲げていた中指もピンと伸ばし『2』を作った。
「アタシとツフユ。2人合同で神楽を舞おうよ!」
ヒナツの誘いに、
「はっ、やだよ。めんどくせ」
ツフユは頬杖をついて無下に断った。
「昔はやってたじゃん、ツフユ。久しぶりに踊ってよ。一緒にイベントを盛り上げようよ」
「1人で踊るのも2人で踊るのも、別に変わんねーだろ。あんたが躍りたけりゃ踊ればいい。あたしはめんどいんでパス」
「1人じゃだめだよ。2人で舞うことに意味があるんだよ」
「はぁ!? 意味なんてねえだろ。神楽はただのダンス。ただのスキル。そんなにあたしに踊ってほしければ、2人で踊ることとスキルの関係性を証明しろよ。ただし、2人でやるほうが神様が喜ぶっていうのは無しな。神様がそう思っているんだったら、2人で踊れっていう神託が出ているはずでしょ」
相変わらずムカつくくらいの早口でツフユがまくしたてる。
だが、ヒナツはキラキラした目でツフユを見ていた。怒っている様子でもなく、怒りを隠している感じでもなかった。
「アタシにはファンがいる」
「そりゃあ、そうだろ。ヒナツ、あんたは十五勇者。人気者なのは当然でしょ。それに、若くてかわいい。明るくて誰からも好かれる性格。実際、あんたが神楽を担当して観覧客も増えた。あんたが踊ればもう十分だよ」
「ツフユにだってファンがいる。ツフユの神楽を楽しみにしている人だってたくさんいるよ。アタシはそういう人たちも呼び込みたい。呼び込めればきっとお祭りは盛り上がるよ!」
「あたしの神楽を楽しみに……? 大体、神楽なんて別に誰がやったって同じだろ。スキルアシストに合わせて体を動かすだけでしょ、あんなの」
「違う。ツフユの神楽はツフユにしかできない。アタシ知ってるよ。ツフユがまだ神楽を踊ってた頃、神楽を奉納する前日の夜中に必ず練習していたでしょ」
「見られてたのかよ……」
ツフユの顔がぱぁっと赤くなる。悪ぶっていたいツフユにとって、この暴露は痛いだろう。
「スキルアシストだけじゃ、あんな素敵な神楽はできないよ。ツフユが一生懸命練習していたから、神様の心を打つ神楽ができていたとアタシは思う」
ダンススキル以外にも、システムアシストがあるスキルは存在する。例えば、脳天を叩くヘッドシェイクや四肢を切断するミートチョッパーがそうだ。
これらのスキルはシステムアシストに身を任せるだけでもある程度うまくいく。だが、敵の動きに合わせて軌道を修正したり、発動タイミングを調整したりするのは、結局は人がすることだ。
ダンススキルのことはよく知らない。しかし間違いなく、細かい技術は大切なのだろう。
「神様の心を打った。ふーん。それ証明できるの?」
「証明はできないけど……でも!」
ツフユの屁理屈にもヒナツは必死に食い下がる。
「ツフユの神楽が、人の心を打ったことは証明できる」
きっぱりとヒナツは断言した。
「何それ? あたしのファンってやつ? いればそいつが神楽に来るって証明できるな。いればの話だけどさ。い、れ、ば。そんな変わり者、世界中探したっていやしねーよ」
「いるよ」
「はっ、誰の!? そんなやついるのなら連れてきなよ」
「少なくともアタシがそう」
ヒナツは胸に手を当てて、真っ直ぐツフユを見つめる。
「アタシはツフユの神楽が――好き!」
ヒナツの瞳の輝きが増す。ヒナツの言葉は嘘偽りのない正直な本音なのだろう。
ヒナツに見つめられて、ツフユはたじろいだ。
「ヒナツ、あんた1人じゃ――」
「私もツフユさんの神楽、久しぶりに見たいなぁ~」
サエラがヒナツの言うことに賛成した。てか、お前いつ起きたんだ……。
「私も総裁の神楽を見てみたいですな~」
「2人で舞ったほうが栄えると思いますぞ」
大僧正と教皇もサエラに同調する。
「俺もツフユが踊るのに賛成だ」
俺はツフユの神楽に興味なんてねえ。だが、反対する理由もねえ。
「ツフユ、受け取って……!」
ヒナツがツフユに手を差し出した。その手の中には――
「これって……あの時あたしが払いのけて捨てたはずじゃ……?」
「サエラが拾ってくれたんだ。ツフユにいつか渡せるようにって」
ラピスラズリのイヤリング。一度は受け取ることをツフユに拒否されたプレゼント。
「これ付けて踊って! アタシとツフユの神楽、捧げよう! 見せよう!」
夏空の太陽のように眩しいヒナツの笑顔。
それを見て、冬の曇り空のように不機嫌だったツフユの顔がふっと温かく和らいだ。
「せっかくタダでもらったんだ。付けなきゃ悪いよね」
ツフユの耳元に蒼いイヤリングが装着された。
「ツフユさん似合ってます~」
サエラがツフユを褒める。大僧正と教皇もうなずいている。
「耳元だけ変えても、大して変わんねえじゃねーか」
「レイ、女心分かってなーい」
「うっせ、俺は見た目装備なんかに興味はねえんだよ」
「レイ、人は見かけだよ。レイもそのダサい麻シャツをやめたら、もっとモテるのに」
「るせぇ。人ってのは見かけじゃねぇ、中身だろ」
「レイ君は中身もいいよ~」
「黙れ、サエラ! 俺はゲーマーだ。女にうつつをぬかしてる暇なんてねえんだよ!」
俺とサエラとヒナツのやり取りを見ていたツフユが、いつものようにだるそうな調子で話に割り込む。
「おまえら青春しすぎだっつーの」
「ごめん、ツフユ。レイが残念すぎて、つい盛り上がっちゃった」
おい、残念ってどういう意味だよ。
「いいよ、いいよ。あんたのプレゼントを捨てたことは、これでチャラにしておいて。それよりも、あたしのほうこそお礼をしなくちゃね」
蒼いイヤリングがきらりと光る。
「せっかくいいものをもらったんだ。これつけて1回くらい舞わねーと、ばちが当たっちゃうかもね」
「ツフユ……」
ヒナツが感極まった様子で目頭を押さえている。
「びえ~~ん!!」
「おいおい、泣くのはまだ早えーだろ。実行委員長」
「アタシは何とかこらえているんだけど」
「よかっだう゛ぇ~。ビナヅぅ~!! ヅブユざ~ん!!」
俺の隣でサエラがわんわん泣いていた。泣いているのお前かよ……。
「あたしの舞が見たいっていうファンのために、最高の舞を披露してやるか」
「うん! アタシのほうこそ、最高の舞を披露するよ!」
ツフユがごねまくったが、これで無事に合同神楽の開催が決定した。
次回は9月9日の12時頃に更新の予定です
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