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5-17 富くじ

 次の日。ヒナツから神官連に呼び出された。イベントについての会議だそうだ。朝一番に神官連に向かう。


 会議室にはツフユとなんちゃら教皇となんとか大僧正、そしてヒナツが既に着席している。俺とサエラも席に座る。


「みんなおはようございま~zz……zzz……」


 おはようのあいさつをするなりサエラが眠り始める。まだ朝の7時半にもなっていないもんな。ここに来れただけ奇跡というもんだ。


「よしっ、時間もないことだし、委員会をちゃっちゃと始めますか!」


 イベントは2日後に迫っている。ヒナツの言う通り、俺たちに時間はない。威勢のいいヒナツのかけ声で会議が始まった。



 最初に俺が基本方針を説明した。


 内容は昨日ヒナツに話したものと同じだ。

 俺たち移動工房がトップ冒険者にアキ特化武器のレンタル及び販売を行う。移動工房は武器のレンタルの対価として豆を徴収する。

 神官連は中堅冒険者や底辺を豆まき隊に編成。市民からの通報に応じて、豆まき隊に鬼退治をさせる。移動工房から豆を買い取り、豆まき隊に投げさせるのだ。



 俺の話が終わった時に、ツフユが文句を言ってきた。


「ちょっと待て……っください。それじゃあ、神官連が大損じゃないですか。こちらはランク報酬も用意しないといけないのに、そのうえ、豆を買い取ったり、豆まき隊を編成したり、いくらなんでも支出が大きすぎますよ」


「俺はそんなことまで面倒みきれねぇな」


「はぁ!? ふざけんじゃねーよ」


 ツフユの態度があっさりと悪くなる。だが、そんなことはどうでもいい。俺の出番はもうすぐ終わりだ。


「俺は豆を集めて撒く仕組みを考えただけだ。神官連が金を稼ぐ方法も、多くの冒険者に宣伝する方法も、俺は知らねえ。このイベントが上手くいくか、いかないかはあんたらの手腕にかかっているんだぜ、神官連さんよぉ」


「そう言われても……」

「私どもは去年失敗しましたので……」


 俺に突き放されて教皇と大僧正は弱り出す。そんな状況で――


「ふっふっふ……」


 不敵に笑う者が一人。束ねた黒髪、赤の巫女服――実行委員会委員長、ヒナツだ。


「ちゃーんと考えてるよ、レイ」


 ヒナツは俺に向かって片目をつぶる。人を試すような弾丸ウインク。ったく、試されているのはお前だってのによぉ……。


「面白れぇ。言ってみろ」


 俺の言葉を聞いて、うずうずとヒナツの口元が動く。赤い瞳は地平線から顔を出した朝日のように、強く輝き始める。



「アタシたちは宗教家。困難は神様に解決してもらうのが本道だよ」


「はっ、困った時の神頼みってやつかよ、ヒナツ」


 ツフユは肩をすくめ、ヒナツを馬鹿にする態度を取った。


「もちろん! でも、アタシたちが頼ってるだけじゃ、神様は助けてなんかくれない。アタシたちは感謝を、奉仕を捧げなきゃいけない」


 ヒナツの言葉に大僧正が反応した。


「祭りを開くのですか!?」


 その答えに、ヒナツは自信たっぷりのドヤ顔で返す。


「そうだよ。お祭りは神様の心を揺さぶるもの。氏子さんも、――ううん、それだけじゃないよ。神様に興味のない人たちの心だって熱くさせられるんだ!」


 前の世界でも節分にお祭りをやっている神社があったな。俺は行ったことねーけど、ものすごい人が集まるお祭りもあるらしい。


「なるほどな。そこで今回のイベントの参加を呼びかけるのか」


「レイ、その通り。人がたくさん集まるから、すっごく宣伝になるよ!」



 ツフユも口に手を当てながら真面目に話す。


「……なるほど。それに1回祭りを開けば、かなり儲かる。それで損失の穴埋めをするんだな」


「そういうこと!」


 宣伝と金の問題を同時に解決する秘策ってわけか。すげぇ良い案じゃねーか。やるな、ヒナツ。


 何かを思いついたのか、ツフユが手をポンと打ってヒナツに話しかける。


「なぁ、ヒナツ。――あれ、やろうぜ」


「あぁん! アタシが言うつもりだったのにぃ~」


「じゃあ、あんたから言いなよ、実行委員長さん」


「OK」


 ヒナツに聞いてみる。


「もったいぶりやがって、何やるんだよ?」


「最高に楽しいイベント――『富くじ』なんてどう?」


 ヒナツの言葉に教皇と大僧正が歓声を上げる。


「おお、イベント成功間違いなしですな!」

「すばらしい! それなら、赤字の埋め合わせ、いや黒字になるでしょう!」


「富くじって何だ? おみくじのことか?」


 おみくじならいつでもレスターン神宮で売っている。起死回生の一手になるとは思えないんだけど。


 俺の言葉にヒナツはチッチッチと指を振る。


「富くじはおみくじとは全然違うね。まず、番号を記したチケットを販売する。後日抽選を行って、特定の番号のチケットを持っている人に賞金を渡す。そういう興行だよ」


 つまり、宝くじってわけか……。宝くじは前の世界でも大人気だった。これはいい手かもしれねーな。



「当然、1等は高額だよな?」


「うん。去年レスターン神宮でやったときは大吉福男、つまり1等のことなんだけど。その賞金は100Mだった」


 1Mは100万のことだ。つまり1億だ。


「今回のイベントはたくさんの人に手伝ってもらいたいから、大吉福男の賞金はもっと高くするつもりだよ。ツフユ、300Mなんてどう?」


「いいんじゃねーの。それだけ賞金を高くすれば、チケットもバカ売れだろ」


 300Mが1等か……。それなら――。

 アイデアが閃いたので電卓アプリを開いて計算する。


「レイ、どうしたの?」


「すまねぇヒナツ、ちょっとお願いしてぇことがあるんだけど、いいか?」


「何?」


「1等の景品、マネじゃなくてU武器でやらせてくれ。材料は成功分だけ神官連に請求する」


「U武器にするのは構わないけど、製造代は300Mを超えないようにね」


「そんなにもかからねえよ。250Mちょいってとこだな」



 ツフユが質問してきた。


「損をかぶるかもしれないのに、どうして武器を作るんですか?」


「いい質問だ。ちゃんとした武器があれば世界が変わるってことを見せつけてぇ」


 製造結果によっては移動工房が損をするかもしれねぇ。底辺に1等が当たるとは限らねぇ。リスクだけなら、こんなことはやらないほうがいいに決まっている。


 これは祭りだ。1等が当たったやつも、ただ大金が当たるだけより、今までの価値観がぶっ壊れるくらいの武器をもらったほうが刺激的に決まっている。

 そして、価値観を打ち破った仲間を冒険者のやつらに見せつけることで、周りの冒険者どもをもっと羨ましがらせてぇ、もっと熱くさせてぇ。


 ツフユが俺を無言で見つめる。眉を吊り上げ、瞬きもせずにこちらを見ている。俺の言ったことが、よっぽど気に入らないのだろう。


「…………あっ、そうですか」


 ツフユはそう吐き捨てて、俺から目線を逸らし頬杖をついた。納得はいかないが、立場上抗議はしない。そういうことだろう。


 今はそれでいい。焦っても仕方ねえ。無気力な冒険者どもも、頑固なツフユもそう簡単に変わらない。

 今、俺たちがやるべきことは――イベントを成功させることだけだ!



「富くじ以外にもう1つ! お祭りを盛り上げるアイデアがあるよ!」


 ヒナツが大声を張り上げる。


「レイ、ツフユ。聞きたい?」


 自信満々の態度。

 無理もねえ。今、流れは完全にヒナツのペースだ。俺もこれに乗っかってやろう。


「言ってみろ」


「OK~」


 俺に促され、ヒナツは高らかに発表する。

次回は9月6日の12時頃に更新の予定です




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こちらも応援よろしくお願いします。


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