5-14 行動力
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神官連との会議が終わった。ヒナツが実行委員長、俺はスペシャルアドバイザーに就任した。
ツフユに対しては散々煽ったが、元よりこの話を蹴るつもりはない。この仕事を成功させて、俺はさらなるステップを駆け上がるからだ。
そうと決まれば、早速ヒナツと話をつける必要がある。ヒナツに連絡をしてレスターン神宮に向かう。
境内に入ると1人の巫女が掃除をしているのが見えた。ヒナツだ。ヒナツは俺たちを見るとほうきを振り回しながらやってきた。
「大切な話って、――やっぱ、鬼のことだよね。神官連が移動工房にレンタルサービスを依頼するんでしょ」
「そのことなんだけどな。ヒナツお前、ツフユよりも立派な巫になりたくねえか?」
俺の質問にヒナツはほうきを槍のように振り回して答える。
「当然! 巫の名門に生を受けたからには――神様の声を聞き、世の中をきれいにするのが、アタシの宿命であり使命!」
ヒナツがほうきをグルングルンと振り回すごとに、地面の砂埃が天高く舞い上がる。
「ゲホッゲホッ……世の中をきれいにする前に、俺たちを汚すんじゃねーよ」
「ごめんごめぇ、ゲホッゲホッ!」
自分もむせてやんの。ってか、やっぱ推すんじゃなかったかな。
砂埃が収まってヒナツが俺に聞き返してきた。
「何で、そんな当たり前のことを今さら聞くの?」
「お前の巫にかける情熱をツフユに分からせるチャンスが来たんだよ」
「どういうこと?」
俺がそれとなく言っても、ヒナツはまだ首をかしげている。まだツフユから連絡を受けていないのだろう。
「もうすぐ鬼どもがレスターンに湧くのは知ってるよな」
「うん。――あっ、分かった! 鬼どもをバッタバッタと倒せばいいんだね! そうと決まれば、アタシのメギラスで鬼を蹴散らしてやる!」
また砂煙が上る。勘弁してくれ……。
「バカか。メギラスで鬼を倒せるわけねえだろ」
「そうだったねっ☆」
「かわいくごまかすんじゃねぇ。それと、ほうきをもう1回でも振り回したら、この話は無しにするからな」
「豆を集めればいいんでしょ。デルモのMobはめちゃヤバいって聞いたから、アタシの実力じゃアキ一択かなぁ」
「いや、豆を集めるだけなら他のやつでもできる。お前ぇには、もっと大きい仕事を頼みたい」
「任せて! 何でもやるよ!」
「『鬼は外、福は内』の実行委員長をやってもらう」
俺の言葉を聞いたヒナツは、「あはは……」と乾いた笑いを浮かべる。
「それはツフユが適任だね。アタシじゃちょっとね、……うん」
「はぁ!? あいつが!? 神官連の総裁やってるくらいだから、お前よりは雑務は慣れているだろうけどよぉ」
「ううん。そういう仕事はみんなに聞くから大丈夫」
「じゃあ、何でだよ?」
「人のために何とかしたいって思って仕事をすること、ツフユほどアタシはできてない」
「人のためにって……あいつ、神官連のメンツばっかり気にしてたぞ」
「去年の惨状を考えたら、神官連に加盟している人なら誰でも気にすると思う。自分たちのメンツさえ守れない宗教なんて、誰も信じてくれないよ」
「そういうもんなのか?」
「当ったり前だよ。去年はさぁ~、ここにも抗議の人が毎日山のように押し寄せて、ほんと大変だったんだから~」
ヒナツがおおげさに肩を落とし溜息をついた。巫の仕事に燃えているヒナツがまいっているのだから、相当苦労したんだろうな。
「それにね、ツフユはメンツだけを気にする人じゃないよ。ツフユは口が悪いから、いつも誤解されているけど、本当はとても優しいんだ」
ヒナツはそう言って空を仰ぎ見た。今日の天気はあいにく曇り。憂鬱な灰色の雲が空を覆っている。けれども、その切れ間から澄んだ蒼色が覗いていた。
「世界が無事に平和であることを、毎晩祈ってる。人が死んだという話を聞くといつも悲しんでる。絶対に人には見せないけどね」
「うん。知ってるよ」
ヒナツの説明にサエラがこくりとうなずく。
「レイがどんな印象を持ったか知らないけど、間違いなくツフユは鬼のことに心を痛めてるよ。誰よりもね。だって、神託を受けた時も、特選騎士団に断られた時も、ものすごく機嫌悪かったもん」
ヒナツの話を聞いて、はっとした。ヒナツに平手打ちした後の震えるツフユの手が、脳裏に浮かぶ。
そうだ。俺は勘違いしていた。ツフユは優しいやつだ。ただ性格が悪いだけのクズなら、あんなに痛そうにはしない。
「口にも態度にも絶対出さないけど、ツフユは鬼が暴れることをこの世で1番心配してる。アタシだって何とかしたいって思っているけど……正直、ツフユほどは心配してない」
ヒナツは悔しそうにうつむく。
ヒナツの考えが正しいかどうかは分からない。でも、誰よりも姉のそばにいて、誰よりも姉を追い続けている妹の言葉には説得力があった。
「それでもだ」
俺の言葉にヒナツが顔を上げる。ヒナツが何かを言おうとして唇を動かすが、その前に俺が言葉をつなげた。
「ツフユは優しい。――でも、優しすぎる。優しいだけが良いんじゃねえ。優しいだけじゃ何も変えられねえ」
優しいから傷ついて、何もできないと諦める。そんなことじゃ、何も変わらねえ、何もできねえ。
「ヒナツ――、お前は優しいだけじゃねえ。お前には『行動力』がある」
「行動力……」
「お前はいつだって、おみくじをどうやって売ろうか考えている。お前はいつだって、神社をきれいにしようと掃除している。お前はいつだって、悪いMobを倒そうとしている」
以前、ヒナツは自分には夢があると言った。その夢を叶えるのは正直難しい。諦めろとも言われた。
けれども――、
「お前はいつだって――立派な巫になろうと頑張っている」
自分の夢を夢で終わらせない。
ツフユよりもヒナツのほうが立派な巫だ。
「現状、課題は山積みだ。ツフユたちに任せたままだったら、何もできねえ。何とかするには、優しくて行動力のある、お前しかいねえんだ!」
「私からもお願い!」
俺とサエラはヒナツに頼み込む。
ヒナツを委員長にすることは決定事項だ。でも、本人が望んでやるのとやらないのとでは全然違う。頼む、イエスと言ってくれ!
「はぁ~、しょうがないなぁ~」
呆れ果てたようなヒナツの口ぶり。でもその声には温かみがあった。
「最初にツフユの手伝いをしたのはね、水汲みだったよ。水汲みをするはずのツフユが、もう歩けないって駄々こねてね。水汲みしないとその日の水が無いから、仕方なく重い桶を運んだよ。ツフユが12才、アタシが4才だった」
突然ヒナツは身の上を語り始めた。
「それからアタシはずっとツフユのお世話をしてきたよ。炊事、洗濯、掃除、買い物、風呂洗い、小間使い、書類作成、おみくじ売り、何でもやった」
そう言って、ほうきを回転させ上に放り投げる。
「ツフユのお世話はアタシの得意分野。ツフユが歩けないっていうんだったら、アタシが手を引っ張ってあげる」
頭上でほうきをキャッチ。
「アタシは未来の立派な巫だ! 鬼でもドラゴンでもドンと来い!」
そのまま、ほうきを槍に見立てて大暴れ。本日一番の砂嵐が巻き起こる。
煙が収まった後、ヒナツは自慢のポニーテールをかき揚げ、ドヤ顔で決めポーズ。
「実行委員長、アタシに任せて!」
砂まみれの俺から一言、言わせてくれ。
「……ほうきを振り回すなって言っただろ。この話は無しな」
次回は8月26日の12時頃に更新の予定です
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