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5-12 半人前1

 ヒナツとツフユの喧嘩から10日後。俺とサエラは神官連合という組織から依頼を受けた。神官連合というのは、この世界の宗教を束ねる組織らしい。


 神官連合の応接室に案内されて依頼主を待つ。熱い紅茶を飲みながら、サエラに話しかける。


「なぁ、ヒナツとツフユって、まだ喧嘩してるのか?」


「うん。さすがに前みたいな大喧嘩はないみたいだけど……」


 あれからヒナツはレンタルサービスを利用していない。金欠だから今は厳しいという話だが、それが本当かは分からない。


「あー、ツフユと顔を合わせんの、気乗りしねえなぁー」


「今日はツフユさんも神官連のトップとして、私たち移動工房に話があるんでしょ。ヒナツのことは何も言ってこないんじゃないかな」


「そりゃあ分かってるけどよぉー」



 そんなこんなしていると、扉が開き3人の人物が入ってきて席に着く。


「お待たせしました。世界大主教教皇のフランシスコです」

「大禅教総本山の大僧正、円海でございます」


 左右の席に座った老人が挨拶。どちらもJAOのNPCだったような気がする。

 そして、中央の席に座るのは――


「神官連総裁兼、レスターン神宮宮司のツフユです。……知ってると思うけど」


 特徴的な青の巫女服。忘れるわけがねえ。というか、さっきまでお前の話をしていたし。


「おや、知り合いでしたか。ツフユさん」

「それだったら、話がスムーズにまとまりそうですなぁ」


 何も知らずに喜ぶモブの2人。能天気な反応を見て、ツフユは笑顔のまま頬を引きつらせ小声で舌打ちする。


「ちっ……ジジイども……」


「どうしました、総裁?」


「別に」



「それで、俺たちに何をお願いがあるんだよ? 神官連さんよぉ」


「はぁ~……。急かさなくても話すっつーの。今日の神託の内容は知ってる?」


「ああ、チェック済みだ。っていっても、あんまりなかっただろ? 【逃亡者の街サイト】・【サイト湿原】・【地獄と極楽を繋ぐ場所】に行けるようになったこと。後は、期間限定イベントの開催の告知くらいか」


「そう、それ。あたしたちが依頼したいのは、1月後半の期間限定イベント『鬼は外、福は内』のこと」


「なるほどねぇ……」


 神官連が何を依頼したいのか大体分かった。



 1月後半の期間限定イベント『鬼は外、福は内』は、去年の2月前半に行われた期間限定イベントの復刻版だ。JAOに限らず、こういう期間限定イベントはしばらくすると復刻されるのが最近のゲームの常識になっている。


 期間中はレスターンに鬼のMobが出現する。その鬼の退治数を競うのが『鬼は外、福は内』というイベントだ。

 鬼を退治すると一定確率で福の神に変化する。福の神はヴァリアブルストーンを4個もくれたので、去年行われたこのイベントは大盛況だった。今年復刻されるのもうなずける。



「俺に『豆まき炒り豆』を集める手伝いをしろ。そう言いたいんだよな」


 俺の答えが的中したのか、教皇が弱り切った顔で説明する。


「ええ、その通りでございます……。豆まき炒り豆が無いと鬼どもは倒せないので……」


「でも、あいつらはノンアク、それどころか、全く攻撃しないだろ。放っておいても別に問題ねえんじゃねーの」


 このイベントでレスターンに出現するのは、通常のMobではなくイベント特別仕様のMobだ。

 こちらが何をしようが、ただただ吼えるだけで何もしてこない。そのかわり、豆まき炒り豆をぶつけなければ倒れることはない。


「はぁ!? 想像力が足りねえよ、レイ=サウス」


 馬鹿にした様子でツフユが首を横に振る。


「いい、鬼どもは一日中活動、出現すんだよ。メシを食っている時でも、風呂に入っている時でも、人間様が寝ている時でもな。――特に夜。出ていくまで、うるさくて眠れやしねえ」


 ヒナツの言葉に黙って横の2人もうなずく。


「朝起きたらいつの間にか枕元に居たことあったよ~」


「鬼がいても熟睡できるのはあんただけな、サエラ」


 サエラにツフユがつっこんだ。


「ま、事情は分かった。そりゃあ、豆を集めなきゃいけねえなぁ」


 ゲームだった頃は常にレスターンは昼だった。安眠妨害とかは全く考える必要がなかった。全プレーヤーが喜んだこのイベントも、この世界では迷惑な災害だったのだろう。



「それじゃあ、協力してくれるんだな!」


 ツフユがテーブルに身を乗り出して喜ぶ。甘ぇよ。


「はぁ!? 元冒険禁止区域に行くのはダメなんだろ。残念だけど協力できねーわ」


 豆まき炒り豆は、アキ海中社殿かデルモ天上神殿のMobしかドロップしない。もちろん、どちらも元冒険禁止区域。


 俺の言葉に3人の顔がさっと青ざめる。だが、すぐにツフユが反論する。


「ちょっと、待てよ。ヒナツのことは関係ねえだろ」


「もちろんヒナツは関係ねえな。だって、元冒険禁止区域に近づくなってのは、ヒナツに限った話じゃなかったろ」


「くっ……。この人でなし。レスターン中の人が困るんだぞ、それでもいいのか!?」


「知らねーな。俺の部屋に出たやつだけ、豆まいて追い返せばいい話だし」



「レイ=サウス、お前は知らねーかもしれねーけどな。困ったことがあれば、元冒険禁止区域にだってトップ冒険者を派遣していたんだよ」


「ふーん、そいつらに頼めば?」


「そっ、それは……」


 俺の指摘に言いよどむツフユ。大僧正が事情を説明してくれた。


「去年は特選騎士団とトップ冒険者に依頼しておりました。ですが、特選騎士団には、今回は多忙につき豆集めは行わないと断られてしまったのです」


 特選騎士団というのは、フェクレバン王国に所属する騎士だ。タイランやこの間戦ったバファルガーも団員だ。


「トップ冒険者は……言うまでもねーか」


 トップ冒険者は冒険禁止区域での狩りをしたがらなかった。今でも移動工房のレンタルサービスでなければ、狩りをするやつはほとんどいない。


「トップ冒険者のガンザスPTが死にかかった事件があって、特選騎士団員以外は途中で手を引いてしまいました」


「はぁ~、そりゃあ悲惨なこった。去年は何人くらい豆集めに参加したんだ?」


「………………っ、15人だよ」


 家族会議で問い詰められて赤点の点数を白状する馬鹿高校生のように、ぼそりと低い声でツフユは告白した。


「15人! 15人も頑張って集めたのかよ!」


「…………っ!」


 俺の皮肉に、ツフユは暴言で返す余裕もないのか、ただイラついた様子で小刻みにテーブルを叩くことしかできない。



 教皇が頭を抱え、泣きそうな声で愚痴を言う。


「去年は鬼退治が進まないことに対する抗議が、これでもかというくらい殺到したんですよ……。神官連のメンツが完全に丸つぶれでした。あぁ~、今年はもっとひどいことになるのかと思うと、今から頭が……」


 その様子を見ていたツフユと大僧正が、声を荒げて俺に詰め寄る。


「とにかく、今年は去年のような過ちは繰り返してはいけねーんだ。神官連のメンツにかけて、鬼退治を何としても成功させなきゃいけないんだよ。協力してくれ!」


「神官連のメンツにかけて、何卒なにとぞご協力を!」


 メンツ、メンツ、メンツねぇ……。なぁ~にが、「レスターン中の人が困る」だ。ようやく本音が出やがったか。

 俺はお前らのメンツを守る道具じゃねえっつーの!



 サエラが困った顔をして俺に声をかける。


「レイ君の気持ちは分かるよ。でも、鬼が暴れて去年レスターンの人たちが困ったのはほんとだよ。私は神官連に協力してほしいな……」


 すまねえ、サエラ。余計な気を使わせちまって。俺と違って優しいからな、お前は。


「じゃあ、そろそろビジネスの話に入るとするか」


 遊びは終わりだ。ツフユにぎゃふんと言わせるのはそこでもできる。

次回は8月19日の12時頃に更新の予定です




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある★★★★★のところを押して評価していただければ、非常に励みとなります。




こちらも応援よろしくお願いします。


【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~


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