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5-11 ヒナツの夢

本日は5-9、5-10、5-11を3話連続投稿します。


5-12からレイがツフユに反撃を開始します。

 サエラ『ヒナツ、大丈夫?』


 ためらいながら、サエラがメッセージを送る。

 あれほど大喧嘩した後だ。しかも、姉に自分の夢を否定された。ヒナツはショックを受けて落ち込んでいるにちがいない。


 だが俺の予想と違い、ヒナツは絵文字がたくさん入った無駄にカラフルなメッセージを送ってきた。



 ヒナツ『やっほ~、サエラ。アタシは今温泉に入ってまーす』


 ヒナツ(お風呂に入っているスタンプ)


 ヒナツ『いや~、寒い日は温泉に限るね~』


 サエラ(「いいなー」というスタンプ)


 ヒナツ『極楽、極楽~♪』


 サエラ『わたしたちもお風呂に入ればよかったねー、レイ君』


 レイ=サウス『誤解を招く発言は止めろ』


 せめてメッセージじゃなくて、リアルで言え。


 サエラ『えっとね、今日のことだけど』


 ヒナツ『ああ。ごめんねー。おみくじできなくて。すっかり忘れてたよー。また明日来て、今度こそ占うから』


 ヒナツ(「てへっ」と照れるスタンプ)


 ヒナツ(「お金~(☆▽☆)」というスタンプ)


 ヒナツ(冗談だと笑いとばすスタンプ)


 ヒナツは明るくスタンプを連投している。さっきの修羅場が嘘のようだ。本当に気にしてねえのか。

 いや、ツフユは言っていた。ヒナツは肝心な時には何も言えないと。

 逃げ去った様子からして、本当はものすごくショックだったはずだ。現にツフユの愚痴すら言葉に出していない。


 サエラ『ありがとう。でも、その話じゃないの』


 ヒナツ『アタシの温泉レポートだね! でも、レイにはちょっと刺激が』


 レイ=サウス『話逸らそうとすんな』


 露骨にサエラの話を変えようとするヒナツを牽制した。


 ヒナツ『ごめん……』



 サエラ『私は怒ってないよ。それよりもね、あの後ツフユさんとも話をしたんだ』


 ヒナツ『あー。それヤバいよー。アタシを追っかけてすぐ逃げればよかったのにー』


 ヒナツ(「ご愁傷様~」というスタンプ)


 ヒナツ『絶対ツフユのことだから、アタシとUMobと戦わせたサエラたちも悪いとか因縁つけてきたでしょ』


 サエラ『因縁はつけてこなかったけど、私たちもこっぴどく言われちゃったね』


 レイ=サウス『因縁はつけられただろ。すげームカついたけど、まあいい。いずれぶち当たる壁だ』


 サエラ『でもね、大切なことも分かったの。ヒナツ、怒らずに聞いてね』


 ヒナツ『な、何……?』


 サエラ『ツフユさんはヒナツにかんなぎになってほしくないとは思ってないよ。でも、昔よりもプレイヤーとMobのレベル差が大きくなっちゃったから、無茶なレベル上げはやめてほしい。そう言ってた。ツフユさんはヒナツのことが本当は大好きだから、あんなきつい言い方になってるんだと思うの』


 レイ=サウス『あと、神託は聞けないってあいつ言ってただろ。ありゃあ多分嘘だ。神託を聞く前提条件について、何一つ言ってなかったからな』


 最初は、ヒナツはかんなぎになれないという話だった。しかし、途中からUMobは危険だから命を落とす可能性があるという話に変わっていた。

 意図的に話がすり替えられたのだと、俺は思っている。



 ヒナツ『あのツフユにねちねちやられて大変だったでしょ。2人ともありがと』


 ヒナツ(「ありがとう」というスタンプ)


 ヒナツ(泣いているウサギの頭を撫でるスタンプ)



 ヒナツからのメッセージを見てサエラが安心した顔になる。


「ヒナツ、怒ってないみたいだね」


「だな」



 ヒナツ『まずはレイの話から。神託を聞く条件は私も知らないから、アタシがかんなぎになれないかどうかは、正直な話よく分かんない』


 レイ=サウス『らしくねーな。しょげんなよ。お前もレベルを上げて審神者さにわを取ればいいだけだろ』


 審神者さにわとはGMと交信できるかんなぎスキルだ。ツフユの話によると、この世界ではゴッドメッセンジャーという存在と交信できるらしい。


 ヒナツ『審神者さにわはアタシも習得してる。それに、レスターン神宮には、審神者さにわを覚えているかんなぎは他にもいるよ。でも、ツフユ以外誰もゴッドメッセンジャーとは交信できない』


 出た! 異世界独自設定! スキル習得したのに、使えないって酷すぎだろ。あ、でも、JAOでも審神者さにわはGMに無視されているから、同じようなもんか。



 レイ=サウス『神託なんか聞けないってツフユの話、正確にはどんなのだっけ?』


 サエラとヒナツにも聞いてみる。


 サエラ『さあー?』


 ヒナツ『アタシはブチギレてたから覚えてない』


 はぁ、こいつらに聞いたのは失敗だったか……。


 レイ=サウス『確かUランクが楽勝だとか言うやつに神託は聞けないとか言ってたはずだ』


 言葉はともかく、少なくとも内容は合っているはずだ。


 レイ=サウス『ここからは俺の推測だけど、ゴッドメッセンジャーとかいうやつはこの世界の人々を守ろうとしている。だから、UMobはU武器があれば狩れるというざっくりした認識を持っているやつなんかじゃ、ダメってことなんじゃないか』


 ヒナツ(反省をしているスタンプ)


 お前、大雑把な性格だもんなー。


 ヒナツ『でも、ツフユだってさ~、UMobは全部ダメってざっくり考えてるよ。アラムとか、すごく弱かったのに~』


 サエラ『結局ツフユさんの言葉の意味は謎だね~』


 レイ=サウス『ただの出まかせかもしれないしな』


 サエラ(「分からな~い」と頭を抱えるスタンプ)



 ヒナツ『それから、ツフユの本音だけどね。サエラが言った感じで合ってるよ。直接本人に聞いたわけじゃないけど、まぁ、ほら、アタシもさ、生まれた時からツフユとずっといるわけで。血の繋がった姉妹だしね』


 サエラ『そうなんだ。私たちは姉妹がいないから、分からないね』


 レイ=サウス『ああ』


 ヒナツ『ツフユは今までずっと一人で神託を受けてきた。逆に言えばさ、この世界がどういうものなのか、独りしょい込んできたってことでしょ。この世界に対する絶望は人一倍深いんだと思う』


 レイ=サウス『フェーリッツと同じだな』


 かつてフェーリッツも同じようなことで苦しんでいた。行く先々のマップで命からがら逃げだすしかなかったことが続きすぎて、自分ではもう冒険できないと自暴自棄になっていた。


 ヒナツ『フェーリッツが冒険禁止区域をやめるって言ったときも、最後まで反対してたのはツフユだって聞いたよ』


 サエラ『だから、ツフユさんは私たちにあそこまで突っかかってたんだね……』



 ヒナツ『レスターンがルシファーの軍勢に占拠されたことがあったでしょ』


 レイ=サウス『もう聞いた』


 JAO最低最悪のワールドイベント、【王都奪還】のことだ。十五勇者のなんちゃらが死んだって話だろう。


 ヒナツ『そうなんだ。イストリブルもパーファネイさんも、ボスと戦う前にあっけなく死んじゃったからね……』


 ヒナツ『あれでツフユは、もう人間じゃMobに対抗できないって痛感したんだよ。どんなに優れた勇者でも、UMobの前では無力。ツフユはよく言ってる』


 サエラ『DEFで固めたパーファネイさんが、何が起きたか分からないまま即死したのを、私もすぐそこで見ていたから。友達を亡くして悲しむツフユさんの気持ち、私も分かる』


 レイ=サウス『ああ、なるほど。デスにやられたのか』


 デスは文字通り死神。JAOの雑魚Mobで1、2位を争うほど理不尽な殺し方をしてくるやつだ。そりゃあトラウマにもなるだろうな……。


 この世界の人間でも行けるような場所には、こんな理不尽な雑魚Mob、いや、ボスすらいない。

 だけど、Uランク帯は違う。一つでも選択をミスったり、ヘマをやったりしたら、即あの世行き。俺たちはこの現実から目を背けることはできねえ。




 ここでヒナツから、メッセージではなく直接通話するから待ってほしいと連絡が来た。結構長い間風呂に入っていたからのぼせそうだとのこと。



 約十分後。ヒナツから通話が来た。


『お待たせ~。冬にはやっぱ温泉。アタシのおすすめだよ。それじゃあ、話の続きしよっか~』


『でも、言いたいことも大体言っちまったからなぁ……。ツフユはお前のことを大切に思っているから、あんなひどいことを言った。それが分かれば、話はもう十分だ』


『ありがとう。ツフユがアタシを過保護にしている理由はちゃんと分かってるよ』


 喧嘩の時と違い、ヒナツの言葉は穏やかで優しかった。


『気持ちも……分からないわけじゃない。アタシもツフユが死ぬのなんて、絶対イヤ』


 ヒナツがツフユの気持ちを理解しているだけでも、まだ救いがある。そうじゃなかったら、本当に2人はいがみ合うことになるだろう。

 最初から仲が悪いのならともかく、お互いがお互いを想い合っているのに憎しみ合うのは悲しいことだ。


『ツフユさんと仲直りをしようよ。ツフユさんのことを分かってるんだったら――』


『サエラ、それは無理』


『どうして!?』


『アタシには夢がある』


『夢……?』


『アタシは立派なかんなぎになる!!』


 ヒナツが声を張り上げた。自分を奮い立たせるような、決意のこもった魂の叫び。



『ツフユの言う通りにおみくじ売ってるだけじゃ、いつまでも経ってもツフユに追いつけない!』


『立派なかんなぎって、かんなぎ技能を全部取るっていう意味か?』


『そんなのは当然! まだレベルが足りないけどね』


 サブ技能のスキルを習得するには、サブ技能習得クエストをクリアしなければならない。だが、それにはレベル制限がある。

 ヒナツはまだ86レベル。その程度のレベルだと全てのスキルを習得することはできないだろう。90レベルまでは上げたいところだ。


 それに、元冒険禁止区域に行かなければクリアできないサブ技能習得クエストもある。

 さっきクリアした『トトメスの野望』は鍛冶技能「ショーテル作成」の習得クエストだが、元冒険禁止区域であるベーメ荒野に行かなければ達成できない。


『でもね、立派なかんなぎっていうのはそういう意味じゃない――。人々を助け、守り、幸せにできる。ツフユみたいな――、ううん、ツフユよりも立派なかんなぎにアタシはなりたい!』



『それだったら、ツフユさんとちゃんと話をつけて――』


『サエラ、2人が仲直りをするかは2人の問題だ。俺たちが押し付ける話じゃねえよ』


『ありがとう、サエラ。でも、これはレイの言う通り。あの石頭に分からせるのは、アタシ。立派なかんなぎになるんだもん。自分の問題くらい自分でケリをつけなきゃね』


『分かった。イヤリング拾っておいたから、明日おみくじを引きに行くついでに渡すね』


『拾ってくれたんだ……! 『いらねー』って言われてもツフユに押し付けてやる、何度でもね』


 ヒナツは冗談っぽく笑いながら話す。

 2人の和解がいつになるかは分からねえけど、この分だったら大丈夫だな。



『とはいえ、俺たちが黙って見てるだけってのも何か物足りねえよな、サエラ』


『うん!』


 命が大事だというツフユの言い分も、立派なかんなぎになりたいというヒナツの夢も、俺にはよーく理解できる。



 けれども、俺は――ヒナツを応援する。



 世界を憂いているだけで何も動こうとはしないツフユ。

 自分で道を切り開こうとしているヒナツ。

 ヒナツの進もうとしている道は険しい。でも、その道は俺が今まで歩んできた道でもあり、これから歩んでいく道でもあるんだ。



『そこでお前には、ビニーブソロコースを格安にしてやろう! 聞いて驚くな。赤字覚悟の6割引きだぁっ!』


 レベルを上げるだけなら、別に冒険禁止区域以外にも場所はある。これなら過保護のツフユ相手でも文句は言わせねえ。


『やる!』


 二つ返事で飛びついてきた。


『まだ話終わってねーよ。よく聞け。――格安にする代わり、ぐうたらで縮こまってるだけのダメ姉より立派なかんなぎになって、俺たちに協力しろ』


『当ったり前だよ! アタシは神様に代わって人々を守る正義のかんなぎ。早く立派なかんなぎになって、悪いMobを――』


『ヒーラーでよろ』


 俺がそう言うと、ヒナツは黙ってしまった。


 やっぱツフユの言う通り、まだままだ未熟者だな、こいつ。

次回は8月15日の9時頃に更新の予定です




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある★★★★★のところを押して評価していただければ、非常に励みとなります。




こちらも応援よろしくお願いします。


【防御は最大の攻撃】です!~VRMMO初心者プレイヤーが最弱武器『デュエリングシールド』で最強ボスを倒したら『盾の聖女』って呼ばれるようになったんです~


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