5-9 平手打ち
本日は5-9、5-10、5-11を3話連続投稿します。
(注意)胸糞展開がある話です。苦手な方は5-9、5-10を飛ばして、5-11を読んでください。5-12からレイがツフユに反撃を開始します。
狩りが終わり、メテオジャムでレスターンに帰還。
「こっちは雨が降りそうだね……」
ベーメ荒野に行く前から天候は曇りだったが、今は、薄汚れた黒灰色の雲に空は覆われている。
「今日は楽しかったよ! それじゃあねー」
ツフユが別れようとするのを引き留める。
「待て」
「どうしたの?」
「おみくじをもう1度頼みてぇ」
本来俺たちがレスターン神宮に向かったのは、HUチャクラム製造の成功率を上げるためだ。
「すっかり忘れてたぁ~」
サエラがすっとんきょうな声を上げた。
「それくらい覚えてろ」
今さっきまで俺も忘れていたことは秘密にしておこう。
「いいよ! 何占う? 金運とか?」
「生産運だ。それと、金運は気分じゃねえな」
「どうして?」
サエラが理由を尋ねてきた。
「ボスのドロップがしょぼかったから、今さら金運が良くなってもなんか腹立つだろ」
レスターン神宮に到着。空は陰鬱さを増している。これは激しい雨になるかもしれない。
天候のせいなのか、それとも、他のことのせいなのか。もわっとした不安を感じている。
うっとおしい天気でも何のその、ヒナツは鼻歌を歌いながら俺たちを先導している。
「おみくじの前にツフユにプレゼント渡してくるけど、いい?」
「いいよ~」
「ついでに茶くらい用意してくれ」
「オールオッケ~~♪」
本殿の前にまで来ると、一人の巫女がたき火に当たっているのが見えた。青い袴に黒くて長い髪。ツフユだ。先週と違って髪の毛はきちんととかされて、流れるようなストレートヘアーになっている。
「たっだいま~」
手を振りながらヒナツはツフユの下に駆け寄る。
「ツフユ、何だと思う?」
そう言って、ヒナツは握りしめた拳をツフユに突き出す。
「手」
ツフユの手と視線はたき火のほうに向いている。
「そうじゃなくて~、アタシが握っているものは何でしょう?」
「知らねーよ」
「正解は――これ!」
ヒナツはわざとらしく指を一本一本開く。ヒナツの手のひらにはラピスラズリのイヤリングがのっていた。
海や空を凝縮したような鮮やかな蒼。青がイメージカラーのヒナツにはピッタリだ。
「ラピスラズリのイヤリングでしたー!」
正解を聞いた時、ツフユの顔色が変わった。しかし、喜んでいるという顔ではない。奥を見通せないほど深くて昏い瞳。まるで何かを隠しているかのような、能面みたいに不自然な無表情。
「――それ、どこで手に入れた」
温かみを全く感じさせない低音ボイス。
たった一言でヒナツの浮ついた空気を押し潰した。
「え……ええと……。アクセサリーショップで……」
「ヒナツ。あんた、金欠って、ここんとこずっと言ってたよな」
氷のように冷たい視線がヒナツを射抜く。
「ラピスラズリのイヤリングはHSランクだろ。ヒナツの金で簡単に買えるわけねーよな」
「で、でも……、まとまったお金が手に入ったからさ~……」
「いつ、どうやって、誰から、いくら?」
畳み掛けられるように浴びせられるツフユの質問。
下手にごまかそうとしても無駄と考えたのか、ヒナツはあっさり白状する。
「……ボスを倒して、そのドロップで……」
「どんなボス、どこのボス、ボスのランクは、何ドロップ?」
「そ、そんなにいっぺんに言われても……。あ、でも、冒険禁止区域だったところじゃないよ」
「ははっ。元冒険禁止区域じゃなかったマップに、レイ=サウスとサエラを連れて3人がかりかよ。ありえないね。――ヒナツ、嘘つくなら、もっとましな嘘つけよ」
「…………」
「はっ、今あたしに何を言うべきなのかも分かんねーのかよ。あー、うざ。嘘も下手だし。ほんとヒナツは頭悪ぃなぁ~」
「………………」
「普段はあれほどピーチクパーチク、くっちゃくっちゃうるせーくらいしゃべるくせに、肝心な時になったら何も言わない。何も言えない」
「……………………」
「一人前の巫になるだって。笑っちゃうね。そんなんじゃ、いつまで経っても半人――」
「馬鹿にすんな!」
ヒナツの叫びとともに突風が吹いた。
電源が入っていないモニターのように黒一色に塗りつぶされている空。今の大風でたき火の残り火も消えてしまった。
「ツフユ、聞け! アタシはUランクのフィールドで狩りをした」
「……!」
ヒナツの言葉を聞いてツフユの顔色が青ざめる。
無理もねえ。元冒険禁止区域にはU帯だけでなくSS帯も指定されていた。ツフユの反応からすると、俺たちはSS帯に行ったと思っていたようだ。
だが、フィールドとはいえ、俺たちが狩りをしていたベーメ荒野はUランク。冒険禁止区域が撤廃された今でさえ誰も近づこうとしない場所だ。
「Uランクって……高レベルのSSMobやUMobが出るじゃない! そんな……危険すぎる……! 特にUMobは――」
「危険じゃなかった。アラムっていうUランクのスケルトンがいたけどね、武器がグラディウスだから相手の攻撃が届く前にメギラスで倒せた。アラムの攻撃が当たっても、1000ちょっとしかダメージを受けなかった。これのどこが危険なの!?」
ツフユは唇をぎゅっと噛み、ヒナツの言葉を黙って聞きながら怒りの形相で睨みつける。長い髪は風に煽られ、ぐちゃぐちゃに乱れている。
「クエストボスとも戦った。Uランクだったよ」
U帯は86~100レベルだ。トトメスのレベルは86。ぎりぎりとはいえ、れっきとしたUランクだ。
「でも勝てた。ちゃんとした武器、ちゃんとした戦い方で戦えば、Uランクだって怖くない。これでも半人前だって言える?」
「ヒナツ……あんたねぇ……!」
「アタシは半人前じゃない!!」
バチンッ!
どんなすさまじい暴風よりも、その音ははっきりと聞こえた。耳に残った。
――ツフユがヒナツの頬を引っぱたいた。
まるで刻が止まったかのように、皆動かなかった。いや、動けなかった。
それはたぶんコンマゼロ秒の一瞬のことだったのだろうが、俺にはとてもとても永く感じられた。
振り上げた手はそのままで、ツフユは言った。
「あんたは何も――分かっちゃいない」
怒りを通り越しているのか、これまでよりもずっと低いトーン。ずしりと重い一言だった。
ツフユはゆっくりと言い聞かせるように話し始めた。
「この世界を守りたいっていうゴッドメッセンジャーの言葉を伝えるのが、あたしたち巫の使命。Uランクが危険じゃない、Uランクだって怖くない。そんな思い上がった言葉を吐く時点で、一生、神託を聞くことはできない」
そう言って、ツフユは後ろを向いて歩き始める。
「せいぜい掃除でも頑張りな、未熟者」
「待っ……」
ヒナツが手を伸ばすと、青色のイヤリングが手からこぼれた。
そして、天から大粒の雨が一気に流れ落ちる。
「うううわぁぁっっっ!」
声にもならない叫びをあげて、ヒナツはレスターン神宮から走り去った。
Uランクが危険じゃない。Uランクだって怖くない。それは思い上がりだと言ったツフユの言葉に、俺は納得がいかねぇ。
だけど、それ以上に俺はツフユに怒っている。
姉にプレゼントをしようとした、けなげな妹の好意を台無しにした。
そして何よりも、一生懸命立派な巫になろうと頑張るヒナツを、「無理だ」の一言で切って捨てたことに腹が立つ。
「ふざけんな!」と喉まで声が出かかった時、ツフユの左手が見えた。
小さく震えている。
震える左手を、右手でギュッとつかんでいる。
ああ、そうか……。ヒナツの頬をぶったツフユのほうが痛かったんだ。
……ツフユの馬鹿野郎。
本日は連続投稿します。
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