5-6 新時代の戦い方1
高さ15m超の小さいピラミッドの中に入る。そこでやることといえば、儀式の間から石板を持って帰りボスを倒すことだけだ。
石板を発見。これには古代の武器の作り方が載っている。そのことは覚えていた。なぜなら、このクエストは鍛冶技能『ショーテル作成』習得に必要なクエストだからだ。
ま、ショーテル作成はとっくに習得しているから、俺にはもう関係ねーけど。
石板を手に入れたので、ボス討伐に向かう。
ボス部屋に入る前にヒナツに話しかける。
「ここで確認だ。PTの戦い方は……」
「さぁ、行っくよー!」
PTのロールについて説明しようとした俺に気づかず、ヒナツはそのままボス部屋に入ってしまった。
「ちょっと待って~」
サエラがヒナツを止めようとするが、もう間に合わない。ボス部屋は一度入ったら最後、ボスを倒すまで出られない。
「ああっ~、あのバカ! もう予定変更だ! サエラ!」
「じゃあ、私はヒナツの代わりにヒーラー専念だね」
サエラは大きく首を縦に振る。こいつとはほぼ毎日狩りに行っているからな。もう俺が細かい指示を出さなくても、俺が言いたいことを汲み取ってくれる。ありがてぇ。
本当は高intのヒナツにヒーラーをやってもらうつもりだったんだが、仕方ねえ。
「ヒナツにPTプレイのやり方を教えるぞ!」
武器をフレイルに持ち替え、ヒナツを追いかける。
多くのRPGなどでは【タンク】、【アタッカー】、【ヒーラー】の3つのロールが設定されている。
タンクとは、PTを先導しMobのヘイトを引きつけるロール。
アタッカーとは、大火力で攻撃するロール。
ヒーラーとは、回復などを行うロール。
PTプレイでは、この3つのロールに応じた動きをすることが求められる。
JAOのサービス開始前は、このゲームでは3種のロールが不要になると言われていた。実際俺もそう思っていた。
なぜなら、JAOでは武器や魔石を変更するだけで、誰でもタンクにもアタッカーにもヒーラーにもなれるシステムを採用しているからだ。例えば、敵の攻撃を耐えたければ、防御の魔石を大量に組み込まれた武器を使えばいい。ヒールがしたかったら、杖に持ち替えればいい。
だが、実際は3種のロールは必須だった。
理由は簡単。3種のロールに応じたPTプレイができなければ、高難易度のマップは攻略できなかったからだ。
中途半端な武器で攻略できるほど、JAOはヌルゲーではない。特にECと呼ばれる高レベルダンジョンはなおさらだ。
この世界の冒険者は3種のロールを知らない。このままじゃ、良い武器を使ったとしても高難易度のマップには行けねぇ。何も変わらねぇ。
ボス部屋に入った。エジプト風の壁画が壁一面に描かれている。そして、その奥には金色の棺。それがギィィと開き、中から立派な頭巾をかぶったミイラが出てきた。
もちろん、ただのNPCではない。クエストボス――ファラオ(トトメス)だ。ブラワという、メイスの一種を握っている。
「我が計画を邪魔する者は容赦せぬ」
「何の計画か知らないけど、悪いことは巫として見過ごせないんだから!」
メギラスを構えたままヒナツはトトメスに向かって走り出す。
「バカ、前に出るんじゃねえ!」
「えっ!?」
俺の制止を聞いてヒナツは急停止。
だが、遅かった。トトメスの周りに7体のミイラボウズが出現。ミイラボウズは乾いた唸り声をあげて金棒を振り回す。
「へへん、当ったんないよー」
いきなりの出現をものともせず、ヒナツはミイラボウズたちの怒涛の攻撃をかわしていく。
ヒナツが最後のミイラボウズの攻撃をかわした時、
「ガァォハッ!」
トトメスのブラワがヒナツの頭に振り下ろされた。頭に叩攻撃が当たったらスタンして行動不能になるかもしれねぇ。やべぇ!
「ウォークライ!」
慌てて外付けを付け替えてスキルを発動。ウォークライは周囲にいる敵のヘイトを短時間だけ発動者に向けるスキルだ。こうすればヒナツがスタンしても立て直すことができる。
「たぁっ!」
ヒナツは倒れることなく、メギラスを振るってミイラボウズを倒した。よかった。スタンはしなかったみてぇだな。
「ヒナツ! いったん下がれ! まだ手を出すな!」
フレイルを構えてヒナツに指示を出す。
「でも、戦わなきゃ!」
「言ったよな、新時代の戦い方を教えてやるって。俺たちの動きを黙って見てろ」
「……わかった!」
ヒナツが前線から退いた。
とはいえ、ウォークライの効果はすぐに切れる。まだ安心はできねえ。トトメスのヘイトはまだヒナツに向いているはずだ。
穀物(フレイルの先端についた短い棒。攻撃判定がある。)をグルグルと振り回し、戦闘態勢に入った。
次回は8月5日の12時頃に更新の予定です。
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