5-5 ベーメ荒野での狩り
焦げ茶色の袈裟をつけたミイラ、ミイラボウズ2体がヒナツの前に立ちふさがる。遠く離れた所からベージュ色の魔人、ジャーンがこちらの様子をうかがっている。
「ガァォハッ!」
乾いた唸り声を上げて巨大な金棒をミイラボウズが振り回す。ミイラボウズの金棒は、ヒナツが手にする神槍メギラスよりも長い。差し合いはややヒナツが不利だ。
同時に襲いくる金棒。ミイラボウズはヒナツを叩き潰す気だ。
「ふふん、当たんないよ」
軌道を読んで、ヒナツは難なくモーション回避。
「たあっ!」
掛け声とともにミイラボウズを一突き。ミイラボウズは1撃で粉々に四散する。
そのタイミングでジャーンから魔法がメギラスに向けて発射された。細い針金がぐるぐる巻きになった弾のようなエフェクト。DOGを低下させる魔法、ドッジダウンだ。
「武器狙いって、イマイチだとアタシは思うなー」
武器に当たれば魔法は強制的に命中判定に成功する。
ヒナツは槍を振り上げ、武器への被弾を阻止。
「ガァォハッ!」
がら空きになったヒナツの腹に、もう1体のミイラボウズの金棒が叩きつけられた。
「痛ぁ~」
腹は必中エリアだ。ヒナツのHPが3割ほど削れた。しかも、折れた剣のアイコンがヒナツの頭上に表れた。今の攻撃で攻撃低下の状態異常にかかってしまったのだ。
それでも、ヒナツの進撃は止まらない。
「よくもやったな!」
喉を突かれたミイラボウズは消滅した。
「次!」
ミイラボウズの撃破を確認することなく、ヒナツはジャーンの元へと猛ダッシュ。
ジャーンは慌ててフォトンアローで牽制。しかし、ヒナツは空高くジャンプ!
そのまま太陽を背に空中でメギラスを振り下ろす。
ボフォン!
メギラスが命中すると、ジャーンは軽く爆発。そして、キラキラ光る粒となって消えた。
なるほど、十五勇者の1人ってのも納得がいく強さだな。
神槍メギラスの所有者だけあって、ヒナツは槍師だ。
リーチが長い金棒相手でも、近すぎもしなく遠すぎもしない位置取りをして、素早い動きで攻防をきっちりこなす。位置取りの上手さは槍師の腕に直結する。
槍の腕自体は十五勇者の槍師コームオのほうが上だろう。だが、ヒナツは良くも悪くも積極的だ。どっしり構えるコームオのほうが槍師としてはふさわしいが、爆発力はヒナツのほうがある。今だって、臆することなくミイラボウズとジャーンを瞬殺した。
ヒナツの腕とまともな武器があれば、中途半端な元冒険禁止区域なんて問題にならねえ。俺が太鼓判を押してやってもいい。
戦闘が終わってヒナツが戻って来た。
「すごいね! メギラスってこんなに強かったんだ!」
さっきからヒナツは興奮している。SSやUランクのMob相手に大立ち回りを続けていたからな。今までのヒナツの狩場と比べると当然の反応だろう。
「いや、メギラスは正直ネタ武器だ」
「ええっ! そんなぁ~」
俺の言葉に、ショックを受けるヒナツ。
「レイ君、そんなにはっきり言わなくても……」
サエラが俺をフォローする。
「うるせぇ。俺は見え透いたお世辞は言わねえ主義なんだよ」
メギラスのレシピはこうだ。
種類:SSコルセスカ
DRA:8296
BBAT(受ATK):2451(str:47)
SAT(突ATK):3331
HIT:1334(dex:1)
DOG:700(agi:50)
DEF:10(res:1)
【大種族悪魔】
SAT:13462
HIT:3733
防御種族倍率:大種族悪魔 0.56倍、DOGとDEF2648上昇
【大種族不死】
SAT:13462
HIT:3733
防御種族倍率:大種族不死 0.56倍、DOGとDEF2648上昇
内蔵魔石:滅悪魔の魔石HS×2
滅不死の魔石HS×2
耐悪魔の魔石HS×2
耐不死の魔石HS×2
耐久の魔石HS×2
威力の魔石HS×1
命中の魔石HS×1
コルセスカというのは、三角形の穂の両側に三日月状の刃がついた三又の槍だ。両端の刃は、相手の攻撃を受け止めたり、馬上の騎士を引きずりおろすのに使われていた。
JAOでは、突攻撃のみしか行えず、能力は長柄の平均よりちょい下。しかし、ファンブル率が低いうえ、RANが240と長めであり、安定して戦えるのが強みだ。中級者以上には、両側の刃を活かすテクニカルな戦い方も好まれていた。
disだけではさすがになんなので、メギラスの長所を説明することにした。
「メギラスはネタ武器だけど、全く戦えないってわけじゃねえ。高レアリティの滅悪魔・滅不死・耐悪魔・耐不死の魔石が組み込まれているから、悪魔と不死には強ぇ」
事実、このマップのMobたちは手も足も出ずに無双されている。
「ここみたいに悪魔と不死が両方とも出てくるマップでは大活躍できる。片方だけだったら、さすがに特化のほうが強ぇけどな」
俺たちが狩りをしている『ベーメ荒野』は、悪魔と不死がバランスよく出現する。メギラスはベーメ荒野の特化武器だといっていい。
「要は、武器ってもんはどう使うかだ。それを意識して使うことができたら、ネタ武器でも最強武器になる」
「武器の特性をわきまえろか。それ、フィルドもよく言ってたなー」
「うん。言ってたね~」
ヒナツに続いて、サエラも懐かしそうに話す。
「誰だ? フィルドって?」
「レイは知らないよね~。さて、問題。フィルドは誰かの彼氏です。誰の彼氏でしょう?」
「知るか」
「正解はツフユの彼氏でーす!」
「マジかよ!? あのニート女に彼氏いるのかよ!?」
ヒナツの答えをサエラが補足する。
「正確には『いた』だよ~」
「『いた』って、どういうことだよ?」
「5年前くらいに行方不明になっちゃったの……。フィルドさん元気にしてるかなぁ……」
元々仲間だったのだろうか、サエラは遠い目をして空を見上げている。
そんなサエラにヒナツが明るい笑顔を向ける。
「大丈夫。フィルドって普段はちょっと頼りないけど、めちゃくちゃ強いし、きっとどこかで元気にやってるって。あの心配性のツフユだって、いつもそう言ってるんだから!」
「そっか。そうだよね~。ツフユさんが信じているんだから、私も信じないとね」
サエラは微笑んで地平線の彼方を眺める。そして、一礼した。
「レイ君、ごめんね。分からない話で」
「気にすんな、サエラ。大して聞いちゃいねえ」
「そうと決まれば、ツフユにも負けない立派な冒険者、それと、巫になるため、頑張ろう~!」
「お~」
誰もいない荒野にヒナツとサエラの声が響く。俺たちは冒険者。いつだって前を向いて進むのだ。
「よーし、そんなやる気満々のヒナツにクエストだ! クエストをクリアして経験値ゲットしろよ!」
「メギラスを持った私は最強! 幾千のアラムでもジャーンでもうち滅ぼしちゃうんだから!」
謎の痛いポーズを決めるヒナツ。
「千体も出てきたら、死ぬっつーの」
「そういえば、途中でクエスト受けてたよねー。どんなのだっけ? アタシ忘れちゃった」
「寝てたから知らな~い」
「おいおい、お前ぇら。話くらい、ちゃんと聞いてくれよ」
「オッケー。次から気をつけるよー。で、話教えてよ」
「はぁ、俺が聞いてるわけねーだろ」
「レイも聞いてなかったのかい!」
ヒナツが全力で突っ込んだ。
「シナリオがクソつまんねーのが悪ぃんだよ。ま、でも、何をすればいいかは知ってんぞ」
そう言って、遠くに見える建物を指差した。荒野には似合わない石造りの四角錐の建築物。
「ピラミッドが見えるだろ。あの中にいるボスをぶち殺しに行く」
さっきの威勢はどこへやら。ボスという言葉を聞いて、ヒナツが慌て始める。
「レイ、マジで……!?」
「はっ、どうしたヒナツ? お前ぇこそ、マジで言ってんのかよ」
「だって、ボスだよ! さすがに3人じゃ……!」
「できる!」
俺の自信に満ちあふれた言葉を聞いて、ヒナツは口を閉じた。
「よく聞け、ヒナツ。ツフユみたいな頭の固い時代はもう終わりだ。これからは冒険者が自由に冒険する新時代がやって来る。俺が、新時代の戦い方ってやつを教えてやる!」
次回は8月2日の20時頃に更新の予定です。
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