4-40 不正発覚
12月27日の夕方、クリスマスベリーの採取を終えてフォーリブズに戻る途中、タイランのパクリ店の前に人だかりができていることに気づいた。
「どうしよう。何か新しい作戦なのかな……?」
「いや、違うみてぇだな」
サエラは心配そうにしているが、俺はそうでないと思っていた。
「いつになったらできるのよ!」
「もうケーキはいい! 返金しろ!」
「店長を出せー!」
集まった人たちは大声で叫んでいる。今にも扉を破って押し入りそうな雰囲気だ。応対している店員が縮み上がっている。
どうやらタイラン商会にケーキを予約していた人たちが、予約分を受け取れなかったみたいだ。
フォーリーブズに戻ってきたら、食材調達スタッフたちが2階で話をしていた。
「レイさん、お疲れさん。表、見たっすか?」
「ああ、見たぜ。フェーリッツ、お前も見たのか?」
「もち。それどころか、他のタイランのケーキ屋でも同じことが起きてる」
フェーリッツの言葉に他のスタッフたちもうなずいた。
「私たちがさっき聞いたのは、5時間待ちだって」
「本当に5時間経ってケーキを受け取れるかは分かりませんけどね」
「今から5時間って、夜の10時だよ~。もう寝ちゃってる時間だよ~」
スタッフの言葉にサエラは手に口を当てて驚いている。
「ついにコプアさんの毒が全身に回ったみてぇだな」
マカロンは原価率がいい。だが、作るのにFPがかかる。コプアさんが言うには、昨日も一昨日もタイラン商会はオーバーペースだった。ついにケーキ職人がFP限界を迎えたようだ。
「タイランブランドはこれで失墜だな」
予約商品を届けることができなかったなんて、現代日本じゃ考えられない失態だ。それはこっちの世界でも同じ。炎上まったなし、いや、今大炎上中だったか。
「コプアさんの予言外れちゃったね~」
スタッフの言う通りだ。もっとも、予言は良い意味で外れてしまったけど。
「確かにな。バファルガーのモノマネをした時点で外れると思ったんだよ、俺は」
俺の言葉でみんなが笑った。
念のため、エルテアを含めた新聞記者たちに、タイラン商会ケーキ遅延事件を取材してはどうかとメッセージを送る。7人中7人が、既に取材していると返答してきた。
頼もしいやつらだ。決闘に勝ったとき以上に、明日が待ち遠しい。
翌朝。アルタスの森での採取を終えて、新聞をチェック。どの新聞もでかでかと昨日の一件について報じていた。
だが、エルテアの新聞『フェクレバンNews』には俺たちの想像の斜め上を行く、とんでもないことが書かれていた。
『ランキングに不正あり!! タイラン商会、ギルドメンバーにケーキ購入のノルマ!』
記事によると顛末はこうだ。
12月24日、前日の決闘の勝利により俺たちのポイントが大きく伸びた。そして、タイラン商会のポイントが落ち込んだ。
これに危機感を持ったタイラン商会は、その日の深夜、ギルドメンバーにケーキの購入を強制。翌日以降も同様の手口でポイントを粉飾したという。
購入代金はメンバーの自腹で賄わなければならなかったので不満が溜まっている。
なるほど……。売れ残ったケーキを従業員に買わせていたのか。だから、2日連続夜遅くにポイントがドカンと入っていたんだな。
俺も、コンビニバイトしていたとき、売れ残ったケーキやら恵方巻きやらをコンビニの店長に押し付けられたっけ。俺や先輩が店長に文句を言っても、「こっちだって被害者なんだ」と逆ギレされたなぁ……。
コンビニと同レベルとは、さすがタイラン商会。超ブラック。
「ポイントを不正するなんてひどい~。しかも、無理矢理買わせるなんて」
サエラも記事を読んで口をへの字に曲げている。俺とサエラだけじゃない。きっと、このスクープを見た多くの人もそう感じるだろう。
「俺たちはポイントのために無理矢理買わせること、ましてや不正することなんてもってのほかだ。そんなのは勝負とはいわねえ」
不正でポイントを稼いだところで、そんなものはハリボテだ。正体を見破られてしまえば、後は転がり落ちるだけ。
「ここからは正攻法でどこまで数字を伸ばせるかだな」
「うん!」
サエラもぎゅっと手を握り、強く言い切った。
次回は7月11日の9時頃に更新の予定です。
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