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4-36 ゲームに命を賭けられるか

また評価をいただきました。評価をいただけて本当に嬉しいです。

これからも読者の皆様のために頑張っていきたいです。応援よろしくお願いします。

 戦いが終わった。

 この勝負はBO3。2本先取すれば勝ちとなる。サエラ、そして俺が勝ったので、俺たちの勝ちが確定した。


「お兄ちゃ~ん!」


 涙を流しながら、メマリーがいきなり抱きついてくる。


「ありがと~。ありがと~。お兄ちゃん大好きぃ~」


「バカ、離せ! 大好きは余計だ!」


 くっついてこようとするメマリーをなんとか引きはがす。


「はぁ……コームオとの接近戦のほうがずっと楽だったな」


 俺が溜息をつくとサエラがやってきた。


「お疲れ様」


 サエラからクッキーを1つ渡された。後で食うか。


「別に。疲れちゃいねーよ」


「コームオさん相手に圧勝なんて、さすがはレイ君だね」


「あったりめぇよ。俺を誰だと思ってる」


 腕まくりしてガッツポーズ。

 ああ! 勝った後って、やっぱ気持ちいい!



「ちっくしょうっっっ!」


 向こうの陣営から慟哭どうこくが聞こえてきた。コームオだ。膝をつき拳で地面を叩いている。


「持てる全てをぶつけたのに、全くあいつに歯が立たなかった! ちくしょう、ちくしょう、ちっくしょうっ!」


 コームオの顔は見えない。けれども、悲痛な叫びを聞けば、どんな顔をしているのかは想像がつく。



「コームオさん……」


「行くな」


 サエラがコームオに声をかけようとしたが、俺はそれを引き止めた。


「何も言ってやるな」


 コームオはサエラと同じ十五勇者。過去とはいえ彼女の仲間だった。

 優しいサエラのことだ。苦しんでいる姿を見るのが忍びなくなったのだろう。

 でも、「お前も強かった」などと言われて慰められる敗者なんてどこにいる。


「俺も何度も通ってきた道だ」


 今、コームオに必要なことは、「悔しい。次は勝ちたい」という気持ちを自分の胸に刻みつけることだ。俺たちの出る幕なんてもはやない。


「あいつはきっと強くなる」


 声をかけるのは、その時でいい。



 バファルガーは、自分たちが決闘に勝つことでタイラン商会の武器の宣伝をしようとしていた。

 しかし、結果は俺たちの勝利に終わった。逆に利用させてもらうぜ。


 まだ戦いの興奮が冷めやらぬオーディエンスに向かって一言。


「俺たち移動工房の武器と、タイラン商会の粗悪品。どっちが良い武器が分かったか!」


 この戦いでは外付魔石のほうが重要だったんだが、細かいことは気にしねえ。


「移動工房の武器が欲しいやつがいれば、遠慮なく言ってくれ! 最強の武器を作ってやんよ!」


「総本店じゃないほうのフォーリーブズのケーキもよろしくね~」


 サエラがコプアさんのケーキの宣伝を付け加えてくれた。コプアさんも俺たちと一緒に戦ってくれているからな。サンキュ。


 俺たちの宣伝でさらに盛り上がるステージ。冬だということも忘れそうなくらいの熱気。完全に祭りだ。



「黙れえええええ!」


 バファルガーの天を震わすような怒鳴り声。猛吹雪の後のように、広場は冷えてしまった。


「吾輩の指揮は完璧だった! 吾輩の指揮にこいつらが応えることができていれば! 吾輩たちに運が……」


「違うな」


「何ぃ!?」


 青筋をいくつも額に浮かび上がらせ、バファルガーが吼える。


「あんたが負けたのは、こいつらが弱かったからでも、俺たちの腕がよかったからでも、ましてや、たまたまなんかじゃねえ。あんたの作戦が俺たちに通じなかった。それだけだ」


「馬鹿なっ! 吾輩の指揮に間違いなど!」


「あんたと俺、どっちが正しいか――。指揮者なら、観客に聞いてみな」


 周りの観客は皆バファルガーに対して厳しい顔を向けている。もはや彼らはバファルガー交響楽団の失敗した演奏を聴いちゃいない。バファルガーの世迷い言などただのノイズ。


「ウェンツウォード!」


 腰巾着の部下でさえ、自分の名前が呼ばれてびくりとした後、すぐに気まずそうに下を向いてしまった。


 ブーイングが一触即発で起きそうなこんな状況でも、バファルガーはまだ言い訳を繰り返す。


「貴様ら全員、実に見る目がない。吾輩の指揮は実は勝っていたのだ。その他の要因のせいで勝負には負けてしまったがな」


 自信たっぷりに笑うバファルガー。なんて無様な負け惜しみ。自分の負けを受け入れようと苦しんでいるコームオと大違いだ。



 失敗を何でも他人のせいにするバファルガーの性格、利用させてもらうぜ。


「ま、タイラン商会のお粗末な武器で戦ったことに関してだけは、同情するけどな」


「ふん。こんなおもちゃにもならない、がらくたでは、吾輩の指揮の良さもわからんのも当然か」


 バファルガーは手にしていたワンドをポイと投げ捨てた。


 ――かかったな。


「おい、みんな聞いたか!? 『タイラン商会の武器はがらくた』だってよぉ!」


 俺が騒ぎ立てると、


「聞いた! 聞いた! 俺、この耳ではっきり聞いた!」

「レイ=サウスの言うことが正しいと、本当はバファルガーも分かってたのか!?」

「タイラン商会の武器ががらくたって……俺たちはがらくたをつかまされていたのか!?」


 爆弾の導火線に火がついたみたいにギャラリーも一斉に騒ぎ始めた。


「ち、ちが……!」


 バファルガーたちは慌てて釈明しようとするが、もはや誰も聞いちゃいねえ。



 実は、戦いを始める前にエルテアをここに呼んでいる。決闘での勝利を記事にしてほしかったのだが、これは大変なことになった。

 明日の記事の一面に、『バファルガー、タイラン商会の武器はがらくただと認める!!』なんてスクープが乗るんだろうな。

 これでタイラン商会に大ダメージを与えられるはずだ。あぁ~、明日が待ち遠しい!



 お祭り騒ぎのさなかバファルガーがゆっくりと近づいてきた。自慢の音楽家ヘアーは乱れ、怒りに狂って目が血走っている。


「待て、レイ=サウス……」


「ちっ、おっさんもしつけーなー。あんたの負けと、タイラン商会の武器ががらくただってことは、もう覆せねーよ。諦めな」


「こうなったら……。タイランが直々に作った武器で貴様らを倒す。いや、殺してくれるわ……!」


 バファルガーの言葉を聞いて、ウェンツウォードが慌てふためく。


「バファルガー様、タイラン様がお作りになった武器の情報をレイ=サウスに漏らしてはならないという御命令をお忘れですか!?」


「そんなもの、どうでもよいわっ!」


 バファルガーがウェンツウォードを叱りとばす。


「これは吾輩とこやつの問題。タイランなどに口答えさせん!」



「バファルガーさん、もう勝負は――」

「バファルガー様、これ以上タイラン様の――」


 サエラとウェンツウォードがバファルガーを止めようとする。


「そんなんじゃ止まんねーよ」


 プライドを折られたことでバファルガーは暴走している。

 こうなったのも俺の責任。この戦いは俺のゲームの一環だ。ケリはつけねーとな。



「バファルガー!」


 手にしたフランベルジェをドンッ! と地面に突き立てる。


「いいぜ。タイランの作った武器でも何でも持ってこいや」


 顎を突き出し、バファルガーを手招きして挑発する。


「よかろう。ウェンツ――」


「これはお前と俺の問題、だろ。サシ以外認めねえ」


「無論吾輩も戦うが、吾輩は指揮者だから――」


「そうやって、また失敗を人に押し付けて逃げんのか。そんな半端な覚悟じゃ、俺を殺すことなんてできねーな」


 俺は違う。


「俺はゲーマーだ。ゲームは人生。どんな理不尽なゲームでも、どんな過酷なゲームであっても、絶対ぇ逃げねえ!」


 俺は本気だ。一時の自暴自棄の怒りみたいな、クッソくだんねぇ気持ちとは違う。一生この気持ちは揺るがねえ。いや、死んでも揺るがなかった気持ちだ!


「ほ、本当にやるのだな……。後で泣き言を言っても知らんぞ」


 俺の剣幕にびびったのか、バファルガーの顔から怒りの色が消えて焦りの色がにじんだ。


「ったりめぇだぁっ! 俺がゲームで妥協すっかよ!」


「…………」


 バファルガーがわずかに半歩後ずさり。


「何黙ってんだよ。やろうぜ。命を賭けたゲーム。こっちは命を賭ける覚悟はとっくにできてんだよ」


「…………」


 さらにバファルガーが一歩後ずさり。中途半端は許さねえ。バファルガーに詰め寄る。


「やろうぜ、ゲーム」


 そして大声で叫んだ。



「命を賭けたゲームをよぉっ!」



 バファルガーの眉が情けなく垂れさがり、顔が真っ青に変わって、


「つ、付き合いきれるかぁ~~~!!」


 バファルガーは一目散に逃げ出した。ウェンツウォードとコームオも後を追いかけていった。



「ま、そんなとこだと思ったぜ」


 バファルガーが投げ捨てたワンドを拾い上げて肩をすくめた。


 あのおっさんは筋金入りのナルシストだ。店長以上かもしれない。

 自分の言うことは正しい。自分のすることも正しい。だから、意のままにならないことなんてない。もし意のままにならないことがあるとしたら、全部他人のせい。そう考えているのだろう。


 ゲームでも、戦いでも、商売でも、本気で取り組んでいる人はそんな風には考えられるはずがない。

 そんなふうに考えているやつは、失敗を次につなげることなんてできない。より勝ちを目指すことなんてできやしない。


 バファルガーはガチギレしていたものの、本気で殺そうとなんて考えていない。あいつの頭にあるのはきっと目立つことだけ。だから、本気の殺し合いなんてできない。俺はそう感じた。

 そもそも、本気で殺そうとしてくるのなら、PvPなんてしないし、アルタスの森に入ろうとしたやつらに警告なんてしないはずだ。

 本当は案外優しいやつなのかも。……さすがにねえか。



 バファルガーの退場でさらに広場は盛り上がる。ここでサエラが煽った。


「クリスマスはまだ続くよ~。みんなも楽しもう~」


「「「イエェェェイ!」」」


 サエラの一言でなぜか広場中の人たちが踊り始めた。いつの間にか楽器を取り出して演奏しているやつまでいる。指揮者はいなくなったから、もうめちゃくちゃだ。



 メマリーが俺たちに声をかけてきた。


「お兄ちゃん、お姉ちゃんも踊ろう!」


「付き合いきれねえ……」


「がーん!」


 俺とメマリーのやりとりを見て、サエラが微笑んだ。


「メマリーちゃん、先にレイ君と踊っていい?」


「いいよー」


「メマリー、てめぇ、勝手に許可を出すんじゃねえ」


「えへへ……一緒に踊ろ?」


 サエラが顔を赤らめながら手を出してきた。

 メマリーが余計なことを言ったせいで断りづらくなっちまったじゃねーか。


「ちょっとだけならな」


 サエラの手を取り、慣れないステップを踏んでみた。やっぱりうまく踊れない。サエラも戦闘と違って動きがぎこちない。足をどっちかが踏んづけそうで怖い。

 でも、これはこれで悪くねえな。



 結局サエラやメマリーと踊った後も、何人もの広場の客にせがまれて、30分程踊ることになってしまった。

次回は7月2日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。

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