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4-28 dex型の戦い2

「vit1・dexカンストの分際で――。行くぞ!」


「おう!」


 俺の挑発を受け、2人の特選騎士団員はようやく殺る気になった。薙刀を構えながら、じわりじわりと距離を取る。


 彼らの獲物は薙刀。長柄カテゴリーの武器だ。JAOの武器の中でもメジャーな部類に入る。

 薙刀は、RANランが150cmと短いが、EFRANエフランは90cmもあるので戦いやすい。RANというのは武器の長さ、EFRANというのは有効攻撃範囲のことだ。



 1人が円を描くように移動し、俺の後方に位置取った。前後から攻めたてるのは、長柄が複数人で戦う時の基本戦術。さすがに底辺よりは強いか。


 やみくもに相手に攻撃に行っても、攻撃のディレイで固まっているところをもう1人にやられるだけ。ましてや、これから俺がすることを考えれば尚更だ。2人が連携できないような状況を作る必要がある。

 俺が装備しているのはマンゴーシュという短剣だ。リーチという点で考えれば、不利なのは圧倒的に俺。

 うかつな戦いをしてはいけない。相手から仕掛けてくるのをじっと待つ。



 先に動いたのは後ろの騎士だった。


「はぁぁぁっっ!」


 ちらりと振り返り、軌道を予測。攻撃を回避。


「死ねぇ!」


 すかさず前の騎士が俺の腹を目がけて、刃を突き立てる。

 その攻撃をマンゴーシュでブロック。相手は少しよろけた。

 長柄武器はEFRANより内側に入り込まれると、戦闘力が激減する。よろけた隙に相手の懐に向かって走る。


「させるかっ!」


 後ろの騎士が吼えて攻撃を仕掛ける。

 俺は大きく前転することで、その攻撃を回避。


「甘ぇな」


 そのまま懐に飛び込んだ。

 騎士の顔近くに右手を掲げ、ギラリと光るマンゴーシュの刃を見せつける。


「ちっ!」


 懐まで入られてしまっては、長柄ではどうにもできない。騎士が舌打ちしてバックステップしたところを――


「馬鹿め、マンゴは囮だ!」


 騎士の体目がけてタックルをかました。


「ぐはぁっ!」


 後ろに退がろうとしていたので踏ん張ることもできず、騎士は思いっきり吹き飛び、そのまま木に激突した。



 よしっ! これで相手の連携が崩れた。ここからはこっちのターンだ。


 後ろを振り返ると、騎士が大きく横薙ぎしようとするのが見えた。大振りはチャンスだ。絶対に決めてやる!


「はぁぁぁっっ!」


 騎士は気合とともに強烈な斬攻撃を浴びせてきた。こちらもその軌道に合わせてマンゴーシュを振るう。刃と刃がぶつかり合う直前、スキルを発動。




「ウエポンブレイク!」




 激しく舞い踊る火花。そして――



 パキィィィィィン!



 薙刀は緑色の光を放ち粉々に砕け散った。



「ウエポンブレイクなんてたまたまだ!」


 いつの間にか起き上がっていた騎士が、薙刀を脳天に叩きつけようとする。


「ウエポンブレイク」


 さっきの薙刀同様、2秒も経たずに消滅。


「あ、ありえない……! ウエポンブレイクがそんなに成功するわけがない。それに、いくらなんでも折れるのが早すぎる。インチキだ!」


 薙刀が一瞬で消滅した現実を受け入れることができないのか、騎士は意味不明の世迷い言を口にする。ウエポンブレイクは成功率が低いスキル――そう勘違いしているのだろう。


「はぁ!? たまたまだぁ、インチキだぁ!? 馬鹿言ってんじゃねーよ。れっきとした仕様だっつーの」


 俺が持っているのは移動工房のチートだけ。武器を折りまくるチートなんて持ってねえ。

 薙刀があっさり折れたのは、俺のstrがカンストしていることと、タイラン製の武器に耐久の魔石が内蔵されていないことが原因だ。


「お前ぇらdex1相手に、dexカンストの俺がウエポンブレイクを決める確率は――」


 ウエポンブレイクの成功確率はdexボーナスに依存している。



「132.5%だ」



「「132.5%ぉ!」」


 飛び上がらんばかりの勢いで2人は驚いた。


「たった132.5%で驚いてどうすんだよ……」


 マンゴーシュは、ソードブレイカー等のようなウエポンブレイク専門の武器ではない。

 Uソードブレイカーなら265%。マンゴの倍だぞ。



「さぁ、武器を全部ぶっ壊してやらぁっ!!」


 そう言って、後ろにいる騎士に襲い掛かる。


「しまっ――くそ!」


 彼は外付け魔石の交換を行っている最中だった。狙うは、腰に佩いたレイピア。抜かれてさえもいない剣に向かってマンゴを叩きつけた。


「ウエポンブレイク!」


 耐久の魔石を1、2個外付けしていたのだろう。薙刀よりも少し時間がかかったが、レイピアもあっさり消滅した。



「もう1回、へし折ってやる」


 もう1人の騎士に向かって走り出す。獲物は再び薙刀だ。

 騎士が薙刀で肩口目がけて斬りつける。だが、その攻撃も読まれている。


「ウエポンブレイク!」


 オレンジの火花が弾ける。1秒、2秒……。武器に亀裂は入らない。


 ブレイク中である火花のエフェクトが消え、お互いの武器が離れた。



「はは……ははは……」


 ウエポンブレイクを耐えきった騎士は何がおかしいのか、笑い始めた。


「ウエポンブレイクの最大使用回数は4回だったはず。レイ=サウス、もうお前はリキャストタイムが経過するまでウエポンブレイクを使えない」


 はぁ? 「はず」って何だ? ウエポンブレイクの最大使用回数は4回。全スキルの最大使用回数とリキャストタイムぐらい覚えておけ。


「俺の薙刀はお前のウエポンブレイクに耐えきった。もう俺たちの攻撃を止めることはできない!」


 騎士の口元がにやりと裂けた。ゲームの途中にも関わらず勝利したと勘違いしたやつが決まって浮かべる、下品な笑み。だが、この笑いを浮かべたやつはたいがい敗北する。こいつらも例外じゃねえな。



 後ろをちらりと確認。今度はワンドに持ち替えている。きっと封鎖用の杖だ。魔法攻撃を仕掛けるつもりらしい。


「止めることができないかは――俺を殺してから言いやがれ!」


 外付けを入れ替え、薙刀の騎士に向かって走る。

 薙刀の騎士が俺の首を切ろうと得物を振り上げる。


「マジックアタック!」


 ワンドの騎士が攻撃魔法を放つ。JAOの魔法にはホーミング機能がついている。激しく動かなければ避けるのは難しい。

 前衛と後衛の連携で俺をしとめる気だな。上等!


「ドリフト!」


 ドリフトとは、重心移動によって横滑りするアクティブスキルだ。慣れるにはコツがいるが、大きく横に移動したり体勢を傾けたりすることができる。モーション避けしたり相手を翻弄したりするのに使われる。


 ドリフトで大きくカーブ。マジックアタックを避け、そのまま薙刀の騎士の横に回り込んだ。



 ワンドの騎士が叫ぶ。


「相手はたかだかvit1だ。殺せ!」


「おらぁっ!」


 叫びに呼応して、俺に薙刀を叩きつける。俺を殺るには十分な威力にちがいない。だが、その攻撃が届くことはない。


 ガキンッ!


 薙刀の穂先をマンゴーシュの刃元で受け止めた。刃元の櫛状の刃が穂先をがっちりと挟み込んでいる。


 マンゴーシュとは近世フランスで使われた左手用の短剣である。いわゆるメインウエポンではなく、相手の攻撃を受け流すのに用いられた。色々なバリエーションがあったのだが、JAOでは刃元の部分がギザギザになっている。



「くっ……なんで……?」


 薙刀をガチガチ揺らしながら、騎士が顔を歪めて呟く。


「何で、ウエポンブレイクが発動しているぅぅぅ!」


 挟み込まれた穂先からは、ブレイク状態になっていることを示す激しい火花が散り続けている。


「馬鹿か、お前。――『ブレイク』に持ち込んだからに決まってんだろ」


 ブレイクというのは、一方の武器が他方の武器を挟み込んで折ろうとしている状態のことだ。

 武器を挟み折る形状になっている部位で相手の攻撃を挟み防いだ場合は、相手のDRA・SDRAを大きく損傷させることができるのだ。

 ウエポンブレイクとは、このブレイクを強制的に起こすスキルである。ブレイクによる武器破壊はウエポンブレイクの専売特許ではない。


 そもそも、史実でもマンゴーシュの刃元は相手の剣先を折ることができるようにギザギザになっていた。データを作った運営がその特性を反映させるのは当然のことだ。



 ウエポンブレイクに持続時間があるように、ただのブレイクにも持続時間がある。ブレイクが終わり、武器と武器が離れた。


「残念。まだ俺の薙刀は無事だったぜぇ~。耐久をたくさん外付けすれば、お前の戦略なんて破綻してるんだよ~」


 さっきまでの無様な様子はどこへやら。距離を取ると、再び勝ち誇った笑みを浮かべる薙刀の騎士。


「今度こそ、くたばれやぁ!」


 騎士は笑いながら薙刀で俺の胸を斬りつけてきた。しかし、彼らはもう詰んでいる。俺は冷静に装備を変更した。



 パキィィィィィン!



 薙刀は緑色の光を放ち粉々に砕け散った。



「俺の戦略が――何だって?」


 現在俺が装備している武器は、耐人以外はDEF全振りのナイフ。『防御は最大の攻撃』を決めるにはもってこいだ。


 しかし、敵はおそらくU魔石を外付けしている。敵のATKは俺のDEFを大きく上回るはず。特に斬攻撃はやべぇ。俺のナイフでも即死してしまうだろう。


 CAT(斬ATK)はSDRAの影響を強く受ける。薙刀のSDRAは2度のブレイクによって相当下がっている。つまりCATはかなり低くなったということだ。

 加えて、相手にブレイクを警戒させることで、耐久の魔石を外付けさせるように誘導した。

 裏を返せば、その分威力の魔石の個数が減ったということだ。


 薙刀のCATが下がれば、『防御は最大の攻撃』を決めることができる。耐久を数個填めたくらいでは武器破壊は防げない。



 戦いはまだ終わっていない。後衛がワンドを構えているのを確認。

 丸腰の騎士の側面にさっと回り込む。


「どうしたぁ、撃ってみろよ」


 丸腰の騎士を盾にして俺が挑発すると、


「ま、待てぇ~!」


 盾にされた騎士が後衛の魔法攻撃を慌てて制止する。

 JAOはフレンドリーファイアありの仕様となっている。魔法が誤射して自分が死んでしまうのが怖いのだ。だっせぇ……。


「俺が死なねーぐらいのATKで攻撃しろよぉ~!」


 首をぶんぶん振り必死にわめく肉の盾。

 あのなぁ……、そんな都合のいい攻撃できるわけねーだろ。俺のDEFは12260ある。その上、耐人HRまで内蔵されているんだ。フレンドリーファイアしても死なない程度の攻撃で、俺のHPを0にすることは不可能。馬鹿だな。



 その後、騎士たちはあっさり俺に制圧された。騎士たちはブレイクに弱い武器であるワンドしか持っていなかったので、マンゴーシュで武器を面白いくらい簡単に折ることができたのだ。


 全ての武器を失った情けない騎士たちに、ゴミを見るような目をして言い放った。


「これがdex型の戦いってやつだ。覚えておけ、雑魚ども!」

次回は6月13日の17時頃に更新の予定です。




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