1-14 サエラの質問
俺は辺りを見回した。サエラから紫石の湧泉洞という言葉聞いて、どいつもこいつも興奮している。こんな所じゃ、ちゃんと話ができねえ。
「場所変えんぞ」
残念がる野次馬を押しのけ早足で入口へ向かう。サエラも「ま、待ってくださいー」と言いながら俺の後に付いて行った。
「い、いきなりどうしたんですか?」
冒険者の酒場を出たところで、サエラが面食らった顔で質問してきた。まあ、無理もねえだろう。
「あんた、レベルはいくつだ?」
歩みを止めずにサエラに逆質問。
「え? 92ですけど? あ……、そっか。ごめんなさい、レイさんのレベルのことを全然考えていませんでした」
「俺のレベルは99だ」
JAOの最高レベルは99に設定されている。
「え…………?」
俺のレベルを聞いてサエラの歩みが止まった。俺は気にかけず、どんどん先へと歩を進める。
サエラはしばらくすると走って俺に追いついた。
「どういうことなんですか!? 何でそんなに……」
「とりあえず、静かに話ができる場所を教えてくれ。あと、飯が食える所」
サエラが案内してくれた所は、おしゃれなカフェだった。
店内は狭く11席しかない。木造のシックな内装で、観葉植物が所々に置かれているのがアクセントになっている。
客もかわいい女子しかいない。ここなら大騒ぎする冒険者もいないだろう。
席に座ってメニューを見ていると、サエラが真剣な顔で話を切り出した。
「まずは依頼の話をする前に聞きたいことがあります。いいですか?」
やっぱり来たな。俺がサエラの立場なら飯どころじゃない。チートの有無はさっき実演で示した。となると、他に気になることといえば――。
「レイさんは、オムライスランチとパスタランチどっちが好きですか? 私はオムライスランチのほうが好きなんですけどー、私の友達はみんなパスタランチのほうがおいしいって言うんですよ~」
「んなこと、知るかー!」
「でも、ここのオムライスランチおいしいんですよ~。卵がふわっふわのとろっとろで~」
「ふわっふわのとろっとろなのは、あんたの頭だろ」
「えへへ~。よく言われちゃいます。でも、ほんとにおいしいんですよ~。私のおすすめなんで、ぜひ1回食べてみてください」
「他に聞くことがあんだろ……。とりあえず、そんなに言うんだったら、オムライスにしてやるよ。別に嫌いじゃねえしな」
俺の言葉を聞いて、「やった~」とサエラがはしゃぐ。何がそんなに嬉しいのやら。やっぱ、女子の考えることは分かんねえ。いや、違うな。こいつが天然なだけか。
サエラおすすめのオムライスランチを食べた。量は少なかったが、旨かったので、まあ、いいだろ。
「レイさんって何が好きなんですか?」
食事が終わってサエラが俺に尋ねてきた。サエラはさっきから食後の紅茶に手をつけていない。きっとまだ熱くて飲めないから、暇つぶしで俺と会話することにしたんだろう。
「今度は紅茶かコーヒーかを聞きたいのか?」
「ううん、違うんです。――何て言えばいいのかなぁ。レイさんって、どんな人なのかなぁって思ったんです。あ、ちなみに私は紅茶が好きです」
どんな人か……。リアルでのコミュ力はほとんどなかったし、暇があってもゲームしかしなかったから、こういう風に俺自身に興味を持たれたことはなかったな。
「ただのゲーマーだ。それ以上でもそれ以下でもねえ」
「げえまあ?」
サエラが小首をかしげて俺を見つめる。そうか、この世界そのものがゲームだから、ゲーマーという言葉はないのか。
「熱心な遊び人ってことだよ」
「なるほど~。勉強になりました~」
馬鹿にする様子でもなく、サエラは単純に知らない言葉を覚えて感心しているという様子だった。ひねくれた俺と違って、ほんと素直なやつだ。
「何の遊びをしているんですか?」
「あんたらにも分かりやすいように言うと、この世界の冒険だ。遊びで色々なマップを冒険してるんだ、あんたらよりもな」
嘘は言わねえことにした。嘘言ったところでぼろがでてくると説明を考えるのがめんどうだからだ。
だが、真実を全部話すことはしねえ。この世界と同じ設定のゲームがあって、俺はそのゲームのデータを引き継いで、この世界に転生した。そんなこと言っても、変人だと思われるのがオチだ。
「だから99レベルもあるんですね。すごいなぁ~。私もがんばらないと」
「クエストやってれば、どんなに遅くても半年くらいでカンストするぞ」
JAOは昔のMMOと違ってレべリングは非常に簡単だ。レベルが上がり続けるまで何か月も1つのマップに籠り狩り続けるという、マゾいレベル上げをする必要はない。
うまいクエストを選んでこなしていけば、無課金勢でも3、4か月程度・重課金勢なら2週間から1か月弱でカンストする。レベルカンストなんて、JAOを楽しむ前提条件にしか過ぎない。
「うぅ……そんなにおいしいクエストなんて、そう見つからないですよ~」
「クエストアイコン出てるやつからしかクエストを受けられねえんだから、クエストなんて簡単に見つかるだろ」
クエストアイコンというのは、クエストの起点になるNPCの頭上に出ている『Q』のアイコンだ。クエストアイコンが出ているNPCに話しかけクエストを受領すれば、クエストが開始される。
この世界でもクエストアイコンはあった。頭上にあんな『Q』の文字が浮かんでいても、みんな当然のこととして受け止めているんだな。そうじゃなかったら、ゲームとして成り立たないとはいえ、なんか変な感じがする。
「そんなことは分かってますよ~……。でも、そのクエストが達成できるものとは限らないですから……」
まあ、向こうの世界ではクエストアイコンが出ているNPCを見かけるたびに、Wikiや攻略掲示板でどんなクエストなのかを確認していたからな。それができないこの異世界じゃ、確かに効率は出せないだろうな。
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