4-26 WP封鎖突破
ブクマ400突破しました!
ここまで応援していただき、ありがとうございます。
これからも頑張っていきますので、どうか応援よろしくお願いします。
フェーリッツから話を聞いて2時間後。俺とサエラ、そしてフェーリッツ以外の食材調達チームは、アルタスの森の入り口があるフィールドマップへと移動した。フェーリッツのクソエロ野郎は、デートがあるからというゲーマーにあるまじき理由で来ていない。
メテオジャムで転送されてすぐに食材調達チームの1人が口を開いた。
「本当に私たちで大丈夫なの……? 相手は特選騎士団なんでしょ……」
俺とサエラ、メマリー以外は全員一般冒険者。トップ冒険者よりも強いと言われる特選騎士団相手にビビらないほうがおかしい。まともに戦えば瞬殺される。
「へっ、そんなつまんねえ心配する暇があったらよぉ、その後のことでわくわくしやがれってんだ」
「大丈夫! 特選騎士団のことはわたしたちに全部任せてっ!」
メマリーが無い胸を張る。
「へたれのメマリーが言うと、逆に不安がるんじゃねーか?」
「うぅ~。お兄ちゃん、それは言わないで~」
スカートの裾をつかんですねるメマリー。それを見て皆が笑う。
「大丈夫だよ~。みんなの仕事は簡単、簡単。でも、簡単すぎて寝ちゃダメだよ~」
サエラがいつもと変わらない調子で一般冒険者のメンバーを励ます。
「サエラさんこそ、食材の買い物のときみたいに寝ないでね~」
2人に励まされたことで、一般冒険者たちの緊張がほぐれる。
簡単だが、彼女たちの仕事は大切だ。ガチガチに緊張して普通レベルのパフォーマンスさえもできないようでは、困るどころの話ではない。
フェーリッツが言った通り、アルタスの森の入り口には2人組の兵士がいた。本来ならばこんなところにNPCなんていない。
俺たちが近づくと兵士が警告してきた。
「この森には特選騎士団級のMobがいるぞ! 大人しく引き返せ!」
「特選騎士団級ってなぁ……。そんなまどろっこしい言い方じゃなくて、もっとはっきり言ったらどうだ。『特選騎士団が俺たちを殺す』ってな」
当たり前の話だが、兵士も特選騎士団も殺人犯を取り締まることを任務としている。しかし、今はどちらも殺害計画に加担している。ちゃんちゃらおかしい話だ。
「な、なんのことだ。そんなことより、俺たちはここを警備するのに忙しい! 何時間もだらだらとお前らの相手をする暇はない!」
何のことだかよく分からんが、フェーリッツがWP封鎖を突破したことと関係があるのだろうか。フェーリッツが帰って来るまでやたら時間がかかっていたしな。
「早く消えろ!」
兵士たちは威嚇するように激しく怒鳴っている。ずいぶんせっかちな奴らだ。
「はいはい。あんたらの前からは消えるよ。――でもその前に」
だが、俺はもっとせっかちだ。何時間もだらだらと雑魚の相手をする暇なんてねえ。
「とっとと連絡入れろ。すぐに俺たちがWPに入ってくるってな」
こいつらは見張り。こいつらの連絡を受けて、バファルガーたち本隊は警戒度を上げるのだろう。
「……言われなくても!」
兵士の1人が何やらウインドウを操作している。バファルガーに合図を送っているのだろう。
その様子を確認して、
「行くぞ、サエラ」
「うん!」
俺とサエラはWPの中に入っていった。
WPの中に入ると景色が瞬時に変化。
目に飛び込んできたのは、うずたかく積まれた土嚢の壁だ。侵入者を威圧する圧倒的な存在感。堅固な壁は周囲180度を囲っており、WPに引き返す以外の道など存在しない。
だけど、後戻りなんてクソくらえだ! やることは1つ!
「おらぁぁぁ!!」
手にしていたデュエリングシールドを両手で天高く振り上げた。
それと同時に、まばゆい炎に目がくらむ。高威力のスタシャワの雨が降り注いでいるのだ。1発でも被弾したら死ぬだろう。
だが、決して斃れることはない。
JAOの防御行動は主に4つ。モーション避け、パリィ、ブレイク、そしてブロックだ。
ブロックとは、敵の攻撃を武器で受け止めることをいう。
ブロックを行うと、押されたことによる「よろけ判定」が行われたり、DRAやSDRAが減少したりする。ブロックの効果はBBATという数値で決まる。
デュエリングシールドは全100種類の武器の中で最硬のBBATをほこる。つまり、攻撃を防ぐという観点でいえば――最強。
サエラが俺に体を寄せる。デュエリングシールドはデカい。どしゃ降りの日の傘のように俺たちを雨から守ってくれる。
スタシャワの光が止むと同時に、
ゴガッ! ドゴッ! ドザッ!
ブロックか何かで殴りつけたような鈍い音。その刹那、頭上から押しつぶされそうな程の圧力。盾を支える両腕がぶるぶると震える。
スタシャワによる殲滅から、土嚢の投下に切り替えてきたのだ。
早ぇな、ちっくしょう、盾だけでもクッソ重いっていうのによぉ!
だけど、こっちは準備万端だ。サエラが手にする聖剣が金色の光を放つ。全てを叩き伏せる3連撃――
「ラグナ! エンドッ!!」
最強の攻撃の前ではオブジェクトなど無力。ラグナエンドが土嚢の壁を叩き壊す。
「離れよ!」
崩れ落ちる壁。バファルガーが退避を呼びかるが、壁の上にいた団員はきっと崩落に巻き込まれただろう。敵の陣形は乱れているはず。チャンスは今しかねぇ!
「突入だぁ!!」
突入の合図を皮切りに、ダンジョンの外で待機していたメンバーがWPに次々と現れる。
あらかじめPTメンバーとのPT通話をONに設定しておいて、離れていても俺の指示を聞けるようにしていたのだ。
「しまっ――」
不意の増援に仰天する特選騎士団。だが、壁の崩壊で迎撃態勢はとれていない。
「「ジェットウイング!」」
突入メンバーはうろたえる特選騎士団を無視し、前方に向かって高速で飛んで行く。
「させん!」
バファルガーが杖をサッと振り上げる。
ターゲットは飛んで行ったやつらか? いや、そんなわけねえよなぁ!
ラグナエンドの硬直が解けていないサエラを引っ張る。
「ダッシュ!」
「スターダストシャワー!」
俺とバファルガー2人同時にアクティブスキルを発動。
砂嵐をまとった流星群が俺たちのいた場所の頭上に落ちる。しかし、間一髪俺たちはスタシャワの攻撃範囲から走り去ることに成功。
特選騎士団はほとんどのやつが呆気にとられている。壁があっさり破壊され、多くのメンバーに侵入を許してしまったんだ。無理もない。
バファルガーの横を走り抜ける。その時、バファルガーと俺の視線が交錯した。
バファルガーはスタシャワ使用による硬直中だ。それでも、しかと俺たちのことを見据えている。怒りと冷静さが入り混じったような勝負師の眼。
それを見て、自然に口角が上がる。いいねぇ、もっと遊ぼうぜ!
「レイ=サウスを狙え!」
硬直が解けたバファルガーが腑抜けどもを一喝。慌ててワンドを構える団員たち。外付けを変更している様子はない。スタシャワだ。
だが、このまま走れば魔法の範囲外に逃げることは容易いはず。
となれば、俺を殺る本命は1つ――ジャベリンスロー。
ジャベリンスローの射程距離は70m。逃げることはできねえ。迎え撃つ!
さっき見た感じでは、投擲士の姿は無かった。もはや探す猶予もねえ。
聴覚、触覚、経験、そして勘。俺の持てる全てを尽くして、見えない槍を予測しろ。
後方からビュッというわずかな風切り音。バファルガーの指示からの時間の経過を考えると、予測通りのタイミング。
体を反転させ、馬鹿デカい盾をドンと構えた。
「――そこだ! アームズブロック!!」
スキルが発動し、デュエリングシールドが白く輝く。
ガキンッッッ!!
ぶつかり合う金属音。それとともに、激しく飛び散る火花。盾の持ち手にも伝わる強烈な振動。
――それでも、デュエリングシールドは砕けない。
Sランクのアームズブロックを使用することで、盾のBBATの2.4倍でブロックできる。下振れしてもBBATは115,999。10万を超える驚異的な数値。
タイラン商会製のジャベリンなんかじゃ、絶対に貫けねえぜ。
必殺の攻撃を破られたこの状況でも、バファルガーは冷静だ。
「撃て!」
バファルガーの号令とともに上空に魔法陣がいくつも出現する。現在俺はアームズブロックの使用による硬直中。上からの攻撃であるスタシャワは防げない。でも――
「ダッシュ!」
今度はサエラが俺の手を取り窮地を脱出。スタシャワは地面を虚しく攻撃しただけに終わった。
スタシャワのエフェクトが消えたのを見て、走りながら特選騎士団を挑発する。
「俺たちはここで卵を大量に採取して、明日もケーキを作る!」
「貴様……!」
バファルガーが足を止めた。その顔は怒りで歪んでいく。俺はさらに挑発を続ける。
「お前の予言、成功させたかったら、俺たち全員殺してみやがれ!」
ジェットウイングで先に突入した他のメンバーは、今頃散り散りになって逃げている最中だ。
これで特選騎士団は、広い森の中を歩き回って俺たちを探すしかなくなった。もはや簡単には捕まえられない。
挑発を終えると、俺もサエラも二手に分かれ深い森の中へと入って行った。
――――さぁ、ここからが、お待ちかねの『狩り』の時間だ。
次回は6月8日の12時頃に更新の予定です。
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