4-23 記者会見4
前回は久しぶりの評価をいただきました。ありがとうございます。
これからもレイの冒険は続きますので、どうか応援よろしくお願いします。
特選騎士団。フェクレバン王国に所属する最強の騎士たち。一人一人が英雄クラスであり、Uランク以上の武器を何本も所持しているそうだ。JAOには存在していなかった、この世界独自の存在。タイランも特選騎士団に所属しているという。
目の前でタクトを振り回している、音楽家きどりのおっさん。見た目はネタキャラだが、バファルガーは特選騎士団員――それも4番隊の隊長だという。しかも、サエラやフェーリッツと同じ十五勇者だ。決して油断できねえ。
だけど、どうしてバファルガーが参戦するんだ?
この勝負は俺とタイランの潰し合いだが、戦闘は特に重要じゃない。いくらバファルガーが強くてもそれはどうでもいいことだ。
俺はてっきりランキング2位の店長が出てくるものだとばかり思っていたんだが。
「窃用の責任は――」
記者が質問しようとしたのを、バファルガーは振っていたタクトをぴしっと止める動作で、制止する。
「質問は後程」
静かだが強いバファルガーの言葉に、会場から雑音が消える。店長の謝罪の時が嘘のよう。バファルガーの指揮に会場中が圧倒されている。
「始めましょう」
バファルガーは優しく流れるような所作でタクトをすっと上げる。それを機にバファルガーは説明を始めた。
「そこの負け犬は、移動工房のカフェ部門であるフォーリーブズの数々のアイデアを『独断で』盗んだ。そのことは紛れもない事実でございます。それを重く見たタイラン様は彼の代わりに吾輩を飲食部門の責任者としたのです」
指揮棒を振りながら得意気に語るバファルガーを、店長が恨めしそうに見つめている。本当は、パクリを指示したのはタイランなんだろうな。
「飲食部門の責任者として皆様にお知らせいたします。タイラン商会はランキングバトルを継続いたします!」
自信たっぷりのバファルガーを見て俺は笑った。タイランがパクリを晒されたくらいで勝負を投げ出してしまうのは、喧嘩を売られた俺たちとしてはすげえ困る。徹底的にぶちのめさねーと気が済まねーんだよ。
バファルガーに質問をしてみた。
「クリスマスケーキは何を売るんだ?」
「『マカロンショートケーキ』です」
『マカロンショートケーキ』とは、コプアさんが開発した『マカロン・ノエル』のタイラン商会バージョンだ。当然だが2つのケーキは全く同じものとなっている。
「別のケーキにすることも検討したのですが、お客様の求める声が大きいものですから。マカロンショートケーキを届けることがタイラン商会の使命だと感じました」
なぁーにが『お客様の求める声が大きい』だ。心にもねえことを恥ずかしげもなくよく言えるわ。
どうせタイランの奴が、利益率が大きいからマカロンショートケーキを売れ、とバファルガーに指示を出しているんだろうけどよぉ。
「えっ……それって……」
バファルガーの言葉を聞いて記者たちがざわつきだす。パクったケーキをそのまま作り続けるんだ。無理もねえ。
だが、そのことを記者たちに非難されるのはまずい。
「別にマカロンショートケーキでいいんじゃねーの。俺たちはもうマカロン・ノエルは作らねえ。マカロン・ノエルを食いたいっていう客がいる限り、リクエストに応えるのはいいことだと思うぜ」
タイランがパクってくれるのは俺たちにとっては好都合だ。タイラン商会がマカロンショートケーキを作らせれば作らせるほど、ケーキの製造現場は崩壊する。コプアさんの計略が功を奏するのだ。
「かたじけない」
バファルガーが俺のほうを向いて芝居がかった仕草で礼をする。
「それに、俺たちはマカロン・ノエルを超えたクリスマス・ルージュがある。今さら――」
「ふっ、些細な問題ですな」
俺の言葉をバファルガーが遮った。
「いいですか皆様。ケーキの種類なんて些事。大事なのは、ポイントを如何に稼ぐかであります!」
バファルガーの言うことに嘘はない。現に俺たちもポイント獲得を第一とする戦略を採っている。
「我々タイラン商会も冒険者向けのケーキを明日から提供いたしましょう! コカトリスの卵入りのマカロンショートケーキでタイラン商会は勝ちを狙います!」
俺たちの戦略で最も大事なことは、ランクの高い物を冒険者に販売することである。今度はここをパクるつもりのようだ。
しかし、その展開は予想済み。コプアさんはこうなったときのために、マカロン・ノエルをわざと野郎が好まない味にしている。バファルガーが鼻で嗤った些細な問題が、ぎりぎりの勝負の決め手となるのだ。
タイラン商会なんてトップがタイランである限り、誰がきてもこんなもの。そう思っていた。
バファルガーの言葉を聞くまでは。
「予言しましょう――――」
バファルガーは持っていた指揮棒を、
「レイ=サウスとその一味はコカトリスの卵入りケーキを、明後日からは――」
叩きつけるように振り下ろす。
「作れませんっ!」
「「「ええっ…………!」」」
俺たち3人はソファーから跳び上がった。その瞬間――、
トゥルルン、トゥルルン、トゥルルン――。スクショ撮影音が一斉に鳴り出す。
「バファルガーさん、どういうことなんですか……?」
サエラが疑問に思うのは当然だ。
アルタスの森というダンジョンに行って、落ちている卵を拾ったりコカトリスというMobを倒したりすることで、コカトリスの卵は入手できる。その活動自体に何の制約もない。大量の冒険者を動員してアルタスの森を激混みにしたとしても、効率はものすごく悪くなるとはいえ、入手できないなんてことはない。
JAOはゲームだ。ゲームである以上、皆が平等に楽しめるようにデザインされている。
しかし、そんなふうに運営が意図しても、抜け穴というものはいつだって存在する。
「はっ、面白くなってきたじゃねーか……!」
俺が不敵に笑うのを見て、バファルガーの気難しい顔がさらに気難しくなる。
「貴男、自分の立場をわかっているのかね?」
「ああ。よーく分かってるよ。でもよぉ、それは俺の台詞でもあるんだぜ」
「…………はぁ?」
「バトルは俺の超得意分野だ! お前らがやりたいっていうなら、いいぜ。死ぬまでとことん付き合ってやる。――第3R開幕だ!」
次回は6月1日の12時頃に更新の予定です。
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