4-22 記者会見3
店長の質疑応答が始まって20分程が経過。その間俺は質問に答える店長をぼうっと見物していた。
いやぁー、記者のみなさんの質問が容赦ないこと容赦ないこと。俺が思いつかないようなことを根掘り葉掘り聞いてくる。店長もずいぶん答えにくそうにしていた。これは明日の新聞は面白いことになりそうだ。
ちなみにサエラはふかふかのソファーが気持ちいいのか、座って10秒で寝てしまった。時々もたれかかってくるのがうっとおしい。
記者の一人が店長に質問をする。
「結局、今回の限定イベントについては、タイラン氏の関与は本当になかったのですか?」
「ええ……先程もお答えしましたように……、ギルドマスターは月一度の定例番頭会議で経営成績のチェックはいたします……。しかし、各番頭には裁量権があります。どのような販売戦略を採るのかは各番頭に任されております。日々変化する店舗運営上の諸問題は、私ども現場に立つ番頭に任せるほうが、柔軟に迅速に解決できるのです」
「論点を逸らさずに答えてください。『今回の限定イベント』についてです」
質問をはぐらかされて苛立つ記者。いいぞ、もっと突っ込んでくれ。
「…………今回の期間限定イベントの参戦は……飲食部門の広告宣伝を目的に行われたものです。ギルドマスターが直接関与することではございません」
その割には、今までの記者会見ではタイランがしゃりしゃり出張っていたんだが。
「つまり、フォーリーブズ総本店の店長である、あなたが限定イベントの全指揮を執っているということで宜しいですよね?」
「え……え…………ええ……」
むせたような、声にならない返事をする店長。
「それでは、飲食部門及び限定イベントの総責任者として、今回の騒動について何かコメントをお願いします!」
記者たちはみんな店長の謝罪の言葉を待っている。
しかし、店長は両手を強く握りしめ、しばらく一言も発さなかった。
プライドの高い男だ。喉元に剣を突きつけられてもまだ自らの敗北が受け入れられないのだろう。
それでも敗北は敗北だ。この事実はもはや揺るがない。
「私が…………、私が全て独断でやったことでございます! 全ての責任は私にございます!」
この瞬間、俺とタイランの戦い第2Rは、俺のKO勝ちが決まった。
トゥルルン、トゥルルン、トゥルルン――。記者たちがスクショを撮る音が鳴りやまない。
敗北直後の店長の顔が明日の新聞の1面を飾るのだろう。タイランじゃなかったのは少し残念だが、いずれ同じ目にあわせてやればいい。気長にやろう。
スクショの音が収まると、再び店長に質問が飛ぶ。
「責任はあなたにあることは分かりました。それでは、その責任をどのような形でお取りになるつもりなのでしょうか?」
「それは、吾輩から説明しましょう!」
舞台袖から聞こえてきた、芝居がかった声。皆一斉に声の主に視線を移す。
一人の男が背筋をピンと伸ばし大股で歩いて現れた。
くるくる巻きの白髪、赤くて派手な上着。ワンドを指揮棒のように持っている。恰好は音楽室にある肖像画の音楽家そのものだ。顔にはいくつもしわが刻まれている。年齢は50代といったところだろうか。
音楽家を見た記者たちから声が上がる。いつの間にか起きていたサエラもびっくりしている。
「何こいつ?」と隣のサエラに尋ねる前に、音楽家がタクトをシュッと振る。
「まだです。吾輩の名前を言ってはいけませんよ、皆様」
はぁ、何言ってんだ、こいつ。この場にいる俺以外の人間はみんな知っているみたいなのに。
「吾輩の名前が知りたい! 宜しい、お答えしましょう! 吾輩の名前はバファルガー。十五勇者最高の軍略家にして、特選騎士団4番隊隊長。そして――」
バファルガーは派手に両手を振り上げた。
「そこの負け犬に代わって新たに任じられた、『星夜を彩る赤い宝石~クリスマスケーキ・ランキングバトル』の総指揮官でございます!」
次回は5月30日の10時頃に更新の予定です。
この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。




