表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/372

4-12 クリスマスケーキ開発準備2

4-11から4-20の途中までは、回想(4-8と4-9の間)シーンになります。

レイがどのような戦略を立ててタイラン商会と戦うのか。それを振り返るお話です。

 目の前には崩れかけの門。門の向こうに見える街も破壊されて荒れ果てている。あちこちに壁の残骸や壊れた樽が散乱し、雑草も地面から顔を出している。おまけに少しだけ獣臭い。観光地とは言い難い。


「レイ君~」


 サエラが俺に引っ付いてきた。ふわりとした髪の毛が俺の鼻先にかかる。この場に相応しくない、花っぽい華やかな香り。


「もうくっつく必要はねえだろ!」


「あっ! そうだったぁ!」


 俺に怒鳴られてサエラはパッと跳び退いた。


「ふふふ……もう少しくっついてくれてもいいんだよ~」


 コプアさんがニコニコしながらこちらを見ている。色恋沙汰が好きなコプアさんのことだ、サエラが俺に寄って来たのは俺に気があるからだと勘違いしているのだろう。困った人だ。



「そんなんじゃねえよ、コプアさん。んなことより、サエラ!」


「あ、うん」


 俺に言われて、サエラはスキルウインドウを操作しスキルを使用する。


「居ない~」


 サエラが使用したアクティブスキルはサーチングアイ。隠密状態のMobやキャラクターを視認できるようになるスキルだ。


「撒けたか……」


 ここでほっと溜息。どうやらスパイは撒けたようだ。


「え? どういうことなの? 何が何だか?」


 コプアさんはぽかーんとした顔で俺たちの様子を見ている。


「追手が来るかもしれねえ。行くぞ」


 そう言って、さっさと俺は門の下のワープポイントに乗った。



 砂埃の舞う舗装されていない道を、ただただ歩く。聞こえてくるのは、俺たちが土を踏みしめる音と冬風が吹く音ばかり。後は、時々Mobのオークたちがブヒブヒ啼く音くらいしか聞こえてこない。


 ここはオーク街。オークたちの襲撃を受け、うち捨てられた町。襲撃前はたくさんいたという住民たちは、今やほとんどここには残っていない。冒険者もめったに訪れることはないそうだ。



「ブヒッ!」


 廃屋の陰からオークが飛び出してきた。


「ピギィ!」


 はい瞬殺。


 さっきからずっとこの調子だ。戦闘というよりただの作業。


「ダンジョンが旅行先って聞いた時は肝を冷やしたけど、なんか拍子抜け……」


 一般人のコプアさんも、この旅行にすっかり飽きてしまったようだ。


「そりゃあ、一般人が入っても危険じゃねえマップを選んでいるからな」


 オーク街は22レベル、Rランクのダンジョンだ。底辺でも行けるような超雑魚マップ。しかも投擲攻撃や魔法攻撃をしかけるMobはいないので、コプアさんへの攻撃は万に一つもありえない。俺たち2人のどちらかだけでも余裕で一般人を護衛できる。


「サエラ、起きろ」


「ふわぁ~」


 俺に起こされ、サエラは目をこすり大あくびをした。放っておいたら、また秒で寝そうだ。



「サエラ、サーチングアイを頼む」


 一応ダンジョンの中に入っても、尾行がいるかどうかを定期的に確認している。


「うん、居ない~」


「さすがに大丈夫だな」


「あれ? コプアさんもレイ君も居ないよ~」


 サエラが意味不明のことを口走る。目が再び閉じていた。


「居るに決まってんだろっ! ボケェーーー!」


 サエラの耳元で思いっきり叫ぶ。


「あ~、2人発見~」


 何事もなかったかのようにサエラの目が開く。


「ったく、誰の護衛かわかりゃしねぇ」


 俺が悪態をつくと、コプアさんがくすくす笑う。


「普通、男の子と女の子はそんなにも近づかないよ」


 思わぬことを言われて、顔が赤くなるのが分かった。慌ててサエラの近くから跳び退く。


「あぁん!? サエラが俺に近づいた理由は、追手からメテオジャムの行先を見られないようにするためだって、さっき説明しただろ!」



 追手はどんなやつかは分からないが凄腕だ。なにせ何日も前からコプアさんにばれないように調査をしているやつだ。メテオジャムで転移しても付いて来るかもしれないと考えた。


 そこで俺は追手を撒く工夫を考えた。


 まず、追手にメテオジャムの行先を見せないように、サエラに体でウインドウを隠してもらった。胸や髪が当たったのはそのせいだ。


 最後に、相手があてずっぽうで選んだ行先とかぶらないように、いくつものマップに立ち寄り、オーク街に着くタイミングをずらした。


 結果、追手を無事撒くことができた。コプアさんに冷やかされるのは想定外だったが。



「じゃあ~、コプアさんもレイ君に近づいていいよ~」


 サエラがとんでもないことを言った。


「俺に一歩でも近づいてみろ、サエラを一発で起こすほどの大声を耳元におみまいしてやらぁ」


「怖~い。近づくなら、サエラちゃんみたいな優しい女の子のほうがいい~」


「コプアさんも大好き~」


 コプアさんとサエラがぎゅっと抱き合った。

 そんな百合百合営業をしていたら、ここのオーク共が喜ぶぞ。なにせJAOは、萌え豚の萌え豚による萌え豚のためのVRMMOだからな。



 しばらく歩いてコプアさんが話しかけてきた。


「どうしてここに行こうと思ったの? 旅行に行くなら、もっとすてきなマップがいっぱいあったじゃない? 


「まぁ、ここは不気味だし、人も居ないし、おまけに臭ぇからなぁ……」


 コプアさんが文句を言いたくなる気持ちも分かる。こんな場所に旅行に行くって言われたら、俺だったらキレるな。


「でも、コプアさん、ここだと豚肉食べ放題だよ~」


 低レベルのオークは豚肉をドロップするものが多い。


「普通に肉屋で買えばいいじゃない……」



 1軒の建物の前で足を止める。


「さぁ、目的地に着いたぜ」


 着いたのは3階建ての木造の建物。他の建物と違って損傷は少ない。


「宿屋?」


 きっとコプアさんは看板を見たのだろう。


「いや、SAセイフティエリアだ」


 SAとはsafety areaの略で、ダンジョンに1つ以上ある、休憩やログアウトを目的としたマップのことだ。SAではMobが出現せず、またMobはSA内に侵入できないため、安心して休憩ができる。

 リラックスが可能なデザインになっており、キャンプ場から豪華スイートルームまで、ダンジョンごとにデザインは異なる。SAではFPを回復するために飲食が行われるので、飲食用のスペースがある。ベッドや風呂、調理場が備え付けられているSAもある。


「ここが俺たちの合宿場所だ」


「合宿? どういうこと?」


 コプアさんは訳が分からないという顔をしている。


「合宿も旅行の一種じゃねーか。とりあえず、外は豚臭ぇから中入んぞ」


 ブヒブヒという下品な鳴き声が聞こえてきたので、さっさと建物の中に入ることにした。

次回は5月7日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ