4-10 もう1つの戦場
100PT突破しました!
発表前は考えもつかなかった数字で、私たちはとても喜んでおります。
これも皆様方の1つ1つの応援のおかげです。
これからもステキなキャラクター、楽しい物語を紡いでいきますので、応援をよろしくお願い致します♪
12月21日、クリスマスケーキイベント初日の夜。タイランと店長が赤いふかふかのソファーに腰掛けている。一方、俺とサエラ、そしてコプアさんの3人はまたしても後ろに立たされている。屈辱的な扱いだが、今は我慢だ我慢。仕方がねぇ。
昨日同様、新聞記者たちがタイランと店長に熱い視線を送っている。ただ1人エルテアを除いて。
「本日はみなさま、お忙しい中お集まりいただき、心より――」
司会が言葉を言い終わるよりも早く、
「新聞記者のみなさま! 夜遅くにもかかわらずようこそお越しいただき心より感謝いたします!」
タイランが機関銃を撃ったようにまくしたてる。大きく張りのある声、胸を反らし背筋をピンと伸ばした姿勢。今日のタイランは昨日よりも堂々としている。それもそのはず。
「18時現在12月後半期間限定イベント『星夜を彩る赤い宝石~クリスマスケーキ・ランキングバトル』、タイラン商会の順位は――――いちぃぃぃぃぃぃぃーーー位!!」
タイランが天に向かって指を差す。新聞記者席から、どよめきと拍手が起こった。
「フォーリーブズはお客様に笑顔になっていただくことが使命。やる気、まん、まん、でぇーす! フォーリーブズのケーキは各店舗でお求めいただけます!」
タイラン躍進の理由は、店長がレストランを数軒買収してケーキ屋にしたからだ。多店舗経営による販売ポイントの獲得は店長の基本戦略。店舗はまだまだ増えるだろう。
「移動工房さんは……う~ん、152位ですねぇ~~~。やる気あるんですかぁ?」
当然だ。売れ行きはものすごーく悪かった。原因は当然――タイランがコプアさんのケーキをパクったからだ。やる気がどうこうという話ではない。
「このままじゃノーノー。全然勝負になりません。もうちょっと頑張っていただきたい」
肩をすくめスポーツマンシップを装うタイラン。だが、そんなのはただのポーズ。お互い分かっているはずだ。これは潰し合いだと。
「まだ初日じゃねーか。勝負は分かんねーよ」
「レイ=サウス君。負け惜しみを言ってるだけじゃ、結果は変わらないよー」
「はっ、負け惜しみじゃねーし」
俺の言葉を聞いて、タイランが意地の悪い質問を投げる。
「ほぅ~。この状況をひっくり返す作戦があるっていうのかい?」
「ある」
はっきりと言い切った俺に、記者たちの視線が集中する。鋭い視線。次の一手は何だ? 会場に緊張が走る。
「この天才料理人コプアさんが、誰にも真似できねえ最高のケーキを作る! 新作のお披露目は明日だ!」
再び会場がどよめいた。だが、タイランが順位を発表した時ほどの熱気は感じられない。
パクリの常習犯の俺たちは、またパクリケーキを作る。そう記者たちは確信しているはず。
普通に考えたら、飲食業を新しく始めたタイラン商会がコプアさんをパクッたと考えてもよさそうだ。ムカつくけど皆そうは考えてくれない。
なぜか?
答えは信頼だ。
S武器を広め、王様に認められたタイランが、パクリなんて卑怯なまねをするはずがない。皆そう信じている。
タイラン商会とは信頼のおけるブランドなのだ。実態はともかく。
悪事に手を染めているタイランが正義の味方。正しいことをしている俺たちが悪者。
すげぇムカつく。ぼこぼこに殴ってやりたいほどムカついている。でも、そんなことをしても意味がない。
これはゲームだ。俺たちとタイランたちのゲーム。ゲームの借りはゲームで返すしかねえ。
ただし、ゲーム機の前に座って勝負することだけが、ゲームとは限らない。戦場はゲームの外にも広がっているのだから。
会見を終えてフォーリーブズに帰還。店は既に営業時間外。扉を開けると、スポンジケーキを焼いた甘い匂いがとびこんできた。
コプアさんとサエラがあいさつすると、店中の女の子があいさつを返した。
今回のイベントにあたって、フォーリーブズは常連さんを協力スタッフとして雇っている。俺たちもその1人だ。
「私たちが出発してから何個売れたー?」
「3個です……」
「こんなに売れないなんて思わなかった……」
サエラの質問に半分涙目になって答える女の子たち。販売スタッフだ。
「でも、その分こっちは本番の準備に専念できましたよ」
「そうそう。あたしなんかスポンジケーキ焼きすぎちゃって、FPヤバい」
楽しそうに語るのはコプアさんの補助をする調理スタッフたち。スポンジケーキ担当とクリーム担当がいる。
「そっかぁ……。じゃあ、卵大丈夫?」
「180個ちょいあるよ~」
「足りなくなったら、朝一番で採りに行くからねー」
コプアさんの質問に、皮鎧をつけた女性冒険者たちが答える。彼女たちは食材調達スタッフだ。
「よしっ! じゃあ、大丈夫! これで明日からの本番、戦えるよ」
コプアさんが手を叩いた。パンッという快音が店の中に響く。気持ちのいい音に、その場にいるスタッフ全員の顔が一つになる。
「それじゃあ、早速作業に取り掛かりましょう」
コプアさんが髪形を変更し髪を結んだ。作業開始の合図だ。
「調理スタッフさん、明日からのレシピについて説明するから、私の所に来てー」
コプアさんが呼びかけると調理スタッフが集まる。そして、コプアさんはサブ技能ウインドウを操作し、『サバイヨンムース<SR>』という項目をタップする。
サバイヨンムースのレシピが表示されると、調理スタッフは食い入るようにウインドウを覗き込む。その時、
「捕まえた!」
女性の怒号と同時に何かが床に倒れ込む音。いつの間にか、薄汚れた服の男とエルテアが床でもみ合っていた。床には万年筆とメモが転がっている。
「こいつから話を聞き出す。とりあえずエルテア以外は2階で待機していてくれ」
事実の証人になってもらうエルテアはともかく、他の女の子には取り調べの様子なんて聞かせたくない。俺が必要以上に怖がられるだけだ。まぁ、手遅れかもしれねーけどよぉ……。
落ちているメモを拾い上げて読み上げた。
「サバイヨンムース。材料、卵黄4、グラニュー糖……。おいおいおい、これって新作ケーキのレシピじゃねーか。どういうことだぁ、これはよぉ?」
「くっ、かえ……ぐはっ!」
思いっきり男の頭を踏んづける。
「俺が質問してんだ。勝手にしゃべんじゃねーよ。エルテア、替わってくれ」
エルテアに替わって男を組み伏せた。男を取り押さえながら、尋問を続ける。
「まどろっこしいのは嫌ぇだ。はっきり聞く」
俺にすごまれて男は芋虫のように体を曲げジタバタするが、もはや逃げられない。
「タイラン商会の依頼で俺たちをスパイしていたんだろ。総本店のオープン前からずっとな」
タイランがフォーリーブズを研究……ではなく、パクっていたのはどう見ても明白だった。だから、俺たちはそこで思考を止めてしまっていた。
大事なことはパクられたという事実じゃない。どうやってパクられたかだ。
2点、不審なことがあった。
1つ目は、店長が俺のことを味オンチだと言ったことだ。
俺は店長の前でそんなことを言った覚えはない。にもかかわらず、俺が味オンチであることを知っていた。
一方コプアさんたちとは、味オンチの俺がアドバイスしても仕方がないという会話を何度かしている。俺が味オンチだということは、この店に居れば知ることができた。
2つ目は、何といっても、SSRレシピのローストビーフ丼をこっちが発売する前に発売していたことだ。
SSRレシピは料理の組み合わせ。つまりゲームデータの枠外。偶然同じタイミングで思いつきましたなんて、いくら何でも都合が良すぎる。
つまり、俺たちはずっと見られていたのだ。
そんなことぐらい頭に浮かんできてもよさそうに思えるが、実際俺たちはこれっぽっちも思いつかなかった。
考えてみれば、普通の日本の生活で悪質なストーカーに遭う機会なんてそうあるわけじゃない。日常生活を送るうえで、自分が見張られていると感じたことなんてなかった。当然JAOだって同じだ。他人によるストーキングを前提としてデザインされているゲームではないのだから。
「こっち向けや」
そう言って男の首を回した。表情は恐怖で青ざめている。
「逃げたきゃ逃げればいいんだぜー。成果を上げられないやつをタイラン様が許してくれるとは思えねーけどな……」
俺の言葉を聞いて男の抵抗が弱まる。そして、絶望が男の顔に貼り付いた。
「早くゲロっちまえよ。そしたら、悪いようにはしねえからよぉ~」
意地悪くニッっと笑う。男の青い顔はさらに血の気が引いていく。後一押し。
「黙ってても分かんねーんだよ! 洗いざらい白状しやがれ!」
男の耳元で叫んだら、
「わ、分かった! 話す、話すぅ~」
涙を流しながら男は正直に全てを告白した。
男はタイラン商会子飼いの冒険者だった。ステはほぼagi極振り。だから、クローキングやハイディングによる隠密状態の継続時間が長い。
男は隠密状態になってコプアさんのレシピを盗み見していた。ちなみに、普段は2階に上がる階段下のスペースに潜んでいて、レシピの開発などの時にクローキングをして覗き込んでいたらしい。キモすぎて吹いた。
全ての話を聞いた後、エルテアに礼を言った。
「サンキュ。あんたがいなけりゃ、こいつを捕まえることはできなかった」
タイラン商会はクローキングによる盗み見をやっている。そう予想した俺は、エルテアに協力を頼んだ。
エルテアのステータスはagi>int>str。隠密状態になって相手の油断を誘うクローキングはagi依存。相手の隠密状態を見破るサーチングアイはint依存。スパイを捕まえるのはエルテアが適任だ。
「いいよ、いいよ。お礼を言いたいのはこっちのほう。世界一の大商店、タイラン商会が窃用していたなんて。こんな超大大スクープ、絶対つかめないよ!」
「後で動画も送ってやるよ。ちゃんとサエラが撮ってくれていればだけどな」
サエラにはこっそりサーチングアイをさせて、男が盗み見している瞬間を動画に収めさせている。決定的瞬間をカメラはとらえたってやつだ。
「これで明日の新聞はバカ売れだよ!」
エルテアが腕を振り回しながら、興奮気味に叫ぶ。その様子を見て俺も、くっくっくと笑う。
「タイランと店長の涙目になった顔が楽しみだなぁ~」
ゲームの主戦場はもちろんゲームの中だ。だが、それ以外にも戦場はある。
例えばMMORPGなら掲示板だ。
JAOなどのMMORPGではたいていGvG(ギルド対抗戦)がある。それらを優位に戦うべく掲示板で、自分のギルドの強さを誇示したり敵のギルドを雑魚認定したりしていた。酷いものになると、敵の有名プレイヤーに粘着し、本当かどうかも分からない悪い噂を流すことで、プレイヤーの引退や同盟の解消、ギルドの空中分解を狙っていた。板防衛という言葉もあったくらいだ。
俺はそういうくだらないことにはあまり興味はないので、ほとんど見ていなかった。それでも、俺の周りでは色々ごたごたがあり大変だった。
タイランが卑怯な手でくるというのなら、俺だって策を講じないといけない。情報戦だってやってやる。
勝利のために全力を尽くす。そんなのは当然の話だ。
サエラたちを2階から呼び寄せる。
「動画送ったよ~」
サエラがエルテアにVサインをして言った。
「ぶれてねえだろうな」
「レイ君、大丈夫~」
一仕事を終えてサエラも嬉しそうだ。
「ところでさ、レイさん」
エルテアに話しかけられた。
「何だ?」
「これまでの経緯も取材したいんだけど」
「ああ、いいぜ。ちょっと長ぇが、話をしてやるとするか」
次回は5月2日の9時頃に更新の予定です。
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