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1-12 ちょっと俺のチートが凄すぎたか

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします♪

 狩場でいくつか実験を行った後、1軒の木造の建物の前までやってきた。

 焼けた肉の香ばしい匂いが、入口の扉の奥から漏れてくる。それにつられて、俺の腹の音がぐ~と間抜けに鳴った。

 ゲームのときじゃ、匂いは遠くまで届くことはなかった。それに、腹の音も食欲もとてもリアルだ。

 そういや、もう昼か。製造の実験で夢中になって時間を忘れていたな。先にメシでも食ってくか。いやいや。メシの誘惑に負けてるようじゃ、廃人ゲーマーは名乗れねえ。用件をとっとと済ましてからだ。


 扉を開けて入ると、中は食事中の冒険者でごった返していた。たくさんのテーブルは全て満席。がたいのいい男たちが食事そっちのけで、昼間だというのに酒をかっくらい、でかい声でくっちゃべっていた。学校帰りのファーストフード店よりもずっとやかましい。

 ゲームでも繁盛していたけど、ここまでうんざりするような熱気はなかった。ゲーマーが集う場所というよりDQNの溜まり場だな、これじゃあ。



 店員の案内を待たずに店の奥の一角へと向かった。メシ時だったのが逆に良かったのか、奥に客はいない。そこは銀行の窓口のようになっていて、カウンター越しに店員とやりとりを行う場所だ。


 俺が椅子に座ると、すぐにきれいな女性が応対してくれた。


「お客様はここのご利用は初めてですか?」


「初めてじゃねえけど、一応初めてになるんだろうな。とりあえず登録してくれ」


「かしこまりました」



 ここは『冒険者の酒場』。数多くのRPGがそうであるように、冒険者の酒場では仲間を見繕ってくれる。MMOでいうところのマッチングシステムというやつだ。


 マッチングシステムとは、Lv・ステータス・所持武器・攻略対象マップ・その他条件を登録することで、自動的に臨時PT(パーティー)を見繕ってくれるシステムだ。



 マッチングシステムの登録が完了。後は登録内容に合わせた臨時PTが組まれるのを待つだけだ。ゲームと同じなら、しばらくかかるだろう。

 席を立とうとすると、受付の女性に話しかけられた。


「ちょっといいですか?」


「おっ、何だ?」


 ゲームのときは、一言コメントに何を書こうがNPCから質問されることはなかった。こういう反応があると、相手に人間味を感じられる。オークションハウスのじいさんといい、この受付嬢といい、NPCがテンプレ通りと違った反応を見せるのは新鮮で何だが嬉しい。


「一言コメントの記載内容についてですが」


「どんどん聞いてくれ」


「この『俺は鍛冶スキルをフィールドやダンジョンでも使用できる。俺をPTに入れれば、狩場でDRAを気にせず戦える』というのはどういうことでしょう?」


 相手は怪訝な顔をしている。そりゃ、当然の反応だわな。


「書いてある通りだ。俺は鍛冶スキルをフィールドやダンジョンでも使用できる」


「……冗談は止めてください」


「冗談じゃねえよ、マジだって。俺は鍛冶スキルを工房じゃない所で使えるチートを持ってるんだって」


「そんな人いるわけないじゃないですか」


 呆れた態度で席を立とうとする女性を何とか引きとめようと、俺は必死に呼びかける。


「ま、待ってくれ! 本当なんだ! 俺は鍛冶スキルを工房じゃなくても使えるんだって!」


 俺が大声を張り上げると、酒場が水を打ったようにしんと静まり返った。タイランのときと同じ状況だ。酒場にいる全ての人間の視線が俺に突き刺さる。



「だ~れだと思えば~、おめぇ~見たことあるぞ~。うぃ~」


 声がしたほうを振り返ると、一人の太った酔っぱらいの男が俺に向かって近づいて来るのが見えた。

 薄暗い店内でも分かるくらい顔が真っ赤になっている。足取りも完全千鳥足。

 JAOの酒は20才未満には販売しないくせにほとんど水みたいなものだ、とフレンドが愚痴をこぼすのを聞いたことがある。こっちじゃアルコールの度数が普通なのか、男が下戸なのか、それは分からねえ。っていうか、真っ昼間から飲んでんじゃねーよ。


「あぁ!? 誰だ、てめぇ?」


 酔っぱらいは俺の問いには答えずに、さっきの俺よりでかい声で騒ぎ始めた。


「おめぇ~、世界一の鍛冶屋になるとかふかしこいてた、馬鹿じゃねえか。工房じゃなくても鍛冶ができるってぇ~、ついに頭もイカれちまったのか」


 酔っぱらいの言葉につられて、ジロジロ見ていた客たちが一同に笑い出す。ほんと、マジうぜぇ。


「誰が馬鹿だって!」


 俺は席から立ち上がって酔っ払いを睨みつける。


「世界一の鍛冶屋になるとか、工房の外で鍛冶スキルを使えるとか、できもしねえことばかりホラ吹きまくる。これを馬鹿って言わなかったら、一体誰が馬鹿になるんだよぅ」


「るせぇ、できるっつったらできるんだよ!」


「だったらぁ、今ここでやってみろや!」


 男から剣を渡された。DRAが大きく減少したカットラスだ。どうやら研ぎをやってくれということらしい。



 これは好都合。実際にこの場でやってみせれば、受付嬢も納得するだろうし、いい宣伝になる。グッジョブ、おっさん。


「今日は特別だ。お代はまけといてやるよ」


 冗談も言えるくらいに頭も冷えてきた。

 異世界め。今までよくも散々な目に合わせてくれたな。

 さぁ、こっからは俺のターンだ!



 ウインドウをタップして、研ぎスキルを発動。突然、何もない空間に砥石が出現する。

 ざわめきだすギャラリー。さっきまでと違い驚嘆の声色が混じっている。


 やべぇ、超気持ちいい!

 ゲームでもハイスコアを出したとき掲示板とかで褒められると嬉しかったけど、生で大勢の感想が聞けるのは最高だな。今更だけど、ゲーム実況やっとけばよかったか。


 落ち着け。褒められ有頂天になってミスをするのは、ただの調子乗った下手くそだ。

 目の前の作業に集中。もうギャラリーの声も耳に入らない。



 砥石にカットラスを押し当てて研ぐこと、30秒。剣が白く光る。研ぎ成功のエフェクトだ。

 といっても、作業の中断などがなければ、研ぎは必ず成功するんだけどな。



「これでも、俺がホラ吹きだって言えるか、おっさん」


 不敵に笑いながら酔っ払いにカットラスを返す。酔っぱらいは赤い顔をさらに赤くして立派になった愛刀を受け取った。


 このチートがゲームで使えたら、きっと休む暇がないくらい人が殺到するだろう。

 ここぞとばかりに宣伝だ!


「俺は街中だろうが、フィールドだろうが、ダンジョンだろうが、どこでも鍛冶スキルを使える。DRAに困ってるやつは俺を雇え。今までみたいにDRAの減り具合にやきもきする狩りとは、もうおさらばだ。さあ、じゃんじゃん来い!」


 俺は遠巻きに見ていた冒険者たちに向かって、くいくっと手招きのジェスチャーをして挑発する。


「「「すげぇぇぇ~~~!!」」」


 俺の手に操られたかのように、黒山の人だかりが俺に迫ってきた。どいつもこいつも声を張り上げ、目は血走っている。

 俺はあっという間にもみくちゃにされた。まるで朝の通勤ラッシュかバーゲンセールのようだ。「押すな押すな」と懸命に呼びかけたものの、その声は興奮した群衆のざわめきにかき消された。


 くっそー、いくらなんでも人多すぎるだろ! こんなに殺到されても、さばけるわけねーじゃねーか。少しは自重しろよ。

 いや、そういう俺だって、向こうの世界でこんなチートを見せつけられたら、必死に依頼を頼みこむに決まっている。


 ちょっと俺のチートが凄すぎたか。

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