4-7 ゲームだから、
(注意)胸糞展開がある話です。苦手な方は、後半レイが店長に対して宣戦布告をするところから読んでください。
「おうおう、相変わらずバカみてぇに並んでやがるなぁ」
「ちょっと小道に入れば、同じ味をすぐに食べられるのにね……」
さらに長くなっているパクリ店の行列を横目で見ながら、俺たちは通りの真ん中を歩く。
今日はコプアさんのSSRレシピ、お野菜たっぷりローストビーフ丼のスタート日だ。
俺たちは午前中の仕事が終わると急いでフォーリーブズに向かった。フォーリーブズの開店時刻は11時だが、俺たちは10時40分にフォーリーブズに集合することとなっている。ローストビーフ丼を宣伝するビラを撒く手伝いをするからだ。
フォーリーブズの中にはコプアさんと他女性4人がいた。テーブルの上にはビラが山のように積まれている。
女性の1人が俺たちに話しかけてきた。
「私たちはさっきローストビーフ丼を食べましたけど、すごく美味しかったです」
当然だ。なにせSSRレシピだもんな。
「レイ君、私たちも食べよー」
「はぁ、今からビラ配りだっつーの!」
「お腹減ったぁ……」
そう言って、サエラはインベントリウインドウからキャンディを取り出して口に放り込んだ。
カウンターからコプアさんが声をかける。
「こっちは仕込みバッチリだよ」
お店の壁に掲げられている小さな黒板には、
『お野菜たっぷりローストビーフ丼 820マネ おすすめ!』
と書かれている。
「それじゃあ、行くか」
時間になったので、ビラ配りに行くことにした。
「ローストビーフ丼いかがですかー」
「……」
はい、スルー。
俺がビラを配っても、ほとんど受け取ってもらえない。
あ゛~! コンビニバイトの悪夢がぁ~。いくら俺が「チキンいかがですかー」と呼びかけても、客はピクリともせず雑誌を立ち読みするばかり。何だよあいつら、BOTかよ。せめてなんか買って帰れ。
一方、女の子たちが配るビラは――
「お野菜たっぷりローストビーフ丼、数日限定発売です。よろしくお願いしまーす」
「奥のお店のローストビーフ丼、すっごく美味しいですー。ぜひぜひ食べに来て下さーい」
どんどんはけていく。どういうことだよ、クソ。
「あ~、サエラ腹へったぁ~」
ビラを配っているサエラに話しかけた。
「今、ビラ配りやってるから、ご飯はまだだよ~」
正論だ。クソっ、10分前の俺に言ってやりてぇ。イライラ防止に飴ちゃんくらい食っとけと。
「レイ君、目が座ってる。笑顔、笑顔だよ~」
サエラはにっこり微笑んでチョコレートをくれた。
「うっせ、俺の目つきが悪ぃのは生まれつきだ」
「それもそっかぁ~」
俺の悪態にサエラがなぜか笑った。
チョコを食べて、さぁ頑張るかと思った矢先。
「また営業妨害ですかぁ、移動工房さん!」
髪にべったりついたポマードのように、ねちょりと鼻につく声。店長だ。
「あぁん!?」
「私、この『フォーリーブズ 総本店』とプラチナムストリート武器屋1号店と――」
誰も聞いていない自分語りを店長が続けているなか、ビラを配っていた女の子たちは手を止めてこちらを不安げに見つめている。
店長に対して強く抗議。
「そんなことより、店長! 妨害って、俺たちが一体何を妨害したっていうんだよ。あ、自己紹介ってのは、なしな」
俺に先手を打たれて、「うっ」と言葉に詰まる店長。だがすぐに落ち着きを取り戻す。
「ここフォーリーブズ総本店の営業活動です。そのビラを配られると困るんですよ」
店長はビラを見もしないで言っている。とんだ偏見だ。
「どっかのメニューと違ってよぉ、このビラにはお前らへの悪口なんて、一言も書かれていねぇぞ。よく見やがれ!」
店長の顔にビラを押し付ける。それがうっとおしかったのか、店長は「ふん」と鼻息を鳴らし、俺からビラをひったくった。
「ふむ……悪口は一言も書かれていませんねぇ」
店長はつまらなさそうな顔をしてビラを見ている。
「そうだよ! 私たち本物のフォーリーブズは味で勝負してるんだから!」
サエラの言葉に、俺を含めたビラ撒きメンバーはうなずいた。コプアさんの料理人としてのプライド、探究心、情熱。それらを知らないメンバーはいない。
「でも、営業妨害は営業妨害です」
店長はゴミでも捨てるかのように手を払い、ビラを捨てた。
「はぁ!?」
「怒ってますねぇ~。怒ってますねぇ~。でも、私のほうが怒っているんですよ~」
語尾をだらしなく伸ばし、愉しそうに笑う店長。目尻は下がり、粘っこい笑みが顔に貼りついている。怒っているなんてとんでもねぇ、俺たちの馬鹿な行動が愉しくて愉しくて仕方ないと言わんばかりの様子。キモい感情を隠そうとすらしていない。
「店内にご案内しましょう。なぜ営業妨害なのかを教えて差し上げます」
俺たちは店長に言われるまま中に通された。
店内を見て言葉を失った。大半の客は同じメニューを食べている。他のメンバーも大体気づいているようだ。お互い何も言えないまま店内を歩く。
「この黒板を見てください」
店長が指し示す黒板には――
『お野菜たっぷりローストビーフ丼 450マネ』
「お分かりいただけましたでしょうか!」
鼓膜が潰れそうなくらいの馬鹿でかい声を張り上げて、店長が勝ち誇る。
「当店のメニューと瓜二つなのですよ、そのビラに書かれているメニューは!」
店長の狂ったような大声が広い店内に響き渡る。外にも聞こえてしまっているかもしれない。
「もっとも、値段は当店のほうがずっと安いですけどねぇ~!!」
店長は胸をぐんと反らし顎を高々と上げ、これみよがしに自慢を始めた。
値段はコプアさんのオリジナルの約55%。それでは皆が食べようとするのも無理はない。
「そのメニューは……」
サエラが店長に抗議する。小さく静かな声。でも、震えている。
「昨日コプアさんが一生懸命考えたメニューなの。メニューは秘密にしていたはずなのに、どうして……」
ローストビーフ丼は昨日コプアさんが開発したメニューだ。研究なんてできるはずがねえ。
「私どもも、一生懸命考えました!」
全くの嘘。そんなことはふんぞり返った店長の顔を見たら分かる。
「いやむしろ当店のほうが、営業時間は早いのです。早く世に出した以上、当店の商品が、オリジナルだと言ってよいでしょう」
店長は無茶苦茶な論理を振りかざしている。たとえ何と言われようとも、オリジナルはコプアさんが考えたものだ。
「おかげさまで、お店は常に満員御礼! この調子で行くとフォーリーブズ総本店は安泰ですなぁ。ところで――」
店長は目を見開き下卑な嗤いをたっぷり浮かべて俺の前に進み出る。
「移動工房さんのカフェ部門、経営はいかがですかなぁ~?」
「……」
「なんでも連日ガラガラで、少ない固定客がお情け程度にやって来てなんとか売上を立たせているとか。そんな調子じゃ確実に赤字。ゴーイングコンサーンは成立しません」
「……」
「飲食業からは手を引きなさい。味オンチの貴方なんかにプロデュースできるはずがありませんからねぇ~」
「レイ君は、コプアさんのプロデュースなんてしていないよ。コプアさんは全部、自分で頑張っているんだよ」
サエラが店長に説明する。しかし、店長は鼻で笑った。
「コプア……? ああ、あの店の店長ですか。私みたいな、たくさんの店で店長を任されている経営のエキスパートからすれば、あんな木っ端レストラン1軒しか経営していない小物なんて、興味ありません」
「ってことは、端っからターゲットは俺だったってわけか……」
今思えば納得がいく。店長は本物のフォーリーブズやコプアさんの名を一切口にしていなかった。全て移動工房呼びだったからな。
「当然です。貴方は私やタイラン様に恥をかかせた存在。絶対に赦すわけにはいきませんからね~。常にあなたの首を狙っているのですよ」
『常にあなたの首を狙っている』
その台詞を聞いて、体中の神経に激しい電撃が走った。
「ふ……ふふ……ふふふ……はははははっ!」
思わず笑いが込み上げてきた。コプアさんが馬鹿にされている、こんな場で笑うのは不謹慎だと分かっている。でも、俺の全身を巡る熱い血のせいで、体の奥底から湧き出てくる笑いが止まらねぇんだ!
「どうしちゃったの……、レイ君?」
「いやよぉ、サエラ……。つくづく俺って、ゲーマーだよなぁ!」
まだ小学生の頃だ。俺はゲーセンに毎日入り浸っていた。
固い丸椅子に座り100円を投入すれば、始まる。何時、誰が、乱入してきても文句の言えない世界――それが俺の居場所『ゲーム』。
クリア寸前に乱入されてパーになったこともあった。粘着されて10分で1000円が溶けたこともあった。負かしたやつに機体を思いっきり蹴られることなんて日常茶飯事。
殺伐とした、でも最高の世界。俺はそんな本気の世界の住人だった。
格ゲーからVRMMOに活動が変わり、ゲーセンに顔を出さなくなった。
そのせいで忘れていたぜ。この感覚――殺るか殺られるかの緊張感を!
「第1Rは俺の負けだ」
ここはゲームの世界。ゲームである以上、何時、誰に攻撃されても文句は言えねえ。戦い(ゲーム)は既に始まっているのだから。
俺はそのことを忘れていた。平和ボケってやつだ。
タイラン商会のターゲットはコプアさんだと思い込んでいた。心のどこかで他人事だと思ってしまっていた。本気で戦おうとはしていなかった。
格ゲーなら、対戦が始まったのにジュースを飲んでいたせいでスティックを握らないまま1R落としたようなもんだ。
バシンッ!
気持ちのいい音が響く。両手で自分の頬を思いっきり叩いたのだ。
気合十分。戦闘モード、スイッチON。
「ありがとよ、店長。おかげで目ぇ覚めた」
ずいっと前へ出て、全力で睨みつける。
「この店は潰す」
「料理オンチの貴方に何ができるというのです」
相変わらず胸くそ悪ぃ笑いを浮かべている店長。第1Rを制したことで天狗になっているのだろう。
「そんなの――」
胸を張って言える台詞はただ1つ。
「ゲームに決まってんだろ!!」
これはタイラン商会と俺とのゲーム。ただの味勝負じゃねぇ。どちらかが潰れるまで殴り続けるゲーム。
ゲームだから、チームメイトへの攻撃は全部自分への攻撃とみなす。
ゲームだから、不得意なんて、だせぇ言い訳しねぇ。
ゲームだから、常に本気で、徹底的にやる。
ゲームだから、――――
「お前ぇらに、絶対ぇ勝つ!」
次回は4月25日の20時頃に更新の予定です。
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