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4-6 SSRレシピ

前回は評価をいただきました!ありがとうございます。

これからも皆様に楽しんでいただけるよう、私たちもがんばります。

レイたちが攻め続けられるターンももうすぐ終わるので、それまでなんとか拙作を応援よろしくお願いします。

 フォーリーブズのパクリ店ができた次の日。俺たちは夕飯を食べるためにフォーリーブズに足を運ぶことにした。もちろん昼食もフォーリーブズで食べた。


「おいおい、もうすぐ閉店時間だろ」


 閉店時間間際だというのにパクリ店の前には10人超の行列が。ちなみに昼間は蟻のように長い行列ができていた。

 サエラが行列を見て溜息をつく。


「今の人たちがコプアさんのお店に行ってくれたらなぁ~」


「だな」


 真っ暗な路地を進み、扉を開ける。



「コプアさ~ん、久しぶり~」


「サエラちゃ~ん、会いたかった~」


 2人は熱く抱擁し再開を喜びあった。8時間ぶりの感動の再開だ。俺は店の中がこれ以上寒くならないように扉を閉め、無言でカウンター席に座る。


 営業時間外なので客は居ない。とはいえ、今日一日こんな感じだったのだろうが。会いたかったというコプアさんの言葉が笑えねえ。



 サエラは席に着き、コプアさんはキッチンに戻る。注文しようとして、普段なら置かれているはずのメニューが無いことに気づいた。


「メニュー無ぇぞ」


 俺の言葉に、


「ふふふふふ……」


 なぜかコプアさんは不敵に笑い始める。


「今日のメニューはこれ!」


 そう言って、カウンターに勢いよくどんぶりを2つ置いた。


「お野菜たっぷりローストビーフ丼!」



 お野菜たっぷりの言葉通り、レタスやタマネギ、ムラサキキャベツが絨毯じゅうたんのようにこれでもかと敷き詰められている。そして、何といってもひときわ目につくのは、その中央に咲いた、大きく真っ赤なローストビーフの花。花の真ん中にはとろっとろの温泉卵。

 すぐにでもかぶりつきたいくらい食欲をそそる盛り付け。色鮮やかな見た目は実に女が好みそうだ。実際、隣のサエラがキャーキャー言ってスクショを撮っている。


「さぁ、どうぞ」


 コプアさんに促されるのと同時に、箸を持ち口の中に丼をかっこんだ。


「うめぇ! 箸が止まらねぇ!」


 あっという間に完食。あっという間すぎて、物足りないくらいだ。おかわりあるかな。


 隣のサエラは幸せそうな顔をして、この丼の中に咲いた花を堪能していた。


「ローストビーフとシーザーサラダっていうだけでも美味しいのに、それを丼にするなんて。さすが、コプアさんだよ」


「サエラちゃん、温泉卵もそろそろ割って食べたら」


 コプアさんに促されてサエラは温泉卵を割った。目の覚めるような黄金色のソースがロースビーフ、サラダ、ご飯に絡まっていく。


「シーザードレッシング、グレービーソース、そして卵の黄身、3種類のソース! いくら食べても飽きがこない。もっともっと食べたいよぉぉぉ~」


 料理漫画のようなオーバーなリアクションをしながら、サエラも完食。



「でもよぉ、1つだけいいか?」


 思い切ってコプアさんに疑問をぶつけることにした。


「ローストビーフ7枚って少なすぎねえか。いや、原価率の問題があるってのは分かるんだけど」


 詳しくは知らないが、きっとローストビーフは高い。リアルでもごちそうだったからだ。

 コプアさんは遊びでカフェを経営しているんじゃない。採算度外視というわけにはいかないのだ。だから、原価率の高いメニューを出せないのは当然だといえる。


「原価率の問題はもちろんあるんだけど」


 コプアさんが俺の質問に答えてくれた。


「レイ君みたいな男の子には、ローストビーフは多いほうがいいっていうのは分かってるよ。男性をターゲットにするなら7枚なんかじゃ全然足りない」


「レイ君だったらそうかもね。私はこれくらいがちょうどいいかなぁって思ったけど」


 サエラがコプアさんの言葉にうなずいた。


「大事なのはそこなんだよ。フォーリーブズは若い女性をターゲットにしているから、お肉が多すぎてもダメ。野菜とお肉、そのバランスを考えたら、7枚がベストだという結論になったの。もちろん、女の子だってお肉をがっつり食べたいときもあるから、お肉たっぷりのローストビーフ丼が悪いわけじゃないけどね。でも、うちの料理とはちょっと合わないかな」


「なるほどなぁ……。そこまで考えてるとはねぇ……」


 コプアさんの説明に感心した。

 コプアさんは自分の料理を届けたい人がいて、それに合わせたベストの料理を探究している。目先の利益だけを追っているのでもなく、自己満足でもない。本物の仕事。

 鍛冶屋の仕事だってそうだ。俺もコプアさんのように一流の仕事人になりてぇ。



 食後のデザートを食べているときに、サエラがコプアさんに話しかけた。


「でも、コプアさんってすごいよね。たった1日でシークレットレシピを考え出すなんて」


「どう、すごいでしょ。――って言えたら一番いいんだけど。実は、お野菜たっぷりローストビーフ丼はシークレットレシピじゃないよ」


 JAOの料理の味はデータベースを用いているので、誰が作っても基本的には同じ味になる。しかし、原材料を変えたり新たに材料を加えたりしたものや、デフォルトのレシピ通りの方法以外で作った料理のデータも存在する。

 それは通称、シークレットレシピと呼ばれていた。フォーリーブズの料理の半分以上はシークレットレシピだという。


「どういうこと?」


 サエラがコプアさんに聞き返した。向こうの世界ならともかく、あんなメニュー見たことねぇぞ。


「シークレットレシピは、既存の料理のレシピをアレンジするか、全然違う料理のレシピを考案した時に出現するの。シークレットレシピはね、レシピ名に<SR>って書かれているんだよ」


「見せてー?」


「本当は文字通りシークレットなんだけど、サエラちゃんならいいよ。2人にはちょっとだけ見せてあげる」


 そう言って、コプアさんは自分のサブ技能ウインドウを見せてくれた。ずらりと料理名が並んでいる。スクロールバーの長さから考えて、料理の数は武器の数よりはるかに多いだろう。

 レシピ名の後ろに<SR>の表記がある料理と無い料理に分かれていた。<SR>の文字はキラだ。これがシークレットレシピなのだろう。ちょっとカッコイイじゃねーか。武器にもシークレットレシピを実装しやがれ、JAO運営さんよぉ。



 サブ技能ウインドウを閉じて、コプアさんは説明を続ける。


「ローストビーフ丼はシークレットレシピじゃないの。それどころか、サブ技能ウインドウのレシピ一覧にはないレシピなの」


「すげぇ! レシピ一覧にないレシピだって! どんなチートだよ!」


 興奮のあまり、立ち上がって叫んでしまった。鍛冶技能でいえば、武器一覧にない武器を作ってるようなもんじゃねーか。


「シークレットシークレットレシピだね」


 サエラの言う通りだ。SRレシピを超えたレシピ、つまりSSRレシピ。完全にソシャゲのそれだ。武器にもSSRレシピを実装しやがれ、JAO運営さんよぉ。


「そんな大したものじゃないよ。ご飯の上に、クルトンを取り除いたシーザーサラダを乗っけて、白身を取り除いた温泉卵とローストビーフを花の形に盛り付けただけ。つまり既存の料理を組み合わせただけだから」


 コプアさんは大袈裟だと笑って話しているが、これってすごいんじゃねーの。向こうの世界で、こういう作り方を編み出していたプレイヤーがいるかいないかまでは知らない。だけど、この世界はこの世界の常識に凝り固まっている連中ばかりだ。そんな中、JAOのシステムを超えた料理を創作しようとしているコプアさんはすごい。



 サエラがコプアさんに尋ねる。


「これを黒板メニューにするの?」


 黒板メニューとは、小さな黒板に書かれている単品メニューで1~数日で入れ替わる。要は本日のおすすめってやつだ。レギュラーメニューよりも、ちょっといい料理なので人気がある。


「しばらくの間、このお野菜たっぷりローストビーフ丼を黒板メニューで出すよ」


 コプアさんが気合の入った顔で、決意を熱く語る。


「明日はね、レギュラーのメニューを絞る代わりに、ローストビーフ丼を大体的に猛プッシュする。宣伝のビラも配るよ。絶対に、お客さんに帰って来てもらうんだから!」


 こんなに考えに考え抜かれたコプアさんの料理、絶対に上手くいくはずだ。俺は応援しかできないが、そう信じている。



 コプアさんに頑張れと声をかけようとした時、凍えるくらい冷えた風が通り抜けた。


「サエラ、扉閉め忘れんじゃねーよ」


「あれ? レイ君のほうが後から入ってきたんじゃなかったっけ?」


 コプアさんが首をかしげている。実のところ、どっちが最後に入ったのか覚えていない。


「知るか」


「じゃあ、私、閉めとくね」


 そう言って、サエラは扉を閉める。


「…………」

「…………」

「…………」


 話の腰を折られて、その場は一瞬沈黙に支配される。

 少し夜の冷気が入りこんだだけだが、部屋の熱が全て持ち去られたような嫌な感覚に襲われた。

次回は4月23日の12時頃に更新の予定です。




この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。

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