3-27 冒険者にしかできないこと
3-26から今回(3-27)までは3人称フェーリッツ視点で話が進みます。
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詰所の中には長髪の老兵と体格のいい金髪の兵隊がいた。2人とも暖炉の前で暖をとっている。
「ちぃーすっ」
フェーリッツが形式ばらない挨拶をすると、2人の衛兵は喜んで彼を迎え入れた。
「ようこそ、ローデリア大橋の詰所へ!」
「さぁ、どうぞこちらへ――その何とも言えない変なTシャツはもしかして……」
老兵が変Tに視線を向けて考え込んだ。
「もしかして、あの十五勇者のフェーリッツさんでしょうか!?」
「なんと! 世界最高峰の冒険者がわざわざこんな場所まで!?」
自分の正体を当てられて、フェーリッツは少しはにかんだ。
「世界最高峰って、そんな~。俺はまだまだっす~」
フェーリッツは自分が有名だということも知っているし、別に隠すつもりはない。それでも、特選騎士団のような輝かしい業績を残せていない自分が、まるで偉人であるかのように扱われることに、何だかこそばゆく感じた。しかも、変Tを根拠に当てられたことはもっと恥ずかしい。
老兵がフェーリッツに質問する。
「でも、どうしてこちらへ? やっぱり冒険ですか?」
「それもあるっすけど――ゴードンさんは奥にいるガタイのいいあなたっすか?」
ゴードンはサナの父親だ。フェーリッツはサナから依頼を受けている。
「はい。自分です!」
フェーリッツに尋ねられ金髪の兵隊が答えた。
「今日はあなたにこれを届けに来たんっすよ」
そう言って、フェーリッツはインベントリから弁当を取り出す。
「お昼は?」
「まだです」
「すぐに食べてくれませんか」
フェーリッツの申し出を受けて、ゴードンは老兵に視線を送った。老兵は優しく黙ってうなずく。食べてもいいという上司の許諾。
フェーリッツから手渡された弁当箱を受け取ると、ゴードンは弁当箱をじっと見つめたまま呟いた。
「温かい……」
ゴードンが蓋を開けると、弁当の中から良い匂いが解放される。
「これ……これって……」
中の具材はハンバーグ、肉じゃが、ホウレンソウのサラダ、海苔とごはん。変哲もないラインナップだが、やはり出来立て。うまそうだ。
ゴードンはただただ弁当を見つめている。もはや言葉にならない。離れていても親子。気持ちが通じ合うのだろう。
「あなたの娘さん、サナさんの作った弁当っす。さぁ、冷めないうち召し上がれ」
「うおぉぉぉーーー!!」
ゴードンが涙を流し叫んだ。そして、奪うように箸を掴み取ると、一気に弁当をむさぼり始める。
「うまい! うまい! うまいぞ! やはりメシは出来立てに限る!」
それもそのはず。弁当はまだ作りたての温かさを残していた。
サナから弁当を受け取ってから、ゴードンに渡すまでのタイムは――15分49秒。
目標タイム30分の半分強しか経っていない。サナが込めた想いの熱を感じるには十分なタイムだ。
弁当を食べ終えて、ゴードンがフェーリッツに礼をする。
「夢にも思いませんでした。こんな僻地で、まさか愛娘の料理を食べることができるとは。フェーリッツさん、本当にありがとうございました」
ゴードンからフェーリッツに取引要請が飛ばされる。フェーリッツもこれを了承。
「これは私からのささやかなお礼です。受け取って頂きたい」
渡されたのはバックスタブの魔石HR2個。クエスト報酬だ。
これで『温かいお弁当を届けて』のクエストは終了したことになる。
既定のクエストは終了しても、フェーリッツの仕事はまだ終わっていない。冒険者として、やらなければならないことがある。
「ゴードンさん」
「はい」
「ここに来るのが遅くなってすいませんでした!」
フェーリッツは頭を下げた。
「いえ。頭を下げるなんてとんでもありません。こんなに温かい弁当を届けてもらったのですから」
ゴードンの言葉はフェーリッツに遠慮したものではないだろう。涙を流しながら娘からの弁当をかき込んでいた。心からそう感じているはずだ。
それでも、フェーリッツは自分が早く来ることができたとは感じていなかった。
むしろ、遅すぎたと思っている。サナが最初に依頼を出したとき、つまり1年1か月前にこのクエストをこなせていれば、親子は涙を流すことはなかっただろう。
冒険禁止区域という枷を設けたばかりに起こった、悲しい別離。
けれども、過去は悔やんでも変わらない。大切なのは今からだ。
だから――
「サナさんの弁当を届けに行きます。そして、あなたの元気な様子をサナさんに伝えます」
遠く離れた場所を繋ぐ。それは冒険者にしかできないこと。
「これからもずっと!」
フェーリッツは気づいた。冒険者としての活動を果たすのが自分の使命だと。
フェーリッツは誓う。これからは人の想いを断ち切るような仕事はしないと。
「こちらこそ……宜しくお願い致します」
ゴードンは深々と頭を下げた。
「少しお待ちを」
ゴードンは机に向かうと紙とペンを取り出し、短い文を書いた。
「娘にこれを」
ゴードンの頭上にクエストアイコンは出ていない。この依頼はJAOというゲームシステム上のクエストではない。
しかし、冒険者であるフェーリッツには関係ないことだ。
「もちろんっす!」
フェーリッツは新たなクエストを引き受け、小屋を後にした。
次回は4月9日の12時頃に更新の予定です。
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