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1-11 チートの使い道

説明が少し細かいです。地の文は読み飛ばしてもらっても構いません。

 初めての製造を成功させた翌朝。レスターンの武器屋を何軒か見回った後、再びオークションハウスにやってきた。

 だが、物件探しをするわけじゃない。そんなことをしてもタイランや店長のにやけ顔が頭にちらついてムカつくだけだ。


 目的は、昨日作ったロングソードの売却だ。

 確かに記念すべき制作武器第一号なので、手放すのはちょっと名残惜しい。

 でも、武器は使われてこそ価値があると俺は思っている。本来の目的から外れた骨董品なんかに何の意味もねえ。使ってくれる冒険者の手に渡るのが、こいつにとっても本望だろう。



 カウンターに立っている初老の係員に声をかけ出品を依頼する。ロングソードを見せると係員の顔が変わった。そして、物珍しそうにロングソードを手に持ってしげしげと見つめたり、ウインドウをあれこれと操作したりしている。


「う~む……。私も長年ここで検品をしておりますが……、こんな良い物は初めてですね……」


 面と向かって良い物なんて言われるとさすがに照れるなぁ。

 店長はああ言ってたけど、やっぱり生産品を気に入ってもらえることこそが生産職の醍醐味だな。


「最低落札額はいくらくらいがいいか?」


 どの武器屋でも昨日見たような粗悪品しか売られていなかった。だから、ちゃんとしたS武器の相場が全く分からなかったからだ。


「──申し訳ございません。それは、私には申し上げられません。ただ、普通のSランクのロングソードよりも値は張ると思われます」


 タイラン商会で売られていたSロングソードは大体420キロから480Kくらいだった。あんまりゲームの相場と変わらない。


「じゃあ、450Kで頼む」


 まあ、品質は係のじいさんのお墨付きだ。値段はほっといても上がるだろう。

 さらさらっと入力を済ませて、オークションハウスを後にした。






 オークションハウスで出品の手続きを済ませ、宿に戻った。部屋のベッドに腰掛けてこれからのことを考える。

 とりあえず武器を作って売ることには成功した。だが、それだけじゃ最低限の鍛冶屋プレイしかできねえ。

 あくまで俺の目標は、まっとうな武器を広めて世界一の鍛冶屋になり1Tを貯めること。

 ただ武器を作って売ることだけじゃダメだ。ここからが肝心だ。



 オークションで武器を売却することには問題点がある。


 まず、オークションでは出品者の名前が提示されないので、オークションに出品しても有名になることはできない。

 あくまで出品者は商品をNPCに提供するだけだ。商品の紹介コメントに「この武器はレイ=サウスが作りました」って書くって手もあるが、何か微妙だ。誰だよって話。


 それに、オークションでは客から注文を受けてオーダーメイドの武器を作ることはできない。

 個々人に合わせた武器を作るのも鍛冶屋の腕の見せどころだ。それに、その武器が持ち主の冒険の可能性を広げてくれることほど、嬉しいことはねえ。そして、オーダーメイド武器の評判が広まれば、俺の名前も売れるはずだ。



 店を持つこと自体がブランドになっているのは、ゲームでもこの世界でも同じだろう。タイラン商会が異常なくらい流行っているのを見ても、それは明らかだ。店を持たない限り、俺は名前を大きく宣伝することはできない。


 つまり、俺はただ武器を作れるだけで、タイラン商会にダメージを与える力はないということだ。

 せっかくチートを貰ったっていうのによぉ、これじゃあ劣化武器屋じゃねえか。

 プラチナムストリートの店舗をゲットした後に転生したほうが、チートなしより強いっていうオチかよ。しょぼすぎて泣けてくる。



 しばらくどうやって名前を売っていくかについて考えたが、何もアイデアは出なかった。

 ああ、もう、いったん製造のことは置いておくか。

 他にもやることは山のようにあるんだ。今できないことをうだうだ考えるより、今できることをやっていこう。

 そう決意して、ベッドから体を起こして机に向かった。



 宿屋の机は小さくてボロい木の机だ。いすも木でできており固くて座りにくい。ただ仕事をするだけのためのものという味気ない印象だ。俺の自室の机をどこか思い出させる。

 それでも、机に向かうことは全然苦には感じなかった。今やろうとしていることは、クソだるくて何のためにやっているか分からない勉強じゃない。この異世界で生き抜くために必要な、ゲーム攻略の考察作業だ。


 ウインドウを操作してメモ帳アプリを起動。そして、キーボードアプリを起動させて、メモ帳に書き込みをする。


 ゲームを攻略するうえで1番重要なものはデータだ。

 どれだけプレーヤースキルがあったとしても、やみくもにプレイしたところでベストのパフォーマンスをあげることはできない。データを頭に叩き込み、試行錯誤して戦略を練り、経験を積んだものだけが、初めてゲーマーと呼べる存在になれる。

 まして、ここは異世界だ。ゲームのときのように、分からないことがあればインターネットで調べるということはできない。


 だから、今覚えているありったけのJAOのデータについてのメモを作り、いつでも見られるようにしておく必要がある。

 本当は、Mobを1確できるだけのATKや、即死を防ぐためのDEFを算出する必要があるので、細かいデータを調べられるようにするのが理想だ。しかし俺だって、いくらなんでもそこまで覚えていない。

 だが、大まかな数字は覚えている。武器屋をする分には大丈夫だ。ひたすら攻略掲示板とWikiをのぞいていた甲斐があったな。



 現在書き留めているのは武器のデータだ。武器ごとに重量や長さといった主なデータは決まっているので、メモを取る必要がないといえばないが、全データ書いておいたほうが、武器の性質を比較するのには都合がいい。



 ──次はグラディウスでも書くか。そう思ってキーボードを叩き始めた。


 グラディウスというのは古代ローマで広く用いられた刀剣だ。JAOでは、長さや威力はいまいちだが軽くて耐久性に優れた武器としてデザインされている。

 JAOがサービスを開始してしばらくは人気があったが、威力が劣るということで次第に環境に合わなくなり、いつしか初心者用武器としてのレッテルを貼られてしまったという、残念な武器だ。


 でも今は、不人気が一周回って再ブレイクしそうだったんだよな、グラディウス。ほんの3ヶ月前じゃ考えられなかったのに。最近は耐久力の高い武器が求められる環境になってきたからなぁ……。


 そこまで考えた時、キーボードを打つ手が止まった。


「これだ! これだよ! これ、いけんじゃねえか!」


 思いついたアイデアに、いすから立ち上がり叫んだ。



 チートを使って狩場で研ぎを行う。



 ATKやHITという攻撃ステータスやDOGやDEFという防御ステータス以外にも、狩場での効率に大きく影響する武器のステータスがある。それが、武器の耐久値を表すDRAデュラだ。


 武器の耐久値が設定されているゲームも多い。だが普通に狩りしているだけでは0になることはまずないし、0になったとしても一時的に武器が使えなくなるだけで、修理すればまた使えるのが普通だ。他のゲームでは、武器の耐久度なんて大体その程度の扱いでしかない。


 しかしJAOでは、狩り中はDRAの値に気を配らなければならない。DRAが0になると武器が消滅するからだ。どれだけ大金をはたいて買った武器でも、どれだけ思い入れのある武器でも必ず消滅する。

 そのうえ、JAOでは耐久度の減少はものすごい。短剣以外の武器でも、1時間も狩りを続けていればDRAはまず0になる。

 武器が消滅しないようにDRAが0になる前に帰還するか、メインウエポンのDRAが減少したとき用のサブウエポンを持っていくのが常識だった。


 減少したDRAを回復させることができるのは鍛冶スキルの『研ぎ』だけだ。

 研ぎは鍛冶スキルなので工房でしか使用できない。



 しかし、俺にはチートがある。鍛冶スキルを工房でない場所でも使うことができる。研ぎだって同じだ。



 研ぎを狩場で使うことには多くの利点がある。


 まず、狩り中にDRAが回復できれば、武器の消滅にやきもきすることもない。


 それに、研ぎのため帰還しなくてよいので、狩場滞在時間を伸ばすことができる。臨時PT(知らない人同士、即興で組まれた狩りのパーティー)は帰還したら解散するのが普通だ。


 また、DRAを気にしなくてよいので、メインウエポンを使い続けることができる。


 あとは、強力だがDRAが低いためメインウエポンには向かない武器をメインウエポンにすえることができる。DRAを気にせずそういう武器を使えるのなら、効率はさらに向上する。



 狩場でDRAを回復する課金アイテムの実装を求める声も多かったしな。きっと、異世界でも狩場で研ぎを行うことは需要があるはずだ。


 そうと決まれば、早速行動開始だ!

 俺は急いで支度を済ませて宿を出た。


この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、下にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。



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