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3-25 橋攻略4

 俺の仕事は1つ。飛び回るフォッカーどもをチャクラムで撃ち落とすことだ。


 フォッカー2体程度なら方天戟で殺ったほうがいい。DRA・SDRAの消費も抑えられるし、チャクラムによる攻撃はモーションが大きく避けられやすいうえに時間がかかる。

 だが、方天戟には耐風が組み込まれていない。外付けだとレアリティが低い分、防御属性倍率が低く被ダメが大きくなってしまう。4匹もいるこの状況では、このわずかな違いが生死を分ける。


 かといって、チャクラムで1匹ずつ、ちまちま殺るのは時間がかかる。そんな悠長に戦っていたら、サエラが尾針の毒を解除できずにやられてしまうだろう。


 そこで、チャクラムで「3連通し」を狙うことにする。



 通しとは、1回の攻撃で複数の相手に命中させるテクニックだ。


 JAOではヒットエリアに攻撃を当てることによって命中判定が行われる。ヒットエリアは、体の中心から順に、必中エリア、80%エリア、50%エリア、20%エリアとなっている。20%エリアは手と足以外にも、体の表面から大体拳2個分くらいの空間が含まれている。

 肉体に当たれば攻撃は終了するが、空間に当たっただけでは攻撃は終了しない。敵のどの部分に当たったかまだ分からないからだ。

 どのエリアに命中したかは、20%エリアを最初にかすめた時から0.5秒以内に当たった部位によって決まる。20%エリアの空間が体を取り巻いている以上、この仕様がないと攻撃先が常に20%エリアとなってしまう。


 通しは、この仕様の穴をついたテクニックだ。

 まず、空間部分の20%エリアに攻撃を当てる。命中判定が完了する前に、その攻撃を別のMobに当てる。そうすれば、1回の攻撃で2体の相手に対して、それぞれ命中判定を起こすことができる。

 通しは主に魔法や長柄などで行われる。投擲ではあまり行われない。狙うのが難しいからだ。

 だが、俺はそれを狙う。



 揺れる視界。立っているのもやっとなくらい、橋が大きく揺れている。

 動くターゲット。フォッカーは絶えず飛び回り、その位置を変えている。


 狙いが定まらない。通しを狙うには最悪。

 だが、それも全てサエラが命を張って戦っているからこそ起きること。無茶振りをした俺が泣き言を言うわけにはいかねえ。


 揺れに体を任せバランスを取る。ここで倒れては満足のいくスローはできない。体から無駄な力みを消し去る。

 その分、全神経を目に集中。懸命に戦うサエラと4匹のフォッカーの動きを目で追いかける。どこでどんな動きをしているか、そして、この後どう動くか。スーパーコンピューターのように自分の頭の中でシミュレートする。




「最適解、見つけたぜ」




 チャンスは一瞬。奇跡にも等しいその一瞬、絶対に逃しはしねえ!



 サエラが魔法を使用。その硬直を狙って3体のフォッカーが集まる。


「ここだ! リィタァァァァーーン――スロォォォォーーー!!」


 ギュルギュルギュルギュル――――!

 唸るような音を上げ、全身全霊を込めた一投がフォッカー目掛けて飛んでいく。


「いけえええええ!!」


 自然と大声が出た。


 ギュギュギュギュィギュィギュィギュィギュィィィ――――!!

 俺の声に勢いづいたのかのように、チャクラムはさらに加速する。



 1体目、フォッカーの翼近くの空間を斬った。体には当たっていない。セーフだ。

 2体目、フォッカーの背中の後ろの空間を斬った。セーフ。

 ここまでは大丈夫。


 問題はここからだ。3体目は少し高いところで静止している。しかし、チャクラムは折り返しの軌道に入っている。フォッカーに当てるには高さが足りない。

 だが、そんなことは織り込み済みよぉ!


 3体目のフォッカーが、槍のように太い尾針をサエラの脚に刺した。ロープのように伸びきった飛竜の尾。そこに鋭く回転する刃がかすめた。


 その直後、1体目のフォッカーからほとばしる鮮血のように赤いダメージエフェクトが発生。すぐさま2体目からも。

 3体目のフォッカーが尾を引き上げ、俺を睨みつけた。

 ようやく気付いたか。だが、もう遅ぇ。

 尾の先端が地面にボトリと落ちて、そこから赤い噴水が吹き出した。


「ギュオオオオオーーー!!」


 後悔の叫びを残し、飛竜は地面に墜落し砕け散った。


「3連通し――成功」


 リターンスローの効果で戻ってきたチャクラムを悠々とキャッチした。



 残るフォッカーは1体。ポーションを飲んでHP回復。HPは満タンになった。武器を方天戟に持ち替え魔石を外付けする。


 行くか!


「スカイウォーク!」


 方天戟を振り上げ最後のフォッカーに向かって走り出す。


「ジャンプ!」


 飛び上がりながら攻撃モーションに入る。


「なかなか楽しかったぜ――――おつかれさん!」


 垂直真一文字に頭から胴体まで斬り下ろす。フォッカーの体は真っ二つに割れ、キラキラ光るポリゴンの欠片となって消えた。



 サエラが俺に駆け寄ってきた。


「ごめ~ん~。橋が揺れて、狙いがつけにくかったよね。やっぱりクローキングで翻弄したほうがよかったかなぁ?」


「いや、これでよかった」


 フォッカーはサイコバレットのリキャストタイムに入っていた。となると、攻撃手段は尾しかない。他の3体のうち2体の体が重なるタイミングと、3匹目のフォッカーの尾攻撃のタイミングが同時になるのを予測してスローしたのだ。

 サエラが体を張ってくれたおかげで相手の動きが予想しやすくなった。さすが、俺の相棒だ。



「後は――フェーリッツ君がちゃんと届けてくれるかだね」


「心配ねえよ」


 あいつにも、届けたい想いがあるからな。

次回は4月7日の12時頃に更新の予定です。




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