3-21 正規ルートか橋ルートか
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サナは何度も何度も礼を言った。1年1か月ぶりに親父の安否を確かめようと言ってくれたのだ。感謝してもしきれないことだろう。
「よかったね」
サエラが振り向いて俺に言った。
「ああ」
なんかクエストの内容変わっているような気がするんだが。ま、空気を読んで黙っておこう。
サナはひとしきり礼を言った後、何かを思い出したかのような顔になって、俺たちに依頼をしてきた。
「そうだ。そろそろお昼の時間ですし、せっかくなので父――ゴードンに弁当を渡していただけませんか? 元気にやっているかも分からないから、父の好物を詰め込んだお弁当を作って元気づけてあげたいんです」
結局クエストやんのかよーー!!
「お父さんが好きなおかずにしないと。あ、でも――」
「ジャガイモ、ほうれんそう、牛コマ肉、卵、海苔だろ」
そう言ってサナに取引要請を飛ばす。
俺が出した品物を見てサナが驚いた。
「そ、そうです。足りなかったんです。何せ急に、お弁当を作ろうと思い立ったものですから」
いや、あんた。どうせいつも同じ具材が足りないんだろ。100年分くらい用意しておけよ。
「10分ほどお待ちください。お弁当を作ってきますね」
そう言って、サナは家の中に引っ込んだ。
「10分ひまだね~」
サエラが半分寝そうな顔でそう言った。
「お前ぇはいいよな。ちょうどいい時間の潰し方があってよぉ」
橋のデータでも確認しようかと思ってメモ帳アプリを開いた時、フェーリッツから話しかけられた。
「レイさん、サエラちゃん。ちょっといいっすか」
少し思いつめたような真剣な表情。
「サナさんを苦しめたのは、俺が作った冒険禁止区域だ」
フェーリッツの言う通りだ。冒険禁止区域なんてものを作らなかったら、誰かがこのクエストを引き受けたかもしれない。
「このクエスト、絶対に成功させたいんっすよ。だから、橋には行かないで――」
「ダメだ。予定通り、橋を通って詰所に向かう」
そもそもこのクエストを受けた理由は、橋のタイムアタック目的だ。橋を通らなければタイムアタックの意味がない。
「俺は本気でサナさんの依頼を叶えたいって思ったんっすよ。橋を通りたいってレイさんが言うのは、自分が遊びたいからっすよね?」
「俺はゲーマーだ。遊んで何が悪ぃ」
「俺は遊びじゃなくて、本気でやりたいわけ。強いMobがでる橋ルートじゃなくて、簡単な正規ルートで行くのが筋ってもんっしょ」
サナの親父がいる詰所に行くには2つのルートがある。ロールディアダンジョンのメテオジャム前から橋を通る、橋ルート。ロールディアという町からロールディア山道を抜けて詰所に行く、正規ルート。
橋ルートつまりロールディア峡谷の推奨レベルは85。対して、ロールディア山道の推奨レベルは78。フェーリッツの言うことは正しいように思われる。
だが、フェーリッツは1つ大事なことを見落としている。
「フェーリッツ、クエストウインドウを開いてクエスト名を確認してみろ」
俺に言われて、フェーリッツがクエストウインドウを開きクエスト名を読み上げる。
「『温かいお弁当を届けて』……?」
「そうだ。弁当の温かさは、サナさんの親父さんに対する真心の証だ」
「そうっすよ! だから――」
「冷めちまったら、台無しだろ」
実際30分以内に届けられなかったら、弁当が冷えてしまったということでクエスト失敗となる。
「正規ルートは簡単だが、曲がりくねった山道を行かなくちゃいけねえ。30分弱かかる。だが、橋ルートだったら、Mobとの交戦具合によっても変わるが、20分もかからねえだろう。どっちが、うまいメシを届けられるんだ?」
フェーリッツが俺の言葉を聞いて言葉に詰まる。
「まったく、レイさんには敵わねえっすわ……」
フェーリッツの顔から怒りが消え、その分炎が赤い瞳に宿る。
「冒険者は困っている人を助けるのが仕事! 熱々のお弁当絶対に届けようぜ!」
「お~」
熱く叫ぶフェーリッツにつられて、サエラも手を上げる。相変わらず間の抜ける声だったが。
あとな、フェーリッツ。橋ルートにしたのは、もう1人困っている人を助けなきゃいけないからだよ……。
本物の冒険を求めてやまない男に、本物の冒険を味わせる。それこそが橋を攻略する本当の目的だからな。
次回は4月3日の12時頃に更新の予定です。
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