3-14 縛りプレイ
「じゃあ、具体的にどこ行くんすか?」
フェーリッツが俺に質問した。
「そうだな……」
U帯のダンジョンは3人じゃ、さすがに厳しいだろう。もうちょっと人数が欲しい。マッチングで探せば……いや、冒険禁止区域にわざわざ遊びに行こうっていうバカなんていねーか。いたら、カキ養殖はもっと繁盛しているはずだ。
少し考えてアイデアが閃いた。
「『橋』なんてどうだ?」
「橋?」
フェーリッツが首をひねる。
ああ、しまった。橋というのは前の世界での通称だった。この世界のやつらに通じるわけがねえ。
「ああ、すまねえ。ロールディア峡谷のことだ。そこに架かっている馬鹿でかい吊り橋、知ってるか? そこに行かねーか?」
俺の説明を聞いてフェーリッツがにやりとする。
「いいねぇ。下手なUランクより戦いにくいな。冒険って感じがするぜ」
サエラが話に割り込んできた。
「ねえ、レイ君。橋ってどういうマップなの?」
「ああ、85レベルのフィールドマップだ」
「85ってことは……SSランクでも、ほとんどUランクだね」
「ああ。フォッカーっていうワイバーンがわんさかいるから、下手なUランクのマップより難しいぞ」
フォッカーはSSランクだが、小種族がワイバーンなのでかなり強い。90台前半のUMob級の戦闘力はある。ちなみに小種族ワイバーンはほとんどがボスだ。ワイバーンの雑魚Mobはこいつ含めて2種類しかいない。
「こいつが遠く離れたところから、ドラゴンブレスという超インチキ高威力遠距離範囲攻撃を撃ってくる」
ドラゴンブレスを使用する小種族はワイバーンとドラゴンしかいない。選ばれた種族にしか使用できない、ぶっ壊れスキルなのだ。
「うわー。それは早く倒さないと」
「ちっちっちっ――サエラちゃん。吊り橋は少し動いただけでもグラグラ揺れるから、満足に進めねえ。倒しに行くとか無理に決まってんじゃん」
フェーリッツが説明する。
「しかもさー、そんな足場が不安定なのにさー、出てくるのは飛行Mobばっかりなんだぜー。マジでやべーってわけ」
「そりゃあ、マジでやべーって感じだね」
フェーリッツの口調がサエラにうつっている。マジでやべー。
「だけど、フォッカーは金銭効率がかなりいい。面白いうえに旨い。遊びに行くにはいいんじゃねーか」
「じゃあ、そこで決まりっすね」
フェーリッツが了承した。これで狩場は決まった。
狩場を決めたら、次に決めるのは武器だ。
フォッカーのステータスなら大体覚えている。俺なら、フォッカーに合わせた武器を作ることが……。
そこまで考えたところで、別の考えが浮かんだ。
待てよ。フェーリッツはゲーマーだ。人に攻略法を教えられ、その通りにプレイさせられて、本当に満足できるか。いや、俺なら、そんな提案はキックだ。
「なぁ、フェーリッツ」
「なんすか?」
「SS武器だけで行こうぜ」
俺の提案を聞いて、フェーリッツが仰天した。
「あんた正気っすか!? 下手なUランクより難しいんだろ。SS武器なんかじゃ、話になんねーよ。あんた武器屋のくせにそんなことも分かんねーのかよ」
フェーリッツの言うことは正論だ。SS武器とU武器とじゃ、強さは天と地ほどの開きがある。
U武器の内蔵魔石はSS相当のレアリティだ。対するSS武器の内蔵魔石はHS相当のレアリティ。ステータスは約2倍以上違う。
それに、U武器はATKが上がりやすい。ATKに対する武器倍率はSSランクだと1.21倍だが、Uランクだと1.46倍になる。つまり、ATKが約1.2倍違うということだ。
SS武器はステータスも貧弱なうえにATKも低い。これじゃあ、U帯では戦えないのも当然だといえる。
「俺が大金とプライドをかなぐり捨ててまでタイランから買ったUジャンビーヤでも、全然歯が立たなかったんだぞ。SS武器なんかじゃ無理だって」
ジャンビーヤというのは短剣カテゴリーの武器だ。
「フェーリッツ、そのジャンビーヤ見せてくれ」
「別にいいっすけど……」
フェーリッツからUジャンビーヤを受け取り、レシピを確認。レシピというのは内蔵魔石の構成のことだ。
レシピを見て俺は思わず溜息が出た。
「フェーリッツ、こりゃMob産だ」
「知ってるっすよ。製造者の名前が書かれていないし。ちゃんと魔石が12個組み込まれてるし」
「こんなMob産じゃ、そりゃ太刀打ちできねーわな……」
「どういうことだよ……?」
「優れた武器のレシピってのは、どんなステータスの冒険者が、どういう相手に対して、どんな風に使えばいいのか、全て想定されているものなんだ。Mob産のレシピを見ていても何も見えてこねえ」
事実、むこうの世界じゃMob産なんて店売り直行だった。
「つまり、タイランに二束三文のごみを高値でつかまされたってわけだよ」
俺の言葉にフェーリッツはショックで黙り込んでしまった。いくらで買ったのかは知らないが、きっとものすごく高いものだったにちがいない。
だが、こんなことはありふれた光景だ。俺たちはそれを変える戦いをしている。
フェーリッツは拳を握りしめ震えながらも、口を開いた。
「U武器でもダメじゃあ、SS武器で冒険なんて……」
「武器がお前を選ぶんじゃねえ、お前が武器を選ぶんだ」
「……どういうことだよ?」
「フェーリッツ。お前の持ってる武器を見ただけで諦めてどうすんだ。それじゃあ、武器に振り回されてるだけじゃねーか。タイランの支配下と何にも変わんねーよ」
「そうなのか……」
「攻略するにはどんな武器が必要なのか、頭絞って、よーく考えやがれ」
俺はタイランのクソ野郎みたいに、武器を制限して特定の狩場に冒険者を押し込めるような真似はしねえ。俺が目指す武器屋は、冒険の可能性を広げる武器を作る武器屋だ。
俺に怒られたというのに、フェーリッツはなぜか楽しそうに手を打ち笑い出した。
「あっ~はっはっはぁ~。こりゃあ、やべーよ。950Mしたジャンビーヤでもぼっこぼこにされたマップ相手に、SS武器で冒険しろって、しかも俺に考えろときたもんだ。面白ぇ! いいぜ。俺も久しぶりに本物の冒険をやりたくなってきた!」
笑い転げるフェーリッツの顔は、もうさっきみたいな死んだ酔っ払いの顔ではなかった。冒険が楽しくて楽しくて仕方がない、立派なゲームジャンキーの顔だった。
次回は3月27日の12時頃に更新の予定です。
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