3-12 フェーリッツの絶望1
サエラに頼んで、フェーリッツが今どこにいるか聞いてもらった。バーで飲んでいるらしい。早速フェーリッツのいるバーに向かうことにした。
バーに行く途中、サエラに話しかけられた。
「レイ君だったら、フェーリッツ君ときっと気が合うよ」
「はぁ? 俺たち、そいつに文句を言いに行くんだぞ。気が合うわけねーよ」
「だって、レイ君とフェーリッツ君ってよく似てるんだよ」
「あぁん?」
「フェーリッツ君は、私と同じ十五勇者の一人で、私の友達」
数多くいる冒険者の中でも特に強く、高レベルダンジョンを踏破し、多くの冒険者に大きな影響を与えた十五人の冒険者のことを、十五勇者と呼ぶそうだ。
「十五勇者か。それじゃあ、強ぇだろうな」
サエラ以外の十五勇者って会ったことねえけどな。
「うん。すごいよ。私よりも強いと思う」
「ま、マジかよ!」
サエラよりも強いって、かなりの腕前だぞ、そいつ。俺には及ばないにしても、サエラだって並みのプレーヤーよりもずっと強ぇ。
「あ、脱線してた。で、どこが似てるかっていうと~」
「それは興味ねえ」
早足で歩き出す。
「待ってよ~。でね、どこが似てるかっていうと~」
サエラも速度を上げて同じ話を繰り返す。そんなにしゃべりてぇのかよ。もう、好きにしろ。
「フェーリッツ君はね、冒険が趣味なんだ。誰も行ったことがないマップに行って、そこを隅から隅まで調べるのが好きなんだ」
向こうの世界では簡単に攻略情報にアクセスできたから、そんな冒険はできなかった。でも、こっちの世界では実装されてもマップの名前しか分からない。手探りで情報を集めて攻略する。そんな遊びも面白そうだ。今度休みの日にやってみようかな。
「どうやったらそこを攻略できるか、朝から晩まで考えるのが楽しいんだって。集中すると、寝るのも食べるのも忘れちゃう」
「さすがにメシは食うし、ちゃんと寝るぞ」
そうしねえと、FPが回復せずに動けなくなるからな。
「しかも、難しければ難しいほど燃えてくる。どこかにそんな人いないかなぁ~」
サエラがわざとらしくきょろきょろする。
「知るか。フェーリッツに調べてもらえ」
俺はさらに速度を上げた。
早足で歩きながら、気になった点について考える。
攻略法を朝から晩まで考え、難しいほど燃えてくる。そんなこと別に珍しくもなんともない。ゲーマーなら当たり前の話だ。
でも、そんな筋金入りのゲーマーが、何でゲームの面白さを奪うような活動をしているんだ……?
「レイ君、レイ君!」
俺が真剣に考えていると、遥か後方から大声で呼ぶサエラの声が聞こえた。
「あぁん、俺とフェーリッツは似てるって、分かった分かった!」
「道、そっちじゃない……」
考え事をしていたので、道を間違えたことに気がつかなかった。やっぱり、俺とフェーリッツ、ちょっと似ているかもな……。
案内された場所は一軒の民家らしき建物だった。看板も何もかかっていない。会員制の店なのだろうか。
だが、相手は扉の向こうにいる。何も言わずに扉を開けた。
木製の渋いカウンター。壁にずらりと並んだ酒のボトル。数台のランプしかない店内は、夕闇の中にいると錯覚しそうなほどに薄暗い。
「当店は会員制でございます」
身なりの良いマスターが俺たちを睨みつける。
クエストで会員制のお店に入ったことはあったが、そのときは付いて来てくれる人がいた。さて、どうする。
そう考えていると、店の奥から声がした。
「マスター。俺の客だ。入れてくれよ」
奥のカウンターにだらしなく突っ伏している男が一人。きっと、そいつが冒険禁止区域を設定した張本人にちがいない。
俺が隣に座ると、男はのっそりと体を起こし邪魔くさそうに顔を向ける。その顔を見て、俺は少しぎょっとした。
目の焦点がまるで合っていない。
酒に深く酔っただけ。とてもそうとは思えないほどに、その目は虚ろで生気を感じさせないものだった。
次回は3月24日の12時頃に更新の予定です。
この作品を面白い、もっと続きが読みたいという方がおられましたら、最新話にある評価をしていただければ、非常に励みとなります。




