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3-11 俺たちのゲームに『禁止』の文字なんて、無ぇ!

 ジューンガーデンの狩りが終了した後、俺はサエラからウエディングドレスの代金を受け取り、ドロップアイテムをマーケットに出品した。


 マーケットとは、あらかじめ売却額、買取額を設定したうえで売買を行うシステムだ。1品あたりの手数料が安く大量取引に向いている。定額で売買するので安心して出品できるのが特長だ。買取を依頼することも可能だ。


 出品したアイテムが売れたら、約9Mの現金収入になる。サエラから受け取ったウエディングドレス代を合わせると45M。思ったよりもウエディングドレスが高かった。ボス狩りでも、ここまでの成果は運がよくないと得られない。思いがけない臨時収入に頬が緩む。



「あ~、早くあいつら売れねーかなー」


 当然だが、マーケットに出品した品の代金は実際に売れた時点でお金が振り込まれる。少し安めの値段に設定したとはいえ、すぐ売れるかどうかは分からない。


「精油はすぐ売れると思うよー」


 今回出品したのは、ジャスミンオイルS、キンモクセイオイルHS、ローズオイルHSという3種類の精油と、虹色妖精の翅というアイテムだ。精油は調香師によって香りづけに使われ、虹色妖精の翅は色々な飾り付けに使われる。


「何でだ?」


「前にね、私がよく行くアロマのお店の人が言ってたんだ。高ランクの精油が欲しいって。いちいち植物から精製していたらFPが足りないって」


 JAOでは植物から精油を精製する。大体の植物は店売りしているが、精製作業をするとFPが増えてしまう。一日の作業量には限界があるということだ。


「まぁ、みんながタランバに行っていたら、精油なんて出回らねえよなー」


 この世界の冒険者のほとんどは、タランバ・ハニカムなどの低レベルマップでしか狩りをしない。


「うん。色々なマップに冒険に行かないことの弊害だよね」


 サエラが苦笑する。


 JAOにはMobからしか手に入らないアイテムも多い。だが、向こうの世界では色々な場所でプレーヤーが狩りをしていた。だから、根気よくマーケットを見回っていれば手に入らないものはなかった。なんなら、自分で取りに行くこともできた。

 けれども、低レベルなこの世界じゃ、本当に必要なものが手に入らないと困っている人がきっと大勢いるんだろうな。

 ジューンガーデンなんてぬるいダンジョン、さくっと攻略しちまえばいいのに……。



 そこまで考えて、アイデアが閃いた。


「よしっ、いいことを思いついたぞ!」


「どーしたのー?」


「ジューンガーデンをPT用狩場にするってのはどうだ。フラワーフェアリーはそんなに経験値も悪くねーし、いけんじゃね?」


 しかし、俺の提案を聞いてもサエラの顔は沈んだままだった。


「ジューンガーデンじゃ……やっぱり来てくれないよ……。また、難しいって思われるのがオチだよ……」


「難しいってなぁ、サエラ、お前もさっき行ったから分かんだろ。効果的にサーチングアイを回せば、ある程度狩りになるって。独占状態だし、エイドであることを利用すりゃぁ、フラワーフェアリーの姿が見えなくたって――」



「そうじゃない……」


 俺の言葉に首を小さく振るサエラ。珍しい。あんまり自分の意見を言わないやつなんだが。


「あぁん、どういうことだよぉ?」


 俺の質問に、サエラがおずおずと口を開く。


「レイ君、『冒険禁止区域』って、知ってる……?」


「知らねえ」


「ゴメン。前から言おうと思ってたんだけど、なかなか言い出せなかった……」


「そんなことはいい。教えてくれ」



 俺の呼びかけに少し間を置いて、サエラが話し始める。


「冒険禁止区域っていうのはね、Mobが強すぎるから冒険するのは危険だと指定されたマップだよ。推奨レベル70台以上のほとんどのマップが冒険禁止区域に指定されてる」


「70台ってことは、SS帯か……。フィールドも?」


「うん。SS帯で指定されていないマップって、10もないって言ってた」


 移動工房レンタルサービス一押しのアキ海中社殿も、湧泉洞の代わりにPT案と提案したグランキャッスルも、さっき遊んだジューンガーデンも全てSS帯のダンジョンだ。つまり冒険禁止区域。



「冒険禁止区域に行ったらどうなるんだ?」


「逮捕や追放とかはないよ。現に一部のトップ冒険者は、神官連や王国とか偉い組織の依頼で行くこともあるよ。私もたまに行ってたし」


「じゃあ別に、行ってくれてもいいじゃねえか。あんなに怯えるこたぁねーだろ」


「それは偉い人の頼みだから断るのが難しいだけだよ。本当はみんな行きたくない。冒険禁止区域のMobは強すぎる。何か起こったときに、救助に行った人が死んじゃうかもしれない。だから、冒険禁止区域に行くことは良くないことだっていう風潮になっているんだ」


「なるほど……それで、誰も行きたがらねえわけか……」


 俺は腕組みをして溜息をついた。


 確かに、タイラン製の雑魚武器なんかじゃ、U帯はおろかSS帯でも狩りをするのは難しいだろう。ましてや、ボス攻略なんてできるわけがない。冒険者の犠牲が出ないように、冒険禁止区域を設定し無謀な狩りをさせないようにした。ゲームではないこの世界では、必要なことだったのかもしれない。


 それでも、俺はおかしいと思う。死ぬかもしれないといって縮こまっているだけの人生なんて、キングオブクソゲーだ。やる価値なんてねーよ。

 意地でも、移動工房レンタルサービスを成功させてやる!



「ガンザスさんたちがカキ養殖でレベルが上がったのが広まれば、他のトップ冒険者たちも冒険禁止区域に行ってくれるかなぁ、って思ってたんだけど。甘かったかなぁ……」


 申し訳なさそうにしょげかえるサエラ。

 ガンザスとは、カキ養殖を利用してくれている三人組のリーダーだ。スキンヘッドのこわもてだが、声は優しいイケボだ。


「気にすんな。行ってくれないのなら、行かせるようにすればいい」


「えっ!?」


「冒険禁止区域を設定しているのはどいつだ?」


 どうせ、タイランのクソ野郎だけれど。


「私の友達のフェーリッツ君だよ」


 あれ? 違ったか。まぁ、相手が誰かなんてどーだっていい。


「サエラ、そいつの所まで案内してくれ」


「うん!」


 明るいサエラの返事。俺が言い出すのを待っていたな、こいつ。


「時代は変わった。アキ海中社殿なんて雑魚でも狩れるってことを教えてやる」



 俺はゲームを、試して試して試したうえで、徹底的に遊び尽くしてぇんだ。誰にも俺たちのゲームの邪魔はさせるかよ。

 俺たちの冒険ゲームに『禁止』の文字なんて、ぇ!

次回は3月23日の12時頃に更新の予定です。

次回はデータ回です。



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