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3-8 ウエディングドレス

EXPイーエックスピー来るぞ!」


「分かった!」


 俺がサエラに注意を促した数秒後、茶色い光弾がこちらに目掛けて飛んできた。エネルギーエクスプロージョン、通称EXP。強力な範囲魔法だ。

 光弾が地面に着弾し、砂嵐を伴う爆発が起きた。



 狩りを始めて40分。現在俺たちは教会跡で戦闘中だ。

 入り口近くにブラッディルージュ1体、俺たちの近くにフラワーフェアリー1体、奥にフェアリーブライド1体がいる。



「レイ君大丈夫!?」


 姿は見えないが、サエラの声が聞こえる。ハイディングで隠密状態になっているのだ。俺も隠密状態になっている。EXPはハイディングでかわすことができたのでノーダメ。


「大丈夫だ」


 砂嵐が収まったところで周囲を確認。

 状況は何も変わっちゃいねえ。むしろ悪くなったともいえる。ブラッディルージュこと、バラは茨を振り回し続けているし、ブライドはワンドを構えて狙いをつけている。フラワーフェアリーの姿は見えない。


「フェアリーどもの囮になる。俺が魔法をかわしたら、お前はバラに向かって走れ。もし俺がスリープで寝かされてしまったら、ブライドを倒しに行け」


「分かったよ」


「サーチングアイ!」


 サーチングアイは隠密状態の敵を視認できるようになるスキルだ。さっきまで姿が見えなかったフラワーフェアリーが姿を現した。俺は1歩踏み出して隠密状態を解除。


 フラワーフェアリーはこういう展開を予想していたのか、間髪入れず魔法を発射。綿菓子のようなエフェクト。睡眠の状態異常にする魔法「スリープ」。

 だが、その展開は予想済み。俺は側転で足に魔法を当て、これを回避。

 そのままフラワーフェアリーに斬りかかり、撃破した。


 その時、ルーン文字が集まったエフェクトの魔法が俺めがけて飛んできた。封印の状態異常にする魔法「シーリング」。ブライドが放ったものだ。

 スキルを封印されても俺のファイトプランには問題はねえが、受けるのも癪だ。何か想定外のことが起ってもうぜぇ。

 バク転してモーション避けした。



 サエラがハイディングを解除し、入口へ走り出す。バラはサエラ1人で大丈夫。



 バク転の着地と同時に、地面を強く蹴る。


「お前の相手は俺だ、ブライド!」


 教会の机を跳び移りながら、ブライドに迫る。

 ブライドが別のワンドに持ち替えた。


「てめぇの戦略、崩してやる」


 跳びながら装備ウインドウを起動。


 ブライドの近くまで来た。ここで机から跳び上がる。狙うは、浮遊しているブライドの足。ロングソードを右手で振り上げる。

 敵はすました顔のまま魔法を発射。至近距離。もう避けられない。


「甘ぇ」


 狙い通りの展開。左手で装備ウインドウを操作。

 魔法に当たるよりも早くロングソードが消える。装備を解除したのだ。


 そのまま、ブライドが着ているウエディングドレスの裾をがしっと掴んだ。

 非力なブライドは俺ごと飛ぶことはできない。バランスを失い地面に墜落。

 すぐさまロングソードを再装備。ブライドを刺して撃破成功。



「やっぱ、ブライドは面白ぇ!」


 ブライドは多彩な魔法を使う上、臨機応変に戦ってくる。

 特にやっかいなのが「エンチャントアース」。この魔法をかけられた武器は土属性になってしまう。自分の武器に土属性を付与するだけでなく、プレーヤーの武器にも土属性を付与しようとするのだ。

 ジューンガーデンのMobは土属性を軽減するものが多い。だから、エンチャされると火力が大幅に減少するのだ。ブライドにいたっては土属性倍率が0倍なのでダメージが全く通らなくなる。

 しかも、エンチャントアースは支援魔法であるため、エフェクトに当たってしまえば絶対に土属性になるのもやっかいだ。


 そこで、俺はエンチャのタイミングを見計らい装備を解除した。エンチャの対象は武器なので、武器がなければ不発に終わってしまう。エンチャを不発に終わらせれば、後は簡単に倒すことができるという算段だ。




 入口を見る。サエラとバラの戦闘は終わっていた。

 ブライドのドロップを確認、白い服が地面に落ちている。急ぐ必要もなかったが、慌てて拾った。


「ドロップはブーケだったよー」


 サエラが駆け寄ってきた。


「いい物手に入ったぞ。インベントリを見てみろ」


 JAOでは、拾ったアイテムは自動的にパーティメンバーに振り分けられる。


「無いよー。レイ君が当たったみたいだね」


 サエラの言葉を受けて俺もインベントリを調べる。さっき拾った服があった。


「よっしゃあああ~! 久々のプレミアムドロップ当たったー!」


 雑魚Mobのドロップは、ノーマルドロップ、レアドロップ、プレミアムドロップの3段階に分かれている。Mobを倒すと必ずいずれか1種類をドロップするのだ。

 ノーマルドロップは89.99%。レアドロップは9.99%。プレミアムドロップは0.02%の確率となっている。


「おめでとう~」


「めちゃくちゃ嬉しい! ほんと、めっきりごぶさただったからなぁ」


「レイ君がプレミアムドロップをゲットしたのって、いつ以来?」


 サエラに聞かれて、この世界に来てからのことを思い出す。あれは確か……初日ククリクで……。


「……忘れちまったなぁ」


 クソみてぇな思い出は忘れるに限る。



「それより、何出たの?」


「こいつだ」


 サエラに質問されたので、ドロップ品を見せた。


「うわぁ~~。ウエディングドレスだぁ~」


 サエラはキラキラと目を輝かせて見つめている。


「これはプレゼントできねーぞ」


 ウエディングドレスはU相当のレアリティの服だ。しょせん服なので見た目以外変わらない趣味装備にしかすぎない。だが、高い布地が大量に必要なうえ、高dexのキャラでも作るのが難しいため、レアリティは高くなっている。


「分かってるよ~。でもいいなぁ~」


 サエラは指をくわえて見ている。


「ねぇ、レイ君。ウエディングドレス、全身が分かるように持ってみてくれる?」


 サエラに頼まれて、ウエディングドレスの肩の部分を上に掲げて持つ。


「やっぱり素敵だなぁ~」


 しばらくサエラはうっとりと見ていた。



「決めた。私、これ買い取る」


「マジで!? 売値で15Mぐらいするんだぞ」


 Mというのは100万のことだ。既製品とはいえ、Uランク相当。おいそれと買えるものじゃない。


「売値なんて、レイ君に失礼だよー。ちゃんと買値で買うから」


 NPC売りの値段は買値の半分だ。つまり30M程度ということになる。

 さすが、ぼったくり高級羽毛布団を惜しげもなく買ったやつだ。金の使い方が俺とは全く違う。実用品なら俺もポンと出せるけど。


「ウエディングドレス、今すぐ貰えるかな。お金はちゃんと――」


 サエラの話の途中でウエディングドレスを渡した。俺たちの仲だ。別にブツを先に渡しても構わねえ。


「ありがとう~。嬉しいなぁ~」


「別に。こっちこそ、買値で買い取ってくれてありがとうだよ」


 30Mの臨時収入は非常にデカい。夢にまた一歩近づいた。



「レイ君、お願いがあるんだけどいいかなぁ……」


 なぜか頬を赤らめるサエラ。声もいつもの3倍増しで甘い。


「30Mで買っていただいたお客様に対して、サービスしてやらぁ」


「じゃあ……結婚式ごっこ、してくれる?」

次回は3月20日の12時頃に更新の予定です。




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