1-10 ゴブリンで実験3
さらに実験を続ける。サブ技能ウインドウを呼び出して武器製造を開始。
JAOでは武器を製造するのに5分程度要する。この間、金属塊を叩いたりする作業を行うのだが、作業が途中で中断されるとその時点で製造は失敗になる。JAOではもちろん、武器製造は敵のいないエリアで行われる。
それでは、敵がいるエリアで製造を行ったらどうなるのか。具体的には、ダメージを受けたり、物理的に作業を邪魔されたりすることで、製造は失敗になるのかが知りたい。
火の魔石を使って何もない空間に火を起こした。
それを見たゴブリンは一瞬そちらに視線を集中させたが、特に気にする様子もなく襲いかかってくる。
いいぞ、その調子だ。殴りかかって俺の作業を妨害しろ。
作業を開始して30秒ほどが経過。俺のイライラは頂点に達していた。
ゴブリンたちは相変わらず攻撃を仕掛けてくる。おかげでHPバーは4割近くまで減った。
だが、ゴブリンたちは遠巻きにちまちま攻撃を当ててくるだけで、作業を妨害する気配がない。JAOでは攻撃を当てさえすればダメージが入るんだから合理的っていっちゃあ合理的だ。
ゴブリンたちは4体で俺を囲んでいるんだから、体を押し付けてきたり、腕に向かって攻撃してきたり、作業の中断になるようなことをしてくると思ったんだけどなぁ。やる気あんのか! もっと踏み込んで殴ってこいよ!
まだ10、20秒は持ちこたえられるだろう。そのうちゴブリンたちも作業中断につながるようなアクションをしてくるかもしれない。でも、それまで待ってられるかよ!
「あ~っと、押されてこけちまったぁ~」
ゴブリンがナイフでつんと突いたと同時に、手にした金鎚を放り投げ、わざとらしくオーバーにすっころんだ。すると、ガチャンという金属がつぶれる鈍い音がして、金属塊と金鎚が消滅した。製造失敗。
……ま、これで結論は出たな。ダメージを受けても製造は失敗しないが、物理的に作業が中断されたら製造は失敗する。
Mobのいるところで製造するとは思えねえけど、せっかく貰った俺だけのチートなんだ、仕様は完璧に把握しとかねえとな。
実験も済んだので、ロングソードを装備してゴブリンをあっさり殲滅。たいまつで地面を照らしてドロップアイテムを確認する。
JAOではMobを倒すとアイテムをドロップするのだ。魔石をはじめ、生産素材や武器、衣装、インテリア用品、食料、その他アイテムをドロップする。
Mobを倒してもガチャを引いても、この世界の通貨であるマネは手に入らない。マネを手に入れるためにはアイテムをNPC商人に売却しなければならないのだ。
ゴブリンはNランクのナイフをドロップすることがある。Nナイフはタゲ取りをするのに使われることもあるから拾っておくのも悪くない。
目を凝らして地面を見つめると、小さな宝石を発見。それを見た俺は思わず息を呑んだ。
ボス以外の雑魚Mobのドロップは、ノーマルドロップ、レアドロップ、プレミアムドロップの3段階に分かれている。Mobを倒すと必ずいずれか1種類をドロップするのだ。
ノーマルドロップは89.99%。レアドロップは9.99%。プレミアムドロップは0.02%の確率となっている。ドロップ確率が低い分、プレミアムドロップはレアリティがかなり高い。
ゴブリンのドロップテーブルは、ノーマルは枝、レアはNナイフ、プレミアムは滅ゴブリンの魔石Nだ。
ゴブリンが落とす魔石は1種類。ということは、足元に転がっている宝石は――プレミアムドロップ。
「レア運、こんなところで使うんじゃねえよ! クソがぁ~!」
静かな夜の森に俺の魂の叫びがこだました。
Mobにも武器や魔石同様、ランクが設定されている。当然ランクはN・HN・R・HR・S・HS・SS・U・HUの9種類。
ゴブリンのランクは最弱のランクであるNだ。
そして、Mobのランクに応じて、ドロップアイテムのレアリティも上がる。
つまり、ゴブリンのプレミアムといっても、しょせんNMobのプレミアム。大した価値はない。
こうして、異世界の熱烈すぎる歓迎を受けた俺は、とてもへこんでしまったので、おとなしく宿屋に戻ることにした。
◇今回のJAOのシステム説明まとめ
製造が中断されると製造失敗する。
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