風鈴少女とリバイバルゾンビ
彼女の話をしよう。
極東からの留学生で、呪術に長けた家系であり、風鈴が好き。
これは、そんな彼女の物語。
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ヒトより優れているこの視界は、見ようと思わなくても様々なモノが視えてしまう。
だからこそ遠くに意識を飛ばすコトでソレらを認識しないようにしつつ散歩したりするコトも多いのだが、しかしだからといって見捨てるコトが出来るというワケでもない。
「あ、あの、見えていますか……?お願いします、見えててください……!アナタはあの学園の生徒、ですよね……!?」
……というかこうも目の前で懇願されて無視すんのキッツイですわー。
十五歳くらいに視えるゴーストが目の前に浮いた状態で泣きながら必死に懇願。
元々押しに弱く、困っているようだったらつい助けてしまう自分の性格はとっくに自覚済みなのだ。
「……ええ、視えてますわよ」
つまり、応じるしか自分の中に選択肢が無い。
「ほ、本当ですか!?僕のコト、見えてますか!?声も……!?」
「見えるし聞こえますわよ」
自分の場合は殆ど字幕効果に頼っているので、聞いてるというより見ているに近いのだが、まあ意志疎通は出来ているから良いだろう。
そう思って答えると、ゴーストはとても嬉しそうな笑みを浮かべた。
「良かった……!やっと、やっとわかってくれるヒトに出会えました……!ずっと話がしたくて、特にあの学園の生徒には頻繁に話し掛けていたのですが……僕を見てくれたのは、アナタが初めてです」
「……えーと」
自分が居るのは、王都の端にある見晴らしの良い原っぱだ。
王都を見渡せる位置にある為結構生徒の利用率も高い。
そしてあの学園の生徒となるとゴーストが視える生徒率は結構高いと思う、が。
……あの懇願の仕方からすると、確実に厄介事ですものね。
恐らく一部は視えていたのだろうが、面倒事に巻き込まれるのを拒絶して見えない振りをしたらしい。
まあソレは無理もないというか、自分も見ない振りをするコトはよくあるので問題は無い。
問題は、私服である自分をどうして学園の生徒だと判断出来たのかの部分だ。
「あの、どうしてわたくしが学園の生徒だと?」
「その、僕は生前からずっとあの学園に憧れていて……生前の僕は病弱だったせいで通えませんでしたが、ソレでも憧れはまだあるんです。ソレで……ここからずっと、見ていました」
「……成る程」
ずっと見ていたのであれば、現在三年生である自分を覚えるくらいは出来るだろう。
ここから学園は結構距離があるので肉眼でソコまで詳しくは見れないだろうが、まあ相手は肉眼ではないゴーストなので普通にあり得る。
「ソレで、わたくしに……というか、あの学園の生徒にナニか御用ですの?」
「あ、そうでした!あの、その……」
ゴーストはもじもじと指先を動かしながら、血流もナニも無いハズなのに半透明の頬をほんのりと赤く染めて言う。
「い、生き返るコトって出来ます、か……!?」
「まあ条件次第で出来なくはありませんわね」
「あっさり……!?」
驚かれたが、事実なので仕方がない。
「既にアナタはゴーストという魔物になっているので、人間として生き返るのは無理ですわ。でもぬいぐるみや人形などに入るコトで器を得て動いたりとかはできますの。コレも一種の生き返りに近いですわ」
まあ肉の器では無いのだが。
「あとは生前の肉体を復活させるゾンビタイプとかありますわね。もしくはいっそ新しく別のボディを用意してもらってその中に入るとか?」
「す、凄くさらっと言います、ね……?」
「エ、そういう話じゃありませんの?」
「そういう話ではあるんですが……」
うーん、とゴーストは空中で逆さになりながら顎に手を当てて唸る。
「蘇生に関してというモノは、かなりアウトゾーンだと思っていたのですが……」
「戦力だの奴隷だの云々で蘇生しようってんならアウト判定ですけれど、まあゴーストがソレを望んでるなら人間で言う好きな服が欲しいくらいのお願いだから良いよね、みたいなガバガバさですわ」
「思ったよりもアバウトな……!」
「ただまあ、専門家で無いと蘇生させても不便が大きいとは思いますが」
「例えば……?」
「五感が二つ三つ足りないとか、内臓が無いとか、骨だけとか、めっちゃ腐るとか、関節が固まるとか……言い切れないので省きますけれど、まあその他諸々」
「お、思っていたよりも不便が多いのですね……」
デメリットを正直に話し過ぎたのか、ゴーストはさっき以上に唸り始めてしまった。
「というか、蘇生してナニがしたいんですの?」
「え、あ、そ、その……」
ゴーストは視線を逸らし、下に見える学園をチラリと見た。
「……生前は中々ベッドからも起き上がれなくて、通えませんでしたから……。学園に行けたらなあ、と……」
「……んー……」
とても純真無垢な願いなので叶えてあげたいのは山々だが、どうしようもない問題が一つ。
「でもあの学園、魔物は生徒扱いされないんですのよね……」
「あ、ソコは理解しています」
どうやら既に知っていたらしい。
「僕としては学園の中が見れれば……あとちょっと授業を聞くコトが出来れば……他にも出来るならヒトのお手伝いなど健康なら当然のように出来るコトとかが出来ればと……」
「思ったより願いがあるというか、ソコお手伝いで良いんですの?」
「一人で起き上がるコトも出来なかったから、生前はいつも誰かに面倒を掛けさせてしまっていたので……」
苦笑しながらそう言うゴーストに、自分の中にある良心がギリギリとツイストしているような気がする。
「……オッケー、わかりました、わかりましたわ。図書室で蘇生関係ちょっと詳しく調べてみますわね」
「本当ですか……!?」
「あと教師に聞いたり……最高なのはゲープハルトに頼むコトですけれど、まあソコは期待しないでおきましょう」
あのヒトは神出鬼没なトコがある。
「まあどうであれ結局専門家を呼ぶなりして頼んだ方が良い気もしますし……頼めそうな方が居たら頼んどきますわ」
「お願いします……!」
「ちなみに蘇生に一番重要な部分なんですけれど」
「ハイ……?」
「アナタの死体はドコですの?」
「ソコです」
自分の質問に、ゴーストはソッコで近くにある小さい墓を指差した。
……あー、アレそうだったんですのね。
人間の墓なのはわかっていたが、大分原型が崩れていたので同一人物だとはわからなかった。
ゴーストの場合血流などが無い分判別がしにくくて困る。
……生き物であれば細胞だのDNAだのまで視えるから判別出来ますけれど、死後はそういうのから切り離されてるせいで視えないんですのよね。
「元気だった時、ここから見渡すのが好きだったので家族がここに埋めてくれて……」
「成る程……。火葬と土葬、どちらですの?」
「土葬でした」
「オッケー、なら比較的蘇生はしやすいと思いますわ」
頷き、最善は尽くすと約束して自分は学園へと戻った。
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現在談話室で、極東からの留学生であるリンインと向き合い無言状態になっている。
何故こうなったのかと言えば図書室で蘇生系の本を読み漁っていたら一年生の時のルームメイトであるヒナコに声を掛けられ、事情を説明したら現在ヒナコのルームメイトらしい彼女を紹介された、という経緯なのだが。
……リンイン、いつも忙しそうだからあんまり話したコト無いんですのよね。
「……ジョゼ」
オレンジがかった暗めの茶髪を揺らし、リンインは静かな目でこちらを見る。
「蘇生をしたい相手が居る、という話だと聞いたが」
「ええ、その通りですわ」
事実なので頷きを返す。
「学園に通いたかったらしいゴーストに、蘇生してほしいって頼まれたんですの。本魔としては生前病弱だったから、学園で色々見たり、授業聞いたり、あと誰かの手伝いなどをしたいそうなので問題無いと思いまして」
肉体ゲットして暴れたい系の場合は蘇生もアウトだ。
というか基本的に蘇生はグレー枠であり、相当生き返りたい!と主張する相手にのみオッケーという扱いとなっている。
……まあ、生き返らない方が行動にバリエーションあるコト多いですものね、ゴーストの場合。
「……手伝い?」
「生前病弱だったからこそ、お世話になった分働きたいとか」
「ふむ」
リンインは何故か懐から風鈴を出し、チリンと鳴らした。
いや、彼女が懐から風鈴を出して鳴らしているのはいつもだが、何故このタイミングで鳴らしたのだろう。
……まあ、風鈴が好きだというコトは知っていますから、リンイン風のリラックス方法なんでしょうね。
「……基本的に私の家はしきたりが厳しく、特に呪術を用いる家系だからこそ蘇生などそう簡単にやってはならん」
「エ、あ、ハイ」
「だが私は私の家系が得意とする式神を作れない為、自分の時間を削るコトで学園の授業と家から送られる勉強をこなしている」
「ん、んん?」
成る程だからいつも忙しそうに勉強しているのかと思ったが、ソレがどういうコトなのだろうか。
「…………端的に言うとだな」
リンインは真面目な表情でチリンと風鈴を鳴らし、言う。
「私の仕事を代わりにやり、日常のサポートもしてくれるような式神になってくれるなら、そしてまだ専門家に頼んでいないのであれば私が蘇生をしようというコトだ」
「……式神って、わたくしがですの?それともゴースト?」
「流石に生者を式神にするのは無理だ。一度殺さねばならん」
「じゃあゴーストってコトですわね」
「ああ」
「でもソレに関してはゴースト本魔がオッケー出すかどうかですけれど……」
「条件は一致していると思うが」
確かにソレは思った。
「ソレに蘇生させたとしてもキョンシーのような……こちらではゾンビか。ゾンビのように死体のままだからこそ放置しておけば腐敗する。対策も無くは無いが、処置出来る私がそばに居た方がソッコで対応出来ると思うが」
「うーん……」
「関節の動きを補助したり、視覚や聴覚が問題無く動くようにも可能だ」
「とても重要なコトなんでしょうけれど、わたくしに言われても困りますわ。本魔に言ってくれないと」
「……そういえばそうか」
ふむ、とリンインは頷いた。
同時に彼女が持っている風鈴がチリンと音を鳴らす。
「では案内を頼む。私がそのゴーストの元まで行き、話をつけよう。条件が一致している式神候補を逃してなるか」
「最後本音漏れてますわよ」
そして相変わらずリンインとは言葉のキャッチボールが出来ている気がしない。
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移動中に色々と説明を終えゴーストの居る原っぱに到着し、リンインはゴーストをじっと見つめる。
どうやら呪術関係に長けているだけあってゴーストを視るくらいは普通に可能らしい。
「え、ええと……?」
「あーっと、その、蘇生関係の専門家もやってる感じの家系の子なんですけれど」
「リンインだ」
「ど、どうも……」
腕を組んで仁王立ちしているせいで謎の圧を発しているリンインにより、ゴーストはどう反応したら良いのかわからず怯えているようだった。
実際自分もこんな人間が急にやってきたら怯えるしかないと思う。
「では単刀直入に言うが、生きた健康体並みの死体として蘇生してやろう」
言動に内包された矛盾が尋常じゃない。
「その対価として私の式神となり私が跡継ぎになる為の勉強や修行のサポートをしてほしい」
「ハイ……!?」
「そうか、即答してくれるか」
「いや今の困惑から出た言葉だと思いますわ」
「ナンだ、つまらん。いっそ言質を取ったと契約してしまっても構わんが、そうすると後々禍根を残すからな。キチンと手順を踏まねば」
「うん、色々漏れてるってかマジでソレやったら後々どころかソッコでいざこざ起こると思いますわよ」
何故か返事の代わりにチリンという風鈴の音で返された。
リンイン曰く彼女の家系で用いられる呪法などには相性の良い道具が必要であり、リンインの場合は風鈴が一番相性が良かったから持ち歩いているそうだが、結局ちょいちょい鳴らす行動はナンなんだろう。
……まあ、人類は大体狂人だと考えると、理由考える方が頭疲れそうですわね。
「え、ええと……つまりどういう……?」
「つまり、生者レベルに体が動くゾンビとして蘇生させるから私のサポートをしろというコトだ」
「で、ですがその、僕は生前出来なかった勉強をしたくて……」
「私は家を継ぐ為に毎日勉強をしているが全ての授業に加えて家から課せられた分もしなくてはならず正直キツイ。故に貴様にサポートをしてもらいたい」
「サポートと言われましても……」
「具体的には予習すべき部分を先に確認して学ぶ順番をわかりやすく整えたり、勉強をしている際に茶を淹れたり食事を運んだり、または役立ちそうな知識を仕入れるコトで私に助言したりという立場だ」
「やります!」
「ア、やるんですのね!?」
しかも大声で即答したと同時にリンインの手を両手でガッシリと握っている。
ゴーストが視えるのであればゴーストに触れるコトも可能だったりするとはいえ、自分からリンインの手を握り締めるとは相当にゴーストからの念が強かったらしい。
「あの、あの、本当ですよね……?本当に、勉強して良いのですよね……?」
「寧ろしてもらわねば困る。私が式神に求めているのは私に出来ない部分を補うという役目だ」
「そういうのに憧れていたんです……!」
……ノリにまったくついていけませんわ。
まあ本人と本魔が良いなら良いとしよう。
今日も空が青くて広くて美しい。
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コレはその後の話になるが、ゴーストは無事健康な死体として蘇生され、リバイバルゾンビという新種の魔物になった。
ちなみにリバイバルゾンビという種族名は自分が命名した。
「ジョゼ、彼の種族名を決めてくれ」
ゴーストがゴーストじゃなくなって早々にリンインからそう頼まれたのである。
「……いや、極東もキョンシーとかいう魔物居ますわよね?」
「キョンシーとは違うからな。反魂法であり蘇生術ではあるが、ソコに式神にする為の術式を混ぜつつ自分流にやった。
更にコレから万全のサポートを任せられるよう目玉に視力を与えたり関節が死後硬直せぬよう施したり腐敗防止したりせねばならぬのだ」
「うん、つまりほぼほぼ新種だというコトはわかりましたわ。でも式神って、要するにアナタのパートナーになるワケでしょう?ならアナタが名付ければ良いじゃありませんの」
「……名前とは、とても重要なモノでな」
「え、いきなりいつも以上の真顔でナンですの一体」
「名前とはそのモノをカタチ作るモノであり、逆に言うと名前が無いと別の名前で上書きされるコトもあるのだ」
「う、うん?」
「コレは大昔の話だが、かつて名も無い不定形の魔物に対し「肉便器」と名付けた者が居た」
「にくべんき」
「当時は性が乱れていたという前提があったからやもしれぬが、その魔物が不定形の肉塊だったコトもあって無駄にカチッとハマってしまい、悲惨にも見事肉便器という魔物として定着してしまった」
「にくかい」
「ちなみに途中トバして結論を言うと肉便器という名称を付けられたソレは性欲の捌け口にされたらしくその種族名とも合わさって色欲に溺れヒトを襲い始めたからというコトで焼却処分となった。
故にソレ以来、二度と面白半分で適当な名を付けるという愚行はしないようにという教訓が私達の界隈で語り継がれている」
「つまり?」
「種族名を新しく付けるとか責任重大でイヤだ」
「ソレをわたくしに任せようとしてる自覚ありますの!?」
まあイヤそうな表情とはいえあのリンインが珍しく真顔以外の表情を見せたからというコトで、とりあえずリバイバルゾンビという案を出したのだ。
さてそのリバイバルゾンビだが。
「リバイバルゾンビ、資料を寄越せ。縦伍横拾弐」
「たてごよこじゅうに……ええと、ハイ、コレですね……!」
「ああ、合っている。助かった」
「……いえ、難しい資料をすぐに覚えれるようにと、リンイン様が僕の為に番号を振ってくださったお陰です……!」
リバイバルゾンビは談話室で勉強するリンインのサポートをしつつ、とても満足そうに笑みを浮かべていた。
「ああ、モノを手渡す……たったコレだけのコトすら出来なかった生前に比べ、死後である今はナンと幸せなのでしょう……!」
「幸せを感じているトコロ悪いが、今晩は身代わり道具作りの実践をさせるから覚えておけ」
「と、とうとうアイテム作りの実践を……!?」
「ああ、貴様は眠りが必要無いのを活かして積極的に学んでいるようだったからな。当然ながら初歩の初歩である、ちょっとしたダメージを一回代わりに受けてくれるという程度のモノだが。不満はあるか」
「いえ、そういったコトもやらせていただけるだなんて……とても、とても嬉しいです……!」
「……そうか」
将来的にこの学園の教師になっていてもおかしくないレベルでゴーイングマイウェイなリンインだが、学びたいし誰かの為になるよう動きたいという思いがあったリバイバルゾンビとは良い感じで過ごしているらしい。
どうやら思っていた以上に相性が良かったようでなによりだ。
ただ、死んでいる為ヒンヤリしているのが気持ち良いという理由で当然のようにリバイバルゾンビの膝の上に座っているリンインには、色々とツッコミたい。
リンイン
名前は漢字で書くと鈴音という文字。
極東出身だが異世界的に言うと日本では無く中国的なトコからの留学生。
リバイバルゾンビ
学びたいし誰かの役に立ちたいと思っていたので、色々なコトを学べるし任せてもらえるし役立てる現状がとても楽しい。
実は生前は車椅子とはいえ原っぱに行けるくらいには動けたのだが、過保護過ぎた親によってモノを持つコトすら駄目と言われ、使用人に世話をしてもらえる程の財力もあったせいで不満の多いベッド生活を強制されていた。




