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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
三年生
88/300

貴族少年とソウルイータープラント



 彼の話をしよう。

 貴族の一人息子で、庶民派で、ご家族からとても大事にされている。

 これは、そんな彼の物語。





 談話室で向かい合いつつ、アルノリトと情報交換をする。



「ジョゼフィーヌが欲しいと言っていた証拠品はコレでよろしいでしょうか」


「ええ、完璧ですわ。コレでお兄様達のお仕事が楽になります」



 アルノリトは自分と、というかエメラルド家と同じように庶民派な家柄の貴族だ。

 なので前時代の遺物でしかない、家柄にモノ言わせて悪を成す輩を潰す為に時々こうして情報交換をするのである。


 ……いえまあ、流石にコレはわたくし達がやるコトでも無い気はしますけれど。


 ただ親の場合は立場的な問題やヒトの目もあるので、こうして部外者無しで接するコトが出来る学園という場はとても助かるのだ。

 親への手紙で近況報告ついでに得た情報を混ぜれるし、お土産とセットで証拠品も渡せるし。


 ……そして放置しといて良いコト無いからこそ、早めにどうにかしときたいんですのよねー。


 ただでさえ前時代の遺物共がいらんコトしやがったせいで貴族への偏見があるコトも多いので、出来るだけ早くどうにかしたい。

 王都のヒト達や学園の生徒達はその辺りまったく気にしていないが、新入生には時々貴族と聞いて怯える子もいるのだ。


 ……ソレもコレも、前時代の遺物共がまだ蔓延ってるせいですわ!


 完全に過去の話であればそういったコトも無いのだろうが、完全では無いからこそそういったコトが発生する。

 つまりコレは偏見や逆恨みなどで自分達が面倒事に巻き込まれない為の自衛行為だ。



「ホント、どうしていちいちこうやって証拠品を確保しなくてはいけないのやら……」


「極東では古狸は化かすのが得意と言いますから、こちらでも同じなのかもしれませんな」



 アルノリトも中々言う。

 だが言いたくなるくらいに面倒臭いし多いし厄介なので無理もない。



「マスター、ジョゼフィーヌ。そうイライラなさっていては心身の成長にも差し支えかねませんよ」



 優しい声でそう言ったのは、アルノリトのパートナーであるソウルイータープラントだ。

 彼女は骨や魂を栄養源とする植物系の魔物であり、再生力と攻撃力が高いからとアルノリトの護衛兼お世話係としてメイドをしているのである。

 ちなみに見た目は蔦系の木が絡まるようにヒト型を形成していて、ソレにメイド服を着せた感じ。


 ……頭部はあれど顔のパーツが無いから、異世界である地球的に判断すると大分ホラーですわね。


 アンノウンワールド的には普通だが。

 異世界である地球で犬の散歩時間に歩いた結果トイプードルを見かけるくらいには普通である。



「マスターのルームメイトが教えてくださった店の紅茶を淹れましたから、まずはリラックスしてください。そうでないと、スムーズにコトが運ばなくなるかもしれませんよ?」


「確かに、ピリピリして僕達同士でうっかり喧嘩になっては目も当てられませんね」


「ありがとう、ソウルイータープラント。いただきますわ」



 青がかった灰色の髪を揺らしながら背もたれにもたれかかって笑ったアルノリトが紅茶を飲んだのに続き、ソウルイータープラントに礼を言ってからこちらも紅茶をいただく。


 ……あら、コレ雑貨屋の紅茶ですわね。


 アソコは安いのからお高いのまで色々と網羅しているし、期間限定商品を頻繁に取り扱っていて楽しい店だ。

 紅茶の中でも気に入っているベストテンに入るだろう馴染んだ味に、前時代の遺物共にイライラしてささくれ立っていた心が落ち着くのを感じる。



「……ふぅ、ああそうだ、思い出しましたわ」



 落ち着くと同時にふと頼まれていたコトを思い出し、アルノリトにノートを渡した。



「コレ、頼まれてた貴族の交友関係ですわ」


「おや、随分と早い」


「王都歩きながらちょっと視線向けるだけで全部()えちゃうんですもの……あと友人達に聞いたらかなりの情報が集まったんですのよね」


「流石はこの学年一番の人気者」


「そんな称号をゲットした覚えありませんわ」



 アルノリトが浮かべている笑みはからかっている時の笑みだったので、溜め息混じりにそう答える。



「あ、ちなみに相手を()た時に()えちゃった会話とかも全部書いておきましたけれど、役立つでしょうか」


「……なんと」



 少しの無言の後確認するかのようにノートを開いたアルノリトは、驚いたようにそう零した。



「まあまあまあ、コレはコレは……証拠としても使えそうですね」



 そんなアルノリトの横からノートを覗き込んだソウルイータープラントが、嬉しそうな声色でそう言った。



「マスターのご両親は随分とこの虫に悩まされていたようですから、このノートはさぞお喜びになるでしょう」



 顔があったらニッコニコだっただろう声色だ。

 ソレにしても悪とはいえ相手を虫扱いとは中々に、とまで考えて植物系魔物からしたら悪は虫か、と納得した。


 ……確かに、植物からしたら食い荒らすタイプの虫は悪であり敵ですわよね。


 受粉の手伝いをしてくれたり種を運んでくれるタイプの虫ならともかく、ひたすら食い荒らして潰しに来るような虫はただの悪だ。



「……ん、あら?ソウルイータープラントって親御さんからアルノリトの護衛兼メイドに、と言われてなったんですのよね?」


「ええ、そうですよ?」


「ソレどうかいたしましたかな?」



 両方に首を傾げられ、こちらもつい首を傾げてしまう。



「いえ、その場合親御さんの方を主認定しそうなのに、と思っただけですわ。ソウルイータープラントがアルノリトの親御さんのコトをマスターをご両親と呼んでいたのが不思議だな、と」


「ああ、成る程」



 納得したようにアルノリトが頷いた。



「僕の場合は、親が……というか、親族がもうクロでしたからね。今でこそジョゼフィーヌの目撃証言などのお陰でその親族は捕まりましたが、ソレまでは跡継ぎ的な問題で狙われる可能性があったのですよ」


「あー……」



 そういえば一年の時にアルノリトが誘拐されかけ、近くに居た兵士が助けてくれたが下手人を取り逃がしたのだ。

 ただし丁度自分が目撃していたのと、兵士側の助っ人として兄が呼ばれたお陰で自分の視力云々の説明をしてくれたお陰で証言を信じてもらえ、その結果のお縄だった。

 確かあの時に親御さんから直にお礼を言われ、それから気付けばこうやって情報交換をする仲になっていたのだ。


 ……ラスト、ナンかもう自然とこうやって情報交換してたから、キッカケがナニか思い出せませんわね。


 知りたい情報があると言われて答えたり、聞き込みして知った情報を伝えたりしていたのが始まりだった気もしないでもない。

 まあ武器屋兼情報屋な店主を頼ると相手にも情報が売られる可能性が、あの店主は学園の生徒贔屓なトコがあるので大丈夫だろうとは思うが、一応警戒しておいて損は無いだろう。


 ……情報聞こうとしてうっかり店で相手と鉢合わせとかイヤですものね。


 幸い自分はこの視力と我ながら広めな交友関係があるので、情報はすぐに集まる。

 そしてこの情報交換で得た情報は兄の仕事にも役立ち、結果的に自分の身の安全にも繋がるのでとても大事だ。



「なので僕を第一として考えてくれる護衛が居ると良いな、あとついでにお世話も頼めると良いな、と両親は思ったらしく」



 そう言ってアルノリトはチラリとソウルイータープラントを見る。



「そんなワケで主食である魂か骨、まあ僕は基本的に骨を食べさせていましたが、栄養さえ取れていればすぐに成長するソウルイータープラントが良いのでは、というコトで苗をいただいたのですよ」


「つまり、わたくしは確かにマスターのご両親にマスターを任されはしましたが、マスターはあくまでマスターだけなのです」


「成る程」



 確かに植物系は情に厚いコトも多いので、植物系魔物を選択したのは正解だろう。

 あと植物系魔物は容赦ない部分もあるので、護衛として考えるとその場合も正解。


 ……まあ、動物系魔物とかも大体似た感じですけれどね。



「では話を戻しますが」



 説明が終わったからか、そう言ってアルノリトは話を戻した。

 正直客観的に見ると他にも生徒が居る談話室で話すような内容では無い気もするが、少なくとも部外者が居ない分の安心感は強い。

 ソレにこちらの方が警戒すべき家の子とかも把握出来ている分、警戒がしやすいのだ。





 コレはその後の話になるが、先日渡したノートはしっかりと役立ったらしい。



「ジョゼフィーヌが渡してくれたあのノート、実に助かりました!」



 王都のカフェで、アルノリトはご機嫌な笑みを浮かべながらそう言った。



「正直どうしたものかと困っていた問題でしたから、あのノートのお陰で対策も色々と練れまして。実を結ぶのが楽しみです」



 まるで勉強に関してを言っているようだが、内容はただの前時代の遺物のアレな色々を書いたノートから得た情報でトラップ仕掛けたから引っかかるの楽しみ、という意味だ。

 このカフェは空間が異質な為外から覗けないので別に普通に言っても問題は無いと思うのだが、一応その辺りのメリハリは大事なのだろう。


 ……ま、ソレはソレとしてこのカフェだからこその安心感があるから誤魔化しつつでもその話題を出せるんでしょうけれど。


 安全が保障されている上に美味しいお茶と軽食があるというのはありがたい。



「おっとそうだ、この後はドコに行きましょうか。女性向けの服屋には疎くてですね」


「性別的にソレは当然だと思いますわよ」



 そんなアルノリトが着ている服は良心価格な服だ。

 自分の場合はシンプルに見えて装飾が細かい服を着るコトが多いのだが、彼はホントに安い服を着るコトが多い。


 ……ソレなのに高級品に見えるとか、生粋の貴族ですわよね。


 本人曰くそういうのを高そうに見せるのが好きだと言っていたが、貴族の気風が無くては不可能な技だろう。

 いまいち貴族らしくない自覚がある自分としては、羨ましいものだ。



「……あの、マスター?ソレにジョゼフィーヌにも言いたいのですが、わたくしはこのメイド服があれば着替えは充分で」


「却下します。僕はパートナーであるソウルイータープラントとデートしたいのですから」



 アルノリトは真顔でソウルイータープラントを見つめながらハッキリとそう言い切った。



「僕の護衛兼メイドであるのも事実ですが、僕のパートナーであるのも事実。そんな相手の仕事服以外の、例えばデート服などを見たいと思うのはオカシイでしょうか」


「男でも女でもそう思うのは当然だと思いますわよ」



 というワケで、と自分はソウルイータープラントにニッコリと微笑む。



「というワケでわたくしはアルノリトの味方してアナタに似合いそうな服とか見繕いますわ」


「いえ、あの……」



 ただでさえ同じテーブルに座っているだけで収まりが悪そうにもぞもぞしていたソウルイータープラントは、服を選んでもらうという奉仕される側のような役により一層おろおろして視線を彷徨わせるかのように頭部を動かす。



「……ヨロシクお願いいたします」



 そして二人して引かないのを察したのか、諦めたように頭を下げた。

 彼女は奉仕する側という意識が高いのかこういったコトに腰が引けがちだが、ほぼデートなお出掛けでもメイド服のままなソウルイータープラントなのだ。

 流石にデート服を一回で良いから見たい、というアルノリトの願いを叶える為に協力するくらいは許してほしい。


 ……まあ、一回で良いからの部分はソウルイータープラントには伝えてませんけれど。



「まずどういうのが良いか、ですわね。お値段は?」


「高いのだけは、高いのだけは……!この先早々着るコトも無い可能性が高いモノに対してマスターにお金を使わせるワケには……!」


「……と言っているし、実際高いモノだと気負いそうですからな。お手頃価格で」


「了解ですわ」



 ソウルイータープラントが両手を祈るように組んでプルプルしているのは可哀想に見えてくるが、しかしデート服でデートしたいという友人の願いを叶えてあげたいので見ない振り。



「と、な、る、と……服装のテイスト的には?」


「マスターの満足行くようお任せいたします……わたくしに自分用の服の良し悪しは判断が出来ませんので」


「ソウルイータープラントの性格的に汚したり破いたりしたら相当気にしかねませんので、ソレらを気にしなくて良いような」


「ソレならアニーお気に入りの店が良いかもしれませんわね」



 そう呟いて、地図を広げて丸を書く。

 見た目お人形さんのように可愛らしいがガサツと言える性格のアニーは、汚れても問題無い服を着ているコトが多いのだ。

 今はパートナーであるスカイゴールドフィッシュがコーディネートしているお陰で、適当に掴んだヤツ着たなというような昔に比べ、普通に可愛らしい服装になっている。

 買っている店は同じらしいので、組み合わせを気にしつつ汚れても問題無い服を選べば良いだろう。



「じゃ、お会計して行きましょうか。あ、ソウルイータープラントにはこの後ガッツリ着せ替え人形になっていただきますから、頼みたいのあるなら今の内ですわよ?あと覚悟も」


「その言葉がもう恐ろしいのですが……!」


「うふふ」



 女の子の服選びは時間が掛かるモノなので、今の内に覚悟を決めておいた方が良いのはただの事実である。




アルノリト

結構な家柄の貴族だが高級品があまり好きでは無く、市販品を当然のように使用している。

当然のように使用しているので一見高級品にしか見えず、要するに数千円コーデが数万円コーデに見える貴族の風格がある。


ソウルイータープラント

再生力と攻撃力が高く情に厚い上に、幼い頃から植物と触れ合うのは情操教育にも良いだろうと判断されてアルノリトのメイドに。

その結果当然のようにパートナー関係になったが、アルノリトの両親は信頼出来る相手だし混血増えてきてるからオッケーとあっさり認めた。


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