昼の管理人とアクティブスワロー
オリジナル歌詞が作中で出ます。
彼の話をしよう。
代々森の管理人で、朝と昼の担当で、毎日見回りをしては迷子や怪我した生徒を保護してくれる。
これは、そんな彼の物語。
・
学園の裏手にはとても大きな森があり、その森には管理人が居る。
この学園が出来た頃に森に入った生徒が怪我したり迷子になったりした為、管理人が必要だとなったらしいのだ。
そんな感じで代々管理人として続いているらしく、現在は二人の兄妹が管理人をしている。
兄のランベルト管理人は朝と昼の、妹のリンダ管理人は夜の担当だ。
……だから、リンダ管理人にはあんまり会わないんですのよね。
リンダ管理人は夜まで迷子のまま彷徨っている生徒だったり、夜に森を探索しようとする生徒を保護する担当である。
ただしその分午前中は眠くて仕方が無いらしく完全に昼夜逆転の生活を送っており、夜は普通に眠っている生徒達とはあまり顔を合わさない。
というか合わせる機会が無いのだが。
「ランベルト管理人、絵本持って来ましたわよー」
森と学園の丁度間にある管理人用の家の扉をノックし、そう声を掛ける。
そうすれば、すぐに扉が開かれた。
「よく来たな、エメラルド。さあ、入ってくれ」
黒みのある黄褐色の髪を揺らしながらそう言ってくれたランベルト管理人に続き、案内されるがまま室内にある椅子に座る。
ここは迷子状態で不安がっている子を保護した際にまず落ち着かせる為使用されるコトが多いスペースだ。
ちなみに奥にはランベルト管理人の部屋とリンダ管理人の部屋があり、ここは共同で使用されるキッチン兼リビングでもある。
……一応奥は立ち入り禁止になってますけれど。
自分の目だと、扉一枚くらいは余裕で透視してしまう。
なので奥がどうなっているかも、結構広めのお宅だというコトも視えてしまうのだ。
ちなみにリンダ管理人は絶賛爆睡中らしいコトも視えている。
「さて、飲み物でも……む、ジャスミンティーしかないな」
戸棚を見て眉を寄せそう呟いたランベルト管理人に、彼のパートナーであるツバメの魔物、アクティブスワローがスイッと肩に留まって首を傾げる。
「ねーねー、紅茶は?昨日出してたからあるんじゃないの?」
「そのハズなのだが、紅茶は昨日の迷子に振る舞ったのが最後だったらしい……エメラルド、ジャスミンティーは大丈夫か?」
「ええ、モチロン。というかお気遣い無く」
そう言うが、ランベルト管理人が頷いていくれないのはわかっている。
実際ランベルト管理人は首を横に振りつつ、慣れた動きでジャスミンティーを準備し始めた。
「客をもてなすのは礼儀だろう。特にエメラルドにはこちらが頼みごとをした立場なのだからな」
「確かにそうですけれど……完遂出来たからここに来たとは限りませんわよ?」
「お前は完遂せずに来る性格では無いだろう。どうしても手に入らなかったならともかく、その場合はもう少し目を逸らしているハズだ」
「よく見てますわね……」
「昔から色んな生徒を見ているからな。というかお前、さっき普通に絵本を持って来たと言っていたではないか」
そう言ってランベルト管理人は淹れたジャスミンティーを出してくれた。
言われてみれば確かに、ノックする時に言った気がする。
「最近の生徒は素直かつわかりやすい生徒が多くて良い。少々特殊だが」
「まあ、混血が増えましたものね。いただきますわ」
ジャスミンティーで喉を潤してから、頼まれていた本を渡す。
新品が手に入らなかったので古本だが、店主に頼んで一番状態が良いのを売ってもらった。
「ではこちら、頼まれていた「アクティブスワローと疲れた森」ですわ」
「おお、コレだ!」
ランベルト管理人はパァッと笑顔になり、嬉しそうにその絵本を受け取った。
大事そうにその絵本を抱き締める姿を見ると、古本とはいえゲット出来て良かったと安堵する。
「本当にお気に入りなんですのね」
「当然だとも!コレは私が幼い頃からの愛読書だ!」
「まあ、だからこその寿命だったんだけどねー」
絵本では無く本物のアクティブスワローは苦笑しながらそう言った。
そう、ランベルト管理人は幼い頃からこの絵本が好きだったらしい。
だがモノが壊れがちな幼少期からの持ち物で、ある程度モノを大事に出来るようになった時には既にボロボロ。
ソレでも大事に扱って読んでいたらしいのだが、とうとう限界が来て読めなくなってしまったそうだ。
……で、頼まれたんですのよね。
自分なら本関係に詳しいだろうからと頼まれたのだ。
一応自分でも本屋には行ってみたらしいのだが、そもそもあまり外へ出ないのでどの棚が絵本なのかとかもよくわからなかったらしい。
……まあ、古い絵本だから新品置いてませんでしたし、古本コーナー探してもどっちにしろ無かったとは思いますけれど。
自分が行った本屋はソコまで広くは無いので古本コーナーも寂しいくらい狭いスペースな為あまり探している本は置いてないのだが、しかしコアな客が多いからか店内では無い場所にはあるコトが多い。
要するに常連であるコアな客から古本として買い取ったが店内に置くスペースが無いからと店主のプライベートスペースに置かれていたりするのだ。
なので店主に頼み探してもらったトコロ数冊発見されたので、一番状態が良いモノを売ってもらった、というワケである。
……常連だからって気持ちお値段安めにしてもらえたのはありがたかったですわね。
一応この絵本は図書室にも置いてあるのだが、ランベルト管理人は手元に置いておきたいタイプらしい。
その感覚はわからなくもないので協力したのだ。
「おっとそうだ、代金を払わなくてはな」
絵本を嬉しそうに抱き締めていたランベルト管理人だったが、ふと気付いたようにそう言って顔を上げた。
「エメラルド、幾らだった?」
「安かったので代金別に要りませんわよ」
「そういうワケにはいかんだろう」
「そうそう、スワロー、こういう時はパーッと吹っかけちゃっても良いって思うよ!」
「いや吹っ掛けられるのは……まあ大して金は使わんし、この絵本は私にとっての宝なので払っても構わんか」
「要りませんし吹っ掛けませんわよ」
……わたくしをナンだと思ってんですの?
吹っ掛けるような性格に見られているのだろうか。
いや、寧ろソレをすすめられるというコトは金銭面に関して主張が控えめだからこそ吹っ掛けるように言われているのかもしれない。
だが正直困っていないのも事実なので本当に問題無いのだ。
「わたくし一応実家から仕送りありますし、そもそも翻訳とかでお金稼いでますもの。伝説の魔法使いであるゲープハルトからの依頼だとかなりの金額貰えたりで結構懐温かいですし」
そう、ゲープハルト関係は本当に凄かった。
翻訳する本の希少さにビビッていたというのに、その結果の収入も凄かったのだ。
正直あまりの額に胃が痛くなりそうだったので、大半は実家に預かってもらっている。
……余った分も殆ど友人へのプレゼントにして、どうにか胃痛を回避したんですのよね……。
「ソレにランベルト管理人には普段から友人達がお世話になってますし、その程度は当然ですわ。寧ろソレじゃ安いくらいですわよ」
「世話になっていると言われても、こちらとしては仕事なのでな……」
「あー、んー、じゃあ今度見回りに同行させてくださいな。ソレが代金というコトで」
「ソレで良いなら私も良いが……」
「エメラルド、もっと欲出せば良いのにー」
一人と一羽にそう言われても、そもそも欲がいまいち無いのだから仕方が無い。
コレは天使の遺伝なのだし。
「……じゃあ、ランベルト管理人とアクティブスワローの馴れ初めを聞かせてもらう、とか?」
「ナンだ、そんなコトか?」
「そんなコトくらいならスワローもランベルトも普通に話すし!エメラルドはもっと欲深く生きた方が良いよ!」
「欲深くって天使の対極なんですのよー!」
バサバサッとこちらの目の前で羽ばたいて主張するアクティブスワローに、こちらも負けじと主張した。
コレはもう本能や性質なのでそう言われてもどうしようも無いのだから。
というかここを揺らがすコト自体アイデンティティに影響ありそうなので引き下がれないのが実情である。
・
マフィンをアクティブスワローに差し出して食べさせつつ、ランベルト管理人は語り始める。
「さて、馴れ初めだが……まだエメラルドも生まれていない頃に、一度森が弱ったコトがあってな」
「そんなコトがあるんですの?」
「ワリとそれなりに。栄養を広範囲から吸い取るタイプの害魔や、植物を休眠状態にさせる害魔……まあ、その辺りだ。もっとも害魔はソッコで討伐されたのだが、森の回復が遅くてな」
病気によってはすぐに治ったり長引いたりとムラがあるようなものだろう。
「放っておいても回復はするだろうが、代々この森の管理をしている家系が放置しておくワケにもいかん。というか森の場合は回復こそすれども時間が掛かるのが大半だ」
「あー……」
確かに樹齢何百年がザラである森からすれば、そうなるだろう。
木からすれば数日のような感覚でも、寿命が桁違いに少ない人間からすれば数年など余裕で過ぎる。
「なので、私はアクティブスワローを探し、森を回復させてくれと頼んだのだ。……アクティブスワローの特性は知っているか?」
「ええ、モチロン」
アクティブスワローとは、植物を活性化させるコトが出来るツバメの魔物のコトである。
その上植物達の調子も察せる為、森を調べるヒトが協力を要請するコトは多い。
「まあ、スワローは他にも良い魔物いるんじゃないのって言ったんだけどねー」
マフィンを少し食べて満足したのか、アクティブスワローは羽繕いをしながらそう言った。
「スワローが居た場所とここって結構距離あったから、ナンでわざわざここまで来たのって聞いたら、ナンて言ったと思う?ヒントはランベルトの愛読書!」
「もしかして、憧れからこういう時に頼るなら折角だしアクティブスワローに……!という感じだったんですの?」
「…………」
ランベルト管理人はギギギと錆び付いたような動きで顔を背け、小さい声で言う。
「……その通りだ」
……顔真っ赤ですわねー……。
顔を背けて隠しているつもりなのだろうが、自分の目からすれば普通に視える。
まあ本人的に隠しているつもりというのが重要なのだろう。
「で、ソレ話されたらスワローもちょっとソワソワしちゃうじゃん?だってアナタの種族に興味がありますファンです好きです!って言われたようなモンだし!」
「確かに」
異世界の自分が舞台とか声優系だと考えるとめっちゃわかる、とヘッドバンキングしているのでナンとなくわかる。
「スワローはスワローで元々植物の調子探ったりするの好きだったし、違う場所とか行きたいなーって思ってたしね。
ランベルトは最初からこっちに対する好感度高かったし、スワローからの好感度も良い感じで、その上ご飯とかも用意してくれるってなったら頷くしかないっしょ!」
「成る程」
生き物系魔物は食べ物が無いと死ぬからか、結構食べ物で頷くパターンが多い気がする。
まあ重要なコトなのだろう。
「そして、私はアクティブスワローをパートナーにしてここに帰り、森の回復を協力してもらい……というのが大体の馴れ初めだな」
照れから回復したのか、照れてなんていませんよというような表情でランベルト管理人が会話に復活した。
肩に留まっているアクティブスワローがそんなランベルト管理人を微笑ましそうにニヤニヤしながら見ているが、ツッコまないでおこう。
ここでツッコんで甘々フィールドを展開されたら困るのは自分なのだから。
・
コレはその後の話になるが、約束通りランベルト管理人とアクティブスワローによる見回りに同行させてもらった。
「雨が降るのは良いコトだ
後ろの彼はそう言った
喉は渇かず 植物育つ
生きる為にも必要だ」
特に雨は降っていない普通の晴れ模様なのだが、ランベルト管理人は見回りをしつつそんな歌を歌っていた。
「雨が降るのは良くないな
隣の彼はそう言った
髪はうねるし 服は濡れるぞ
ソレはそんなに必要か」
この歌の選抜理由は特に無いらしいが、見回りの最中にランベルト管理人が歌う理由はある。
「雨が降るのは良いコトさ
後ろの彼はそう言った
でんでんむしの水遊び
コレはとっても楽しいよ」
迷子の子や怪我をしている子の場合、体力温存かつ害魔などに見つからないよう小さくなって大人しくしている場合が多い。
「雨が降るのは好きじゃない
隣の彼はそう言った
泳げなければ溺れてしまう
生きる為にもいらないな」
だからこそランベルト管理人は見回りの度にナニかしらの曲を歌い、居場所を主張する。
「ソレより晴れが良いと思う
前で隣の私が言った
晴れれば全部解決だ
お日様無ければ死んじゃうよ」
そうするコトで見回り最中のランベルト管理人に気付いた迷子や怪我人が助けを求めるコトが出来るからだ。
「前と隣と後ろで話そう
取り留めの無い天気の話
晴れ雨雪で、雷は駄目
最後は曇りで手を打とう」
この曲は過ごしやすいのはどの天気だろうとだらだら話している三人の歌だ。
森を歩いている時によく聞くのでランベルト管理人のお気に入り曲なのかと思っていたが、こうして見ているとアクティブスワローのお気に入りだったらしい。
その証拠に、アクティブスワローはランベルト管理人の肩の上でとても楽しそうにリズムを取っていた。
ランベルト
代々学園の裏手にある森の管理をしている家系であり朝と昼担当。
アクティブスワローという種族が幼少期から好きで、パートナーになるくらいには大人になっても大好き。
アクティブスワロー
元々は遠くの森に居たが、デメリットが無かったので結構あっさりオッケーを出した。
そしてランベルトから注がれる惜しみない愛情により、あっという間にパートナーになった。