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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
三年生
73/300

金足少女とキャンディワンド



 彼女の話をしよう。

 呪いのせいでふくらはぎから下が金で、よくコケていて、常に糖分を摂取している。

 これは、そんな彼女の物語。





 異世界である地球では、ヒトが優しいかどうかを確かめる為にわざと転んでフルーツなどを散らかしたりするらしい。

 そんな意味の無さそうな知識がふと浮かんだのは、コケそうな友人を受け止めたからだろうか。



「……大丈夫ですの?ジャニス」


「ハイ……!助かりました!」



 慌てて立ち上がろうとしてまたコケそうになるのを腕を掴むコトで止めつつ、ジャニスがちゃんと立ち上がるのを待つ。



「と、とと……よし、オッケーです!」


「ソレなら良いんですけれど……またぐにゃったんですの?」


「ハイ、また足首がぐにゃりました……」



 項垂れて灰がかった桜色の髪を揺らすジャニスの足は、ふくらはぎの途中辺りから金で構築されている。

 金が柔らかいせいで、ジャニスは歩いている時に足首がよくぐにゃるのだ。

 そんな金の足だが彼女は金の魔物との混血というワケでは無く、生粋の人間らしい。

 この足はナンでも、家系に生まれる女にのみ受け継がれる呪いなんだとか。


 ……ジャニスの家は男家系だとは聞きましたけれど……。


 生まれたばかりの時は足のつま先だけが金になっているらしいのだが、この呪いは侵食してくるタイプだ。

 つまり時間と共に、足の金がじわじわと上に侵食してくるらしい。

 心臓まで行き着けばお陀仏で、お亡くなりになった後はあっという間に毛先まで金に侵食されるんだとか。

 そんな呪いの侵食を止めるには、糖分を摂取すれば良いらしい。


 ……ですけれど……。



「……ジャニス、アナタお菓子持ってませんの?」


「さっきまでチュロス食べてたんですけど……」



 どうやら食べ終わってしまったらしい。



「いつもならキャンディワンドがサポートするでしょうに……近くに居ないようですけれど、喧嘩でもしたんですの?」


「キャンディワンドは喧嘩してても私の命に関わるコトだからって言って、ちゃんとお菓子くれますよ!」


「ハイハイ、素敵なパートナー関係ですわね」



 キャンディワンドは見た目透明な袋で包装されたペロペロキャンディの魔物だ。

 そして触れた物をお菓子に変えるコトが出来るという、実にファンタジーでメルヘンでスイートな魔物でもある。



「でも、ソレなら何で近くに居ないんですの?」


「……と、図書室に寄ってて……その後で食堂寄ってチュロスを貰いまして……」


「ああ、飲食禁止ですものね、アソコ」


「ハイ。なのでキャンディワンドには自室でお留守番してもらってるんです」



 図書室への飲食物の持ち込みは基本的に禁止されているのでそうなったのだろう。



「なら早めに戻った方が良いですわね。うっかり金がジャニスを侵食したらアウトですもの」


「ですね……既に何ミリか金に変化したような気がしますし」


「もーーーーーー!馬鹿!」


「うっひゃあ!?」



 いきなり飛んできたキャンディワンドがジャニスの目の前で急停止し、突然のキャンディワンドの出現にジャニスは飛び跳ねて驚いた。

 キャンディワンドは宙に浮きながら、ジャニスを叱る。



「もう!もう!だから図書室の外で待ってようかって言ったのに!帰り遅いしで心配したら案の定じゃんか!将来のコト考えたらあんまり呪いを進行させたくないんだから、ちゃんと糖分摂取して!」


「ちゃ、ちゃんと糖分摂取はしてましたよ!さっきまでチュロス食べてましたもん!」


「ソレでも金が侵食してきたらアウトでしょ!?ああもう!今すぐ僕がナニかをお菓子に変えてあげるから、お菓子にしても良いヤツ出して!」


「エ!?えーと、えーと……」



 キャンディワンドに言われ、ジャニスは慌ててパタパタと制服を叩いてナニかないかと探り始めた。



「じょ、ジョゼ!」


「そうなると思いましたわ……」



 ジャニスが手に持っているのは図書室の本なのでお菓子にしてはいけないだろう。

 そして他に良さげなモノを持っていたりもしないのは()えていたのでわかっている。


 ……丁度良いのがあって良かったですわ。


 そう思いつつ、ポケットから髪飾りを取り出す。



「コレでもよろしくて?」


「エ、ソレって髪飾りですよね?良いんですか?」


「昔買ったヤツなんですのよ、コレ。久々に使ったらついさっき見事にゴム部分が千切れてしまったのでとりあえずポケットに入れてたんですの」


「ああ、だから髪を下ろしてたんですね!」



 合点がいったとばかりにジャニスは手を叩いた。

 そう、三年生に上がってから、自分は髪型をツインテールにしていたのだ。

 理由は二年生の時と同じく異世界の自分が主張してきたからだが、自分でも気に入っているので問題は無い。


 ……ただ、片方駄目になるとツインテールが成立しなくなるんですのよねー。


 一つに結んでも良かったが、面倒だしとりあえずと髪を下ろしたのだ。

 残った片方の髪飾りは一つ結びにする時にでもまた使えるだろうから良いが、千切れた方は捨てるしかないと思っていたから丁度良い。



「キャンディワンド、コレでもよろしくて?」


「うん、充分!」



 そう言ったキャンディワンドが触れると同時にヘアゴム部分はチョコレートに、バラの飾りは飴細工へと変化した。



「相変わらずお見事ですわね……ハイ、ジャニス」


「えへへ、お手数掛けます。ん、美味しい!」



 まずチョコレートを口に含み、ジャニスは嬉しそうに顔をほころばせた。

 ソレと同時にジャニスの足をミリ単位で侵食しようとしていた金の動きが止まったのを()て、胸を撫で下ろす。


 ……そういう小さい動きも()えちゃうから、結構ハラハラドキドキが多いんですのよね、この視界。


 ありがたいコトも多いが、見たくないモノも()えてしまうという事実も加味して考えると、結構プラスマイナストントンな気がする。

 自分がアンノウンワールド特産の狂人じゃなかったらマイナスに傾いていただろう。


 ……いや、でもイージー!わたくしイージーレベルの狂人だからハードな狂人よりもまともですわ!ちょっとスルーが上手なだけですの!



「……そういえば前から気になっていたんですけれど」


「ハイ?」


「ジャニスのその呪い、どうして糖分を摂取すると止まるんですの?」


「あ、そういえば言ってませんでしたね!」


「毎回説明するの大変だし、重要なのは金が侵食するっていうのと糖分摂取って部分だもんね」


「アハハ……」



 キャンディワンドの言葉に困ったような、恥ずかしそうな表情でジャニスは笑った。

 笑ったというか、誤魔化す感じの笑顔だったが。



「ええっとですね、まず私の家系の女性にのみこの呪いが発動するトコからの説明になります」


「そうなんですの?」


「あ、長くは無いですよ」



 そう言い、ジャニスはバラの飴細工を頬張ろうとして、サイズ的に難しいと判断したのか花びらを一枚パキンと割って口に含んだ。



「昔々、とっても美女なご先祖様に恋をした男性がおりました」


「あ、昔話調なんですの?」


「ですがその男性はヒトを下げて自分を上げるような言い方をするわ、妬みがましいわ、というか妄想が酷すぎるわという感じでご先祖様に告白直後ソッコで振られました」


「まあ、そうなりますわよね」


「妬みがましい男とかイヤだよねー」



 ウヘェ、という副音声とイヤそうに舌を出した顔を幻視するくらいにはイヤそうな声だった。



「そして振られた男はご先祖様を超逆恨みして、家系にまで影響があるような超ヤバイ呪いを掛けました。しかも命を対価にして発動させた呪い、ソレも家系に蔓延る感じの呪いなので普通の呪い解除じゃ難しいタイプの呪いです」


「うわあ……」



 家系に蔓延るタイプの呪いというのは、その家系のヒトの死因はソレが多い、みたいなタイプだ。

 ガン家系とか肺炎家系とかに近いモノであり、対処がしにくい。



「その結果私の家系の女性は皆この呪いのせいで足から金になっていくのですが、甘いモノ……糖分を摂取している間だけは侵食されずに済むのです」



 そう言い、ジャニスは再び飴細工の花弁を一枚割って口に含んだ。



「何故かというと、呪いを掛けた男が大の甘いモノ嫌いだったからです」


「あ、そんなんで良いんですのね?」


「どうも命を対価にしたからか、結構その辺が男に似たというか……お陰で糖分がこの呪いの天敵みたいな感じらしいんですよね」


「でもそのお陰で進行を食い止めれるというのはありがたいコトですわよね」


「ハイ!最初は太るんじゃないかって心配もしたんですけど、診察してもらったら糖分は全部呪いへの対抗として消費されてるから蓄積されたりはしないそうで!」



 羨ましいような、蓄積されない理由を考えると羨ましくないような、絶妙な感覚だ。

 いや、死ぬ危険性がある呪いを掛けられていると考えるとまったく羨ましくない、ドコロか心配でしかないが。



「でもこの足、面倒は面倒なんですよね。柔らかいからすぐに足首ぐにゃってコケますし、ちょいちょいサイズが変化するから靴履けませんし……」



 その言葉通り、ジャニスの足は裸足である。

 靴も学園の制服の一つなので注文すれば良いだけなのだが、本人は履かなければ良いかという結論に至ったらしい。



「んー……そういえば、なんですけれど」


「ハイ?」


「ジャニスのその足、痛覚繋がってるように()えないんですけれど、どうなってますの?」


「あ、金になってる部分は痛覚ありませんよ!というか感覚も大分鈍いです!」


「やっぱり」



 透視で()える中身が完全に金だからそうではないかと思ったのだ。

 普通なら骨や神経や筋肉や脂肪やらが()えるのだが、金だけだった。


 ……金だけで血があるワケでも無いからこそ、痛覚とかも無いのでしょうね。



「最初に痛覚が無いコトに気付いた時は、「やったー!私コレで最強だ!」って思ったんですけどね」


「どっから来たんですのその発想」


「いや、痛みを感じないって最強なのでは?って感じで……」



 ジャニスは恥ずかしそうに頬を掻きつつ、唇でバラの飴細工の花弁を一枚パキリと割って口に含む。



「でも感覚が鈍いから段差にいまいち気付けませんし、痛覚が無い部分が増えていくって結構怖いっていうのがすぐにわかって……まあ、普通に恐怖しかありませんよね」


「でしょうね」


「だから、キャンディワンドがパートナーになってくれたのはとても嬉しいですよ」


「えー?急にナニさ、もう」



 そう言いつつも、キャンディワンドは満更でもないような声でジャニスに擦り寄った。

 少女の周囲を飛ぶペロペロキャンディという光景は正直魔法少女感が凄まじく強いが、よくよく考えればこの学園の女子生徒は大体魔法が使える少女なので間違ってはいない。


 ……そう考えるとわたくしも魔法少女ですわねー。



「……ところで、ジャニスとキャンディワンドの馴れ初めってどんな感じだったんですの?」


「え?えーっと……」



 ジャニスは何故か気まずそうに目を逸らした。



「ソレがさ!初対面の時のジャニス、僕に対してナンて言ったと思う!?」


「いやわかりませんけれど……ナンて言ったんですの?」


「「一舐めで良いから舐めさせてくれませんか」だよ!?」


「うっわお」


「あ、あの時は手持ちの糖分が無くて、まだ一年生だったから森の中で迷子だったしで私も必死だったんですよ!そんな状況でペロペロキャンディが現れたら舐めさせてくださいってなるじゃないですか!」



 そう考えるとなるかもしれないが、第一声でソレはちょっとヤバイ。

 アンノウンワールドだというコトとジャニスの事情と相手がキャンディワンドだったからギリセーフ判定だが、異世界である地球だったらほぼアウトだっただろう。


 ……いえ、そもそも異世界である地球にはキャンディワンドのような魔物は創作世界の中にしか居ないようですけれどね。



「まあ僕は当然断ったんだけど、「一舐め!一舐めだけでも!」って迫ってくるから理由聞いてね。で、とにかく糖分が必要だってコトがわかったから近くの葉っぱをチョコレートに、近くの石をクッキーに変えたりした」


「アレは助かりました……」


「ソレらを食べてるジャニスに糖分が必要な理由を詳しく聞いて、ナンか……大丈夫かなって思ってさ」


「大丈夫ですよ!」


「大丈夫じゃなかったじゃん!今日だってそうでしょ!」


「う、うう……」


「事実だから言い逃れ出来ませんわねー」


「こういう時は庇ってくださいよジョゼ!」



 事実相手にどう庇えと言うのやら。



「とにかく、放っといたら金になって死にそうだなって思って、糖分が必要なら僕がパートナーになってそばに居て、いつでも糖分摂取出来るようにしようか?って言ってね。で、パートナーに」


「そういう感じでパートナーになったんですのね」


「うん。実際ソレからは出来る限り一緒にいて行動を共にするよう心掛けてるから、進行も結構抑えれてるんだよ」


「そうなんですの?」


「確かに入学前はそうポンポンと糖分摂取が出来たワケじゃないので、かなり助けられてますね!」



 そう言われてみると、確かに常に糖分を摂取し続けるというのはハードルが高い。

 まず普通ならソッコで在庫が切れるだろう。



「ジャニス、良いパートナーが居て良かったですわね」


「ハイ!」



 ジャニスは憂いなど一切無い良い笑顔で即答し、頷いた。





 コレはその後の話になるが、ジャニスとキャンディワンドはキャンディワンドの方が保護者枠らしい。

 魔物の方がまともな感性を持っているのはよくあるコトなので、わからなくはない。



「あ、ちょっと!?飴舐め終わってたなら早く言ってよ!」


「アレ!?ナンで気付いたんですか!?」


「ジャニスは糖分摂取してない時は足が気になってるかのように足をソワソワさせるクセがあんの!すぐわかるんだからね!ホラさっさとその辺の小石拾って!今すぐに甘いキャンディにしてあげるから!」


「ハーイ」


「呑気にしてるけど、呑気してた結果最終的に大変なコトになるのはジャニスなんだからね!?」


「わかってますよ。キャンディワンドが心配してくれるのが嬉しいんです」


「……あっそ」


「あいた!?」



 ジャニスの言葉に照れたのか、キャンディワンドはジャニスの頭をキャンディ部分で軽く小突いていた。



「大体ね、寝てる時は進行収まるから良いけど、起きてる時は普通に進行するんだからね?あと親御さんに前例聞いたんだけど、腰から下までならまだ金になっても足を動かすコトは出来るけど腰から上まで金が上がってきたらもう下半身動かせないんだって!?」


「ああ、らしいですね」


「ナニを呑気に言ってんのさ!自分の身なんだからもうちょっと気にしてってば!」


「だってキャンディワンドがくれた飴美味しいですし、心配してくれてるんだなーって思うと嬉しくって嬉しくって」


「……重要な話してる時にニヤけないで欲しいんだけど」


「えへへ、すみませーん」



 キャンディワンドは拗ねたような声色だったが、照れ隠しだというコトがわかっているのか、ジャニスは緩んだ笑みを浮かべながらそう答えた。

 ソレにしても、自分はただ中庭で本を読んでいた結果一部始終を目撃しただけなのだが、たったソレだけでも砂糖を吐きそうになる程のこの糖度はどうかと思う。

 ジャニスには必要とはいえ、この糖分量は甘すぎる。




ジャニス

生まれつきの呪いなので最早そういう体質みたいな風に受け入れてる。

でも金になって良いというワケでは無いので、大体甘いものを口の中に入れている。


キャンディワンド

ボディはキャンディだが熱で溶けたりしないし、家をお菓子の家に出来るくらいの力はあるという結構凄い魔物。

最初は長持ちな飴を食べさせるコトが殆どだったが、味のバラエティを富ませるだけじゃ飽きてイヤになるかもと考えて飴以外のお菓子にも変化させるようになった。


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