キノコ少年とメディスントータス
彼の話をしよう。
遺伝で左の上半身に多種多様なキノコが生えていて、気楽で、けれど自分にパートナーは出来るのかと悩んでいる。
これは、そんな彼の物語。
・
食堂でティータイムでもしようかと思い、紅茶とスコーンを頼んだ。
ジャムはお気に入りのがあるから良いだろうと思いつつドコに座ろうかと見渡せば、端の方にヒメノが居るのを見つけた。
「ヒメノ」
「おや、ジョゼフィーヌではないですか!あ、隣は今オススメしませんよ!」
慌てたようにそう言うヒメノを不思議に思ってよく見ると、彼は自分の左上半身から生えているキノコを採取している最中だった。
ヒメノは遺伝により、左の上半身から様々なキノコが生えるという混血なのである。
……混血って、ホント多種多様ですわよね……。
ケモミミやらキノコやら虚弱体質やら毒無効やら、混血は特徴が強い。
まあそもそも魔物がそれぞれ特徴強いから当然なのかもしれないが。
さておき、ヒメノはキノコを採取していた。
……放っておいても危険ですものね。
ヒメノに生えるキノコはランダムであり、レアなキノコや普通の食用キノコ、はたまた超危険な毒キノコが生えるコトもある。
そのキノコ達はヒメノに生えている間は胞子なども出ないし毒キノコに触れてもかぶれたりしないのだが、採取すると本来のキノコ状態になる。
つまりヒメノに生えている間は無害だった毒キノコが、有害な毒キノコになるのだ。
……放置しておけばとも思いますけれど、一定期間が過ぎると勝手にポロッと取れるんですのよねー……。
そっちの方が事故が起こりかねない為、ヒメノはちょいちょいこうやって採取している。
今は食堂に提供する為か、食用キノコをメインに採取してカゴに入れている最中らしい。
「大変ですわね」
「え?ああ、キノコですか?ヒメノさん的には寝ている間に毒キノコがポロリする方が怖いので、採取は別に大変じゃないですよー?」
採取したばかりのしいたけを持ったまま、その手をヒラヒラさせてヒメノは笑った。
「レアなキノコだとお金多めに入りますし、毒キノコも買い取ってもらえますしね。実家じゃ処理に困ってたので大助かりです!」
「あー、確かに毒キノコを処理するとなると大変ですわね」
「ハイ。あの時は近所の狩人に提供するくらいしか使い道が無くて困ってました。毒キノコで食用魔物を狩ろうとしても毒を食べた魔物食べるのはちょっとドコロじゃなく危険だからプロに任せるしかありませんし、そもそも食用魔物は向こうから寄ってきますしね」
「まあ、ええ、食用魔物はそうですわよね」
食べられたいというのが本能で備わっているのが食用魔物なので、わざわざトラップを仕掛ける必要も無く寄ってくるのだ。
基本的な食用魔物は牧場で育てられていたりするのだが、時々野生の食用魔物が居たりして結構危険だったりする。
……食べて食べてって突撃してくるからもみくちゃにされるし、食用魔物によっては目の前で自殺したり無理矢理口の中に入ってこようとしたりするんですのよねー……。
なので食用魔物を育てる牧場主になるには、相当大変らしい。
まず食用魔物の暴走や自殺を止める必要があるからだ。
……死んだら食べるしかないから死ねばソッコで食べてもらえる!って思考した食用魔物が目の前で自殺とかが、牧場あるある話という……。
異世界である地球的な思考で考えると、ドン引きしそうになる。
アンノウンワールド的な思考で考えるとよくある普通のコトなので、この世界で生きるにはやはり狂人メンタルが必須なのかもしれない。
「……それにしてもジョゼフィーヌ、そのスコーン美味しそうですね。あとジャムも」
「あら、嬉しいコト言ってくれますわね。スコーンはここのですけれど、ジャムはエメラルド家の領地にあるケーキ店のジャムなんですの。よければ食べます?」
「今ヒメノさんの手、キノコに触りまくりなので食べさせてもらえます?」
「構いませんわ」
ふと、異世界である地球なら今の会話はからかい対象になりそうな会話だな、と思う。
アンノウンワールドは性欲がほぼ皆無なので今のは普通のやり取りでしかないのだが、こういったやり取りをからかってナニが楽しいのだろうか。
まあ国が許可したテレビで対象にドッキリを仕掛けるという、国家的に対象を笑いものにするという放送があったりするらしいので、そういう精神性なのだろう。
……異世界知識ではいじめが問題になっていたそうですけれど、国がソレを認めてたらそりゃ無くなりませんわよね。
そう思いつつ、手持ちの三種類のジャムを見せる。
「右からイチゴとレモンとブルーベリーですわ。ドレにしますの?」
「アレ、こういうのってクロテッドクリーム?とかいうの塗るんじゃなかったですっけ」
「塗りますけれど、わたくしアレは良いコトがあった日用にしてるんですのよね」
「あー、そういうのも良いですよねー。ちなみにオススメは?」
「全部オススメですわ」
「じゃ、ブルーベリーで」
「ハイ」
ブルーベリーのジャムをたっぷり塗ったスコーンをヒメノの口の中に放り込む。
食べやすい一口サイズのスコーンなのが幸いだった。
「んー!んー!」
「飲み込んでから喋りなさいな」
ヒメノの反応に、思わずクスクスと笑ってしまった。
目がキラキラしているしテンションが上がっているらしいのも視えるので、好意的なコトを言ってくれようとしてるのはわかる。
「ん、んぐ……めっちゃくちゃ美味しいですねコレ!」
「良かったですわ」
そう返しつつ、ヒメノの左肩を指差す。
「あと、ヒメノから見える位置にある食用キノコは採り終わったようですけれど、肩甲骨付近にまつたけ生えてますわ」
「エッ嘘ドレですか!?コレ!?」
「もうちょい下ですわねー」
慌ててソレを採取しようと右腕を伸ばしたヒメノに、指示を出す。
「右、下、下、ソコ!その位置の右側のヤツがそうですわ」
「ん、しょっと……採れました!おお、コレは見事なまつたけですね!まつたけは極東出身の方が喜んでくれるので、もうちょっと頻度多めに生えると良いんですが……さておき、以上ですよね?」
「ええ、あとは毒キノコですわ」
「いやー、背中側は毒キノコが生えやすいからてっきりもう終わったかと……助かりました!」
用意してあったらしい濡れタオルで手を拭きつつ、ヒメノは笑顔でそう言った。
「構いませんわ。視えたのを伝えただけですもの」
ソレにしても、こうしてある程度のキノコを採取し終わったヒメノは少し寒そうだ。
キノコが生えるからと、ヒメノの制服は左上半身が露出するデザインになっている。
普段はキノコがわっさりと生えているので寒そうには見えないが、こうしてキノコを採取し終わった後は地肌が見えるので、少々寒そうに見える。
……アレですわね、濡れた動物とかサマーカットした犬猫を見たような……。
まあ本人的にはいつものコトだし、体温を視ても寒がっている様子は無いので大丈夫だろう。
「ソレにしても……」
「?」
「ヒメノさんですね、最近友達にパートナー居る率高くなってる気がするんですよ」
「わたくしは一年の頃からそうですわよ」
「うわ、目が死んでる」
自分の目はリスのような目なのでそういうのはわかりにくいと思うのだが、わかるくらいに目が死んでいたらしい。
だが周囲にパートナー持ちだらけの状態、かつ独り身が続けば目が死ぬのは仕方が無いコトだろう。
「まあでもジョゼフィーヌはすぐにパートナー出来そうだから良いんですよ、美人だし性格良いし」
「あら、褒めてもナニも出ませんわよ?」
「ただヒトが良すぎるせいで変なのを引っ掛けるか、完全に友人としてしか見られなさそうなトコはありますけど」
「スコーンあげようかと思ったけど止めますわね」
「ごめんなさい!」
キチンと謝罪してくれたので、ブルーベリージャムを塗ったスコーンを渡した。
「と、とにかくですね、ジョゼフィーヌは大丈夫だと思うんですよ。問題はヒメノさんです」
「ヒメノも別に問題は無いじゃありませんの」
友人の中にはクセが強い性格の子も多い自分からすると、ヒメノは問題になる程の性格はしていない。
見た目もキノコを見るだけで吐くレベルでキノコ嫌いでさえ無ければ問題無いだろう。
「……ヒメノさんの場合、毒キノコの危険性が……」
「アッ」
……い、言われてみればその危険ありましたわ!
正直同級生の中にはもっとヤバイ毒属性の子も多いのですっかりスルーしていたが、そういえば毒キノコはマイナス判定を出すに足る理由だ。
採取する前なら無害という事実も合わさって、完全に意識から外れていた。
「毒耐性のある魔物は結構居ると授業でも言ってましたけど……ヒメノさんの場合はキノコという要素もありますからねー……」
「まあ、トウモロコシをじっと見るのが出来ないタイプの方は無理そうですわよね」
異世界の自分が主張するには人体にキノコが生えている時点でかなりアレらしいが、そのくらいはアンノウンワールド的にはそれなりにあるコトなので無視しておく。
「でも魔物だと結構感性違ったりするので、ワリと平気かもしれませんわよ」
「……ソレもそうですね!キノコ好きで毒とか気にしないタイプの魔物が居るかもしれませんし、無機物系ならそもそも毒とか効かなかったりしますもんね!」
ミーケル程ではないとはいえメンタルがポジティブ寄りなヒメノは、あっさりと機嫌を戻してニコニコ笑顔でそう言った。
・
翻訳作業をしていたらうっかりゲシュタルト崩壊が起きて文字というモノ自体がよくわからなくなったので、気分転換に学園の裏手にある森に来た。
こういう時は文字とは縁遠い自然の中で休憩するのが一番回復が早い。
「わーーーーー!」
「キャッ!?」
と、思って森へ入ろうとした瞬間、飛び出してきたヒメノに轢かれ掛けた。
思ったよりスピードが速かったが、視えていたお陰でさっと避けるコトが出来た。
「す、すみませ……ってジョゼフィーヌ!ジョゼフィーヌ!」
「え、ハイ、ジョゼフィーヌですけれど……」
「保険室!」
パッキリとした紫色の髪を乱しながら、酷く慌てた様子でヒメノは手に持った手の平サイズのリクガメを見せてくる。
「……えーと?」
「保険室!保険室行かないとヤバヤバでヤバいんですよ!ヒメノさんコレからはちゃんと気をつけますから保険室に!」
「ああもう落ち着きなさいなヒメノ!」
慌てるヒメノの腕を掴み、距離が近い中等部の方へと向かう。
「保険室まで連れていってあげますから、まず落ち着きなさい!診てもらうんなら説明ちゃんとしてもらわないと困りますわ!」
「だって、だって、ヒメノさん流石にクサウラベニタケはアウトだと思うんですよ!しかもこんな可愛らしいミニサイズでですよ!?摂取量がアウトじゃないですか!」
「うん、ナンか色々察しましたわ!」
恐らくそのリクガメの魔物がうっかりヒメノに生えていた毒キノコを誤食してしまったのだろう。
・
中等部の扉から第一保険室に行き、カルラ第一保険医に診察してもらう。
「大丈夫ですか!?死にませんか!?ヒメノさんが油断してたのは悪いと思ってますけどまさか油断直後ソッコでデスったりしませんよね!?」
リクガメの魔物を手渡されたカルラ第一保険医はヒメノによってガクガク揺さぶられ、イラッとした表情を隠さずに言う。
「とりあえず貴様は深呼吸をして落ち着け。うるさい」
「あと俺様とカルラは記憶読んだりとか出来ねえから説明してくれ」
流石まともなメンタルを持つカースタトゥーというか、立場的に発言内容が逆ではないだろうか。
そしてカースタトゥーにそう言われたヒメノは、慌てたようにまくし立てる。
「のんびり日向ぼっこしながら寝てたらその子がうっかりクサウラベニタケをパクパクしてました!」
「大体わかるから良いが、授業の時にその返答はしないように」
確かに教師によっては怒られそうな返答だ。
怒りそうな教師はいまいち思い当たらないが。
「ソレとお前はこの魔物が毒で死なないかの心配をしているようだが、この魔物はメディスントータスだから心配は要らんだろう」
「メディスントーラス?」
「トータス」
「あら、そういえば甲羅の特徴が一致してますわね」
甲羅の中央がへこんでいて、その部分に蓋をするかのように透明で薄い甲羅が張っている。
開閉も可能な作りになっているようなので、確かにメディスントータスだろう。
「……ジョゼフィーヌ、メディスントータスってナンですか?」
「キリッとした顔で聞かないでくださいな……授業で出ましたわよ?」
「てへ」
ソレで誤魔化されても反応に困る。
魔物の授業は取っているハズだしメディスントータスの説明の時も教室に居たハズなのだが、どうやら記憶には残っていないようだ。
「メディスントータスというのは、食べたモノの毒素、または薬になる要素のみを抽出し、体内で固形にして甲羅の窪み部分に排出するという魔物ですわ」
なので薬などを取り扱うヒトのパートナーになるコトが多い魔物である。
「その通り」
頷き、カルラ第一保険医はテーブルの上にメディスントータスを乗せる。
「既に背中の窪みに固形化された毒素が排出されているから、毒で死ぬコトは無い」
その言葉通り、メディスントータスの背中にある窪みには、丸く固められた毒素が転がっていた。
ソレに安堵したのか、ヒメノがへたり込む。
「よ、良かった……油断からのうっかりで殺してしまったかと……」
「というか、メディスントータス自身から説明すれば良かっただろう。お前は何故ナニも言わなかったんだ?」
「ああ、そういや確かに」
カルラ第一保険医の言葉に同意し、カースタトゥーはぐにゃりと蠢く。
「……言えると思う?」
ソレに対し、メディスントータスは溜め息を吐きつつ口を開いた。
「確かにお腹空いたからって勝手に食べたアタシが悪かったけれど、直後に持ち上げられて走られてさ。喋ったら舌噛みそうな走り方だったし、その子は混乱してるし。
んで最後はここだ。アンタはタトゥーの魔物に取り憑かれてる不機嫌な人間に持ち上げられて普通に喋れると思うの?」
「あ、無理ですわねソレ」
「ナニが無理なんだ」
本気で不思議そうにしているカルラ第一保険医に、思わず生温い視線を向けてしまう。
「いや、カルラ……普通は全身にタトゥー彫ってるヤツが居たらビビるんだぜ?」
「私がタトゥーだらけなのは貴様のせいだろうが」
「そうだけどよ!診察する相手ビビらせたらアウトだろうが!せめて全身タトゥーでも安心してもらえるような笑顔を浮べろ!」
「………………コレで満足か?」
「あ、スマン。俺様が悪かったなコレ」
カルラ第一保険医がしないタイプの優しい笑みに、保険室の温度が三度程下がったのが体感でわかった。
流石にカースタトゥーもコレは無理だと判断したのか、謝罪が素早い。
「私としては良い出来の笑顔だと思ったんだが、その反応は腹が立つな……まあ良い。とにかく全員問題無いし無実だったハイ解散!」
「いやソレは流石に雑過ぎますわ!?」
「そうは言ってもメディスントータスは毒を食っても平気だから問題は無い。強いて言うならヒメノの行いを誘拐扱い出来るかもしれんが、純粋に心配しての行為だったからな。
次からはもう少し魔物の授業を真面目に受けろとしか私に言えるコトは無いぞ。患者が居ないのでは保険医である私の出る幕は無い」
ごもっともでぐうの音も出ない。
「……あの、メディスントータス……ナンというか、勝手に騒いだ上に無理矢理連れてきてすみませんでした……」
「いや、そんなに落ち込まれるとこっちが困っちゃうよ。アタシは別に気にしてないし、元はと言えば勝手に食べたアタシのせいだしさ。そうしょげなくて良いって」
「ハイ……」
「あー……」
しょんぼりと落ち込んだままのヒメノに、メディスントータスは困ったように唸った。
「あ、じゃあ、そのキノコを幾つか分けてくれないかな?アタシって見ての通りのサイズだから良い食事場所見つけるまでに時間掛かっちゃうのよね」
「ハイ!そのくらいでしたら幾らでも!」
メディスントータスの言葉でソッコに元気になったヒメノだったが、生えているキノコを採取しようとしてその手を止める。
「……あ、でも今生えてるのは毒キノコだけなんですよね……」
「あん?オメェ普通のキノコはどうした?」
「こないだ採取したんですよ。なので食用キノコはまだ小さくて……」
カースタトゥーの言葉に、ヒメノはしょんぼりとそう答える。
「あの、また忘れてるかも知れないけど、アタシは毒効かないから普通に毒キノコで良いからね?」
「そういえばそうでした!」
ヒメノは一瞬にして元気になった。
どうしてポジティブ寄りのメンタルをしているヒトはこう上がり下がりが激しいのだろうか。
「んー……というか、あの、ちょっと良いですの?メディスントータスに聞きたいんですけれど」
「ナニかな?」
挙手をしてから声を掛け、許可も貰ったので自分の考えを口にする。
「えっと、メディスントータスは毒キノコが平気というか、毒キノコの毒素だけを抽出したりが出来るんですのよね」
「うん、そうだよ」
「で、ヒメノは生えてる毒キノコは基本的に毒の研究用にって提供してますわよね」
「ハイ」
「ちなみにカルラ第一保険医、毒キノコの毒を調べる時って」
「私はデルクとそう会話したりしないからアドヴィッグの方が詳しいと思うが、まあ最初は毒を抽出するだろうな」
「つまりメディスントータスに抽出してもらった方が色々と助かるってコトですわよね」
「……要するに」
こちらの言いたいコトを察したのか、メディスントータスが言う。
「アタシに毒の抽出役をして欲しいってコトかな?」
「そうなりますわ。まあそういう方法もありますわね、という程度ですけれど」
「アタシとしては食べるのに困らないなら大歓迎だけど、そっちの子次第よね」
「……あ、ヒメノさんですか!?」
メディスントータスから向けられた視線に気付き、ヒメノは驚いたように自分自身を指差した。
「えっと、そりゃヒメノさんとしては全然構いませんけれど、というかヒメノさんの毒キノコが平気というのは嬉しいしメディスントータスはミニマムで可愛いし生き物だしで大歓迎ですけれど……」
ソコまで言って、ヒメノは顔を赤くして叫ぶ。
「でもヒメノさん、出会ったばかりでパートナーになるのはちょっと早くないかなって!」
出会って即日パートナーになる友人も多いが、まあそういうのはわからなくもない。
照れている様子からヒメノが満更でも無いのはわかるが、こういうのは両方の気持ちもあるワケだし。
……というかわたくし、ヒメノのパートナー候補にはなりそうと思っていても、一緒に活動してその内、みたいなつもりでの発案だったんですけれど……。
「そう?アタシは全然良いけど」
だが意外にもメディスントータスは思ったより乗り気だった。
「え、あ、良いんですのね?」
「そりゃまあ、あんだけアタシを心配してくれたの見たら良い子だってのはわかるしね。ただアタシからするとただ飯食らいでしか無いから、寧ろそっちがソレで良いのかなって思うな」
「全然オッケー寧ろ是非とも!生き物系がパートナーになってくれたら嬉しいなって思ってたのでとても嬉しいし喜ばしいんですけれど……エ!?良いんですか!?エ!?」
嬉しそうに頬を染めながらわたわたするヒメノに、カルラ第一保険医は椅子に腰掛けながら口を開いた。
「とりあえず貴様ら、患者では無いならさっさと帰れ。ここでロマンスを繰り広げるな」
……わたくしもそうハッキリ言える性格になりたいですわー……。
・
コレはその後の話になるが、あの後色々と話し合い、問題無いという結論に達したヒメノとメディスントータスはパートナーになった。
その結果、ヒメノに生えた毒キノコを食べるメディスントータス、という光景をよく見かけるようになった。
「また食べてるんですのね」
「おやジョゼフィーヌではないですか。ええ、今回はカエンタケの毒素とベニテングダケの毒素をお願いされまして!」
「ヒメノは毒キノコを処理出来て、アタシはお腹を満たすコトが出来て、ソレでお金が貰えるって良い場所だよね、ここ」
モグモグと毒キノコを食べつつ、メディスントータスはそう言った。
「まあ確かに、この学園だからこそ、みたいなのは多いですわよね」
「でもそのお陰でどういうヒトならこういうのを欲しがるか、みたいなのがわかって助かるんですよねー。最近じゃデルク先生、抽出の手間が無くなったからって代金値上げしてくれるだけじゃなく、卒業後に取り引き出来るようにって毒キノコとかの毒を研究してるヒト達紹介してくれたりもしたんですよ!」
「あら、ソレは良いコトですわね」
「ハイ!」
自分の場合は翻訳家としてそれなりに地盤を固めていたらゲープハルトのお陰でその業界で結構名が売れたので、その辺りは安心している。
ヒメノも同じようにその辺りで安心出来たなら良いコトだ。
……この学園、公言はしてませんけれど、就職の斡旋もしてくれてますわよね。
行き先を間違うと色々苦労するのはわかりきっている混血の身からすると、とてもありがたい。
「んー……ヒメノ、排出終わったよ」
「おっと、そうでした。毒素を入れ物に収納して……アッ!?会話に夢中でどっちがどっちの毒素かわかりません!ちゃんと個別に収納するよう言われたのに!」
「あちゃー、私毒とか排出はするけど、ソレがどの毒かまでは判別出来ないよ?」
……あー、コレはわたくしのせいですわねー……。
話し掛けたせいで見ておくのを忘れてしまったのだろう。
そう思い、片方を指差す。
「カエンタケはこっちですわ」
「エ?……あ、そういやジョゼフィーヌは目が良かったんでした!助かります!」
「いえいえ、こちらのせいですもの」
ヒメノはメディスンタートルの透明な甲羅を開け、中にあるカエンタケから抽出した毒素をピンセットで摘まんで入れ物へ収納した。
次に違う入れ物へベニテングダケの毒素を収納し、安心したように一息ついた。
「よし、コレでオッケーですね!いつもありがとうございます、メディスントータス」
「アタシは食べれる部分食べて、食べれない部分を排出してるだけよ?人間で言うとフルーツの皮の部分の処理を頼んでるようなモノなんだから、そう毎回律儀にお礼言わなくても良いって」
「いえ、ヒメノさんは毒キノコのせいでパートナー出来ないんだろうなと思ってたので、毒キノコのお陰でメディスントータスという素敵なパートナーが出来たのが嬉しいんですよ。お礼くらいは言わせてください」
「……は、恥ずかしいコト言うなぁ……」
あー、暑い暑い。
ヒメノ
極東からの留学生でも無いし極東人の子でも無いし女の子でも無いという、極東出身からよく勘違いされる名前の少年。
キノコは左手と前腕部を除いた左上半身にワッサリと生える。
メディスントータス
抽出が出来るので機械系魔物じゃないかと噂された時期もあったが正真正銘生き物系魔物。
抽出した後の毒素はメディスントータスからすると貝を食べ終わった後の貝殻みたいなモノなので、食べるだけで役立てるというのが嬉しい。