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ルームメイトとジョゼフィーヌ



 彼女の話をしましょうか。

 博識で、よくお土産をくれて、イヤそうな顔をしてもすぐに笑って受け入れる。

 これは、そんな彼女の物語。





 ストーンスタチューと自分が出会ったのは、運命だと思う。



「ええ、自分もそう思いますよ!」


「パートナーだものね」


「その通り。共に生きて行くパートナーとして、お互いを運命と思う程に唯一無二の存在と認識するのは当然ですから」



 クスクスと笑い合い、ストーンスタチューを抱き締めて頬を擦り合わせる。

 ストーンスタチューは種族的なアレコレで二頭身状態なので幼く見えるが、小人のように体がミニマムなだけであり、子供では無い。

 けれどこの姿だからこそ気負うコトも無くこうして密着出来るのは、良いコトだと思う。


 ……最初はキスからスタートだったから、少し恥ずかしかったけれど……。


 だが毎日やっていれば慣れるものだ。

 意識が朦朧としていう早朝に行うからという理由もあるかもしれないが、ソレでも慣れは慣れ。

 最初は初々しかった気がするが、気付けば常に近くに居て、殆どを密着して過ごしているのは日常になっていた。



「……でも、出会ったのは運命にしても……出会えたのはジョゼのお陰よね」


「そうなのですか?」


「そうよ」



 そのジョゼは現在王都に出ていて部屋には居ないが。



「元々は凄腕の占い師に、森に行って背の低い石像を見逃さないようにすれば全部が上手く行くって言われたの。でも私一人で探せるとは思えなかったから、ジョゼに同行してもらって……そのお陰でストーンスタチューを見つけれたようなモノだもの」



 自分一人では彼を見つけるどころか、自力で学園に帰れたかも怪しい。



「その後も色々と説明をしてくれたりして……凄腕の占い師までは私一人の行動でアナタに出会おうという運命に従っていたのかもしれないけれど、ソコから出会わせてくれたのはジョゼね」


「ふむふむ、では改めて感謝しなくてはいけませんね!」


「……ふふ、そうね」



 小さい羽をパタパタと動かして肩に座ったストーンスタチューの頭を撫でつつ、笑って返す。

 ジョゼには普段から、様々なコトで世話になっている。

 王都の案内や説明、授業でのわからないトコ、先生への質問、その他諸々、数え切れないくらいに面倒を掛けさせてしまっている。



「ちょっとしたお土産くらいしか渡せていないし……ナニかお礼を考えた方が良いわよね」



 邪魔な位置の前髪を手で払いつつ、そう呟く。

 大して視界は変わらないとはいえ、こうして目隠し越しに見なくてもよくなったのはストーンスタチューのお陰で、そしてストーンスタチューと出会うのに協力してくれたジョゼのお陰だ。

 邪魔だったけれど、目隠しを取った状態のままではうっかり周囲を石化させかねないこの魔眼。

 ソレがストーンスタチューのお陰で、こうして目隠しを外し、裸眼で見るコトが出来るようになった。


 ……素敵だわ。


 裸眼の時はうっかり石化させてしまうコトも多く、裸眼時の記憶の殆どは石の色だ。

 他にも綺麗な記憶はあるが、無意識に石化させてしまったショックや驚きのせいで、その印象が強く残ってしまっていた。

 だが現在はストーンスタチューのお陰で裸眼でも過ごせるようになり、その記憶は楽しい記憶で上書きされ始めていて、魔眼に対する嫌悪はゆっくりとほぐされている。


 ……でも、ジョゼは当時から気遣ってくれていたわね。


 当時から、そして今も。

 彼女はストーンスタチューと密着している自分を見て一瞬ウヘェという表情をするコトが多いが、しかしすぐに仕方が無いとでも言うような、微笑ましいとでも言うような笑みを浮かべる。

 プライベート過ぎるコトの選択を任せても、適当ではあっても答えてはくれる。

 ジョゼへの恩を考えると、小さいコトから大きいコトまで、数え切れないくらいにあるなと思わず笑みが零れてしまった。



「ストーンスタチュー、どういうのが良いと思う?」


「そうですねえ……」



 ふむ、と考えるようにストーンスタチューは腕を組みながら顎に手を当てた。

 幼くも見える見た目だが、普通に大人を小さくしたようなビジュアルなので、こういう動作をする時などのふとした拍子に垣間見える大人っぽさに、一瞬ドキリとしてしまう。

 正直に言うと動作というよりも思案する時の真剣な目が好きな気もするが、最終的にストーンスタチューにときめいたという事実は揺らがないので、まあどちらでも良いだろう。



「ジョゼフィーヌの場合、実用的なのを好む傾向にあるようですからね……」


「そうね」



 流行りモノも押さえてはいるようだが、積極的では無い。

 というか貰い物は大事にしているらしいのだが、自分で買ったモノにはあまり執着しないらしい。

 その証拠に駄目になったらソッコで捨て、新しいのを買っている。

 まだ使えるモノだったとしても他のヒトに必要とあればソレをさらっとプレゼントしたりしているし、モノへの執着が少ないのかもしれない。

 恐らく、ストーンスタチューも同じ考えだと思う。



「ジェネヴィーヴもご存知でしょうが、ジョゼフィーヌは友人に貰ったモノなどは大事にする性格。そう考えると邪魔にならず、嵩張らず、実用的なモノをプレゼント、もしくは消耗品をプレゼント、というのがベストかと」


「やっぱりそうなるわよね」



 だが消耗品のプレゼントというのはどうしたら良いのだろうか。



「消耗品、っていうとお菓子とかになるけど……私はお菓子作りなんて出来ないわよ」



 そもそも自分でお菓子を作る貴族自体が稀なので、教えてもらいながら作ったと言って手作りのお菓子を持って来るジョゼの方が珍しいのだ。

 いや、ソレを言うと冒険で汚れるのは良いけど畑仕事で汚れるのはイヤと言う貴族がそれなりに居る中、頼まれたからと言って平気で畑仕事の代理を完璧にこなす辺りも凄いが。

 正直彼女が一番この学園の学風を体現している気がする。



「というかジョゼ相手に初心者の作ったモノを渡したく無いわ。駄目な部分とかも全部見抜かれるじゃない」


「ジョゼフィーヌからすると日常的なコトなのでわざわざ指摘はしないと思いますが、まあ確かにソレを見抜かれているという事実が少々刺さるのはわかります」



 本当にわかっているのかはわからないが、ストーンスタチューの小さい手に撫でられる心地は良いので気にしないでおこう。



「でも買うにしても、ジョゼの方が美味しいお店知ってそうなのよね」


「ジョゼフィーヌなら友人からの贈り物というのを重要視しそうなのであまり気にしなさそうですが……食堂で用意してもらうというのは?」


「ソレじゃお礼として微妙じゃないかしら」


「ふむ、成る程ソレは確かに。難しいモノですね」



 そう言ってストーンスタチューは自分の膝にすっぽりと収まった。



「自分からジェネヴィーヴに渡すモノであれば的確なプレゼントを渡せると自負していますが、相手がジョゼフィーヌになると途端に困りますね。特に彼女の場合はプレゼントがゴミでさえ無ければ普通に喜んで受け取ってくれそうな辺りが」


「毒を主食にする子が善意から毒をプレゼントしたら、内心引きつつも同時にありがたく思いながら受け取って、色々会話しつつ誘導して相手にその毒を食べさせて、受け取ったという事実はありつつも毒を回避とかするものね」


「ソレは少々違う気がしますが、そうですね」



 自分でも自覚はあるのだから違うと思ったならそのまま違うと言ってくれて良いのだが、相変わらずストーンスタチューは自分に対して判定が甘い。



「しかしそうなると邪魔にならなくて実用的なモノ、というコトになりますね」


「そうね……」



 ストーンスタチューを抱き締めながら、考えてみる。

 翻訳などの仕事をしているコトからペンはどうだろうと考えるが、ああいうのは使う感触にも色々あるから止めておいた方が良いだろう。

 そうなると身につけるモノなどだろうか。

 しかしネックレスなどでは重いのではと考えると、自然と思考の行き着く先は髪飾りになる。



「……でも、ジョゼは髪飾り、結構持ってるのよね」


「髪飾り、ですか?」


「ええ。ソレが良いんじゃと思ったけれど、既に結構な数持ってるわよねって」


「ですがソレならその分重く受け止められるコトもありませんし、日常的に使用してもらえるのではないでしょうか!」



 ナイスアイディアと言うような笑みを浮かべながらストーンスタチューがそう言ったので、思わず目をパチクリさせてしまう。



「……この案、良いと思うの?」


「ええ、モチロン!髪飾りなら軽過ぎず重過ぎず、邪魔にならなくて実用的!更にプレゼントとしても一般的ですし、良いのではないかと!」



 ニコニコな笑みを浮かべながらそう肯定してくれるストーンスタチューにつられ、ついついこちらの顔も笑みを浮かべてしまう。



「そうね、じゃあ、明日にでも良い髪飾りを探しに行きましょうか」



 そのまま後ろに倒れ、ベッドに転がる。

 丸くなるようにしてまだ膝の上にいたストーンスタチューを抱きかかえながら、その顔を覗きこんで言う。



「選ぶの、手伝ってくれるかしら」


「当然ですとも!」



 即答されたその返事に、クスクスと笑った。





 王都で出ていた露店に、良いリボンがあった。

 綺麗な青色のリボンで、ジョゼの銀髪によく映えそうな。


 ……ソレに、前にジョゼ自身も言っていたものね。


 自分の銀髪は父譲りであり、その父は魔物だから銀髪に青い目で、とても美しい色合いをしているのだと。

 そして天使の娘だからこその本能かもしれないが、空の青さにも憧れるのだと言っていた。

 小物も基本的には白だが、ソレ以外の色では青色を好みがちなジョゼだ。

 青いリボンというのは、プレゼントにはピッタリだろう。

 常に一緒に居るのに付き添いと言うのはオカシイ気もするが、付き添いで来てもらったストーンスタチューにも肯定されたので、問題は無いと思う。


 ……まあ、ストーンスタチューは基本的に私の意見にはほぼ肯定しか返さないけれど。


 さておき、よっぽど好みから外れているとかでなければセーフだろうと思いつつ自室の扉を開けると、中でジョゼがテーブルに上半身を預けてぐったりとしていた。

 しかも漂ってくるのは血を連想させる鉄の臭いだ。

 ジョゼは友人が多い人気者なので客が多く、時々部屋に帰るとジョゼの友人と思われる同級生がジョゼにベッタリくっ付いているのを目撃するコトもよくあったりする。


 ……私の場合は、魔眼とかの問題で友人は少ないけれど。


 そして現在は大体ストーンスタチューと一緒なので新しく友人を作る気も無い為、同じ授業を受けていたりするくらいの付き合いしか無い同級生に対しては顔を知っている程度の認識しかないコトも多い。

 というか普通に百人以上居る多種多様で個性豊かな同級生達の殆どと友人になるというのは相当なコミュ力が無いと不可能だろう。


 ……ジョゼに比べると友人の数は少ないけれど、確実に私の方が普通で、ジョゼの人気っぷり()凄いのよね。


 ソレはさておき、この鉄臭さだ。

 ジョゼの友人は幅広いのでそういうタイプの混血の友人、または友人のパートナーが鉄臭いタイプというコトはあるかもしれないが、ジョゼがこんなにもグッタリしているというのは珍しい。



「……ジョゼ、大丈夫?」


「あら……」



 ジョゼは疲れが見える顔をあげ、こちらを見た。



「ジェネヴィーヴにストーンスタチューじゃありませんの、お帰りなさい」


「ええ、ただいま」


「ただいま戻りましたよ!」


「で、ナニかあったの?ナンだか鉄の臭いがするのだけど」



 そう言いながらテーブルの方へ近付くと、ジョゼはその言葉に頭を押さえながら天を仰いだ。



「消臭は忘れてましたわ……」


「消臭?」


「自分達の不在の間にナニかあったのですか?」


「あー、えっと」



 魔法でも使用したのか疲弊した様子で、ジョゼは言う。



「端的に言うと、ちょっとゴーイングマイウェイが過ぎる感じの子が闇オクでゲットした刀が魔物だったとやってきて、その魔物が血涙を流して血溜まりを作って、最終的に友人と魔物で話し合いするコトになって去ったは良いけど後片付けをしてくれていなかったので、魔法で血を綺麗にしたり染み抜きしたりし終わったトコ、ですわ」


「ウッワ」



 思わずジョゼのトンデモ友人に引いてしまった。

 自称好き嫌いはあると言うジョゼだが、そう言いながらも心は広い。

 そんなジョゼがゴーイングマイウェイが過ぎると言ったというコトは相当だろうし、その上で闇オークションという単語が出るとはどういうコトだ。

 しかも闇オークションでゲットした刀が魔物だったとか、ソレはもう色々とヤバいのではないだろうか。


 ……で、ヒトの部屋を血だらけにしてそのまま帰ったのね。


 汚れは時間が経つと落ちにくくなるのと同様、魔法で汚れを落とす時も時間が経った汚れが相手の場合はその分だけ魔力を必要とする。

 汚れの量によっても魔力の使用量は左右されるので、ジョゼがグッタリしているというコトは結構な血溜まりを作ったのだろう。

 それもヒトの部屋で。



「あー、もう……ジェネヴィーヴ達が戻って来る前にどうにかしようと思ってどうにかして、間に合ったと思いましたのに……鼻が麻痺してたのか、臭いのコトはすっかり忘れてましたわ……」



 グッタリとしつつ、ジョゼはこちらを見て言う。



「ごめんなさいね、帰って早々部屋が血液臭くて」


「アナタが謝るコトではないでしょう」


「本当に」



 自分の言葉に、ストーンスタチューが真顔で頷いた。

 ジョゼの非がまったくもって見つからない。

 普通ならジョゼが少々話しを盛ったとか、ヒトに罪を擦り付けようとしているとかを考えるかもしれないが、ジョゼは天使の娘だからか嘘を嫌う。

 ヒトの為の嘘や、誰かが自分の身を守る為に吐いた嘘、そして害の無い嘘であればジョゼは平気だ。

 だが基本的に嘘は好まないし、誰かの害になるような嘘はもってのほかという思考をしている。

 もしジョゼが原因なら嘘など吐かずソレを正直に教えてくれるだろうに、そうではない。

 そして控えめに話すコトは多くても話は盛らないジョゼなのだ。


 ……つまり、ホントってコトよね。


 ジョゼは嘘よりも沈黙で誤魔化すタイプだ。

 だから恐らく今言った簡易的な説明の中にもっと色々とアレなコトもあっただろうが、ソレは言わずにおいているんだろうなという気がする。

 しかしソレはとりあえず一旦横に置いておいて、ジョゼにこれ以上させるのは駄目だからと自分が消臭魔法を使用する。



「漂う悪臭消し去って、甘い香りをちょうだいな」



 呪文を少し変えてついでに香りの魔法も付与すれば、一瞬にして鉄臭さは消え、花と果物のような甘い香りが室内に広がった。



「ああ、甘い……って、申し訳ありませんわね、ジェネヴィーヴ」


「普段お世話になっているのだから、この程度は気にしないでちょうだい」



 それよりも、と自分は買って来たモノを取り出す。



「コレ、日頃のお礼よ。ストーンスタチューと王都を歩いていたら綺麗なリボンがあったから」



 出来るだけついでというような感じで言った方が、ジョゼの場合は気軽に受け取れるだろう。

 その言い回しが正解だったかはわからないが、ジョゼはどうにか上半身を起こし、受け取った箱を開けた。



「まあ、ムラも無くて綺麗な青色……しかもコレ、結構良い布ですわよ?高かったんじゃありませんの?」


「露店のだからそうでもなかったわ」



 一般人なら多少高いと感じる値段だったかもしれないが、こちらも一応貴族なのだ。

 つまり問題は無い。

 本心からそう思いつつ言うと、偽りは無いと見たのか、ジョゼは心配そうな顔を緩めた。



「そうなんですのね……ふふ」



 箱から取り出したリボンを手に持って眺めながら、ジョゼは嬉しそうに微笑む。



「とっても素敵なプレゼントですわ。ありがとう、ジェネヴィーヴ」


「気に入ってくれたかしら?」


「ええ、とっても!明日はコレを使いますわね」



 無事喜んでもらえたのに安堵し、ストーンスタチューと無言で笑い合ってのハイタッチ。

 どうせ隠れてやってもジョゼには見えるのはわかっているので、最初から隠れずにやった方が違和感は抱かれないだろう。

 私が語り手の物語は、これにて終了。




ジョゼフィーヌ

ツーサイドアップな二年生。

自他共に認める完全なる安全牌であり、友人やそのパートナーにも頼れる相談所扱いをされるくらいには好意的に認識されている。


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