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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
二年生
65/300

強奪少年とスメルブラッド



 彼の話をしよう。

 強奪の魔眼を有していて、狙われがちで、不安からの不眠症を患っている。

 これは、そんな彼の物語。





 読み終わった小説をパタンと閉じる。

 シリーズ物の最新刊であり、今回もまた面白かった。


 ……まさか一巻で出てきたあのヒトが伏線だったなんて……。


 今回は伏線回収が多く、色々な謎が明らかにされたものの、最大の謎はそのままだった。

 コレは最終巻が近いのかもしれないと思うと、楽しみという気持ちと共に寂しさが湧き上がるものだ。


 ……まあ、終わらないとグダグダになって飽きてしまうので、終わりは必要ですけれどね。


 そう思いつつ、余韻に浸り終わってから膝の上にある頭を撫でる。



「レオ、そろそろ起きなさいな。もう三冊も読み終わりましたわよー」


「んん……」



 声を掛けて起こそうとしたが、レオはぐずるだけだった。

 身じろいだ為に乱れた黄みがかった淡い紅色の髪を整えつつ、声を掛ける。



「レオ、もう手持ちの本読み終わっちゃったんですのよ。読み終わるまでという約束なんですから、起きてくださいな」


「……ん、ああ、ハイ……おはようございます……」


「ハイ、おはよう」



 寝惚けながらも起き上がったレオは、ほぼ邪眼と言っても差し支え無い魔眼を封じる為の目隠しの内側に手を入れて目を擦った。

 目隠し越しのその目に魔眼が発動している時特有の魔法陣が出ているのを確認しつつ見守っていると、意識が覚醒したらしいレオが驚いたようにバッとこちらを見た。



「エッ、アレ!?僕は何故今……いや、アレ!?」


「まー落ち着きなさいな」



 そうなるだろうとは思っていたので、慌てているらしいレオの背中をポンポンと叩く。



「眠れなくて寝不足気味で、意識朦朧としてたのはわかってますわ。事情も前に聞いていましたから、わたくしが見張りをするから寝たらどうですのって言ったんですのよ。本を読み終わるまでで良いなら、って」



 もっとも膝を貸すと言った覚えは無いが、まあ慣れているので今更だ。

 貴族の娘の膝とはこうも友人達に大盤振る舞いされるモノだったかはわからないが、まあ仲が良い友人が居ると考えると良いコトだろう、多分。



「で、寝れましたの?」


「ハイ、ぐっすりと……」



 レオは申し訳無さそうにそう言いつつ、恥ずかしいのか少し赤くなった顔を隠すように、目隠しの上から両手で顔を覆った。

 正直自分の目からすると隠されようと()えるのだが、まあ本人の気持ち的な部分を考えると指摘しない方が良いだろう。


 ……というか目隠しで顔の上半分隠れてるんですのよねー。


 まあ赤面する時は顔の下半分を隠さないと意味が無いので、隠そうとするのは妥当だろうが。

 アイマスクで赤面を隠すコトは出来ないようなモノだろう。



「……すみません。僕も連日寝不足だったとはいえ、まさか無断で友人の膝を枕にしてしまうとは……」


「別に構いませんわ。寝不足でフラついてたのが心配でしたし、そのくらいは」


「……ありがとうございます」



 そう言い、レオは申し訳無さそうな表情で目隠しの上から目を押さえた。

 そう、彼の不眠の原因はその魔眼だ。

 その魔眼は強奪の魔眼と言い、正確には邪眼と呼ばれるような能力を有している。


 ……目を合わせた相手の名前と記憶を奪うとか、相当ヤベェですものね。


 記憶は情報であり、名前は登録名だ。

 記憶を奪われただけで名前が残っていればキッカケや思い出の地などで記憶が構築され直して思い出すコトもあるのだが、名前を奪われるとどうにもならない。

 異世界である地球的に言うのであれば、データとデータファイルのようなモノだろうか。

 データファイルが残っていればまだ復元可能で、データファイルごと失えば復元不可能、という。


 ……まあ異世界のわたくしもそういう系に詳しく無いようなので、そういう説明で合ってるかは知りませんけれど。


 さておき、名前まで奪えるというコトはその対象をその対象だと認識する全てを奪えるというコトだ。

 名前とは入れ物のようなモノだから、ソレが無いと前と同じカタチにはならない。

 つまり相当レアで、相当危険で、相当の悪人から狙われる魔眼だというコトだ。


 ……いえ、ほぼ邪眼ですけれど。


 しかもオンオフが利かないらしく、レオは常に魔眼を封じる目隠しをつけている。

 本人からすると目隠しは安心するから良いらしいが、彼が困っているのは別のコト。

 要するに悪人に狙われがちなせいで、安心が出来ないのだ。


 ……少なくともこの学園内は安全ですけれど。


 だが王都が完全に安全かと言われると、()えてしまうがゆえに裏のコトも多少ドコロでは無く知ってしまっている自分としてはナニも言えない。

 一応襲ってくる悪人には邪眼を使用してまっさらでナニも無い人間にするコトで対応しているらしいが、しかしいつ襲ってくるかわからない不安から不眠症を患ってしまったらしい。


 ……学園に入る前からよく狙われてたそうですし、そう考えると仕方ありませんわよね。


 寧ろ幼少期から狙われて、よくぞ捻くれずに育ったものだ。



「でも、わたくしが見張りというのは安心出来るようですわね」


「ああ、ソレは確かに」



 レオは頷いた。



「恐らくジョゼフィーヌならば確実に不審者を見つけるコトが出来る、そして剣術の授業とかを見る限り、悪人に対してはあのレベルでの拒絶を見せると考えると……凄まじく頼れる見張りですから」


「悪に対する拒絶は、まあ、否定出来ませんわね」



 しかも反射的に拒絶してしまうのでどうにもならない。

 近付かれても不愉快だし、触れられるともうアウトだ。

 自動で体が動き出して相手を潰そうとしてしまう。


 ……まだ最近はトドメ刺さないように止めれるようになったのでセーフ!ギリギリセーフですわ!



「でも寝不足になる度にわたくしが見張りをして寝かせるというのも出来ませんから、早めにどうにかした方が良いですわね、その不眠」


「まったくです」



 レオ本人も当然のように不眠に困っているからか、心の底から同意だとでも言うように深い溜め息と共にそう言った。



「アロマとかどうですの?」


「駄目でした」


「ホットミルク」


「体が温まるのと眠気はまた別で……」


「子守唄……をルームメイトに歌ってもらうというワケにもいきませんものね」



 アンノウンワールドには音楽を再生する魔物は居ても音楽を再生する機械は無いので、必然的に生音が必要になってしまう。



「ハイ、一度試してもらいましたが無理でしたし」



 試したのか。



「正直に言うと、学園に入学してからはセキュリティという安心感がある分まだ比較的眠るコトは出来るんですが……やはりどうしても眠るまでに時間が掛かるし、短時間で起きてしまうんですよね」


「困りますわね……いっそ護衛をしてくれるような魔物がパートナーになってくれると良いんですけれど」


「……護衛」



 レオは静かな声で復唱した。



「ええ、人肉が主食なタイプだと尚助かりますわ」


「人肉」



 今度はきょとんとした声での復唱だった。

 目隠し越しに魔法陣が浮いているその目がパチクリと瞬きを繰り返しているのを()ながら、クスリと笑う。



「だって、人肉が主食なら悪人は寄ろうとしないでしょう?」


「ああ、確かに」


「そして人肉が主食の魔物用に学園の食堂や人肉料理店などもありますが、野生の魔物は食堂を利用したりしませんわ」


「そういえば……無意識にヒトの領域だと認識するから、縄張りみたいな問題で立ち入っては来ないんでしたね」


「ええ。そして一般の人肉料理店ですが、当然のように代金が必要」



 野生の魔物がどうやってお金を稼ぐのか、というアレだ。

 野垂れ死んだ旅人や遺跡にあったりするお金を使ったとしても長くは持たないだろうというコトはわかるので、お金を払って料理を食べようとするだけの知性があるならソレにもソッコで気付くだろう。

 その為野生の魔物が人肉料理店などに客として来る事はほぼ無い。



「つまり野生で人肉を主食とする魔物の場合、中々人肉を食べる機会が無いんですのよね」



 一般の人肉料理店やら人肉を食べる機会やら、我ながら狂った言動だ。

 だがアンノウンワールド的には日常会話なのでつまり狂ってるくらいが常識人ですの。



「基本的に主食が人肉というだけであって、他の肉などが食べられないワケではありません。つまりおつむが少々足りなくてヒトを襲って害魔になるような愚か者では無い、キチンとした自制心がある魔物なら話が通じますわ」


「今害魔のコト凄いディスり方しませんでした?」


「なので話が通じる魔物に交渉する、というのは手ですわね。人肉を主食にしていれば護衛として優秀な働きをしてくれるでしょうし、こちらの味方になってくれれば食用の人肉を提供も出来ますもの」


「無視ですか」



 無視だ。



「ただまあ、人肉を主食にしていようがしていまいが、言ってしまえば悪人をどうにかしてくれるような護衛が居てくれれば安心して安眠が出来るのでは、というコトですわね」



 例えばルーラントのパートナーである翡翠ウサギのように強くて、不審者から守ってくれそうな魔物、というコトだ。



「裏手の森なら魔物が沢山居ますし、探してみれば助けてくれる魔物も居るかも」



 居るかもしれないと言い切る前に、レオによって手を掴まれた。



「一緒に来ていただけませんか?ジョゼフィーヌ」



 目隠しが顔の上半分が隠れていようと、自分の目には素顔も同然に()える。

 そしてその完璧な笑顔に隠されていない意図も、余裕で読み取れる。



「……魔物図鑑代わりに、ですのね」


「迷わないというようにという保険もあります」



 笑顔でそう言うレオの顔には、隠す気など無いという意思がありありと表れていた。

 こちらとしては隠していてもわかるので今更だが、もう少し隠しても良いのではないだろうか。





 はぐれてもすぐに()つけるコトは出来るが、不安にさせない方が良いだろうというコトでレオを手を繋ぎながら森を歩く。



「慣れてますね」


「森にはよく来てますもの」



 気分転換や実際の魔物の生態確認、あとは巻き込まれたり迷子を()つけて救助したりだが、まあ結果森を歩くコトに慣れているのは事実である。

 経緯がどうであれ、結果に変わりはない。



「ううん……それはともかくとして、いまいちこの魔物!というような決定的な魔物は居ませんわね……」


「そうなんですか?」


「ええ。攻撃性やヒトからの警戒を促せるか、交渉が出来そうか……出来れば全部をクリアしている方が良いじゃありませんの」


「……確かに、そうですね」



 レオは静かに頷いた。



「僕の護衛をしてもらうというコトは、言ってしまえばパートナーになって欲しいとお願いするようなモノですし」



 護衛は普通に護衛なのだが、この先ずっと護衛を、というのは確かにプロポーズの一種だろう。

 もっともあくまでビジネスとして割り切るという可能性もあるのだが、そういう場合は年月を経るゴトに情が湧くので最終的にはやっぱりパートナーという関係に収まるコトも多く、つまりは間違ってませんの。

 そんなコトを考えつつ歩いていたら、大型犬の魔物が居た。



「……鉄の臭い?」



 自分が壁になっているせいで見えていないらしいレオがそう言った。

 しかしソレも当然だろう。

 目の前に居るのは狼のようにも見えるビジュアルの犬であり、その牙は全て鉄なのだから。



「スメルブラッドが、まさか人里近くの森に居るとは……」


「……私を知っているとは実に勤勉な子供だな。ソレとも同族に知り合いでも食われたか?」



 スメルブラッドは鉄の牙を見せ付けるようにして獰猛な笑みを見せた。

 この魔物の名前の由来は、今の言動からわかるように主食が人肉、そして牙が鉄であるがゆえに常に鉄の臭い、血の臭いを纏っているからだ。



「その言葉には、前者のタイプですわ、と答えさせていただきますわ」


「随分と余裕だな?私の種族を知っているのであれば、怯えて逃げるのが正解だと思うが」


「わたくし、目が良いんですの」



 ですから、と自分はスメルブラッドをじっくりと()る。



「ですから、アナタがわたくし達を食おうとしていないくらいは()えますわ。というかアナタ今さっき食事を終えたんですのね?胃袋の中に肉が()えますわよ」


「犬科は満腹感を感じにくいから、あればあるだけ食べるというのを知らないのか?」


「美しい……」



 突然零れ出たようなその言葉に、警戒からの緊張状態にあった自分とスメルブラッドの思考が一瞬停止したのがお互いにわかった。

 そして今の突拍子も無い言葉は、自分の背後から聞こえてきた。

 今まではスメルブラッドに集中していた為あまりよく()ていなかったが、死角に入っているワケでは無いのでそのまま顔を動かすコト無く背後のレオを確認する。

 レオは、自分の肩から覗き込むようにしてスメルブラッドを見ながら、見惚れていた。



「……レオ?」


「ハッ!?す、すみませんつい!ですが血の臭いをさせる悪人は何人か相手をしたコトがあるのですが、血の臭いをさせながらも歪んでおらずこうも素敵な方を学園の関係者以外で見たのが初めてで!」


「うん、墓穴掘ってますわ」



 ガッバガバに内心のアレコレを吐露してしまっている。

 だがしかし、コレは良いコトなのではないだろうか。


 ……スメルブラッドは、元々わたくし達が探していた魔物の条件に当てはまりますわ。


 更に護衛対象であるレオが一目惚れだ。

 彼女の方も自分達相手に脅すようなコトを言って警戒させようとしたり逃がそうとしている辺り思考回路がまともそうだし、交渉が出来る可能性が高い。



「えー、スメルブラッド」



 声を掛けると、スメルブラッドは警戒するように一歩下がり、鼻をヒクリと動かした。



「……敵意が無いのはわかるが、ナニを企んでいる?」


「ソレを今から話すんですのよ」



 相手も嗅覚が優れている為、自分の目のように察知するコトが出来るのだろう。

 だがそのくらいは学園内のそこらへんにゴロゴロ居るので、特に気にするようなコトでもない。





 近くで盛り上がっていた木の根っこを椅子代わりにしつつ、レオの邪眼や狙われたという事実、その結果の不眠症や、解決の為に魔物に護衛になってもらおうとしていたというのを説明した。

 モチロン、護衛になってもらいたい魔物の条件についても、だ。

 尚その間レオは自分の隣に座りながらもスメルブラッドに見惚れていた。

 見惚れられていたスメルブラッドは酷く居心地悪そうにしながら説明を聞き終わり、溜め息を吐く。



「毒に毒をぶつける……というのとはまた違うのだろうが、考えはわからなくもない。だが私を護衛扱いとは、舐めているのかとしか言えんな」



 スメルブラッドは目を鋭くし、ギロリとこちらを睨み付けた。



「彼が安眠出来そうなくらいの安心感があるのではという意味が含まれているのですけれど……まあ、そうなりますわよね」


「大体私にメリットがあるのか?」


「人肉が食べられる位置に居るコトになりますわ」


「……………………成る程」



 魅力的だったのか、スメルブラッドは長い沈黙の後にそう頷いた。

 異世界の自分的に言うと極東人に極東のソウルフードである米や大豆製品を提供するようなモノらしく、要するに彼女からすると人肉は食料として本能的に求めるモノだ。



「…………」



 スメルブラッドはレオに近付く。



「聞きたいコトがある」


「は、ハイ!」



 見惚れていた状態から慌てて頷いたレオに向かって、スメルブラッドは口を大きく開けた。

 そのまま前に一歩出れば、レオの頭をまるっと呑み込めそうな状態だ。



「お前は私を、どう思う」



 今にもレオを食べそうな状態のスメルブラッド相手に、レオは表情をほころばせて言う。



「とても素敵で、魅力的で、美しく思います」


「……成る程」



 スメルブラッドはレオから離れ、可哀想なモノを見る目でレオを見る。



「…………不眠症の弊害か、既に脳の美的感覚などに相当の不具合が発生しているな」



 現代の人類は自分を含めて大体狂人だし、レオの場合恐らく素だと思うのだが、ある意味間違ってもいないので訂正はしないでおく。



「良いだろう」


「ヒャウッ!?」



 フッと微笑んだスメルブラッドにより頬をベロリと舐められ、レオは驚きの声をあげる。



「レオと言ったな」



 そのままスメルブラッドは前足でレオの顎をクイッと持ち上げ、視線を合わせた。



「私がお前の護衛をしてやろう。とはいっても害魔になる気は無いから露払い程度だが、充分だろう」



 ……ナンか、恋愛系のシーンでよく見るような、でも男女の立ち位置が違うような光景ですわねー。


 だが現代では誕生の館がある為に男女云々やらはかなり薄まっているので、特に問題は無いだろう。

 単純に前例を見る比率がこのパターンの場合だと少ないだけだ。


 ……ま、大型犬の魔物が少年に顎クイとか早々見ませんわよね。


 スメルブラッドはその体勢のまま、ニヤリとした笑みをレオに向ける。



「安心して、眠ると良い」


「ハイ……」



 その格好良さに、レオは目隠しに隠れた目をうっとりさせながら頷いた。

 正直この光景やらその他諸々に色々とツッコミたいトコはあるのだが、目的を達成したのは事実だと思い、ツッコミたい色々は無言のまま飲み込んだ。





 コレはその後の話になるが、レオは無事に不眠症が治ったらしい。



「まったく、私にはナニが良いのかがまったくわからんな」



 そう呟くのは、己の腹を枕代わりにしてレオを寝かせているスメルブラッドだ。

 アレから眠れるようになったからか、今までの分を取り戻すかのようにレオは眠るコトが多くなった。

 現在も談話室で、横になれるソファの上でスメルブラッドに枕になってもらいながらレオはグッスリと眠っている。



「ナニが良いのか、と言えば……アナタがレオの好みドンピシャだったからじゃありませんこと?」


「ソコじゃない」



 自分で安眠する理由がわからないという意味だと思っての返答だったが違ったらしく、スメルブラッドは首を横に振った。



「私が言いたいのは、悪人共についてだ。確かに凄まじい能力で、恐ろしい邪眼であるコトは確かだろう。だが、何故わざわざソレを手に入れようと愚かな真似をするのかがわからない。

触らぬ神に祟り無し、相手の縄張りに侵入すればソッコでバトルになるように、手出しをするような領域でも無いだろうに」



 確かに魔眼関連では炎の魔眼がやったようにその魔眼の能力で破滅するヒトも少なくは無い。



「……ヒトというのは、手の届かないモノに憧れますわ。自分では届かない位置にあるモノを、汚すコトで自分と同じ位置まで引き摺り落としてでも手に入れようとする」


「ソレはもう価値が無いのではないか?」


「ソレがわからない程に愚かだからアホなコトするんですのよ。普通手の届かない位置にあるのなら、ソレがこちらに牙を剥いていないコトに安堵しながら見ない振りして過ごすのがベストですわ。ソレをわざわざ引っ張り出すとか、自殺志願者のアホでしかありませんもの」


「ふむ、ジョゼフィーヌは中々にザックリと切り捨てるな」


「人間という種は沢山居ますわ。悪は不要な腫瘍であって害でしかないモノ。ソッコで切り捨てて消し去るだけのモノ。わざわざ同情する程の価値も無ければ、手を貸す程の価値も無い廃棄予定のモノですわ」


「…………そうか」



 感情のままに素直に言ったらスメルブラッドに引かれたのが()えた。

 やはり自分の思考は結構な過激派らしい。


 ……まあ、ほぼ本能であってつまり生理的な部分ですから、どうしようも無いし、どうにかする気もありませんけれど。


 というか天使的思考からするとヒトの手の届かない位置、けれど見るコトは出来る位置にあるというのは神または神に準ずるレベルの存在というイメージなので、辛辣になってしまうのも仕方が無い。



「だが、そういうモノが居るのは事実で……そういうモノが居ない世界であれば良かったのにと思ってしまうのも事実だから、私がとやかくは言えんな」



 そう言い、スメルブラッドは眠っているレオの頬を舐める。



「……私は血生臭く、一歩間違えば害魔扱いされるような魔物だ。だというのにレオはそんな私よりも悪人を恐れていた。こんな血生臭い魔物に心の底から安堵して身を許す程に、悪人に恐怖していた」



 レオを見つめるスメルブラッドの目は、可哀想なモノを見る目だ。



「私は犬だから情に厚い。だからこそ、こんなにも若い内からそんなコトに悩まされているレオが可哀想に思えてしまう」


「可哀想、ですの?」


「ああ」



 スメルブラッドはレオの頬にスリ、と顔を擦り付ける。



「……そんなコトに悩まされていなければ、私のような血の臭いを漂わせる魔物に身を許すなんてコトは無く、もっと平和的な魔物と幸せになっていただろうと思うと、な」


「失礼ですね」



 パチリ、とレオが目を開けた。



「!?」



 先程からレオが目を覚ましていて狸寝入りをしていたのには気付いていたが、どうやらスメルブラッドは話に夢中で気付いていなかったらしい。

 というよりは、レオが完全に身を許していたからこそソコまで気にしなかったのだろう。



「スメルブラッド」



 レオは手を伸ばし、スメルブラッドの顔に触れ、自分の顔に引き寄せるようにして先程のスメルブラッドのように顔を擦り付ける。



「僕はアナタに一目惚れしたんですよ?コレはきっと、僕が不眠症で無かったとしても同じでしょう。どんな人生を辿っていようと、僕はアナタに惚れ、こうして共に居るようになる。ソレは間違い無いし、間違うコトなんて無い」



 だから、とレオは言う。



「だから、可哀想だなんて言わないでください。アナタが僕のそばに居るコトこそが、僕のなによりの幸せなんですから」


「……まったく、証明出来ないコトを確信的に言うモノでは無いぞ」



 そう言いながらも、スメルブラッドは嬉しそうにレオにスリスリと顔を擦り付けた。

 表情や口調は普段通りだが尻尾がブンブン振られており、喜びを隠し切れずに体が正直にソレを暴露してしまっている。


 ……ま、仲睦まじいのは良いコトですわ。


 ソレはともかく、レオとスメルブラッドは自分がとても近くに居るコトを覚えているのだろうか。

 完全に一人と一匹の世界になってしまっていて、自分は相変わらずアウェイである。




レオ

常に発動していて目を合わせ続けるだけでアウトな強奪の魔眼を有している。

実家はそれなりの一般家庭の為入学前は結構狙われ、学園に入学してからも悪人への恐怖が拭えなかった。


スメルブラッド

牙が鉄で出来ていて鉄臭くて主食は人肉という、アンノウンワールドじゃなかったら討伐一択になりそうな魔物。

護衛は乗り気では無かったが、レオの好意と人肉に惹かれた。


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