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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
二年生
61/300

鬼少年と炎の魔眼



 彼の話をしよう。

 極東からの留学生で、鬼の混血で、故郷を大事に思っている。

 これは、そんな彼の物語。





 混血には様々な種類がある。

 見た目がかなり魔物寄りだったり、思考回路や本能が魔物寄りだったりだ。

 現在目の前の席に座って本を読みながら頭を抱えて唸り声を上げている彼は、見た目がかなり魔物寄りな混血である。



「うーーーーーーん……」


「……あの、ハルユキ?」


「ん?」



 こちらの呼びかけに反応して、ハルユキは顔を上げた。

 その顔は厳つく、額からは二本の角が生えており、大きな口には大きな牙がある。

 体躯も同い年とは思えないくらい、と言うのはアレだが、既に成人男性並みの体躯に成長していた。


 ……まあ、混血ですしね。


 親である魔物が大柄な魔物だとその魔物との混血である子も大きくなりがちなので、大して不思議でもない。

 よくあるコトだ。

 ちなみに彼の親は鬼系の魔物らしく、角や牙はその遺伝だろう。



「ああ、ジョゼフィーヌか。どうした?」


「どうしたはわたくしのセリフですわ」



 首を傾げたハルユキに、溜め息混じりでそう返す。

 図書室なのでモチロン小声だ。


 ……うっかり大声出すと、ランヴァルド司書の低音に腰やられますものね。



「さっきからうんうん唸ってその本読んでましたけれど、どうかしましたの?」


「いや、ちょっと……どうしたものかな、ってな」


「?」


「あー……相談したいのは山々なんだが」



 ハルユキは苦笑しながら、遠くに居るランヴァルド司書に視線を向けた。

 その視線から、ここで説明すると注意される可能性があるというのを察する。


 ……まあ、うっかり長話になったりしたら注意されますわよね。


 そして注意の為にランヴァルド司書の声を聞いたら確実に腰が砕けるので、確かに場所を移動した方が良いだろう。

 もし悩みがあってソレの相談タイムになりそうなら尚のコト。



「……了解しましたわ。では一旦場所を変えましょうか」


「助かる」



 子供が見たら泣きそうなくらいに鬼らしい顔の彼ではあるが、性格は優しい。

 その証拠に、今もお礼を言いながら申し訳無さそうに控えめな笑みを浮かべていた。





 一旦中庭のベンチに移動し、改めて聞く。



「ソレで、どうして唸ってましたの?」


「いや……こう……どう説明すれば良いのかいまいちわからないんだが」



 本気でわからないらしく、ハルユキは困った表情をしながら大きな手でろくろを回している。



「んー……まず、ナニに悩んでるんですの?」


「ナニに、というか……ナニが解決策になるのかわからなくて悩んでる、というか」


「解決策というコトは、解決したい問題があるんですのね?」


「ああ……あ、そうか、ソコからか」



 納得したように頷き、ハルユキは話し始める。



「まず俺は極東からの留学生だが、極東の中でも北の方から来たんだ」


「あ、そうだったんですの?」



 極東からの留学生というのは聞いていたが、ソレは初耳だった。



「それで故郷なんだが……凄く寒いトコロでな。俺は鬼との混血だし、見ての通りの見た目だから代謝は良いし肌も頑丈だしで寒さには困ってないんだが、俺以外のヤツはそうじゃないだろ?」


「まあ、そうでしょうね」



 ハルユキが寒さに耐性が強かったとしても、他のヒトはそうでもあるまい。

 恐らく寒さに対してかなりのヒトが凍えているハズだ。


 ……異世界の自分知識によると、異世界である地球の極東の北は室内がポカポカだそうですけれど……。


 だがソレはソコの住人達が寒さに慣れているコトと、暖房設備が整っているからだろう。

 魔法や魔道具があるとはいえ、このアンノウンワールドは基本的に中世レベルの機械技術だ。

 機械系魔物は異世界である地球以上にオーバーテクノロジーな気がするが、機械系魔物はこちらの住人から見てもオーバーテクノロジーなので今は除外しておこう。


 ……ホント、一体どうやって生まれたんでしょうね、この世界の機械系魔物達は……。



「ソレで俺は出来るだけ率先して皆の手伝いとかをしてたんだが、このままじゃ駄目だと思ったんだ。ソレで留学しないかってこの学園からスカウトが来て、現状をどうにかする方法がわかるかもしれない、って思って留学した」


「現状をどうにか、というと?」


「根本的にもう少し周辺の温度を高く出来ないかな、ってな。せめてもう少し雪が溶けやすくなるとか、近所の井戸や川が凍らないようにとか」


「ソコまで寒いんですの?」


「寒い」



 ハルユキは真顔だった。



「だから色々と考えてるんだが……もう頭が痛い」



 そう言って、ハルユキは頭を抱える。

 手が大きい為それだけの動作で青緑色の髪が三分の一程覆われた。



「地面の下に管を入れて温水を流すコトで上を暖めるとか」


「床を温かくする為に用いられたりするヤツですわね」


「ああ……問題は、俺の故郷の周辺に温泉が無いコト」


「おっと」



 遠くから引っ張ってくるというのは色々大変そうだ。

 掘れば出てくるのではとも思うが、温泉を掘るというのは重労働だし、やっても出てくるかは不明である。



「いや、水はあるんだ。水なら沢山……温水じゃないだけで、時々凍るだけで……」



 どんどん丸まっていくハルユキの背中を無言でポンポンと撫でる。



「コレに関しては別に頼まれても無いし、正直俺が勝手に調べてるだけなんだが……田舎だから誕生の館が遠くて、魔物のパートナー持ちは居ても混血は最近になってようやく増え始めた感じで、故郷には寒さに弱い老人も多く……」


「どーどーどー」



 ネガティブスイッチが入ってしまったらしいハルユキの背中を強めに叩いて落ち着ける。

 鬼の混血だけあって頑丈で痛みに鈍いので、このくらいの方が振動も伝わるだろう。



「要するにハルユキは故郷が寒過ぎるからもう少し暖かい設備とかを整えたいけれど、どうしたら良いかわからなくて困ってるんですのね?」


「ああ。特産品らしい特産品も無いからあまり裕福な場所でも無いし、家の中も結構寒くてな……」



 ソレは確かに心配になる。

 ハルユキの場合は自分が寒さに耐性があるからこそ、寒さに弱い他のヒトがとても心配で仕方ないのだろう。



「まあ母は鬼である父に抱き締められて暖を取ってるから多少設備が整って無くても大丈夫そうなんだが、他の家とかが炭足りてないらしいとか聞くと心配で心配で……。寒くて雪降ってるせいで炭の材料になる木材調達に行くにも重労働だし、ああもう、ホントに心配だ……!」


「うん、心配なのは伝わりましたけどご両親のラブラブ話で流れ弾が当たった気分ですわ」



 油断していたら死角から飛んできた石が後頭部にヒットした気分とも言える。



「でもそうですわね……温かくしたいなら、炎系などの魔物をパートナーにするとか」


「調べたが、故郷一帯を暖める程の火力は無さそうだった。もしあるとしたら相当な力を持つ魔物だから恐らく滅多に出会えないという……」


「えーと、魔道具とか」


「一家庭に一つお土産にするとしても使用に期限はあるし、俺が力仕事で稼いだ分じゃ良い魔道具を故郷の家庭分全部を賄うのは厳しくてな」



 まだ年齢二桁になったばかりの子供が故郷にある家庭全部を養う気かと思わずツッコミそうになったが、飲み込む。

 その自己犠牲精神は身を滅ぼすだろうと言いたくて仕方が無いが、天使の娘である自分が言うとブーメランな気がするのだ。

 つまり説得力が無い。



「え、えーと、えーと、炎系のパートナーを探しつつ教師達に助言を求めてみるというのは!」


「ソレは…………」



 ナニかを言おうとして、ハルユキはきょとんとした顔になって顎に手を当てる。



「そういえば、自分で調べるコトに集中し過ぎて助言を求めたコトは無いな」


「エ、でも結構頻繁に教師と話してますわよね?」


「調べてもわからないトコを質問するコトが多くて、故郷の寒さをどう解決したら良いかを聞いたコトは無かった」


「では聞きに行けば、新しい発想が出るかもしれませんわ!」



 自分は知っている知識しか無いのでアドバイスは出来てもそういう新発想とかは出てこないタイプだ。

 なので聞きに行こうという案を出すと、ハルユキは笑顔で頷いた。



「そうだな、困った時は聞けとも言われてるし……誰に聞こう。ジョゼフィーヌはこういう時に頼れそうな教師に心辺りはあるか?」


「まずフランカ魔物教師にパートナーにオススメな魔物を聞いておきたいですわ。ソレと魔眼に詳しい分様々な知識を有してるローザリンデ魔眼教師にもですわね。

暖房設備に関してはフェリシア機械教師が良いと思いますわ。あと一応エゴール魔道具教師と、保温に優れた服や布団の作り方を聞く為にカティヤ手芸教師に聞くという手もありますわよ」


「すまん、長くて後半聞き取れなかったから順番に案内を頼めるか?」



 確かに今のは我ながら一気に言い過ぎた感もあったので、ハルユキの言葉に頷いた。





 残念なコトにというかいつも通りというか、フランカ魔物教師は不在だった。

 もっとも今回のはフィールドワークというよりもオンリーギアがギヤリングに種族チェンジしたコトに関する云々で出かけたらしいので仕方が無い。


 ……今回に関してはこちらが面倒を掛けさせてしまいましたわね。


 さておき、次にローザリンデ魔眼教師の元へと向かう。

 この学園はそれぞれの教師に自室と研究室があるので、職員室は無い。

 もっとも研究室というか、一部は図書室とか保険室とか温室などの場所が提供されるカタチだが、ローザリンデ魔眼教師の場合は研究室だ。

 彼は教師というよりも魔眼の研究者であり、授業以外は基本的に研究室に居るコトが多い。



「ローザリンデ魔眼教師、少々聞きたいコトが……」



 中に居るのをこの目で確認してからそう言ってノックすると、すぐに返事が返って来た。



「んん?ナニかな、エメラルド君。まあ入りたまえよ」


「失礼致しますわ」



 中に入ると、コレクションルームのようにケースが沢山ある空間が広がっている。

 ケースの中には様々な宝石が仕舞われていたり、特殊な加工がされた義眼が飾られていた。



「おや、後ろに居るのは」


「ハルユキですわ。少々彼が悩んでいる問題についての質問がありますの」


「成る程、まあ歓迎するよ。お茶は無いけどネ」



 そう言いつつ椅子を出してくれたので、お礼を言いつつ座る。



「で、悩みというは?」


「ええと、ナニから話せば良いのか……」



 困ったように頭を掻くハルユキを見て、自分はローザリンデ魔眼教師に端的に説明する。



「要約しますと、故郷がめっちゃ寒いからもう少し設備を整えるなりして暖めたいけど特産品無くて設備整えられなくて困ってる、という感じですわ」


「ふむふむ、つまり発想の助けになるような意見を聞きたい、と。ソレで僕のトコロに来たんだネ。まあ確かに僕は魔眼の研究で無駄に知識が豊富だから、多少役立つ知識もあるだろう」


「理解が早い……」



 驚いたようにハルユキがそう呟く。

 もっともローザリンデ魔眼教師は研究対象が魔眼という、かなりジャンルの幅が広い分野を担当している。

 理解不能なモノも多い為、自然と理解も早くなるのだろう。



「だが役立つ知識を僕が持っていたとしても、どういう会話をすれば君達の役に立つかはわからないからネ……この義魔眼とかお土産にするかい?隻眼のヒトが居たら使ってもらえば一気に周辺が暖まるよ」



 そう言ってローザリンデ魔眼教師はケースの中から、虹彩を宝石で作ってある義魔眼を取り出す。



「周辺を暖めるコトが出来る魔眼なのか?」


「いや、目から鉄くらいなら余裕で融かせる熱光線を放つ魔眼。ちなみに威力強いから二回使用しただけで壊れちゃう失敗作なんだよネ」


「遠慮させてもらう!」


「そうかい?残念」



 本気で残念そうな表情でそう言い、ローザリンデ魔眼教師は義魔眼を仕舞った。

 ローザリンデ魔眼教師の作る義魔眼はかなり出来が良いのだが、魔眼としての威力が強くて義眼として作られた義魔眼ではソレに耐え切れず、数回で壊れてしまうらしい。

 要するに容量オーバーによる崩壊だ。



「他には……まあ適当にこの辺の義魔眼を見て質問してくれれば答えるよ。ソコから勝手に発想生み出しちゃって」


「勝手にって……」


「僕は魔眼にしか特化してないからネ。そもそも研究やサポートの為にここの教師になっただけだから教えるのにも向いてないんだよ」



 ローザリンデ魔眼教師はケロリとした様子でハッキリとそう言った。

 相変わらずというか、この学園の教師は皆こういうサッパリし過ぎな部分がある気がする。


 ……いえまあ、研究者気質が殆どだからでしょうけれど。



「じゃあ……コレは?」


「ああソレ?自信作なんだよネ。視界に入った相手の思考とか読み取れるの。ただ情報量が凄いからソレらを整理出来るだけの容量が無いと義魔眼より先にソレ使用したヤツの脳みそがヤバくなっちゃうんだけどネ」


「怖い!……こっちは?」


「選択肢の義魔眼、の失敗作だよ。行動する度に最善、普通、最悪の選択肢が視界内に現れる選択肢の魔眼を元に作ったんだけど、パターン違いで最悪の選択肢だけが出る義魔眼になっちゃったんだよネ~」


「ナンで失敗作をそのまま置いてあるんだ!?」


「最悪があった方が最高を作る為の土台になるし、そういうのがあるとどのくらいの完成度かが判断しやすくなるんだよ」


「急に真面目なコト言ってくる……」


「僕はいつでも真面目なんだけどネ?」



 二人でナンだか楽しそうに盛り上がっている。

 いや、ハルユキは表情が少し引き攣っているが。



「ん……ところで、あっちにあるケースとは違う黒い箱は?」


「ああアレ?本物の魔眼が入ってるヤツ」


「本物!?」


「うん」



 ローザリンデ魔眼教師はさらっと頷いた。

 自分は中身が()えるので前から知っていたが、知らないとやはり驚くものらしい。


 ……正直義魔眼だらけの空間に本物の魔眼があるってだけだったので、わたくしは驚けませんでしたのよね……。


 だがまだ自分はイージーレベルの狂人なのでセーフのハズだ。

 ギリまとも。



「研究には当然魔眼が必要だからネ。もっとも魔眼単体だと魔物化してるから、普通に会話して協力してくれそうなら色々聞いて再現、みたいな感じだよ。まあ殆どは闇オークションで売られてたのを保護した魔眼ばっかりだから、暗くした箱の中で休んでるけどネ」


「闇オークションでって……」


「自立移動出来ない魔物はターゲットにされやすいからネ~。この学園なら安心だしってコトで保護されるとここに引き渡されるようになってて、僕が教師になってからは専門家だからってコトで任されてるんだ」



 そう説明しつつ、ローザリンデ魔眼教師は黒い箱のスイッチを指差す。



「コレは魔道具になってて、基本的には黒くして見えないようにしつつ、内側からの音が聞こえないようになってるんだ」


「外からの音は聞こえるんですか?」


「まあネ。日常生活の会話はメンタルを回復させるのに良いから」


「内側からの音を遮断しているのは?」


「闇オークションなんて経験した魔眼が暴言吐かないと思うの?」


「あー……」



 納得したのか、ハルユキが頷いた。

 自分も透視で()える字幕で時々呪詛っぽいのを吐いている魔眼がいるのが()えるので、その処置は大事なのだろう。

 だからこそ今は視界を出来るだけフラットにして得る情報を少なくし、うっかり恨み言とかを叫ぶ魔眼の言葉を読まないようにしているが。


 ……要するに現実逃避ですわよねー……。



「ちなみにこの箱は魔眼の能力も封じてあるんだ。じゃないとヤバいし」


「確かに……」


「で、黒いのはこの部屋に来る生徒のメンタルにあまりよくないかもしれないからってコトで黒くしてあるだけで、このスイッチを押すと」



 ローザリンデ魔眼教師が黒い箱のスイッチを押すと、一瞬にして黒い箱が魔眼の入ったケースへと変わった。

 義魔眼とは違う、生きた目玉がある。

 魔物と化しているからか、茶色ではなく真っ赤な虹彩だ。



「このように色が変化し、音も」


「スイッチ押すのがおっそいのよアンタ!」



 ケースの中から、魔眼がいきなり大声で叫んだ。



「さっきからずぅっと呼んでたってのに!っていうか私アンタには確か私の事情を話したわよね!?ナンで私っていう選択肢が出てこないワケ!?最適解がここにあるってのに!」



 ……あ、さっきからナンかめちゃくちゃ喋ってる魔眼が居るなとは思ってましたけれど、アレってローザリンデ魔眼教師を呼んでたんですのね。


 正直他の魔眼によくある暴言や呪詛の言葉かと思い、()える字幕を読まないようにと意識を逸らしていたので気付かなかった。

 通りで字幕が騒がしい魔眼が居ると思ったワケだ。



「……え、ナニいきなり。どうかしたの?」


「どうかしたのじゃないでしょう!?ここに!最適解が居るでしょって話!アンタ私がここに来た時の事情忘れたっての!?」


「忘れてないけど……え、でも役立てるかな」


「コレ以上なく役立てるに決まってんでしょ!?幾らでも燃やして暖かくしてやるわよ私の能力で!」



 叫ぶ魔眼とのんびりしているローザリンデ魔眼教師という現状にどうしたら良いのかわからないらしくハルユキがおろおろしていたので、溜め息を吐きつつ手を上げる。



「あの、説明をいただきたいんですけれど……」


「ああうん、そうだネ」



 頷き、ローザリンデ魔眼教師はケースの中の魔眼を指差す。



「彼女は炎の魔眼でネ。丸一日は消えない炎を出現させれるくらいには強力なんだ。ただ魔物化してから闇オークションで売られて、コレクターに購入されてネ。本魔からすると能力を使用してこその魔眼って感じだったみたいで、飾り扱いが不満みたいでさ」


「当然よ。あんな扱い二度とごめんだわ。大体魔眼に能力も使わせず観賞するだけなら義魔眼買って飾っとけって話よ!」



 人間を監禁するくらいなら人形飾って満足しとけ、って言う被害者みたいなモノだと思われる。

 正直言って魔物の感性は人間とは似てるようで微妙に違うコトも多いので、理解が難しい。



「で、コレクション扱いに嫌気が差して彼女は持ち主の家を燃やしてネ。いや、正確には持ち主を燃やしてソコから、だったかな?まあ結果は同じだからどっちでも良いか」



 ソレで良いのかと思わなくはないが、相手は悪人っぽいのでまあ良いだろう。

 悪には罰が下るモノだ。



「そして彼女や他のコレクション扱いをされていた魔眼達は炎にも耐えられるケースの中に入れられていたから後日焼け跡から無事保護され、僕のトコに来たってワケ」


「ソコでメンタル状態の確認の時にちょっと会話したんだけど、その時に私は話したのよ。私を必要としてそうなヒトが居たら私を紹介してちょうだいって」



 なのに!と炎の魔眼は叫ぶ。



「寒さで困ってて周辺一帯を暖かくしたい!?なら炎の出番でしょうが!ナンで私を紹介しないのよ!」


「いや、炎ってだけで暖かくとか出来るかなーって思ってさ」


「出来るに決まってんでしょ家ん中の暖炉の中全部に丸一日燃え続ける炎を燃え盛らせてやるわ!ソレが面倒だってんなら全部の家に煙突みたいなパイプ繋げて、ソレらに繋がってる部分で炎燃やして暖かい煙を通らせる!そうすれば煙は外に出るしパイプ繋がってる部分は暖かくなったりするハズよ!」


「うーん、僕温度云々に関してはあんまり詳しく無いからそう力説されても困るんだけどネ」


「私だって燃やすしか出来ないからこんなん専門外よ頑張ってるトコを評価しろ教師!」



 流石炎属性というか、性格が炎のように熱い魔物だ。



「あー、すまない」



 ソコで、今まで黙って見守っていたハルユキが手を上げた。



「つまり、彼女が俺に協力してくれるってコトで合ってるか?」


「ええ、そうよ!」


「力になるかわかんないんだよネー」



 同じタイミングでの発言だったが、炎の魔眼の声の大きさでローザリンデ魔眼教師の声は殆どかき消されていた。



「…………ちなみに、なんだが」



 その返事を聞き少し考えるような仕草の後、ハルユキは真面目な顔で言う。



「彼女を俺が引き取る場合、金銭とか発生するか?」


「いや?義魔眼なら発生したりしなかったりだけど、魔眼の売買とか普通にアウトだし。僕としては生徒の手に渡るなら時々研究に協力してもらえそうだしで全然構わないよ」



 ローザリンデ魔眼教師はニッコリと笑う。



「というか魔眼の方がソレ願ってるならソレにオッケー出さないと拗ねて協力してもらえなくなるって考えると、僕の場合オッケー出すしかないよネー。まあ一番やかましい子だったから引き取ってもらえるなら僕も助かるんだけど」


「誰が騒がしいのよ!誰が!」



 ナンだか少々困ったトコロがある娘を嫁に出す父親のように見える。



「でもホントに燃やすだけだし、キレやすいよ?さっきみたいに案とかは一応あるみたいだけど通用するかはわかんないし、寒い場所なら乾燥してるから燃えやすくて危険じゃない?ソレでも良いの?」


「ソレでも、っていうか……」



 ハルユキはその大きな手の指で硬そうな頬を掻く。



「力になってくれようとしたのが嬉しいし、俺の故郷は温泉こそ無いけど水が沢山あって乾燥とは無縁だから、その炎で雪を融かしてくれたら助かるなって。あと案に関しては俺も全然だから、多少でも案を出してくれるならソコから色々考えれるから、その」



 ハルユキは目を逸らしていたが、その目をケースに入っている炎の魔眼へと向けた。



「もし可能なら、俺のパートナーになってくれたら嬉しい」


「…………いきなりですわね?」


「いや、俺の故郷の付近には氷系の魔物しか居ないから炎系の魔物が凄く魅力的でというか凄くあの、凄く、憧れなんだ……!」



 そう顔を赤くするハルユキの心臓の動きや血流の流れ、表情筋などから嘘は()えない。

 つまり、本気でパートナーにと思っての告白らしい。



「……らしいけど、どうする?」


「あら、モチロン受けるわよ?」



 一方炎の魔眼は、ローザリンデ魔眼教師の言葉にアッサリとそう答えた。



「だって私を使ってくれるんでしょう?ソレに魔眼だからじゃなくて、炎だから好きっていうのが気に入ったわ!」



 ハルユキの悩みを解決する為に教師達に聞こうとしていたハズが、第二の初手で凄い結果になってしまった。

 というか結構時間が経過しているので他の教師に聞きに行く時間も無いが、良いパートナーが出来たようでなによりだ、と拍手した。





 コレはその後の話になるが、なんとハルユキはそのままだと不安だからと言って、己に炎の魔眼を移植した。

 魔眼は魔物化するとそのまま魔物という扱いになるので、移植されて誰かの一部になっても魔物のままだ。

 感覚的にはハンドアイのように、体の一部としてありながら魔物であるというカタチになる。


 ……ただ、魔物化した魔眼だと視覚の共有は出来ませんのよね。


 だがハルユキとしてはうっかり落としたりしたら雪でわからなくなってしまうかもしれないから、という心配から炎の魔眼を移植した。

 ソレも自分の片目を摘出して移植するのでは無く、右目の下、右頬に穴を開け、ソコに移植した。



「いや、ナンか……不思議な気分ですわね」


「そうかな?俺はもう慣れたけど」



 そう言われても、友人がいきなり三つ目になったら誰だって違和感を抱くだろう。

 しかも新しい目は魔物だし、色違うし。

 基本的にヒトか魔物かはカンと目の色で判断するが、こういうタイプは一瞬混乱する。


 ……ま、ソレで問題があるかと言うと無いんですけれど。



「そうだ、炎の魔眼、お前は次ナニ読みたい?」


「そうね……やっぱり暖炉の仕組みとかに関してかしら」


「だよな、俺もそう思う。ジョゼフィーヌは他に参考になりそうな本知ってたりしないか?」



 ハルユキと炎の魔眼が言っているのは、炎の魔眼が言っていたパイプ暖炉のアレだ。

 まずはソレを実行出来そうかどうかを色々考えるコトにしたらしい。



「熱をパイプで移動させるなら、水道関係とかも良いと思いますわ」


「成る程、確かにそうだな」


「ソレなら熱を逃がさないようにっていう本とかもないかしら。多分そういうのも探した方が良いわよね」


「確かに。よし」



 頷き、ハルユキは立ち上がった。

 相変わらず同い年とは思えない背の高さだが、同級生の中に同じくらいの背丈が居ないワケでは無いのでつまりよくあるコトですの。



「ちょっと本を借りてくる」


「借りてきたらまた意見とか聞きたいから、ここで待っててくれるかしら?」



 自分はいつのまに炎の魔眼からソコまで信頼されるだけの好感度を得ていたのだろうか。

 そう不思議に思いつつも、笑顔で手を軽く振る。



「ええ、わたくしは現在読書中ですもの。読み終わらない限りはこの談話室に居ますわ」



 そう返し、図書室に向かうハルユキと炎の魔眼を見送った。




ハルユキ

名前は漢字で書くと春雪という文字。

実は鬼の本能である好きな相手と一つになりたい欲というのが遺伝しているのだが、親から知らされていないので完全に無意識。


炎の魔眼

ニートにはなりたくない働きたい!というタイプ。

人間の体に移植されるのは魔物化する前のような感覚を思い出し、何となく安心するが言うつもりは無い。


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