狩人少年とシーフウィーズル
彼の話をしよう。
狩人の家系で、握力が凄くて、よく狩った害魔の肉を提供してくれる。
これは、そんな彼の物語。
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このアンノウンワールドは、異世界である地球が動物というヒトとは違う生き物と共存しているように、魔物とヒトが共存している世界だ。
そしてあちらに害獣が居るように、こちらには害魔が居る。
当然、害獣と同じように害魔は害があるとして処分されるコトが多い。
……まあ、下手すりゃ死にますものね。
ヒトを食べていない熊ならセーフみたいな感じで害魔もソレっぽい害を為していなければセーフ対象だが、性質的にアウトなのもそれなりに居る。
そんな害魔は基本的に、兵士か狩人が対応する。
一般人でも別に駄目というワケでは無いが、命の危険がある上に最悪の場合死者を操る系の害魔とかだと超危険だからまずは逃げろ、という感じなので大体は逃げる。
さてそんな害魔を処分する兵士だが、兵士は一般人からの通報があり、危険性が高いとかアウトな害魔の可能性があるという時しか動かない。
……まあ、異世界である地球でもそういうのって猟友会の仕事だったりしますものね。
畑を荒らすとか森の生態系が崩れるとか増え過ぎだとか、そういうのに対処するのは基本的に狩人の仕事だ。
そしてそんな狩人の息子が同級生に居るのだが、彼は現在自分の目の前で害魔とされているホラージュエルを手に持っている。
しかも仕留め済みなのかホラージュエルの体にヒビが入っているし、色がくすんでいる。
「……え、ナンですの?」
「いや、ホラージュエルが居たのでな」
だからナンだ、と思わず胡乱げな目でグレーゲルを見る。
首を傾げて濃い紺色の髪を揺らす彼は、狩人の息子であるグレーゲルだ。
彼は悪いヒトでは無いのだが、微妙に言葉が少ないのとこうやって仕留めた害魔を報告してくるクセがあるのでつまりノーマル以上の狂人ですの。
……ま、グレーゲルですしね。
「で、ソレが?」
「ん?ああ、だから、ホラ」
そう言ってグレーゲルはこちらにホラージュエルを見せる。
ちなみにホラージュエルとは宝石が魔物化したモノであり、周囲の人間の生命力を吸って宝石を成長させ大きくなる、という魔物である。
大きければ大きい程、必要とする生命力が増える為周囲の人間の命に危険が迫る。
更にホラージュエルによっては自分を成長させる為にとヒト一人分の全生命力をまるっと吸いきるような悪も居るので、害魔とされている。
……まあ、仕方ありませんわよね。
血を吸うのをセーブしたり輸血パックなどで平気な吸血鬼ならともかく、毎日五人くらいを貧血にするレベルで飲む吸血鬼が居たらソレは害魔と認定されるだろう。
つまりはそういうコトだ。
そしてこのホラージュエルは中型犬くらいのサイズはあるので正式に害魔認定を下されたのだろうが、何故見せてくるのか。
……グレーゲルですものね。
彼は幼少期から狩人としての常識を仕込まれているせいで、普通の常識がいまいち備わっていない部分がある。
だからこの行為にも意味があるとは思うのだが、猫が獲物を飼い主に見せる心境のようなモノかもしれないという可能性も無くはないのだ。
つまり意味がよくわからない。
……表情筋が死んでるというワケでも無いのにいまいち感情が読めないとか、結構レベル高めな狂人ですわよね、グレーゲル。
「……ええと、正直ソレを差し出されても意図がわかりませんので、一から説明していただけます?」
「ふむ、どこから説明すれば良い?」
「出来れば最初……あー、何故ホラージュエルを仕留めたのかとか、その辺りから」
「成る程」
彼は害魔を相手取る狩人だからか、曖昧な言い方だとよくわからないらしい。
ハッキリした指示でやり取りするからなのだろうが、別にアドリブな行動も普通に出来るのだから、もう少し臨機応変にコミュニケーションを取って欲しいものだ。
「まずホラージュエルを森で見つけ、周囲が魔物達の死体やグッタリして気絶している魔物達でいっぱいになっていた」
「ワオ」
「これはアウトだなと判断し、仕留めた」
まあ確かにその状況では確実にクロだろうから、迅速な判断は正解だろう。
下手にまごつくと気絶している魔物達も危険なのだから。
「そして魔物の死体を埋葬して、気絶した魔物達を第一保険室に運んだ結果「要らん仕事を増やすな面倒な!」と保険医に怒られた」
「あ、うん、ドンマイですわ」
恐らくカルラ第一保険医が一服しようとしていたタイミングだったのだと思われる。
「で、コレをジョゼフィーヌに見せようと思って持って来たのだ」
「ソコをもうちょい掘り下げて欲しかったんですけれど……」
オブラートがいまいち通じないグレーゲルにどうやって伝えようかと少し悩む。
普段主張がほぼ皆無な異世界の自分がようじょようじょと腕を振っている気がするが恐らく気のせいだろうとスルーして、率直に聞く。
「つまり、どうしてわたくしに見せに来たのかを聞かせていただけると助かりますわ。まずどうしてわたくしに見せに?」
「ジョゼフィーヌは魔物に詳しいだろう」
「まあそうですわね。では何故魔物に詳しいヒトに見せようと?」
「俺は狩人なのでな。だがホラージュエルを食える程強い歯でも顎でも無いから聞きに来た」
「…………あー、成る程」
あまり察したくは無かったが、察した。
つまりグレーゲルは狩人であり、狩人は狩った害魔の肉を処理も兼ねて食べるコトが多いのだ。
……まあ、モチロン毒がある魔物とか人体に危険のある魔物は食べませんけれど。
しかしグレーゲルからすると仕留めた害魔は人体に害がある害魔以外は食べるべきという常識なのだろう。
そしてホラージュエルの場合は宝石というだけであって毒があるワケでは無いから、魔物に詳しい自分にホラージュエルを食べる方法がないかを聞きに来た、のだと思われる。
もっとも確証は無いが。
……確認、要りますわよね。
「……つまり、ホラージュエルを食べれるように出来るか、出来るとしたら調理法などを教えて欲しい、と?」
「うむ、そういうコトだ」
こんなにも辛い気分になるビンゴは初めてだ。
ニコニコな笑顔を浮かべているのは別に良いのだが、そんな質問をされても困る。
せめて宝石とか鉄とか石とか、そういうのを主食にしている生徒に聞くという手もあっただろうに何故自分に聞いてきたのだこの男。
……いえまあ、ソレらを主食とする混血相手じゃそもそもの作りが違ってたりしますものね。
だが聞かれても困るのは事実だ。
そして聞かれて困ってどうしたら良いのだろうと頭を悩ませている現状も現実。
「…………とりあえず率直に言って、ホラージュエルは完全に宝石ボディなので食べるのは不可能ですわ」
「貝のようにはいかんのか」
「貝のように割ればやらかい中身が出てくるとかもありませんわ。完全宝石百パーですもの」
「そうか、残念だ。ありがとう」
そう言ってグレーゲルはあっさりと去って行った。
彼は実家暮らしなので恐らく家に帰るのだろう。
どうやらホントにホラージュエルが食べれるかどうかの確認をしたかっただけらしい。
……表情は雄弁なんですけれど、言葉が足りなさ過ぎて逆にナニ考えてるのかがわからないんですのよね、彼……。
あまり喋らなくて表情も動かない子はそれなりに居るが、そういう子は視線や筋肉の動きから大体わかる。
しかし彼は言葉が足りないのと表情豊かな為、逆によくわからないのだ。
まあ悪では無いから良いかと思いつつ、少し疲れた気がして溜め息を吐いた。
・
ある日、グレーゲルに呼び止められた。
「ジョゼフィーヌ、少し良いか?」
「ええ、構いませんけれど……とりあえず襟を掴んで持ち上げるのを止めなさいな」
大事な話だから逃げられたくないとかの理由かもしれないが、声を掛けると同時にヒトを猫のように掴むのはいただけない。
この体勢だと首も締まるので危険も多いし。
自分だからまだ対処も出来るし溜め息で流せるが、血の気の多い生徒にやっていたらソッコで蹴りを顎に食らわされかねないレベルの行動だ。
「とりあえず、話はソレからですわ」
「うむ、わかった」
下ろさなければ話をする気は無いと暗に言えば、グレーゲルは素直に下ろしてくれた。
含まれた意味を察したワケでは無いのだろうが、結果的に考えてオッケーだ。
「で、どうかしたんですの?」
「保護した魔物が怪我も治っていないのに動こうとしているから、詳しいジョゼに助けては貰えんだろうか、と」
ふむ、怪我がまだ治っていなくて安静にしてて欲しいのに動こうとしていていまいち止められないから、魔物の知識が豊富な自分に頼みに来た、というコトだろう。
「フランカ魔物教師じゃ駄目なんですの?」
「家に呼ぶのだから友人を呼ぶべきだろう?教師は客とは違うだろうしな」
「あー、うん、成る程」
フィールドワークで不在というワケでは無く、家に誰かを呼ぶのであれば友人か客という認識なのだろう。
まあ確かに生徒数が多い学園だしそれぞれの故郷もバラバラなのでこの学園に家庭訪問というのは無いのだが、もう少し臨機応変に対応して欲しい。
「……まあ、今日は時間があるから構いませんわ。でも今回のように緊急……かどうかは知りませんけれど、困った時であればその際に頼るべき教師に助けを求めても良いと思いますわ」
「例えば、どういう教師だ?」
「その時々ですわよ。害魔を討伐する時だって剣で戦うべきだとか弓で戦うべきだとかの最善があるでしょう?剣が弱点の害魔には剣で攻撃するように、現状で困っている問題に対応している方に頼みなさいな」
「成る程、次からはそうしよう」
素直でなによりだと思いつつ、正門へと歩き始める。
まだ私服には着替えていなかったが、今日は外出する気が無かったのだからまあ仕方が無いというコトにしておこう。
スタスタと歩いていると、後ろから追いかけてきて隣を歩き始めたグレーゲルが首を傾げる。
「迷いが無いが、俺の家はわかるのか?迷子になられては困るぞ」
「失礼ですわね、わたくしは意識しないと大体のモノを透視してしまうくらいには目が良いんですのよ?」
つまり出来るだけ意識的に視力をセーブしないと視界が大変なのだ。
誰だって友人の内臓の調子をまじまじと見たくはあるまい。
「実家から通ってる同級生の家くらい、全部把握してますわ」
「……ソレは、流石だな」
グレーゲルは感心したように頷いた。
・
グレーゲルの部屋に案内されると、ソコにはバスケットで作られた簡易ベッドで横になっているイタチが居た。
彼女は足に怪我をしているのか包帯が巻かれており、ソレが原因で熱が出たのか、イタチの平均体温より高めなのが視える。
「……ナンだい?というか、誰だい?」
「初めまして」
だるそうに頭を動かしてこちらを見たイタチの魔物に、ペコリと頭を下げる。
「中々安静にしてくれないから魔物知識豊富なお前がどうにかしてくれというコトで呼ばれた、彼の同級生であるジョゼフィーヌですわ」
「随分な自称だね……」
「事実だから自称では無いと思うぞ?」
「…………」
キョトンとした表情で首を傾げたグレーゲルに、イタチはもう少し歯に衣を着せろと言いたげな目を向けた。
だが事実なので仕方が無い。
というか事実でしかないのでオブラートにも包みようが無いのだ。
「えーと、ソレではどうして安静にしないのかを聞いてもよろしくて?」
「……保護されるような魔物じゃないんだよ、アタシは。なんせ悪名高いシーフウィーズルだからね」
ハッ、と鼻で笑いながら吐き捨てるようにイタチ、シーフウィーズルは言った。
しかし成る程、だから動こうとしていたのか。
……というか、動こうというよりも去ろうと、ですわね。
「なあ、ジョゼフィーヌ」
「ハイ?」
「俺はそもそもシーフウィーズルという魔物を知らんのだが、結局どういう魔物なんだ?」
「ちなみにどのレベルで知りませんの?」
「俺は害魔にしか詳しく無い。だから害魔では無い、というコトしかわからん」
知らんではなくわからんと言った辺り、シーフウィーズルという魔物の存在自体を知らなかったのだと思って良いだろう。
そして彼の場合は確かに害魔に詳しいが、害魔以外の魔物に関する知識はほぼ皆無なのも事実。
……説明、要りますわよね。
「シーフウィーズルというのは、言ってしまえば盗賊イタチですわ。動きが素早く、相手の持ち物を掠め取るのが上手なんですの」
「つまりはスリか」
その内彼にはオブラートを入荷させる必要がありそうだ。
「それと数十分くらいしか持ちませんけれど、触れた相手が有している能力を一時的に盗むコトが可能ですわ」
「?」
「えー……石化能力を持ってる魔物が居たとして、その魔物に触れると石化能力を盗めるんですの。で、盗まれた方は盗まれている間、まったく能力を使用出来ない状態になりますわ。逆に盗んだ側であるシーフウィーズルは盗んだソレがオートのタイプだろうが任意的に使用が可能ですわね」
もっとも使えると使いこなすはまた別の為、大体は敵から逃げる為の手段として能力を盗み、相手が動揺している隙に自慢のスピードで逃げる、という感じのようだが。
まあ強いからといって使い慣れていない武器を使うと最悪命に関わる危機に陥る可能性もあるので、その方が正解だろう。
「ふむ……ソレがナニか問題なのか?」
「アタシは充分だと思うけどね」
「?」
「えーと」
グレーゲルが理解しきれていないようなので、本魔が居るトコでは言いたくなかったが仕方が無いと口にする。
「つまり、他の魔物からすると自分の能力を盗んでくるかもしれないってなるんですのよ。触れられたらアウト、みたいな。なのでシーフウィーズルは他の魔物から距離を取られがちだったりしますわ」
「随分と優しい言い方さね」
こちらの言葉にそう言ってシーフウィーズルは上半身だけで起き上がり、ニヤリとした笑みを浮かべた。
「率直に、嫌われ者だって言ってくれても構やしないよ」
「言えるワケありませんわよね、ソレ」
言うにしたって本魔を前にして言うとかこっちのメンタルにダメージが入りかねない。
というかシーフウィーズルの場合は盗もうと思わなければ触れても別に問題は無いのだが、まあ前科のあるヒトを偏見に満ちた目で見るようなモノだろう。
「……シーフウィーズルについては大体わかったが、ソレが何故安静にしない理由になるんだ?」
「迷惑掛ける気は無いんでね」
「狩人は害魔を処分すると同時に怪我をした魔物を保護するコトもあるから迷惑では無いのだが」
「アンタはソレで納得してんのかもしれないけど、アタシがソレじゃ納得出来ないんだよ」
シーフウィーズルはジトリとした目でグレーゲルを睨んだ。
「良いかい?アンタにゃわからんかも知れないが、アタシは借りを作りたくないんだ。アタシに出来るコトなんざ盗みくらいだしね。そんなんで借りを返されたく無いだろうし、ソレを喜ぶような悪党に借りを作りたくも無い。以上!」
そう言ってシーフウィーズルはバスケットの上から降りたが、熱はまったく下がっていないのでふら付いている。
「……お、っと」
「安静、必須ですわよ」
倒れかけたシーフウィーズルを受け止めて、そのまま簡易ベッドへと寝かせる。
「だから、アタシは」
「せめてもう少し熱を引かせてからにしなさいな。家の前で熱出して死なれてたら困るのはグレーゲルとその家族ですわよ」
「…………」
その言葉に酷く嫌そうな顔をしたが、納得はしたのかシーフウィーズルは嫌そうな顔のままもそもそと掛け布団代わりの布を被った。
「……なあ、ジョゼフィーヌ。少し聞きたいんだが」
「聞きたいコトだらけですわね、アナタ……ナンですの?」
「借りが気になって安静に出来ないというなら普通に仕事を手伝ってもらえば良いと思うし、シーフウィーズルの能力は俺からするととても助かる能力だと思うのだが、この考えをジョゼフィーヌは良いと思うか?」
「わたくしじゃなく本魔に言いなさいなそういう交渉は」
自分はグレーゲルの母になった覚えなど無い。
「あと言うなら何故その能力が助かると思ったのかの理由も」
「わかった」
コクリと頷き、グレーゲルはシーフウィーズルに話しかける。
「シーフウィーズル」
「小声でも無いからさっきの会話は大体聞こえてたよ」
「そうか、なら率直に言うが、俺はお前の能力がとても好ましくて助かると思う。だから今は安静にして、治ったら手伝って欲しい」
「聞こえてるとは言ったけどソコまで省けとは言ってないさ」
頭まで布を被っていたシーフウィーズルは、イラッとした表情で顔を出した。
「というか、狩人だっけ?ナンでソレがアタシの協力を欲しがるんだい」
「害魔は厄介な能力を有しているコトも多い。だからお前が相手の能力を盗んでくれれば、俺達は仕事をしやすくなる」
「言っとくけどアタシは盗む以外に能力無いから、ヤバイ害魔相手に立ち向かうとかは普通に無理さね。アタシでもどうにか盗めそうなレベルの害魔ならともかく、近寄るだけでアウトな害魔みたいなのまで相手にしろってんならソッコで逃げるよ」
「俺達でも出来ない無理難題を押しつける気は無い」
グレーゲルはキッパリとそう言い切った。
「だが借りが出来たと思うのであればそうやって返してくれれば俺達はとても助かる、というだけだ」
「……嫌われ者でも良いって?」
「俺達狩人が相手にしているのは嫌われ者の最高レベルである害魔だ。他の魔物に多少警戒されている程度を嫌われ者とは認識出来んな」
「………………あー、頭痛い」
そう言ってシーフウィーズルは再び顔を隠すように布を被った。
「ん、安静にしてくれる気になったか?」
「借りとか云々は後回しにしようって思っただけさね」
布によってくぐもった声が聞こえる。
「今は熱のせいで頭も痛くて、まともに考えるコトも出来ないし」
だから、とシーフウィーズルは言う。
「だから、熱が下がったらもう少し詳しい話を聞いてやるよ。対害魔の能力封じとして働くかどうかはソレ次第さ。アタシの熱が下がるまでに交渉用の説明でも纏めておきな」
「ソレはつまり」
「アタシは今から寝るから静かにしろ」
「すまん」
今日一番の不機嫌そうな声に、グレーゲルは素直に頭を下げた。
そしてすぐに聞こえたシーフウィーズルの寝息に安心したような表情をしつつ、グレーゲルはこちらを見て、小声で言う。
「……説明を纏めるの、手伝ってもらえんだろうか」
「ハァ……」
言葉が少なくなりがちのグレーゲルだと考えると、確かに心配になってしまう。
「今度、ナニか奢ってくださいな」
「わかった、害魔を仕留めたらソッコで持って行こう」
「いや普通にスイーツ系で頼みますわ」
ここで頷くと本気で持ってくる可能性がある。
「じゃ、シーフウィーズルを起こしたくありませんし、リビングに案内していただけます?ソコで説明を纏めましょう」
「わかった」
小声でそう会話しつつ、二人でシーフウィーズルの寝息が聞こえるグレーゲルの自室を後にした。
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コレはその後の話になるが、シーフウィーズルは狩人に協力するコトに決めたらしい。
「ま、こんな能力でも善行の一端を担えるってんなら、ってね」
本魔はそう言っていたが、実際対害魔と考えるとその能力はとてもありがたいハズだ。
かなり強力なサポートをしてくれるというコトなのだから。
「さあ、アタシが相手さ!」
ナンとなくで森に視線を向ければ、害魔と対峙しているシーフウィーズルが視えた。
どうやら炎系の害魔を相手にしているらしい。
「ホラどうした、こっちさねこっち!おっとソレで良いのかい?そんな動きじゃ……」
シーフウィーズルが害魔の攻撃を素早く避け、炎を纏っている害魔の唯一燃えていない部分、顔面に触れた。
そのまま殴るように触れた動きを利用して、シーフウィーズルは距離を取った。
「ほぅら、奪われた」
ソレと同時に、害魔が纏っていた炎が一瞬にして消える。
「よくやった!シーフウィーズル!」
害魔が動揺したその隙を見逃さず、グレーゲルは一気に害魔との距離を縮め、近くの土を手で掬ってグッと握って圧縮するコトで石よりも硬い塊を一瞬で作り出す。
鉄くらいなら砕ける握力を持つグレーゲルの手によって圧縮されたその塊は、綺麗に害魔の心臓部を貫いた。
そのまま倒れ伏す害魔を身ながら、グレーゲルとシーフウィーズルがハイタッチするのが視える。
「助かった、シーフウィーズル」
「いや、アタシはアンタに言われたから言われた通りにやっただけさね。というか何でコレ相手にわざわざアタシが必要だったんさ。グレーゲル一人で余裕だろうに」
「ああも炎を放たれると困るんだ。俺はあまり素早くないのでな」
「ああ、成る程」
「あとこの魔物は肉が美味いんだが、死んでもさっきのように燃え続けるのだ。水では消えない炎だから放っておくと炭になってしまう。なので先に能力を封じてから討伐しないと肉が確保出来ん」
「あー……で、その肉はどうすんだい?」
「血抜きと内臓の処理をまずしたい。その後は売っても良いが、どうせなら食いたいからな。値引きせず正規の値段通りに買ってくれる学園の厨房に卸そうと思う」
「良いねえ、ソレ。ちなみにこの魔物はナニが美味いんさ?」
「野菜と一緒に炒めると最高だ。野菜の甘みとコゲの風味が美味い」
「ほぉーう……」
そう話してサクサクと血抜きなどの処理を始めたグレーゲルから目を離し、適当に歩いていた足の向かう先を食堂へと変更する。
良い会話を視させてもらったので、自分もご相伴に預かってしまおう。
グレーゲル
表情豊かだが狩人の常識しか無く、意思疎通が下手なのであまり意図が通じないコトが多い為、ジョゼフィーヌのように察し能力が高い相手と話すコトが多い。
やたらと握力が強く、足場が土なら無限に武器を作れるからと基本的に害魔討伐の際は土を固めた塊を投げて貫通させてる。
シーフウィーズル
素早い上にスリが得意なので一瞬で害魔に触れて能力奪ってソッコで逃亡するのは結構余裕。
嫌われ者というコンプレックスがあったので、害魔討伐の役に立てるというのは内心かなり嬉しい。