姉とダークストーン
よいお年を。
彼女の話をしよう。
自分の姉で、旅行が好きで、巻き込まれ体質な。
これは、そんな彼女の物語。
・
姉が拗ねて部屋に引き篭もったままなので、姉の部屋の扉をノックする。
「お姉様、入ってもよろしくて?」
「ナニよぅ……」
まだ拗ねているのがわかる声が返って来た。
というか自分は気を抜くと細胞まで視えるレベルで目が良いので、普通に扉の向こうで空中にある魔力の流れに体を乗せてふわふわ浮いている姉が視えているのだが。
身に付けているフード付きの赤いローブから覗く赤みのある金髪が動きに合わせて揺れているトコロまでバッチリだ。
「長期休暇に入ってから、お姉様ったら全然部屋から出てこないんですもの。折角だからお話したいと思いまして」
「学園でも話せるでしょー……」
扉の向こうでは、姉が拗ねたように体を小さく丸めてふよふよ浮いているのが視える。
「もー、学園で良いじゃないそういう話とか……。別に嫌いじゃないけど家あんま好きじゃないし……いや好きだけど……学園の寮とか旅行先の宿屋とか、そういう感じの方が好き……家だと気分上がんなーい」
「あー、悪いなジョゼフィーヌ」
愚痴る姉に変わり、姉のパートナーであるダークストーンが謝罪した。
彼は姉がつけているネックレスの先についている黒い石、の魔物である。
「実際コイツ、家は別に嫌いじゃねえみたいなんだけどよ……アルムデナに負けて強制連行になったのが悔しくてふてくされてるんだよ。そう気にしなくて良いぜ」
「言わないでよ!」
「へーへー。そう恥ずかしがるコトじゃねーと思うけどな。寧ろ拗ねて歳が離れてる妹に心配掛けてる方が恥ずかしくね?」
「うっぐぅ……!」
悔しそうに歯を食い縛る姉が扉越しに視えて、向こうには見えていないだろうが思わず苦笑してしまう。
「……えーと、お姉様?別にわたくしはお姉様を無理矢理部屋の外に出したいのではなく、単純にお姉様とお茶をしつつ久々にゆっくり話したいな、と思っただけですの」
実際学園でそれなりに顔は合わせているが、会話はあまりしない。
それぞれ友人が居るし、活動する場所が違うし、別にそこまで込み入った話をする程の出来事も無いからだ。
というかお互い天使の性質としてやたらナニかを頼まれるので、話していると大体どっちかがナニかを頼まれて会話が終了するコトが多いのだ。
「そう言われても、今アタシあんま気分ノッてないし……話すようなテンションでも無いし」
「ちなみにわたくしお気に入りのケーキ店で買ったフルーツタルトがありますわよ」
「さー入りなさいジョゼ!たった今アタシの機嫌は超ご機嫌状態になったわ!ええ、モチロンアタシの分もあるのよね?!」
一瞬にしてオープンザドア。
相変わらず姉は一度気分が落ちると長いが、その分一瞬にしてテンションが上がるヒトだ。
「モチロンお姉様の分もありますわ」
「よし!良い子!大好きよジョゼ!」
「お前……めちゃくちゃ手の平クルックル回してんな」
「ナニ言ってるのよダークストーン!美味しいフルーツタルトとソレを持って来てくれた可愛い妹に罪は無いわ!ええ、ソレにフルーツはナマモノだから早めに食べるべきだものね!ウジウジして腐らせるには勿体無い味よ、アソコのフルーツタルトは!」
そうさっきまでの落ち込みはナンだったんだというような笑みを浮かべる姉は、フルーツタルトを食べるまでも無く、既にご機嫌のようだった。
・
フルーツタルトに舌鼓を打ち、姉はとても嬉しそうに顔をほころばせる。
「ん~!やっぱり美味しいわねコレ!」
「ですわね……というか」
「ん?」
自分は姉が着ているフード付きの赤いローブに視線を向ける。
「お兄様の場合はステルスコートがパートナーだからまあ、普通だと思いますわ」
「そうね」
「だな」
「アッサールも執事として上着は必要ですし、そもそも上着に武器仕込んでるので室内でも脱がないのはわかります」
「ええ」
「おう」
「でもお姉様のパートナーはダークストーンですわよね?別にそのローブを部屋の中でまで着ている必要は無いと思うのですけれど……」
しかも室内でフードまで被っている。
実家でもあるこの領地の気温は常に春のような気温の王都に比べれば少し涼しく、秋のような気温だ。
なので多少上着を着るのはわかるが、流石に厚手のローブを着るほどでは無いだろう。
「……そういやそうね」
「ああ、言われてみりゃ……」
指摘されたコトに納得するように姉は頷き、ダークストーンも同意というような言葉を呟いた。
そのまま姉は一度椅子から浮かび上がってローブを脱ぎ、上着掛けにソレを掛けて再び椅子に座り直す。
尚上着掛けと椅子との間での移動は全て宙に浮いた状態で行われている。
……お姉様が歩く姿、ほぼ見ないんですのよねー。
「今ここ家なんだから、別に着てる必要性無かったわ」
「すっかり慣れて忘れてたよな」
ナンだか姉とダークストーンはすっかりのほほんモードだが、どういうコトだ。
「えーと、結局どういうコトですの?」
「?どういうコトって、単純に脱ぎ忘れてただけよ。事件に巻き込まれがちだからって着るようにしてたからクセ付いちゃったみたいで」
姉は当然のようにそう言って首を傾げたが、ソレがもうわからない。
「……そういやジョゼフィーヌ、アリエルがいっつもコレ着てる理由って知ってるか?」
「知りませんわ」
気付いたら着ていたし、姉は手紙を出すのが得意では無いのでナニがあったのかというのは大体わからない。
そもそも学園に入学してからは滅多に帰らなくなったワケだし。
……手紙、ダークストーンがパートナーになってからはダークストーンがサポートしてくれるお陰で大分内容がわかるようになっただけで、前はホントに暗号でしたものね……。
ソレも言葉が難しいというよりも言葉が足りないタイプ。
小説一冊完成しそうな事件に巻き込まれた報告を無理矢理三行にした結果怪文が出来上がったかのような手紙しか出していなかったので、彼には家族皆が感謝している。
少なくとも姉の手紙でナニが起きたのかがわかるだけ良いコトだ。
……巻き込まれ率は変化無しですけれどね。
「えーっとだな、アリエルっていっつも旅行先とかで事件に巻き込まれるだろ?」
「巻き込まれてますわね」
「不思議よね」
そう言って姉は平然と紅茶を飲んでいるが、本人がその反応はどうなんだ。
正直後日話を聞くくらいしかしていない自分ですら推理小説の主人公かと思うくらいの頻度で巻き込まれているハズなのに。
ダークストーンはそんな姉の大きめの胸の上に乗るように提げられながら言う。
「だからまあ、目印ってコトで兵士から渡されたんだよ」
「目印」
しかも兵士から。
「ホラ、巻き込まれるってコトはそんだけ兵士とも関わるし、事情聴取とかもあるだろ?」
「ありますわね」
「んで天使特有の悪察知能力で兵士が来る前に、っつーか次の被害が出る前に犯人とっ捕まえてたりもするワケで」
姉曰く、観光時間が減るのが許しがたいから、というアレだ。
姉は自分や父とは違って好き勝手動く奔放タイプな天使の特徴が強めであり、父に言わせれば神に使える天使というよりも祝福とかの時に姿を現す子供の天使に近いそうだ。
つまり姉は自分達と違って悪への拒絶が少ない。
……まあ、悪人に触れると全身に鳥肌が立つから悪人の見分けはつくようですけれど、わたくしやお父様に比べればずっと大人しい反応ですわ。
「でも他国とか、あんま発展してない場所だったりすると混血自体が珍しいモノ扱いだったりするだろ?」
「らしいですわね」
「だからアリエルの言葉を信じねえ古臭い頭でっかちも結構居てよ、でもアリエルが間違ったコトはねえのは事実」
まあ天使は多少の偏見はあれど、神への忠実なる僕だ。
つまり人間ルールではなく神ルールの下で生きている為、間違ったコトはするまいという本能が備わっている。
「というワケでわかりやすくあのローブ着せとけば良い目印になって、もし事件現場にフード付きの赤いローブ着た女が居たら事件解決の為に協力要請しろよってコトになってるワケだ」
「まあ、確かに目立ちますものね」
兄は母似で優しい顔付きだが、姉は父似のキリッとした顔付きだ。
なので赤色などのパッキリした色がとてもよく似合う為違和感は無く、しかし着こなしている分目立つという待ち合わせ場所にピッタリな素材。
赤ずきんちゃんも赤い頭巾がトレードマークとして認識されていたように、ソレが目印だと認識されれば話が早く済むというコトだろう。
……推理モノとかも、後半主人公の認知度上がってて協力得やすくなりますものね。
「ただ事件っていつでも起こるじゃない?お風呂とかは仕方ないにしても寝てる時に起こされて集合させられる時もあるから、出来るだけ身につけるようにっていうのがクセになっちゃったのよね」
「お姉様、まず普通のヒトはそうそう事件に巻き込まれたりしませんのよ?」
「ジョゼはアタシが普通のヒトの枠に入ってると思うの?」
思わないのでソレ以上言うのは止めて紅茶を飲む。
このフルーツタルトは酸味少なめ甘み強めなので、時々紅茶を飲んで味覚リセットをすると飽きずに美味しく食べられるのだ。
「ソレに、アタシも大分事件に巻き込まれるのにも慣れたしね」
「ソレは慣れちゃいけないヤツだと思いますのよー」
「アタシだってそう思ってたけど頻度高いんだから慣れるしかないのよ。あとまあダークストーンもあるから一人じゃないし、万が一があってもセーフだし」
「ま、確かに俺がそばにいれば大体はどうにかなるだろうけどよ」
姉の言葉に、ダークストーンは苦笑するような声色でそう返した。
確かにダークストーンは見た目ゴルフボールサイズの黒い球体だが、中身が無限に広がっているのだ。
その為内部には姉の私物がたんまりと仕舞われており、姉は移動時にはダークストーンを身につけているだけで、トランクなどは一切持ち運ばない。
……まあ、似合うから良いんですけれど。
魔力の流れに乗ってふわふわ浮くのがサマになるヒトなので、手ぶらなのにも違和感は無い。
実際万が一があろうと父の遺伝で槍の扱いがプロ並みであり、その槍はダークストーンの内部に収納されているので、常に武器を携帯しているようなものだ。
……つまり、心配無用なんですのよね。
物理的に地に足が付いていない姉ではあるが、大丈夫だという安心感は強い。
ちなみに姉が使用可能なのは槍のみであり、兄は剣のみである。
自分は戦闘に関する遺伝強めなので剣と槍と弓とナイフと鞭が使用可能だが、普通はそういう風に一種類のみらしい。
……異世界の自分知識だと、ゲームキャラクターの使用可能武器みたいな感じらしいんですのよね。
単純に手に馴染まないだとか、使用可能な武器だと魔力の流れに乗せるコトが出来るから扱えるというだけだったりという話なのだが、異世界である地球的にはそういう考えの方が理解しやすいのだろうか。
余談だが、弟はまだ武器を持ったコトが無いので使用可能武器は不明である。
「……そういえば、お姉様とダークストーンの出会いとか馴れ初めとかってどんな感じだったんですの?」
「あ?ジョゼフィーヌは知らなかったっけ?」
「知らないというか……」
フルーツタルトを口にしながら、姉にダークストーンの存在を伝えられた時のコトを思い出す。
「……珍しく手紙がわかりやすいなと思ったらパートナーが出来たとか書いてあって、ソレからしばらくしてダークストーンと初めましてをした、という感じでしたから」
「あー、うん、ソレは悪かった」
ダークストーンは気まずそうに謝罪した。
当時を思い出して自分の眉間に少しシワが寄っている自覚はあるが、しかしダークストーンが悪いワケでは無いだろうと首を横に振る。
「いいえ、ダークストーンは悪くありませんわ。というかお姉様の性格を考えるとダークストーンが挨拶に行こうと言っても「観光地がアタシを待ってるから」と言って強引に旅行しそうですし」
「うん、流石アタシの妹。アタシのコトよくわかってるじゃない」
「コレ自慢げに頷くポイントじゃ無いと思いますわよー」
「ジョゼフィーヌに同意。アリエル、コレはマジで頷くタイミングじゃねえと思うぞ」
「アタシが良いって思ったら良いのよ」
流石エメラルド家で一番我が強いヒトなだけはある。
自分や兄、そして弟は天使である父に似て押しに弱いトコがあるのだが、対する母は優しい見た目に反して結構押しが強い。
そんな母の押しの強さに我の強さを足したような性格の姉なので、あまり強く押せない自分としては憧れすら覚えるレベルだ。
……いえ、まあ、憧れると言ってもヒトに迷惑を掛けないレベルまでの我の強さに、ですけれど。
姉はその辺はちゃんと弁えているのか、はたまた観光を満喫する為か、基本的なマナーはなっているのでその辺は大丈夫だ。
自分達の押しに弱い部分と母と姉の押しの強い部分を混ぜれば丁度良くなるのでは、とは時々考えるが。
「ところで、お姉様達の出会いは?」
「海辺に流れ着いてたダークストーンを拾ったのが出会いね」
「待て待て待て待て!」
簡潔に答えた姉に、ダークストーンが慌てたようにストップを掛ける。
「おまっ、お前!俺らの出会いをそう簡単に表現するか!?俺にとっての大事な思い出にナンてコトすんだお前!」
「だって話が長くなるじゃない」
「なら俺が話すからお前は大人しく紅茶飲んで座ってろ!あの出会いを大事な宝物扱いにしてる俺からしたらそんな扱いされちゃ堪ったモンじゃねえ!」
既にノロケを聞かされている気分なのだが、ダークストーンは自覚しているのだろうか。
・
ゴホン、とダークストーンは喉も無いのに咳払いをして空気を切り替える。
「まず出会う前の俺の事情から話すが、俺の中身が無限になっててナンでも入れれるっつーのは知ってるよな?」
「ええ、モチロン」
ダークストーンはブラックホールのようにナンでも吸収し、内側に収納するコトが可能な魔物だ。
現在姉のネックレスの先に付いているのだって、先にあるピンのような出っ張りをダークストーンが一部収納するコトでくっ付いているのである。
……まあ、要するに質量とかを無視した魔物、というコトですわね。
そのくらいは沢山居るし、概念系や神系の存在を考えるとこの程度はまだ優しいくらいだろう。
異世界である地球からするとあり得ないという枠に放り込まれそうだが、アンノウンワールド的にはまだ優しいレベルである。
自分の中での別名狂人ワールドなこの世界のアレコレは伊達では無い。
……伊達の方が良かったですわねー……。
「んでまあ俺は自立移動とか出来ないタイプだから捕まると逃げられないんだが、悪人に捕まってな」
「エ、初耳ですわよ?」
「んー、この場合はただの売人だったから大した悪人じゃねえよ。寧ろその後、売られた後のが問題だな」
ダークストーンは中々に大変な魔生を歩んできたらしい。
いや、自立移動が出来ないから歩けないが。
「俺を買ったヤツが俺のコトを中途半端にしか知らなかったみたいで……俺ってホラ、所有者の持ち物しか収納出来ないって特性があんだろ?」
「ありますわね」
実はダークストーンはあの伝説の魔法使い、ゲープハルトが造り出したとされる人工魔物である。
荷物などの持ち運びを便利にする為に造り出したそうだが、盗みを働こうと考える愚か者やヒトを収納させるコトで戦争を有利に進めようとする愚か者が居たらしく、全てのダークストーンにその特性が付与された。
……だからこそ、所有者以外の持ち物は収納不可能なんですのよね。
「どうもソイツはソレを知らなかったらしくて、盗みの為に大枚はたいたってのに!ってキレて俺をぶん投げて海にザッパーン」
「ワオ。結構衝撃的な出来事ですけれど、恨んだりとかしてませんの?」
「ソコで高値で売らずに感情に任せて捨てる辺りが脳みそ足りてねえなって思ったから別に」
ソレはつまり相手にする程でも無い雑魚だと言ってるも同然なのだが、まあ良いか。
自分だって悪人には興味が無いのだから。
「んでしばらく海を漂ってた俺だが、まあ俺無機物系でもあるから海水に浸かってようが平気だったし、呑気に海流に流されてた」
「生き物系だったらそうのほほんとしてられないでしょうね……」
恐らく植物系も無理だろう。
確実に枯れて大惨事になってしまう。
「そんなある日海岸に流れ着いて、俺一個じゃ動けねーしどうしようかなーって思ってたら、偶然海岸を歩いてたアリエルに拾われたんだよ」
「確か臨海学習の時だったかしら。海には変なのが落ちてるのねって思って拾ったら喋りだしたから驚いたわ」
そう言いながらフルーツタルトを既に食べ終わっていた姉はまだ三口程残っているこちらのフルーツタルトをじっと見てきたので、溜め息を吐きつつソレを姉の皿に移動させる。
「ありがとう、ジョゼ。流石アタシの妹!」
「どういたしまして」
誰かに譲るのは慣れているので、そのまま口の中をサッパリさせりょうと紅茶を口にする。
「……ソレにしても、その悪人とやらはダークストーンを壊そうとしなかったんですのね」
「流石にソレは無理だってコトくらいは知ってたんだろ」
「所有者の持ち物以外は収納不可能という事実を知らなかった辺りを考えると、そうは思えませんけれど……」
そう、ダークストーンは質量とかを無視している為、内部の密度がとんでもないのだ。
要するに傷付けるコトが出来ない硬さなのである。
……まあ、ソレを含めて姉のパートナーとしても安心感があるから良いコトですけれどね。
最高の収納兼最高の盾。
更に我が強めな姉のパートナーで居られるレベルの魔物というのは妹としてありがたい。
「まあ、とにかく俺はアリエルに拾われた。喋った俺には確かに驚いてたみたいだけど、同時に、まあ、その、綺麗とか言ってくれたりして、うん、我ながら一気に好感度が上がった」
「チョッロ」
「言うな!俺だって自覚してんだよソレは!」
頭部と手があったら頭を抱えていただろう叫びだった。
「そのまま、こう、アレだよ。好感度上がったからもう、アレだ」
「パートナーにしてくれと言ったんですの?」
「うん」
とても素直な返事。
「俺が居たら旅行の時に重い荷物持たなくて良いぜ!とか色々アピールして、後悔させねえから!つってもうホント、全力でアピールしたぜ」
「アタシはパートナー出来てもパパとママレベルにはなれないだろうなーって思ってたから、正直パートナーには興味無かったのよね。旅行の邪魔になられたら嫌だし」
「辛辣ですわね」
「重要じゃない」
確かに異世界である地球ではペットを飼うと旅行に行けないからと言って飼うのを却下する家庭もあるらしいので、そういうモノなのだろう。
「でも荷物問題が無くなるのは助かるし、うるさくしないんならって感じでパートナーに。お土産は基本的に配送頼むけど、自分で持ち運ぶ必要が無くなるのは助かるものね」
「あー……お姉様、お土産沢山買ってくれますものね」
時々ソレはお土産として良いのかと聞きたくなるようなモノを持ち帰る、というかここに配送するコトがあるが、基本的には食べ物などのお土産がメインだ。
実家には余り帰らないので殆ど配送だが、学園で友人のヒト達にお土産を配っているのを見た覚えがあるので、お土産を配ったりするのが好きなのだろう。
「ソレで少しの間パートナーと過ごしてみたら、ちょっとうるさいけど不快って程じゃ無かったし、というか寧ろ丁度良いテンションだし話は合うしで良いなーってなって、今に至る感じよ」
「…………っ!……っ!」
「な、ナンかダークストーン、震えてますわよね?」
「あらホント」
自立移動不可能なハズだが、興奮かナニかで魔力が荒ぶっているのか、微妙に振動しているように見える。
どうしたのかと視線を向けると、ダークストーンは小さな声で感極まったように呟いた。
「……パートナーになって数年経つけどよ、こうハッキリと好意的なコト言われたの初めてだから、噛み締めてた……!」
その言葉に、思わず姉を見てしまう。
「……ナニよ、その訴えるような目」
「いえ、その……もう少し好意は言葉にした方が良いと思いますわよ?」
「アタシがここまで気を許してるのがナニよりも雄弁に語ってない?」
「いやまあ確かにそうですけれど」
テンションの上がり下がりが激しくて下がる時はトコトン下がる姉だが、テンションが下がっていようとダークストーンは首に提げたままだったのだ。
その時点で相当気に入っているのはわかるが、ソレは昔から一緒に居た親兄弟でないとわかり辛い。
「……もうちょっと、見える好意で接してあげてくださいな」
「…………考えとくわ」
流石の姉もまだ感動に震えているダークストーンには思うトコロがあったのか、目を逸らしながらも確かにそう言った。
・
コレはその後の話になるが、姉はアレから機嫌が直ったのか、部屋に篭もるのを止めた。
とはいってもその辺りをふわふわ浮いているだけで、食事の時に一緒に食べるようになったくらいだが、それだけでも充分レアだ。
そもそも実家に居るコト自体がレアだが。
「ジョゼ~」
「ハイ?」
「あーん」
「あーん」
姉の手の中にあるのは普通のマカロンだったので素直に口を開けると、そのまま口の中にマカロンが放り込まれた。
この味はバニラのマカロンだ。
「美味しいですわね、コレ」
「でしょ?ジョゼにあげようと思って忘れてたのよね」
「エッ、コレいつのですの?」
「大丈夫大丈夫、今回の長期休暇で旅行に行く時に配送頼もうと思ってたヤツだから普通に大丈夫よ。忘れてたってのは強制連行に怒ってて忘れてたってだけだし」
「怒ってっつーか、拗ねてたんだろ」
「うっさいわねー」
ダークストーンの言葉に、姉は空中で横にクルンと一回転して赤いローブの裾をヒラリとはためかせる。
着ている方がしっくりくるのか、姉はバッチリとフードまで被っている状態だ。
……ま、そっちに慣れちゃったんでしょうね。
「あ、ところでジョゼ、ちょっと聞きたいんだけど」
「ハイ?」
「好意をわかりやすくって思ってダークストーンにキスしたら三十分くらい気絶されたんだけど、アタシって言葉で伝えるのは得意じゃないのよね。どうしたら良いと思う?」
「おまバッ……!?」
本魔が居るトコロで相談する内容では無いと思う。
実際本魔は恐らく「お前馬鹿か」と言おうとしたのだろうが、まともに言えずに無言になってしまった。
顔があればきっと真っ赤にして硬直していたコトだろう。
「……えーと、わたくしよりも本魔に聞いた方が」
「聞いても答えてくれないんだもの」
「わたくしに聞かれても困りますわよそんなの……」
さて、慣れるまでキスをすれば良いんじゃないかと無責任に言うか、ゆっくりと触れ合うコトに慣れさせるトコからスタートしてはどうかと真面目に答えるか、どっちにしよう。
アリエル
推理作品の主人公並みの巻き込まれ率だが、推理は一切せずに天使の特性を活かして犯人を捕まえてる。
大体宙に浮いて移動しているので、自分の足で歩いている姿はかなりレア。
ダークストーン
基本的にはネックレスの飾りとしてアリエルの首から提げられているが、アリエルの胸のサイズ的に大体胸の上に乗るような感じになっている。
アリエルと一緒に行動しているのもあってアリエルから家族への手紙の添削をしてる功労者。