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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
二年生
54/300

兄とステルスコート



 彼の話をしよう。

 自分の兄で、対悪に特化した兵士で、物腰が柔らかい。

 これは、そんな彼の物語。





 ふと思い返すと、こうして実家内で兄と顔を合わせるのも久しぶりだ。

 王都で顔を合わせたり、アウトなタイプの闇オークションの存在をチクッたりする時に顔を合わせたりはするものの、実家で顔を合わせるのは入学して以降初めてではないだろうか。

 古そうに見える黒のコートを着た兄は、紫みのある濃い赤色の髪を揺らしてクスリと微笑む。



「王都ではよく顔を合わせていましたが、こうして実家で改めて顔を合わせて周囲の家具を背景にして見ると、結構背が伸びているのがわかりますね」


「うふふ、確かにそうね!町をバックにしているといまいちわからなかったけれど、こうして見ると大きくなってて、そして前よりももっと可愛らしく、綺麗になってるわ!」


「ソコまで言われると照れますわ……」



 目を細めて微笑む兄に頭を撫でられつつ兄のパートナーにべた褒めされるというのは、中々に顔が赤くなる。

 ちなみに父似の目をしているのは自分だけなので、兄は普通の目だ。

 特にこの目に対してナニかを思ったコトは無いが、自分と父の目はリスのような目なので時々ドコを見ているかわからないと言われる為、視線がわかりやすそうで良いなとは思う。


 ……まあアンノウンワールドなので、ヒトであれば明るい暗いの差はあれど皆茶色の目なんですけれどね。



「そういえばジョゼ、ナニかサミュエルに用事でもあったの?」



 その声は、兄が着ている黒いコートから聞こえた。

 そう、兄のパートナーはステルスコートという、色や柄を周辺に同化させるコトが出来る魔物だ。

 彼女の言葉に、そういえばそうだったと自分は頷く。



「お兄様は兵士でしょう?」


「ええ、そうですね」



 相変わらず家族に対しても敬語で答える兄は、ふわりと優しげな笑みを浮かべた。



「ソレがどうかしましたか?」


「いえ、どうかというか……王都では基本的にお兄様は仕事中で、兵士相手の挨拶や通報くらいの会話しか出来ていない、と思ったんですの」


「ああ……挨拶はともかく、通報率まで高いのは悲しいですよね」



 そう呟き、兄は一瞬遠い目になった。

 確かに自分は大体が()えてしまうのでやたらと的確な通報率が高く、挨拶と通報の割合いが結構トントンだ。

 要するに王都で顔を合わすコトはあれど中々家族としての会話が出来ない、というコトなのだが。


 ……まあ、兵士として仕事中の家族相手に長話、ソレもプライベートな話をするワケにも行きませんしね。



「ですから折角の機会でしょう?お兄様のお仕事のお話とかを聞ければ、と思ったんですわ」


「……そうですね、ゆっくり話す機会は中々ありませんでしたし」



 うんうんと頷く兄に、ステルスコートが声を上げる。



「良いんじゃない?サミュエル。久々に兄妹水入らず……とはまあ私が居るから違うかも知れないけど、家族との時間は素敵なモノよ」


「ふふ、ステルスコートにまで言われては断る理由がありませんね。ジョゼ」


「ハイ?」


「立ち話というのもナンですから、ソファにでも座りましょうか」


「ええ!」



 優しく微笑む兄に、こちらも笑顔で頷いた。





 さて、と兄は顎に手を当てる。



「ナニから話しましょうか……」


「確かお兄様は、対悪としての兵士、なんですのよね?」


「ああ、ではソコから話しましょうか」



 兄はニッコリと笑みを浮かべた。



「まず最初に、というかジョゼには昔言ったと思いますが、俺は元々兵士になるつもりではありましたが、遭難者の救助を志望していたんですよ」


「あ、そういえばそうでしたわね」



 言われてみれば、確かに昔そう言っていた気がする。

 戦うのはあまり得意では無いからこそ、困っているヒトを助けたいと。



「ただ、学園で発覚した俺の特性、というか父さんからの遺伝が……悪にのみ攻撃が入るというアレでしたからね」


「悪人や害魔と言われていても、ヒトによっては冤罪だったり、その種族ではあってもまだ罪を犯していない魔物だったりもするでしょう?そういうのの判別に最適だから、ってコトで対悪としての兵士扱いになっちゃったのよね」


「あー……」



 苦笑するようなステルスコートの言葉に、成る程と納得した。

 例えばバルブブルーはモデルが青髭なので相当にヤバイが、ベネディクタに施されている加護によって危害を加えるコトが出来ない。

 そしてバルブブルーのターゲットはベネディクタだけなので、現在の時点では害魔と判断されるようなコトは発生していないのだ。


 ……まあ、異世界である地球的に言うのであれば、人食い熊か普通の通行熊か、みたいな話ですわよね。


 殺人犯と一般人でもわかりやすいかもしれない。

 要するに同じ種族だからという理由で罰するのは頭の足りないアホのやるコトだし、冤罪を吹っ掛けても本物じゃない以上は意味が無いのだ。

 ソックリだからと一般人を逮捕しても本物の殺人犯が逮捕されていなければ被害が止まらないのと同じように、そういうのは気をつけなくてはいけないモノ。


 ……そう考えると、お兄様のは確かに便利な能力ですわね。


 悪以外に攻撃が通らないという点はあるが、ソレは利点であって弱点では無い。

 そもそも悪以外に攻撃する理由だって無いのだから。


 ……叱りつける時は言葉で説明すれば良いだけで、体罰をする理由もありませんし。



「成る程、だからこそ対悪に、となったんですのね。確かにわたくしも上司だったらそうしますわ」


「ええ、俺もソレはわかりますよ」



 だからその位置になったとでも言うように、兄は困ったような笑みを浮かべていた。



「まあ、ある意味コレもヒト助けや魔物助けになりますからね。ギスギスした空気が苦手ですが、文句はありません」


「的確な位置ではあるし、疑われているヒトや魔物からしたら遭難者よりもずっと困っているでしょうしね」


「というコトです」


「成る程」



 兄とステルスコートの言葉に、うんうんと頷く。



「でも要するに攻撃してアウトかセーフかの判定をするって感じですわよね?」


「ええ、ソレがちょっとキツイんですよね。会話して許可貰って指先ちょっと切りますよ、くらいなら平和に終わるんですが……話し合いが出来ないと戦闘になるので思いっきり剣で刺す必要がありますし」


「冤罪とかなら例えソレでも無傷で終わって証明完了だから良いけど、相手が悪人の時は普通に相手が怪我をするでしょう?ソレが正直、困るのよね。サミュエルが大分メンタル弱っちゃうし」


「どういう意味ですの?」



 溜め息混じりのステルスコートにそう問うと、ステルスコートは答えてくれた。



「相手が悪人で、そしてソコまでする必要があるってコトは相当抵抗するってコトでしょう?更に悪人だってコトが確定したら逮捕する必要があって、でも相手は抵抗するからソコからバトル突入、ってなっちゃうの」


「あ、あー……そういえばお兄様、悪が駄目でしたわね」


「ええ」



 兄は苦虫を噛み潰したような顔で頷いた。



「元々悪を察知する能力はジョゼと違って低い、というのは事実なんですが……」


「……お兄様、悪の気配苦手ですものね……」



 わかりやすく言うならアレルギーや嫌いな臭いに近い。

 自分や父は抹消してやる系の拒絶感なのだが、兄からすると悪というのは酷く不快で気持ち悪くなる、というタイプの拒絶感が発生するモノらしい。


 ……ある意味察知能力が高い気がしますわね。



「サミュエルは元々戦ったり敵対したりが得意な性格でも無いから、そういうコトになると大分メンタルが削れちゃうのよね」


「最近は大分マシですよ、君のお陰で」



 ふ、と兄は着ているステルスコートを撫でて微笑んだ。



「今までは危険性の高い害魔と対峙する必要がある時だけステルスコートにステルス状態になってもらって、擬態しながら近付いて確認を取ったりしていましたが、最近はヒト相手でもちゃんと頼むようになりましたからね」


「エ、待ってくださいまし。まさか今まで悪人疑惑のあるヒト相手に普通に対峙してたんですの?」


「善人かもしれませんし、最初から疑ってかかるのは、と……」


「そう、酷かったのよサミュエル!」



 目を逸らして言い訳のようにごにょごにょ言っていた兄だったが、ソレを遮るようにステルスコートが叫ぶ。



「明らかに悪人だってわかってるような相手にも平気で近付くんだもの!確認の為に丸腰じゃないだけ良いけれど、このヒトはきっと良いヒトだって信じ切ってるような雰囲気で!」


「うわあ」



 ソレは酷い。

 本人的には大丈夫大丈夫という感じなのかもしれないが、見ている側はハラハラソワソワドッキドキだと思われる。

 例えるなら無謀なコトをしようとする子供を見守る母親のように。



「危険だって可能性がある相手に対して!敵じゃありませんよーって雰囲気で!近付くのよ!?もし確認の為に必要じゃなかったら剣も置いてただろうなって雰囲気で!」


「いえ、だってもしかしたらそうするコトで奥底にある善の心を見せてくれるかも」


「お兄様」



 言い訳をしようとする兄の言葉を遮るように、自分は静かに言葉を紡ぐ。



「悪は悪で、善があったとしても悪の比重の方が重ければソレは悪ですわ。砂漠に一滴の水があったところで砂漠には変わりないように、雑草だらけの庭に花が一輪咲いていようが雑草だらけの庭であるコトに変わりは無いように、悪の中に善があろうが、悪は悪ですの」


「……ジョゼが俺と同じような目だったら瞳孔開いてそうな声色ですね」



 確かにリスのような目なのでそういうのは無いが、正直この目の方が圧は強いと思う。



「……お兄様、論点をずらさないでくださいまし」


「ずらしてはいませんよ。というかそもそも、危険なのはわかったから今はやっていません、という話だったんですから」


「ア」



 そう言われてみればそうだった。



「でも今の話は大事だったわ。サミュエルがヒトに対しても私を使うようになったのは良いけれど、ソレって結局私や同僚に口を酸っぱくして言われたから仕方なく、って感じだったもの」



 でも、とステルスコートは少しだけ笑みを含んだような声で言う。



「でも、妹にここまで言われたら、今まで以上に気をつけるようにはなるわよね?」


「……否定したら父さんとタッグを組んで悪の恐ろしさを説かれそうですしね。ええ、ちゃんと気をつけますよ。俺が出来る限りは」



 ソレは善処しますという意味では無いだろうかと思ったが、先程は言い過ぎたので指摘するのは止めておこう。

 というか流石は自分の兄というか、コレでわからないようなら自分よりも過激派思考の父を巻き込んで説教しようと思っていたのがバレていた。

 ソレだけ空気を読むのに長けているのだから、もう少し警戒心も養って欲しいものだ。





 まあ兄は常にステルスコートを身に纏っている為、常にステルスコートと共に居る状態だ。

 それなら万が一があったとしてもステルスコートが止めてくれるだろうと思い、とりあえずは良しとする。



「……そういえば、お兄様とステルスコートの出会いってどんな感じでしたの?」


「おや、知りませんでしたっけ?」


「ええ、気付いたら一緒に帰って来てましたわ」



 もっとも父が魔物だし、使用人にも魔物のパートナーが居るヒトは多いので普通に受け入れていたが。



「うふふ、ジョゼもお年頃だものね。そういうのに興味があるの?」


「興味、と言いますか……ええ、まあ、興味ですわね。つい先日もお母様とお父様の馴れ初めを聞きましたし」


「エ、相当長いんじゃないですか?ソレ」


「長いというか、色々濃かったですわ」


「わあ……」



 兄の引いたような笑顔には、自分は聞こうとしなくて良かったという安堵が隠れているのが()えた。

 まあ確かにあの二人のラブラブっぷりを知っている実の子からすると、馴れ初めなんて聞いたら相当な時間と体力を削られるだろうとしか思えませんものね。



「ソレで今日は私達の馴れ初めを聞こう、ってコト?」


「そうなりますわ。あ、嫌でしたら別に」


「いいえ、いいえ!寧ろ大歓迎よ!うふふ、だってこういう会話、サミュエルの同僚とは中々出来ないんだもの!」


「ああ、まあ、基本的に仕事の会話がメインですからね。あ、俺も話すのは構いませんよ」



 一人と一着の許可が出た。



「では早速、お兄様とステルスコートの出会いは?」


「出会い、ですか……ソコまで長くはありませんよ?ですよね、ステルスコート」


「うーん、そうなのよね」



 腕を組み、兄とステルスコートは少し悩むように唸った。



「まず私なんだけど、私は元々普通のコートだったのが魔物化したモノなのは知ってるでしょう?」


「ええ」


「ソレで、元々の持ち主はその時にはもう死んでたのよね。ソレで仕舞われっぱなしも嫌だからってフラフラと森を……ホラ、学園の裏手にある森。アソコを彷徨ってたのよね」


「あ、そういえばステルスコート、自立移動が可能なんでしたわね」


「忘れてたの?」



 驚いたように言われてしまった。

 実際はこの目があるので動けるのは知っていたのだが、どうしても兄に着られている姿を見る方が多い為、うっかり意識から消えていたのだ。

 ちなみにステルスコートは動くというか、浮いて移動したりするコトが出来る、という感じだ。



「ふふ、彼女は働き者ですよ。俺が風呂に入っている時などに掃除をしてくれていたりしますから」


「だって私は無機物系だから、疲労とかをしないもの。でもサミュエルは普通に仕事で疲れてるんだから、そういう時に掃除をしてあげたいっていうのは普通でしょう?」


「いつもありがとうございます。掃除などもそうですが、普段から温度の調節をしてくれたり、森で枝に引っ掛かりそうになったら裾を動かして引っ掛かるのを避けてくれたり」


「引っ掛かりそうなのを避けてるのは私の為だから、気にしなくて良いのに」



 ……あー、ラブラブですわねー……。


 異世界である地球的な視点で見ると着ているコートに微笑みかける兄の図というナルシスト一歩手前みたいな光景だが、アンノウンワールドでは普通のコトだ。

 何せ着ているコートがパートナーなのだから。



「えーと、脱線させたのはわたくしでしたけれど、話を戻していただいてもよろしくて?」


「ああ、そうだったわね」



 ステルスコートはサラリと本題に戻った。



「ええと、そう、あの時は着てくれるヒトも居ないからどうしようって困って彷徨ってたの。そして彷徨ってたら、裾とかがヒラヒラしてたのが気になったのか、魔物に襲われちゃって」


「エッ」


「猫系の魔物だったから」


「あっ、あー……」



 成る程、猫じゃらし。



「でも猫系の魔物って爪が鋭いでしょう?布がボロボロになっちゃうからどうしようって逃げてたら、サミュエルが助けてくれたのよ。こう、尖った枝を猫に投擲して」


「ソレ、猫とかお兄様のメンタルとか大丈夫だったんですの?」


「ギリギリでしたね」



 ハハ、と兄は引き攣ったように苦笑した。



「害魔で無ければ枝がすり抜ける為、普通に脅かして逃げてもらえると思ったのですが……万が一害魔でその枝が刺さったらと思うと、大分心臓の鼓動が祭りを開催していましたね」



 太鼓が連打されるようにドンドコドンドコ激しい鼓動だったのだろう。



「ソレで彼女を保護して、一応制服の先生と手芸の先生に確認してもらって無事だとわかって安心して、良かったですねとサヨナラしたらストーカーされまして」


「待ってソレ初めて聞きましたわよ!?」


「いえ、言うのはナンかアレだったからいつもはソコ言わないんですよ。なので正真正銘初めてで合っていますよ」


「合ってちゃマズイと思いますわー……」



 兄のコレは天然なのか豪胆なのかどっちだろう。

 自分からすると面倒事をスルーして忘れるタイプの豪胆な気がするが。



「……というかステルスコート、ストーカーしてたんですの?」


「いや、うん、さっき私、着てくれるヒトが居なくて寂しくて彷徨ってたって言ったじゃない?」


「言いましたわね」



 頷くと、ステルスコートは顔があったら顔を逸らしていただろう言いにくそうな声色で言う。



「……色々と怪我、というかほつれてないかとかを確認し終わった後に、サミュエルが「とても大事にされている、着心地の良さそうなコートですからね。長年使うコトを前提とした縫製ですし、駄目になっていなくてなによりです」って……」


「そりゃストーカーにもなりますわね」


「でしょう!?でしょう!?」



 食用魔物が食べられたいという本能を持つのであれば、衣服系の魔物は着られたいという本能がある。

 そして着られないコトに寂しい思いをしていた服相手に縫製を褒めたり着心地が良さそうだと言うのは、もう口説いていると判断されても弁解出来ない。

 というか完全に口説いている。



「ソレでまあ、俺は別にストーカーをされようと「また居るな」くらいしか思わなかったので、見かける度に声を掛けるようになりまして」



 我が兄ながら肝の座り具合が凄い。

 いや、友人達を見ているとそのくらいはアンノウンワールド住民のデフォルトな気もするが。



「で、ある日の校外学習で、少し肌寒くてクシャミをしてしまったんですよ。そしたらステルスコートが来てくれて、羽織らせてくれて」


「私からすると、コレは着てもらえる大チャンス!って感じだったのよね」



 確かにカモがネギ背負った!という感じのタイミングだったのだろう。



「そしたら驚く程に着心地が良いというか、安心感が凄くて。校外学習が終わって学園に戻っても、まだ着ていたいと思うくらいだったんですよ」


「ソレを実際にそう言われた私はもう内心大ハシャギで「着てて良いわよ!ええ、いっそのコト明日も明後日も毎日着てくれても全然!」って迫るかのように言って、パートナーになったのよね」


「あ、ソレでパートナーになったんですの?」


「ハイ。ソレから彼女を着るようになって、彼女がステルス効果のある魔物だとわかったりしつつ過ごしましたね」


「で、パートナーとして一緒にここに帰ってくるようになったり、ってね。大体、以上が馴れ初めかしら」


「成る程」



 パチパチと拍手をして、聞いた内容を飲み込むように何度か頷く。

 ナンと言うか、少女漫画のような馴れ初めだった。





 コレはその後の話になるが、何となく一人と一着と学園の裏手にある森の話をするコトになった。



「そういえば、お兄様とステルスコートの出会いもあの森なんですのよね」


「ええ、そうですよ」



 頷いてから、兄は不思議そうに首を傾げた。



「も、というコトはジョゼもパートナーにしたいと思うような魔物と出会ったのですか?」


「残念ながら魔物のまの字も、パートナーのパの字もありませんわ」


「おっと」



 こちらが落ち込んだのを見て、兄は苦笑しながら頭を撫でてくれた。

 母のような柔らかさのある手とは違うし、父のように包み込むような撫で方とも違う。

 けれど、安心出来る、兄の撫で方だ。



「……わたくしは全然ですけれど、友人達が結構パートナー持ちになってるんですのよね。で、その出会いがあの森であるコトが多くって」


「あの森は魔物が沢山居ますからね」


「あと、魔物からすると不思議と居心地が良いのよね、あの森」


「おや、そうなんですか?」


「ええ」



 初耳だったらしい兄がそう聞くと、ステルスコートは肯定した。



「特に行き先を決めずにフラフラしてると、気付いたらあの森に居たりするの。もしかしたら、ナニか特別な森なのかもしれないわね」


「パートナーとの出会いの場、のような?」


「うふふ、もしそうならジョゼのパートナーとも、森で出会えるかも知れないわね」


「……そうだったら、嬉しいですわね」



 ノロケを聞くだけでは無く、ノロケる側になりたいものだ。

 そう思っているのを察したのか、兄は微笑ましいモノを見る目でクスクスと笑いながら、また頭を撫でてくれた。




サミュエル

エメラルド家兄妹の中では一番穏やかで優しい性格の長男。

泣いてる迷子に話し掛けるだけですぐ泣き止んで笑顔にさせれる為、王都での評判も良い兵士。


ステルスコート

色や柄を周辺と同化させれる上に温度調整も可能で、フード付きロング丈という色々ありがたいコートな魔物。

警戒心が少ないサミュエルによく注意をしたり、臨機応変にステルス化をしてサポートしたり、プライベートでは掃除などをしてくれたりと出来た嫁。


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