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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
二年生
49/300

武器オタ少女と血涙刀



 彼女の話をしよう。

 極東からの留学生で、武器が好きで、収集家。

 これは、そんな彼女の物語。





 平和な王都ではあるが、路地裏の方へ行くとワリとブラックな感じの世界が広がっていたりもする。

 異世界である地球に比べて風俗系の店はスズメの涙程も無いが、その代わり闇オークションなどが多い。

 例えば魔眼の取り引きなどだ。

 魔眼は魔力を多量に含んでいる為、その目の持ち主のヒトが死ぬと、目だけが「魔眼」という魔物へと変じるコトが多い。


 ……魔眼であるコトに変わりは無いから、能力はそのままですものね。


 その為、魔眼単体で売られるコトも多い。

 基本的に魔物の売買というのはヒトの手を必要とする観葉植物系魔物や食用魔物、そして眠っている為魔道具と間違われたりいつの間にか店頭に紛れ込んでいたりする無機物系魔物などを除き、禁止されている。

 しかし魔眼はリザードアイボールとは違って自分で身動きを取るコトが出来ない為、そうやって売買されるコトが多いのだ。

 ちなみに魔眼が魔物かどうかの見分け方だが、魔物化していると目の色が茶色以外に変化しているのですぐにわかる。


 ……まあ、ソレ以前にカンでもわかりますし、魔物化すると喋ったりするようにもなるのでソッコでわかりますけれどね。


 さておき、闇オークションだ。

 そういう場所ではアウトな品物が取り扱われるコトが多い。

 例えば顔の右半分と右腕がラピスラズリなルーラントがもし捕まれば、そういったトコで扱われるだろう。

 そのくらいにはアウトな場所だ。

 なのに何故自分がそんなにも詳しいのかと言えば、()えるからだ。

 自然と目に入ってくる為、そういった取り引きも()えてしまう。


 ……まあ、グレーっぽいならスルーしますけれど。


 スルーには慣れているので普通にワケアリな物品の取り引きにはナニも言わないが、人身売買やアウトな魔物の売買をしているのを目撃したら兵士に通報、というカタチを取っている。

 幸い兄が対悪専門の兵士として王都に務めているので、そういう時の話は早い。

 だが自分は一度も闇オークションに足を踏み入れたコトは無い。


 ……普通に怖いですし。


 自分がバーサーカー状態になるのが怖いというのもあるが、油断すると()えた口の動きから会話まで()えてしまうので、裏のアレコレを理解している分とても怖いのだ。

 だからこそ、友人には出来るだけ闇オークションなどには近付いて欲しく無い。

 路地裏を歩くのを止めはしないが、闇オークションは危険だ。



「……で、言い訳くらいなら聞きますけれど」


「言い訳など無いな」


「もう……!」



 真正面でカフェラテを優雅に飲んでいるのは、つい先程まで闇オークションでバリバリ品物をゲットしていた同級生、コトノだ。

 緑がかった金髪の彼女は武器が大好きな収集家であり、平気でヤバイトコロにも踏み込むメンタルを有している。

 闇オークションで生き生きとヤバイヒト相手に競り合っているのを見つけ、頭を抱えたのはついさっき。

 流石にオークション会場に乗り込む度胸は無かったのと、うっかりバーサーカー状態になって暴れたら目も当てられない。

 なので闇オークションが終了して出てきたトコロを捕まえてカフェに引きずり込み、ガッツリと説教をカマしたのだが、彼女は何処吹く風で優雅にカフェラテを飲んでいる。



「というか、闇オークションですのよ?ヤバイってわかってますわよね?」


「ヤバイのはわかっているが、多少のコトなら国だって見ない振りをしているだろう」


「ソレはそうですけれど……」



 そう、曰く付きのモノなどは正式な取り引きをしにくい。

 そして人々のストレスの発散にもなるからと、人身売買やアウトな魔物売買でさえ無ければ暗黙の了解としてスルーされるのだ。

 自分がアウトな闇オークション以外をスルーしているのは、そういう理由もある。



「私にもセーフとアウトくらいは見分けられるのでな。どれだけ魅力的な武器であろうと、アウトだろうなと判断したモノは手を出さないようにしているとも」



 カフェラテを飲みながら、だから、とコトノは続ける。



「だから、私はセーフだ。払っている金も実家から送られる仕送りと、シルヴァン教師のコレクションを磨いたりするのを手伝ったりで稼いだ金。私がソレをナニに使用しようと問題は無いハズだ」


「そりゃまあ……そうなんですけれど」



 正論は正論だが、そういうこっちゃ無い。



「ソレよりもジョゼ、今日の収穫は素晴らしいぞ!暗殺者が使用していたというダガーと、持ち主の子孫が金に困って売り払いあちこちを移動するコトになったククリナイフだ!」


「ちょっと、出さないでくださいます?ここお店ですのよ」


「むぅ、もう少し盛り上がったらどうだ?」



 手慣れている無駄の無い動きでダガーとククリナイフを懐に仕舞い、コトノは唇を尖らせた。



「今日のは凄く良かったのだぞ。ダガーは血で錆びていたが手入れをすれば充分に使えるだろうし、血を吸ったかのようなあの赤黒さが最高だ。ククリナイフも長年あちこちを渡り歩いてきたとは思えないくらいに状態が良く」


「ハイハイ、追加で軽食でも頼もうと思うんですけれど、ナニか頼みます?」


「話を逸らしたな?」


「談話室や自室でなら聞かないでもありませんけれど、他の客が居る前で武器語りをさせるワケにはいきませんもの。いつもみたいに盛り上がったりしたら営業妨害になってしまいますわ」



 納得したのか、コトノは眉をしかめて目を逸らした。

 彼女は基本的にクールなのだが、武器に関しては熱くなる武器オタクだ。

 なので語り始めると音量が大きくなってくるので、他の生徒が騒いだりするのにも慣れている談話室、または他のヒトが居ない自室でないと迷惑が掛かってしまう。


 ……いえ、別にわたくし武器にソコまでの興味は無いので、聞かなくて良いならソレに越したコトはありませんが。


 自分が興味深いのは魔物に関してなので、武器系魔物ならともかく、武器そのモノへの興味は低い。

 そう思いつつ、メニューに目を通す。



「クロワッサンのフルーツサンドが美味しそうなのでわたくしはソレにしますけれど、コトノは?」


「ポテトパイ」


「あらガッツリ。サーモンとベーコン、どっちにしますの?」


「ベーコン」


「了解しましたわ」



 近くに居た四つ腕の店主に注文をしてから、コトノへと向き直る。



「というか、あの闇オークションって招待状が無いと参加出来ないハズですわよ?ソレも裏の伝手があるヒトでないとゲット出来ないようなレベルの。どうやって手に入れたんですの?」


「武器屋の店主」


「あー……」



 ……納得しましたわ。


 武器屋の店主は情報屋もやっており、更に子供好きで学園の生徒には特に対応が甘いヒトだ。

 武器目当てで通いつめて一年生の時点で武器屋の常連になっていたコトノが相手であれば、招待状を用意するくらいは容易いだろう。


 ……子供に甘いからこそ普通なら断るトコでしょうけれど、コトノなら大丈夫だろうって思ったんでしょうね。


 実際大丈夫だったし、彼女は武器一筋な分我が強い。

 だからこそ他の武器オタクとの解釈違いで殴り合いなどにならない限りは結構まともなので、招待状を与えてしまったのだろう。

 まあ、まともと言ってもあくまで比較的まともなだけであって、結局狂人であるコトに変わりない気はするが。


 ……武器の為だけに闇オークションに参加する辺り、完全に狂人ですわね。


 もしくは廃人。



「というか、確かもう一つ競り落としてましたわよね」


「ん?ああ、そういえば目が良いのだったな。確かに刀も一本競り落とした。血に塗れて長年放置されたのか錆だらけだったのだが、凄まじく惹かれてな。もっとも帰りに持って歩くのは少し嵩張るなと思ったので学園に届けてもらうコトにしたが」



 ……闇オークションなのに配送可って意味わかんないですわね。



「だが、あの刀は想定外だった為思わぬ出費になってしまってな」



 そう言い、何故かコトノは珍しく爽やかな笑みを浮かべていた。

 その笑みの意味は()ればすぐにわかるので察しているが、しかし認めたくはない。



「……ちなみに、その笑みの意味は」


「カフェラテ分はあるが、ベーコンポテトパイの分がギリギリ足りるかわからん」


「奢りませんわよ」



 プレゼント癖があり、よく友人にナニかを奢るコトも多い自分ではあるが、ソレは奢りたいと思う相手にだけだ。

 日々頑張り、自分から我慢するような子ならばともかく、コトノにはそういう気分にならない。



「奢らせる気は無いさ」



 コトノはニヤリとした笑みを浮かべる。



「後でキチンと代金は払うから、少し金を貸して欲しいだけだ」


「そう言ってこないだ貸したナイフの代金、返して貰ってませんわよ」


「ソレごと返すとも」



 ……こういう甘さが駄目なんでしょうけれど……。



「……仕方ありませんわね」


「助かる」



 コトノはニッコリと爽やかな笑みを浮かべていた。

 もし男だったなら見事なヒモになっていただろう完璧な笑みだ。

 つまり自分はヒモに引っ掛かりやすいのではという事実には、クロワッサンのフルーツサンドを堪能するのに夢中で気付かなかったコトにしよう。





 あの後コトノは意外にもちゃんと代金を支払ってくれた。

 コトノへの好感度が上がると同時に、ああこうやってヒトはヒモにハマっていくのかと遠い目になってしまった。


 ……落としてから上げると、落とす前と同じ高さだったとしても凄い高い位置に居るような錯覚になりますものねー……。


 ヒトの脳や心理って自分を含めアホなんじゃないかと思いつつ自室でゲープハルトに頼まれた本の翻訳を進める。

 とは言っても読むだけなので書く手が疲れるくらいなのだが、古いが十個重なりそうなくらいに古い本なので、正直扱いに困る。

 うっかり傷でも付けたら国が引っくり返るんじゃないかレベルで古くて貴重な本だ。


 ……そのせいで翻訳が中々進みませんのよね。


 内容が古いのに新しくて興味深いのも理由の一端だが、進まない理由の大半はそのレア度の高さだ。

 読めるのはありがたいが、取り扱い注意を十一歳の子に預けないで欲しい。

 そう思いつつ細心の注意を払って翻訳を進めていると、扉がノックされた。



「ジョゼ、居るか?」


「コトノ?」



 聞こえたのはコトノの声だった。

 振り返って()れば、扉の向こうに刀を持ったコトノが居る。


 ……しかも、あの刀……。


 ()えた光景に少し引きつつ、今日の翻訳はここまでとペンを置く。



「ええ、居ますわ。どうぞお入りなさいな」


「邪魔するぞ」



 部屋に入って来て座り、コトノは刀を掲げて言う。



「単刀直入に言うが、助けてくれ」



 単刀直入過ぎてちょっと理解が追いつかない。



「……助けてくれ、というのは」


「コイツと話が通じんのだ」



 コイツ、とコトノが視線で差したのは、手に持っている刀だった。

 というか先日の闇オークションで競り落としていた刀。

 そして先程()えた感じからすると、この刀は魔物だ。



「……ああ」



 刀は震え、おどろおどろしい声を放つ。



「ああ、ああ、お前様、お前様……どうして我というモノがありながら、他のモノなどを見て、そして我以外にあのような言葉を掛けるのか……。恨めしい、恨めしい……!」


「ウワッ」



 恨み言につられるかのように、刀が仕舞われている鞘からごぷりと血が溢れた。

 先程から鞘の中に血と思われる液体があるのは()えていたが、溢れられるのは困る。

 だが丁度良い受け皿なども無いので、話が終わってから魔法でどうにかするコトにしよう。


 ……血が乾くと、ソレを落とす為に魔力消費の量が増えそうで嫌ですわねー。


 思わず遠い目になってしまうが、血を流す刀は尚も恨み言を零す。



「我があるというのに、何故他のモノにまであのように熱い視線を向けるのじゃ……。ああ、恨めしい。お前様の気を惹くアレら全てが憎らしい。お前様は我では足りぬとでも言うのか。ソレとも、我ではお前様を満足させるに足らぬのか」



 鞘から溢れた血がコトノの手を濡らし、カーペットなど周辺のモノを血で濡らしていく。

 あっという間に新鮮なスプラッタ現場が出来てしまった。



「ああ、悲しい、悲しい、寂しい、恨めしい、憎らしい……!」



 溢れるその血はゴボゴボと勢いを増していくばかりだ。



「お前様、ああ、お前様……アレ程に我を欲してくれたというのに、我を磨き上げてくれたというのに、我に美しいと言ってくれたのに、我にあのような熱視線を送ってくれたというのに……!」



 刀は恨めしそうな声で叫ぶ。



「我に与えてくれたハズなのに!その手で他の武器を触り!他の武器を丁寧に手入れするなど!我に与えてくれた美しいという言葉を、何故他の武器にまで与えるのじゃ……!何故我以外の武器にまで構う!」



 ドパリと溢れた血は真下に血溜まりを作っており、正直ここが一階でホントに良かった。

 もしこの自室が二階にあったのであれば、下への水漏れならぬ血漏れを心配しなくてはいけないトコロだった。



「……つまり、コトノが浮気したんですの?」


「していない」


「そうじゃ!」



 意見は一致していなかったが、刀からの返事はあったのでこちらの声は聞こえているらしい。



「アレは浮気じゃろう!我のコトを美しいと言った直後に他の武器を褒めるなど!」


「知らぬわ。そもそもお前がどういう存在なのかもわからぬ」


「我は血涙刀(けつるいとう)じゃと言っておろうが!」


「だ、そうでな」



 コトノは血涙刀と名乗った刀をこちらに見えるよう掲げたまま、ハァ、と溜め息を吐いた。



「私は正直武器の知識しか無いから武器系だろうと魔物には詳しく無い」


「だからここに来た、と」


「そうだ」


「……ソレは良いんですけれど、普通に図書室とか行っても良いと思いますの」


「こっちの方が近いし、こんなにも血をボタボタ垂らす状態で図書室には行けぬだろう」



 ソレはつまりヒトの自室なら良いと判断したのかと思い少しイラっとしたが、コトノはいつだってゴーイングマイウェイだ。

 要するにまともに受け答えすると頭が痛くなるタイプの狂人。



「……血涙刀は刀から血を涙のように流す魔物ですわ」



 なので、溜め息一つで諦めて説明を始める。



「とは言っても持ち主への感情が強くて嫉妬深くて、小まめに手入れしないと自分から流す血ですぐに錆びる、というくらいしか知りませんけれど」



 あとは手入れして綺麗にした刀身がソレはソレは綺麗なコトと実戦用の刀であるコトくらいだが、ソレは自ら手入れしたらしいコトノならわかっているコトだろう。



「ちなみにこの嫉妬を抑えさせる方法は」


「アナタが他のコレクションを手放すのが一番手っ取り早いですわね」


「断る」



 コトノがそう即答した瞬間、大人しくしていた血涙刀がまたもやゴボリと血涙を流すかのように血を溢れさせ始めた。



「何故、何故我を優先してくれぬのじゃ……!」


「いや、優先云々では無く」


「我にはお前様だけだというのに!」



 鞘から血が溢れ、刀が少し浮いている。

 少しでも横に倒せば血によって刀が滑り落ちそうなくらいだ。



「我は美しい刀身じゃろう?ならば他など必要無いじゃろうが!」


「確かに美しいが、私は刀だけではなく」


「他の武器など要らぬであろう?なあ?我があれば良いではないか。我一つあれば。他の武器に惹かれるなど許さぬ。他の武器に見惚れるなど許さぬ。他の武器に愛おしそうに触れるなど許さぬ……!」


「だから私は全ての武器をだな」


「我を気に入ったのじゃろう?美しいと、愛おしいと言ってくれたではないか。ソレを他に向けるなど我は許さぬ!他の武器など必要無い、お前様には我だけがあれば良い!他の武器など、お前様の気を惹くような武器など……!」



 血涙刀は恨めしい、憎らしいとぶつぶつ呟き始め、コトノの声は完全に聞こえていないようだった。



「……ジョゼ、この血涙刀は確かに美しいし個人的にこういう手間の掛かる武器はとても好みではあるのだが、ソレはソレとして助けてくれ」


「助ける云々以前にこっちは部屋を血塗れにされてる被害者ですのよー?」



 魔法でナンとか出来るとはいえ、ヒトの部屋の床を血塗れにするのは勘弁してほしい。

 そして助けてと言われても困る。



「……血涙刀の場合、主張を引っ込めるコトはありませんわ。いつでも持ち主を独占していたい、という性格ですもの」



 しかも種族的に共通している部分なのでどうしようもない。

 魚がエラ呼吸をしているようなモノなのだから、ソレの否定はイコールで死だ。



「だからこそ闇オークションに流れてたのでしょうね」


「成る程……ちなみに困っているだけであって嫌ってはいない、寧ろ好みなので私に血涙刀を手放す気は無いんだが」


「その場合は他のコレクションを全て手放すしかありませんわ。二者択一、二兎を追っては一兎も得れずに終わりますわよ」



 そう伝えると、コトノは肩を落として深い溜め息を吐いた。



「だろうな……」


「恨めしい、憎らしっヒャンッ」



 ……憎らしっヒャンッ?


 単純にコトノが血涙刀の柄をツツツと撫でただけなのだが、血涙刀からすると想定外だったのか、高い声を発していた。

 しかし流石に恥ずかしかったのか、血涙刀はようやく血を溢れさせるのを止め、黙り込んだ。



「……ふむ、可愛げはあるらしいな?」


「ウワー、悪い顔してますわね」


「楽しげな顔と言え」



 そう言うコトノの顔は悪役がヒーローを追い詰めた時にするような表情だった。



「まあ、可愛げがあるのがわかればまだ話もしやすい」


「話の聞かなさは武器語りスイッチ入ったコトノにソックリですしね」


「私はもう少しヒトの言葉は聞いている。無視するだけだ」



 ソレは最早同義なのではと思うが言わないでおく。



「さて」



 コトノは血涙刀を手に持ったまま、立ち上がった。

 その制服は所々が血涙刀が流した血によって大変な見た目にアレンジされているが、コトノは特に気にしていないらしい。


 ……白にオレンジの色合いだから、赤が目立ちますわねー……。


 一年生の時ならまだ白と赤の色合いだったのでギリギリマシだっただろうに。



「ジョゼ」


「ハイ?」


「私は自室に戻り、コイツと……血涙刀と話してみようと思う。迷惑を掛けたな」


「まったくですわ」


「ハハハ」



 いや、笑い事じゃないレベルで迷惑を掛けられたのだが。

 比較的心広めだと自負している自分であろうと、ここまで床を血塗れにされて、迷惑は掛けられていないなどという心にも無いコトは言えない。



「……一応助言をしておきますけれど」



 けれど友人として、扉を開けようとするコトノの背中に語りかける。



「コレクションを手放すという選択肢を選ぶのでしたら、シルヴァン剣術教師に渡すのをオススメしますわ。あの方も武器コレクターですし、手入れはしっかりされてますもの。闇オークションに流すよりは、身近にある分良いと思いますわよ」


「……考えておこう」



 そう言い、ヒラリと手を振ってコトノは格好良く部屋から出て行った。

 後に残されたのは血溜まりが少し乾き始めた床と、血が染み込んだカーペットと、自分。

 ルームメイトであるジェネヴィーヴとストーンスタチューが帰ってくる前にどうにかしなくてはと疲れて昼寝でもしたい体をどうにか鼓舞し、魔法で元通りの綺麗な空間へと戻した。





 コレはその後の話になるが、コトノは沢山のコレクションよりも血涙刀一本を選び、今まで集めたコレクションを全てシルヴァン剣術教師へと譲渡した。



「思い切りましたわね」


「ソレを勧めたのはジョゼであろうが」



 ハァ、とコトノは嫌そうに溜め息を吐いた。



「まったく……シルヴァン教師が居たから良かったものの、ドコの馬の骨ともわからぬ輩の手に私の集めたコレクションが渡る可能性があったら、血涙刀を選べたか怪しいぞ」


「選ぼうとする気はあるんですのね」


「当然のコトではあるが、お前様にそうも優先されたと思うと我も流石に照れるのう」



 カチャカチャと金具を鳴らしながら落ち着いた声でそう言うのは、コトノの腰に差された血涙刀だ。

 彼は常にコトノと一緒に居たいと全力で主張した為、コトノはキュロットスカートを新しくしてもらい、刀を差せるようにしたのである。


 ……最近は血涙刀もメンタルが安定してますわね。


 キホン武器に対しての嫉妬なので、その辺りがどうにかなれば血涙刀も大人しい部類なのだ。

 剣術の授業などでは、まあ、あくまで授業の一環だという態度をコトノがすれば良いのだが、元はコトノのコレクションである武器も授業で使用されるコトがあるので、剣術の授業の日は血涙刀のメンタルに不安定さが出るが。



「毎日毎日武器の手入れに時間を費やし、時々新しい武器を見たりしていたというのに……今は血涙刀一本のみだからな」


「カカカ、ならば我を存分に愛でれば良いだけじゃろう?」



 血涙刀は楽しげにそう笑う。

 ソレに対し、コトノはニヤリと笑みを返した。



「ああ、そうするとも。()()()、毎日愛でさせてもらうではないか」


「ヒャンッ」


「ククク」



 ツツツゥッと指先で撫でられ血涙刀は高い声を発し、コトノは喉で笑った。



「しかし、新しい武器は……見ると欲しくなるからな。武器屋には血涙刀のコトを紹介し、あまり行けないと伝えてから本当に行けていないのが残念だ」


「我以外の武器に会えぬのが、か?」



 先程の高い声を発したのと同一刀とは思えない程に低い声でそう言う血涙刀に、コトノは微笑む。



「店主に会えないのが、だ。お前を選んだのだから、今更他に揺らぐ……時はまあ多少あるだろうが、浮気をするつもりは無いとも。ただ情報屋でもある店主からお得情報を聞けなくなったのが残念でな。……まあ、殆ど武器情報だったから別に良いのかもしれぬが」


「言っておくがなお前様、我は少しでも他の武器に揺らげば即座に浮気判定を下すぞ」


「厳しくないか?」


「普通じゃ」


「ソレで普通なら浮気判定に厳しいヤツの判定は一体どうなるのだ……?会話だけでアウトではないか」



 そういえば武器屋の店主に、常連だった子のパートナー成立祝いとして下緒をプレゼントしたいから血涙刀の好みの色を聞いてくるようにと言われたのを思い出した。

 コトノの好みの色は知っているらしいが、流石に血涙刀の好みの色までは知らないから、だそうだ。


 ……でも今、浮気判定での話で盛り上がってますし……。


 さて、どのタイミングでこの話題を持ち出そうか。




コトノ

名前は漢字で書くと琴乃という文字。

実家がかなり裕福であり、殆どは実家から仕送られるかなりの額のお小遣いで武器を買っていた。


血涙刀

所有者大好き褒めてもらうの大好き構ってもらうの大好き手入れされるの大好きで浮気絶対許さないというメンヘラ刀。

鞘では無く刀が本体なので、血は刀から滲み出るように流れる。


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