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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
二年生
46/300

日除け少年と詐欺師のだまし絵



 彼の話をしよう。

 太陽の光が駄目で、真面目で、青空に憧れている。

 これは、そんな彼の物語。





 このアンノウンワールドには沢山の魔物が居る。

 その上、常に新種が発生しているのだ。

 だからこその未知の世界、アンノウンワールドなのである。

 そんな多種多様な魔物の中には、日の光を苦手とする魔物も多い。


 ……まあ、夜行性の魔物も多いですしね。


 単純に眩しくて苦手だったり、体質的に太陽の光が苦手だったりと、苦手な理由も多種多様だ。

 そして混血であるがゆえに、遺伝で太陽の光を苦手とする生徒も居る。



「いつもすまないな、ジョゼフィーヌ」


「いえ、構いませんわ。ハイ、コレ」


「ああ、確かに。ありがとう」



 そう微笑んで品物を受け取ったのは、混血ゆえに太陽の光が合わないアティリオだ。

 イケメンと言っても差し支え無いアティリオは、暗めの金髪を揺らして嬉しそうにその表情をほころばせる。



「……うん、流石ジョゼフィーヌ。俺好みのガラス細工だ」


「ふふ、何度かおつかいに行ってますから、好みくらい覚えますわ」



 そう言うと、アティリオは溜め息を吐き、落ち込んだ様子で自分の腕を擦る。



「俺も、実際に行けたら良いんだが……この体質ではな」


「無理して灰になったらどうしようもありませんものね」


「ああ」



 アティリオは頷く。



「まあ、父のように日の光で灰になるコトは無いと思うが……短時間日の光にあたるだけで肌がかぶれるからな。最悪の場合、灰になっても父のように回復出来ない可能性を考えると」


「恐ろしいですわね……」



 ゾッと寒気が走り、二人して思わず腕を擦る。



「自分でも骨董市に行って、色々と見たいが……」


「入学したての頃、実際に見に行くって言って無理した時……ぶっ倒れましたわよね」


「周囲のヒトにも迷惑を掛けてしまったな、あの時は」



 そう、王都の骨董市になると結構大規模な骨董市になる。

 なのでアティリオは少し無理をし、結果倒れたのだ。

 あの時は一緒に行ったワケでは無いので後日聞いた話だったが、その際同行した友人が支えてくれたお陰で周囲のヒトや店に被害は無かったらしい。


 ……でも、全身がほぼ火傷状態だったんですのよね。


 丁度学園内に居た為保険室に運び込まれた姿を()たが、アレは酷かった。

 日焼けというよりも火傷に近く、所々水ぶくれが出来ていて見ている方も痛いレベル。

 塗り薬と魔法により短期間で治りはしたものの、ソレ以来アティリオは友人に骨董市での買い物を頼んでいるのだ。



「だがまあ、ジョゼフィーヌは目が良い上に目が肥えてるからな。外れが無いのがありがたい」


「ソレはナニよりですわ。わたくしも素敵なモノと出会える良いキッカケになるので、こちらとしてもありがたいですし。……っと」



 ふと思い出し、アティリオに渡そうと買ったもう一つの品物を取り出す。



「そういえばこちらも買ったんでしたわ。額縁」


「おお!」



 額縁を受け取り、アティリオは感嘆の声を零す。



「凄い、コレは……凄まじく細やかな装飾だな!?」


「ですわよね、ですわよね!?しかもこの辺りの細工とか、このままだとわかりにくいんですけれど、中身を入れるととても綺麗になるんですのよ!色がパッキリして!」


「成る程、確かに……!ぼやけた印象を抱く草花の装飾だが、中身があればその分色がハッキリして中身も額縁も映えるな!」



 一緒に盛り上がっていたアティリオだったが、ハッとしたようにこちらに視線を向ける。



「って、コレは高かったんじゃないか!?渡した金額で足りたのか!?」


「そう、ソレなんですけれど」



 そう言い、預かっていた財布をアティリオに返す。

 ソレを受け取り、アティリオは財布の重さに不思議そうな表情へと変化した。



「実はその額縁、その良さを理解してもらえていなかったのか超!お手頃価格だったんですのよ!」


「あ、だから金が残ってるのか!?」


「ちなみに骨董市の楽しみとして値切りもしたので多めに残ってますわ」


「ホント頼りになるな、ジョゼフィーヌ……!」



 アティリオは感動したようにキラキラした表情でこちらを見たが、我ながらただみみっちいだけな気がする。





 本日の午後の授業は剣術と体術であり、外で行うタイプだった。

 なので当然のように欠席していたアティリオに今日の授業の内容を伝えようと学園内をぐるりと見渡す。

 基本的に外での授業ゆえに休む際は、その時間を使って掃除や棚などの整理の手伝いをしているので、恐らく教師用の建物内に居るハズだ。


 ……居ましたわね。


 アティリオは美術室の隣、美術準備室の整理をしているようだった。





 とはいっても、美術準備室とは正確には美術室の物置扱いをされている部屋である。

 大分魔窟状態になっているハズだがと思いつつ、念のために美術準備室の扉をノックする。



「アティリオ、授業が終わったので今日あった授業の報告に来ましたわ。今、入ってもよろしくて?」


「ジョゼフィーヌか。ああ、埃は魔法で綺麗にしたから問題無い、入ってくれ」


「では、失礼しますわ」



 許可が出たので入ると、確かに埃は無かった。

 だが使わない品を片っ端から放り込んだのだろうなと思うくらいにはモノが溢れ返っている空間だった。


 ……いやまあ、()えてはいましたけれど。


 しかし遠目で()るのと近くで見るのとではやはり違う。

 主に物質的に肉体に感じる圧とかが。



「相変わらずというかナンと言うか……流石美術室が独占してる物置部屋ですわね」


「だな」



 基本的にそれぞれの建物に物置部屋はあるのだが、教師用の物置部屋は凄まじく酷い。

 ボックスダイスがランヴァルド司書のパートナーになった際に入ったコトがあったが、あの時は結局資料を回収してソッコで部屋を出た為、結局魔窟であるコトに変わりは無い。

 そしてここも長年放置されているというか、歴代の美術教師は当然のように常識から遠い位置に存在するヒト達ばかりなので、放り込んだら放り込みっぱなしなカオス空間なのである。



「というか、よくまあこんな部屋の整理をしようと思いましたわね……」


「美術のカメーリア教師が、美術室はこないだ掃除したばかりだから、掃除や整理をするならここくらいしか無いと……」


「……そういえば、こないだ休んだ時、美術室の掃除してましたわね」



 結果ここを整理するコトになったのか。

 正直ソコはその案を提示された時点で断って、別の部屋の掃除なり整理なりに行けば良かったのではと思うが、ソコで素直にここの整理を選ぶ辺り、アティリオは真面目なのだろう。

 まあ、そうでなければ体術や剣術の授業を休んでいる間の時間が勿体無いから教室とかの掃除や整理をしよう!という思考にはならないだろうが。


 ……異世界の自分だったら、絶対部屋に戻って寝てたでしょうしね。


 もっとも今現在の自分は天使の娘でもある為、皆が学んでいる間にナニもしないという罪悪感に耐えられず動こうとしてしまうと思うけれど。

 そう考えるとアティリオも同じように、せめて少しでも役に立つコトをしなくては!という感覚なのかもしれない。



「と、ジョゼフィーヌ、すまないが授業の報告は少し待っていてくれないか?せめてこの棚だけでも整えたい」


「ええ、構いませんわ。というか手伝いますわよ」


「助かる」



 とはいっても足場も少ないし、棚の中身は下手に動かすと崩れる可能性がある。

 なので自分は崩れなさそうな棚を端っこを整えつつ、中心側の崩れない部分をアティリオに伝える。

 ソレを少しの間繰り返せば、棚はある程度見られるくらいには整った。



「……でも、多分五年後くらいには台無しになってるんでしょうね」


「まあ、重要なのは今の俺達の満足感だからな」



 そう言ってから、ところで、とアティリオはとある箱を手に取った。



「……コレ、極東の文字で書かれてて読めないが、デザインからして多分菓子の箱だよな」


「あー、饅頭ですわね」



 そしてアティリオが言いたいコトも察した。



「中身があったら大惨事だろうって考えてるみたいですけれど、大丈夫ですわ。中身は普通にシンプルな額縁入りのイラストみたいですわよ」


「イラスト?」


「ええ、多分仕舞う際に不要な箱に入れたんだと思いますけれど……コレは、肖像画……いえ、だまし絵っぽいですわね」


「ほほう」



 頷き、アティリオは箱の蓋を開けた。

 その中に仕舞われていた絵は、美しい美女が描かれていた。


 ……って、あ。


 ここ最近頻繁に()る魔力の動きに、またかと思う。



「……ん、んん」


「む?」


「…………あら、お客?」



 肖像画にも見える、細かい呪文で描かれた美女のだまし絵が目を覚ました。

 先程まで目を伏せていた美女だったが、平面のまま、その目を開けたのだ。



「……ま、魔物か?」


「さぁね」



 欠伸をし、美女はアティリオの問いに適当に答える。



「私はとある詐欺師をモデルに書かれた、ソレまでの本人とまったく同じな存在。ま、現実を書き写した結果、中身までトレースされたというか……気にしなくて良いわ。だからといってアンタ達にナニかあるワケでも無いでしょうしね」



 美女は絵の中で手をヒラヒラと振った。



「で、アンタ達はお客?なら望みを言いなさいよ」


「いや、ちょっと待ってくださいまし」



 平面のままで言葉だけでぐいぐい来る美女に待ったを掛け、問い掛ける。



「まず、わたくし達はアナタを知りませんわ。だから存在から色々と説明していただかなくては、お客もナニもありませんの」


「ふぅん?」



 美女は絵の中から周囲を見渡し、納得したように頷いた。



「成る程、時代が大分経ってるってワケね。ま、良いわ。こっちとしても商売みたいなモンだし、説明は大事よね」



 そう言い、美女は言う。



「改めて言うけれど、私は詐欺師をモデルに書かれただまし絵。ナニがだまし絵かって言うと、私は線では無く呪文で形作られている。ただしその呪文の結果なのか、当時生きていた私……詐欺師本人の時間が、写真のように切り取られたのよね」


「?」


「あー、えっと」



 首を傾げたアティリオに、とりあえず説明をする。



「つまり呪文が写真撮影のような効果を発動し、その瞬間までの詐欺師の記憶や性格がそのままこちらの魔物にも適応されている、というコトですわ」


「?」



 アティリオはいまいち理解出来ないらしい。



「んーと……例えば五歳のアティリオを描いた絵があるとして、そのアティリオは五歳でしょう?」


「そうだな」


「そうなると、その絵のアティリオは今のアティリオを見ても知らないヒトになるワケです」


「まあ、そうだな」


「でもソレまでのアティリオではあるので、五歳までの記憶はある本人というコトに変わりはありません」


「ふむ」


「ソレ」


「成る程」



 理解してくれたらしく、アティリオは納得したように頷いてくれた。

 確かにこういうタイプは理解がしにくいモノだろう。



「理解は出来たかしら」


「ああ」


「じゃ、続けるわよ」



 律儀にもそう言ってから、美女、改め詐欺師は説明を再開する。



「ソレで私は当時の詐欺師そのままなワケで、その詐欺師が使えた能力もそのまま使えるってワケ。ちなみに詐欺師ってのはどういうのかわかる?」


「無害だと偽り対象を洗脳、心理的な駆け引きにより金品を騙し取る悪」


「ま、そうね」



 反射的な自分の即答に、詐欺師は機嫌を悪くした様子も無く絵の中でうんうんと頷いた。



「ただ、私の場合はちょっと違うわ」


「違う?」


「そ。詐欺師ってのは要するに、夢を売る仕事だと私は思ってるわ。あくまで夢だから現実ではあり得ないコトだし、結局目覚めてナニも変わっていない、寧ろ夢を見続けていたせいで散々な現実になっていたりするけれど……でも、夢を見たというのだけは事実、っていうね」



 有料だけど、と詐欺師はクスクス笑う。



「そんな私が行う詐欺は、実現する夢。ああなりたい、こうなりたいっていう夢を一時的に叶えてあげる。もっとも、あくまで夢でしかないから、普通に一定時間しか持たないんだけど」


「…………夢が、叶う」


「一時的だけどね。ま、ソレでも夢を見るんじゃなく、有料で夢を叶えるってんだから実在の私は大繁盛してたわよ。客には一攫千金を願ってもどうせ覚めるんだから、もっと夢っぽい願いをすれば良いのにと思ってたけど」



 そう言い、詐欺師は頬杖をついた。



「……夢が」


「アティリオ」


「!」



 夢が叶うという詐欺師の言葉に揺らいでいるらしいアティリオの頭に手を置くコトで一旦意識を戻させ、自分は詐欺師に問い掛ける。



「ちなみに有料と言っていますけれど、対価はナニを?」


「あら、ソレに気付いたんだ?人間だとここで結構夢に目が眩んじゃうんだけどね」


「わたくし、天使との混血ですもの」


「あー、真っ白い系か。そういうのって今を良しとするから私の仕事がしにくいのよねー」



 詐欺師はニヤリと笑い、問いに答える。



「対価って言っても、大して無いわ。その夢を叶える為の魔力を少し拝借するだけ。まあ、叶えたい夢のスケールによって当然拝借する魔力量も変化するから、最悪死に掛けるでしょうけれど」


「あら、お金じゃないんですの?」


「かつて実在してた私ならお金だったけど、絵に描かれてる私が実在するお金貰ったトコで使えないもの。自分で移動すら出来ないのよね、私」



 ……まあ、確かに。


 完全に絵であり、平面的だ。

 絵の中から出てくる系ならともかく、絵の中で動き回る系では実際のお金を貰ったトコロで使い道が無いというか、使うコトが出来ない。



「まあ元々私って小悪党だったから、お金を請求しても夢を叶える分くらいしか貰わなかったけどね。多少は良い夢見れるんだし、詐欺師っていうよりは夢売り人って感じよ」


「でも覚めるなら詐欺ですわよね」


「うん」



 詐欺師はあっさりと頷いた。

 確かに夢というのはそういうモノだが、本魔の方も結局仮初めでしかないという自覚があるのだろう。

 だからこそ、己を詐欺師と称するのだろう。



「んー、でも、そうね。ずっとこんな箱の中に仕舞われててつまんなかったから、外に出して良い額縁にでも飾ってくれるんであれば一回切りっていう制限無しでも良いわよ」


「エ、一回切りだったのか?」


「同じ相手に同じネタで詐欺れると思うの?」



 ……まあ、普通はしませんわね。



「で、アンタの願いは?」


「……俺か?」


「そ」



 詐欺師はニンマリとした笑みを浮かべ、絵の中からアティリオを指差す。



「どういうのが夢を見たがる客かっていうのはね、わかるのよ。んで今私の目の前に居るのはアンタ達なワケだけど、そっちの子はまったく私の言葉に心を揺らがせてない」



 そっちの子、と指を差されたが、確かに自分はこの詐欺師の言葉に心を揺らがされていない。

 というか、現状に不満らしい不満が無いのだ。

 頼まれやすい部分については自分の性格みたいなモノなので諦めているし。



「でも、アンタは違うわ」



 アンタ、とアティリオが再び指差された。



「さっきから私の言葉を真剣に聞いてたし、条件を聞いた辺りで「ソレならイケるな」って顔をしてた。そしてさっき「一回切りなのか」って言った時、確認の為っていうよりも、()()()()()()()()()()っていう顔だった」



 実際()ていた自分も同じ意見なので、彼女は詐欺師なだけあって、客の心理には敏感らしい。



「で、どうする?対価は安く、一時的であるコトは確かだけど願いは叶う。重要なのは私を信じて、夢が叶うと強く願えるかどうか」



 詐欺師は、おとぎ話に出てくる対価を求める魔女のようにニヤァッとした笑みを浮かべた。



「アンタの夢は?言ってごらん」


「…………太陽の光を浴びても平気になりたい」


「そんだけ?」


「……青空が見たいし、骨董市とかも、自分の目で見て選んで買いたい」


「今ならその願いが叶うわよ」



 詐欺師は詐欺師らしい言葉を口にした。

 ナンというか、これぞ詐欺師というような口上だ。



「全人類にモテたいとか、世界一の金持ちにとかは拝借する魔力量も多いけれど、ソレはアンタの肉体の問題。軽くコーティングすればどうにかなる」


「……俺の場合、曇りでも雲越しの太陽の光でちょっとかぶれるぞ」


「平気平気。そういうのはどれだけ強くその夢を見ているかなんだから」



 絵の中で詐欺師はヘラヘラとした笑みを浮かべながら、その手をヒラヒラと振った。



「ちなみに私って詐欺師だから契約を大事にしてるんだけど、どうする?魔力をくれるだけってんなら一回切りで終わり。でも、アンタの部屋に綺麗な額縁で飾って、時々額縁ごと私を持って散歩でもして外を見せてくれるってんなら、何回でも夢を見せてあげれるけど」



 ……条件、さっきより増えてますわよね。


 額縁ごと持って散歩というのはさっき言った時に無かった条件だと思うのだが、アティリオは太陽の光を平気になる方が重要なのか、頷いた。



「わかった」


「……良いんですの?」


「良い額縁なら丁度あるし、外に憧れる気持ちはわかる」



 確かについこないだ良い額縁をゲットしたばかりだし、アティリオは詐欺師と同じく、外に焦がれている。

 そういう個人の問題やらナンやらになると友人であっても他人である自分では口出し出来ないので、黙るしかない。

 実際本気で嘘な詐欺なら許せない悪なのだが、彼女からそういう悪みたいな気配は感じないのだ。

 寧ろ嘘になってしまうからこそ最初から悪を名乗るコトにしたような、三下の振りをした善に近い気配がする。



「もし叶うのなら、是非頼みたい。……あー、っと」


「ああ、私の名前?新種みたいなモンだし、特に登録もされてないから詐欺師で良いわ」



 そう言い、詐欺師はニヤリと笑う。



「じゃ、アンタに夢を見させてあげる。私に触れて」



 言われるがままアティリオが詐欺師の描かれただまし絵に触れると、触れた部分からアティリオの魔力がだまし絵に吸収されるのが()えた。

 そして、吸収された魔力がだまし絵を形作っている呪文によって変化し、アティリオに戻っていくのも。



「コレで、アンタもお日様の下で歩けるようになったわよ」



 詐欺師はそう言い、自慢げな子供のようにニッと笑った。





 コレはその後の話になるが、アティリオは詐欺師のだまし絵によって、ホントに太陽の光が平気になった。

 当然一時的なモノなので半日くらいしか持たないが、充分過ぎる程に充分だった。

 ちなみに詐欺師は魔物として登録された為、詐欺師のだまし絵、というのが正式名称となった。



「アティリオが太陽の下を歩けるようになって、良かったですわ」


「そうね、今も元気に骨董市のセールに立ち向かってるし」


「アレ、初心者だと結構弾かれるんですけれど……あ、弾かれた」



 しかしアティリオはすぐに復活し、再びヒトの群れに突撃していった。

 現在自分は骨董市にて、アティリオに代わって詐欺師のだまし絵を抱えている。

 折角だから一緒に行こうとアティリオは詐欺師のだまし絵も連れてきたのだが、セールが始まったのを見て今まで挑戦出来なかったからと我慢出来なかったらしく、彼女を私に任せて突撃したのだ。

 骨董品相手に突撃して大丈夫なのかと思うかもしれないが、セールの際は割れたりしないように防護系魔法が掛けられているので問題は無い。

 ソレは骨董品が壊れるのを防ぐのと同時に、小悪党が物品に傷を付けてイチャモンをつけてくるのを防ぐ為でもある。



「ところで詐欺師のだまし絵はどうしますの?わたくし、今日は特にお目当てのとか無いので融通利きますわよ」


「あら、待たないの?」


「あのセールって品物が減ってくると新しい品物が入れられるので長くなるんですのよ」


「成る程」



 向こうで新しい品物がINしたらしく、歓声が上がった。

 ソレが聞こえたのだろう詐欺師のだまし絵は、疲れたように、しかし仕方がないとでも言うような笑みを浮かべた。



「じゃ、替えになりそうな額縁ないか探すのを手伝ってちょうだい。絵の中の私じゃ着替えられないから、そういうのでオシャレするしかないし。あ、その辺には置かないでよ?うっかり品物に間違えられるのは御免なんだから」


「流石にそんなコトしませんわ」



 詐欺師のだまし絵の言葉に、思わず笑ってしまう。



「友人の、アティリオのパートナーにそんなコトする理由がありませんもの」


「……そのパートナーっていうの、私認めてないわよ」


「あら、でもそう感じますわよ?」


「気のせいよ気のせい!私よりも年老いて既に死んでる実在の私のコトなんて私自身の記憶に無いから知らないけど、こないだアティリオと調べた時は実在の私は普通に独身のまま死んでたんだから!つまりこの私だってそーいうのになる気は無いの!」



 だが明らかにパートナーだろうなという気配がしてしまっている。



「……別にそういうコトにしても構いませんけれど、アナタもアティリオも、お互い離れる気無さそうですわよね」


「あっちはそうだろうけど、私は別にいつでも離れれるわよ?良い持ち主が居るならね」


「ならアティリオは持ち主としてどうですの?」


「……まあ、扱いが丁寧で良いんじゃないの?よく額縁とか磨いてくれたりするし?ソレに?他に太陽の光を克服する方法が無いなら?私を大事にするしか無いでしょうし?」



 ……コレがツンデレという属性なんですのね。



「……好きなら好きで良いと思いますけれど」


「あーもう、だから別に私は好きじゃないっての!せいぜい向こうが私を想うくらいだってば!良いから額縁見に行くわよ!」



 アティリオが詐欺師のだまし絵を想うくらいというコトは、パートナーだと感じるくらいの矢印がお互いから出ているというコトで、相当な想いだと思うのだが、コレ以上は本気で拗ねそうなので止めておこう。

 そう思いつつ、良い額縁が売っているのが()えた方へと歩いて行く。

 セールの方はまた新しいのが入れられたらしいので、アティリオと合流するのは大分後になりそうだ。




アティリオ

親は日光が苦手な不死身系魔物であり、不死身は受け継がずに日光が苦手という部分を受け継いだ。

良い品と青空が大好きであり、最近は詐欺師のだまし絵を抱えて散歩するコトが多い。


詐欺師のだまし絵

人間の彼女は自分の能力があくまで一時的な幻だという自覚があった為自称詐欺師になったが、律儀だったり説明をちゃんとしてくれたりとヒトの善さが滲み出ていた為人気があった。

なのでソレがトレースされている彼女もそうであり、多少の望みは言うが無茶振りはしない。


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