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ヒトと魔物のキューピッド  作者:
二年生
43/300

赤色少女とビッグイヤーキャット



 彼女の話をしよう。

 触れたモノを赤く染める特性を持ち、しかしその特性に辟易している、とある貴族の次期当主。

 これは、そんな彼女の物語。





 この学園には魔眼持ちや混血の子、そして障害者などが多く通っている。

 しかし普通の子も少なくは無い。

 更にはこの学園、少々特殊な特性の子も多く通っていたりする。



「地獄だわ……!」


「まあまあ」



 涙目で自室に顔を出したかと思えば抱きついてきたのは、リナだった。

 丁度ルームメイトであるジェネヴィーヴも居なかったので迎え入れたのだが、リナは自分から離れる気配が一切無く、今もベッドの上に腰掛ける自分の膝に座っている。


 ……というか、さっきからめちゃくちゃ頭部をホールドされてるんですのよねー。



「ソレで、どうかしましたの?リナ」


「どうもこうもないわよ!」



 抱きつく腕は緩めないまま、リナは言う。



「もーーーーーこの体質、イヤッ!」


「あー……」



 自分はリナの真っ赤に染まっている制服に視線を向けてから、リナが触れている周辺の自分の制服やベッドが真っ赤に染まっているのを()て納得する。

 そう、彼女は混血では無いのだが、特殊な体質だ。

 ソレも触れた物質などを一時的に赤色に染めてしまう、という体質である。


 ……一応生き物は平気なんですけれど。


 しかしまるで彼女が赤いライトであるかのように、彼女の周辺は真っ赤に染まる。

 もっとも赤いライトのように、真っ赤に染まったモノから離れれば光源が無くなるからか、染まっているように見えたモノも元の色に戻るのだが。

 リナは自分と同じく二年生なので白色と橙色がメインで使われている制服のハズなのだが、頭から血でも被ったかのように真っ赤に染まった制服を着ながら、その真っ赤な髪を揺らして赤い涙を流す。



「もう嫌よ……うう、染まらないジョゼの銀髪が癒しだわ」


「もっと他に癒し見つけた方が良いと思いますけれど……」



 友人に懐かれるのは嫌いでは無いが、執着されるのは勘弁だ。

 友人としての適切な距離を保っていたい。


 ……まあ、わたくしの髪に頬擦りするくらいにはメンタルが弱っているんでしょうけどね。


 赤色が好きならばともかく、そこまで好きでも無いのに常に視界が赤色に染まっているというのは、相当にメンタルにダメージを負うモノだろう。

 リナがよくメンタルカウンセリングの為に話しているカラーパンサーも赤色は興奮を促したりする攻撃的な色だと言っていた。

 気分を盛り上げる分には良いが、気分を落ち着かせるのには向いていないのでかなりメンタルに疲労が溜まるだろう、とも。


 ……種族的に色の専門家的なトコがあると考えると、カラーパンサーの忠告は真に受けた方が良いだろう。



「というか生き物は染まりませんし、皮膚とかも染まりませんわよね?他のヒトとかでも充分癒されるのではありませんこと?」


「白が好き……銀も好き……」


「こりゃ駄目ですわね」



 縋るように自分の銀髪に触れている。

 恐らく染まらないというのも大事なのだろうが、染まりやすそうな白や銀が染まらない、というのがリナにとって重要なコトなのだろう。





 十五分程髪を触り続けてメンタルが落ち着いたのか、ようやくリナが離れてくれたので今更ではあるがお茶を出した。

 ついでにカフェで買ったスコーンと、ジェネヴィーヴへのお土産として買ってきて共用で使っていたジャムも少し残っていたのでソレも出す。

 全種類買って来たハズなのだが、ストーンスタチューも含めて二人と一体で使用していた結果、思ったより消費が早かった。

 リナはお茶を飲んで一息つき、申し訳無さそうな表情でこちらを伺う。



「……悪かったわね。その、髪とか……凄いグシャグシャにしちゃって」


「構いませんわ。クシがあるからすぐ直せますもの」



 そう答えつつ、ささっと髪を整える。

 緩やかなウェーブとはいえ元々クセが強い髪なので、多少乱れていても誤魔化せるのは良いコトだ。

 さっきまで泣いていたリナの赤い涙が自分の髪に付着して返り血のようになっていたが、あくまでリナの体質で赤く染まっているだけであり、距離を取れば透明な涙に戻るのでソレも問題は無い。



「ソレにしても、随分とメンタルにダメージを負ってましたわね」


「そりゃそうよ!」



 反射的だったのか、叫んでからリナは申し訳無さそうに視線を逸らした。



「……そりゃ、そうよ」



 そして小さな声で、そう繰り返した。



「だってホラ、見てちょうだい」



 リナは持っていたカップの中身をこちらに見せる。

 見ると、その白いハズのカップは内側まで綺麗に赤く染まっていたし、赤茶色のハズの紅茶は茶色が行方不明なレベルで真っ赤だった。



「ナニを頼んでも私が触れれば真っ赤になるのよ?もう、味に変化が無いのはわかっているけど、正直全部が同じ赤色になるせいで視覚的イメージが妨害してきて、味覚も鈍ってきた気がするわ」



 そう言ってリナは片手で頭を抱えつつ、スコーンを手に取った。

 そして手に取ったスコーンが真っ赤に染まったのを見て死んだ目になりながら、頭を抱えていた手でスコーンにジャムを塗る。



「……美味しいわね」


「ソレは良かった。ジャムはウチの領地にあるケーキ店のモノですけれど、スコーンは王都にあるカフェで売ってるんですのよ」



 あのお店は持ち帰りも出来るのでとても良い。

 店自体は狭いが店内は広い上に、外の喧騒から切り離されているので読書に最適なカフェである。

 リナもスコーンが気に入ったのか、あっという間に一つ食べ終えた。



「ジョゼ、コレってドコのカフェ?」


「アソコですわよ。ええと……ホラ、四つ腕の女性店主が居るカフェ。明らかに狭いって外観の」


「ああ……え、でもアソコってホントに狭いと思うんだけど」


「店主のパートナーの能力で店内が広いんですのよ。なので入れば広々空間が広がってますわ」


「へぇ……今度行ってみようかしら」


「ええ、良いと思いますわ」



 紅茶とスコーンとジャムパワーか、リナのメンタルが落ち着いてきた。

 良いコトだとは思うが、今回のリナは相当なメンタル負担を抱えていた。

 ならば多少話を聞いて、鬱憤を発散させた方が良いだろう。


 ……あんまりしたくはありませんけれど。


 別にセラピストやカウンセラーでは無いので愚痴を聞いたら普通に疲れるのだが、友人のメンタルを考えるとそうも言っていられない。

 常に赤色に染まった中で狂ったりもせずに頑張って真っ当に生きているコトを考えれば、リナの愚痴を聞くくらいはしてあげるべきだろう。

 自分だったら一月も持たずに脳がやられるだろう事象に耐えているのだから、友人としてそのくらいはしようと思う。



「ところで、リナ」


「?」


「愚痴とかあるなら聞きますわよ。スコーンが無くなるまで、ですけれど」



 そう言うとリナは一瞬驚いたような顔をしてから、チラリとテーブルに置かれた皿の上のスコーンを見た。

 ちなみにスコーンはまだ五個以上ある。



「……前にも愚痴ったような内容よ」


「アナタからすれば同じコトにずっと悩まされてるのですから、ソレは当然ですわ。寧ろその方がこちらも聞き流しやすいので、嘔吐感がある時のトイレやゴミ箱だとでも思って鬱憤を吐き出しなさいな」


「………………」



 リナは瞳を潤ませながら、小さく呟く。



「ジョゼ、ジョゼ以上に包容力凄い相手じゃないと依存するタイプ引っ掛けそうだから気をつけた方が良いわ」


「今ソレ言うタイミングじゃなかったと思いますのよー?」



 あとソレは言われずとも自覚している。





 リナは話し始める。



「前にも話したと思うけど……ウチの家系、触れたモノとかの色が変わるっていう体質が遺伝するのよね。ヒトによって色自体は違うんだけど」


「らしいですわね」



 彼女の家系はカラフルなので貴族の中でも結構有名だ。



「……でも、当主は代々、赤色に染める体質のヒトが継ぐコトになってる。そのせいで赤一色みたいな中で、当主になる為の勉強とかこなして……」



 カップを壊しそうだと判断したのかリナはカップから手を離したが、その額からビキリという音と共に青筋が浮かんだ。



「当主になるのは別に良い!ええ、ソレは構わないわよ!でもこの視界どーーーにかならないワケ!?何色の服着ようと赤に染まるのよ!?常に赤一色!」



 リナは頭を抱えて叫ぶ。



「あり得ない色の組み合わせだろうと赤一色になるのよこの体質!お陰で色関係無くデザイン重視で選べるけど、そうじゃないのよ!そういう不幸中の幸いみたいなのは要らないの!そりゃ壁紙とかなら触れさえしなければ普通だけど!そういうこっちゃないのよ!」


「どーどーどー」



 スコーンにジャムをたっぷり塗って手渡せば、リナは大人しく受け取ってもそもそと食べた。



「……私だってね、染めるならもうちょっと違う色が良かったわ。白とか、緑とか、白とか、青とか、白とか」


「白押しですわねー」


「銀でも良いわ」


「パッと見あんま変わりませんわよ」



 くすんだ白と灰色と銀色は遠目で見れば大体同じような色に見えるモノだ。

 まあ自分の場合は遠視が可能なので見分けが付いてしまうが。



「……ナンでこんな体質なのかしら、ウチの家系」


「色つきの光源みたいな体質ですわよね」


「本当にソレよ。魔物は私の影響を受けないけど、普通の植物とかは赤くなるし……でも私が離れれば元に戻るしでホント、目がチカチカして脳が疲れる」


「よしよし」



 頭を撫でると擦り寄ってきたので、相当参っているらしい。

 そもそもリナは少しキツい時はカラーパンサーのトコ、大分キツい時は何故か自分のトコに来るので、今回自分のトコに来たというコトは大分キツかったのだろう。


 ……まあ、同年代の友人だからこその気の許しっぷりとかありますものね。



「ま、小さい愚痴から大きい愚痴まで、聞き流す感じでも良ければ聞きますわ」


「……スコーンが無くなるまで?」


「ええ、ソレはモチロン」



 ニッコリ笑って頷くと、リナも思わずといった様子で微笑んだ。





 数日後、中庭で本を読んでいると隣にリナが座った。

 リナがベンチに腰掛けた瞬間、一瞬にしてリナが座っている部分を中心として円状にベンチが赤く染まる。

 読んでいた本もリナから遠い端っこだけを残し、赤色に染まった。


 ……まあ、文字部分の濃さが違うから読むのに問題はありませんわね。


 もっとも赤色に塗り潰されようと、この目があれば普通に読めるのだが。



「……リナ、どうかしましたの?」


「………………安心しにきた……」


「成る程」



 どうやらまたメンタルが参っているらしい。

 しかもただ無言で近くに居たいというタイプだ。

 メンタルにダメージがあろうともまだ余裕があれば前のように多少怒れるのだが、今日はその元気すら無いらしい。



「……夢で」



 無言で隣に座ったまま本を読んでいると、リナがポツリと呟く。



「夢で、全部が真っ赤になる夢を見て……」


「朝から?」


「昼寝よ……最近、寝不足だったから」


「あらら」



 確かに彼女はベッドに触れるとベッドが赤色に染まるので、安眠出来ないと言っていた。

 赤色はエネルギッシュな色なので、睡眠などの落ち着きタイムには向かないのである。

 そのせいで寝不足だったのだろうが、寝不足解消の為の昼寝で真っ赤な悪夢を見るとは、相当メンタルが参っている証拠だ。



「君は少しマッサージでもしてリラックスした方が良いんじゃないか?」


「!?」


「あら」



 突然聞こえた声に、リナはビクンと肩を跳ねさせた。

 自分は最初から気付いていたので特に驚かなかったが、さっきまで彼はベンチの下で眠っていたハズなのだが、どうやら今のやり取りで起こしてしまったらしい。



「ああいや、違うよ。元々俺は浅い眠りしか出来なくてね。寝ているようで起きているのさ」



 そう言ってしゅるりとしなやかな動きでベンチの下から出てきたのは、銀の毛並みを持つ一匹の猫だ。

 彼は遠くの音や会話、更には近くに居るヒトの心の声までも聞き取れてしまう、ビッグイヤーキャットという魔物である。



「さてさて、君の声は時々聞こえていたが……」


「わ、ちょ」



 ビッグイヤーキャットは体を強張らせるリナを無視してベンチに飛び乗り、背もたれなどを利用してリナをじっくりと見回す。



「ふぅん、成る程。全てが真っ赤に染まるのか。そしてソレが疎ましい、と」



 銀色の毛並みを太陽の光でキラキラと反射させながら、ふぅん、ともう一度言ってビッグイヤーキャットは微笑む。



「しかし、ソレはそうも疎ましく思うコトかい?」


「当たり前でしょ!」



 ビッグイヤーキャットにどう接したら良いかわからず固まっていたようだが、その言葉は地雷だったのか、リナは反射的にそう叫んで返した。

 言ってしまってからリナは慌てたように口を押さえたが、ビッグイヤーキャットは意に介した様子も無く、片方の耳をパタンと閉じて思案げな表情を浮かべた。



「……そう疎ましく思わないでやってあげて欲しいものだと、俺は思うけどね」


「ハ?」



 怪訝そうに眉を顰めたリナを横目に、ビッグイヤーキャットは近くに咲いていた白い花を一輪、口で摘み取る。

 花壇の花ではなく、恐らく鳥系の魔物が種を運んで咲いたのだろう野花だ。

 彼はソレを咥えたままベンチの背もたれ、リナの顔のすぐ横まで移動し、その花を器用にもリナの耳へと掛けた。

 だが、その白い花は当然のように真っ赤に染まる。



「…………!」



 ソレを見て顔を顰めたリナに、ビッグイヤーキャットは目を細めて笑う。



「おやおや、直に会うのはコレが始めてだったし、さっきまでは眠っていたからね。まさかここまで見事に染まるとは」


「……っ!」



 ……あー、リナがめちゃくちゃ怒ってますわー……。


 リナはヒトが忌み嫌っている体質を遊び半分興味半分で試したのか貴様、と言わんばかりの視線をビッグイヤーキャットに向けた。

 しかしビッグイヤーキャットは気にした様子も無く、背もたれから降りてリナの腕に尻尾を絡める。



「……一瞬にして白が赤に変わる程とは、君は随分と好かれやすいらしい」


「……ハ?」



 先程の怪訝そうな表情とは違い、リナはポカンとした表情でそう零した。



「だってホラ、身につけたモノを真っ赤にさせる程惚れさせているだろう?ソレはそう簡単に出来ないモノさ」


「惚れ、って」


「うん?そうだろう?」



 ビッグイヤーキャットは滑らかな動きで首を傾げた。



「君に触れている時だけ、そのモノ達は真っ赤になるんだ。君が触れている付近だけね。ソレは君がソレだけ魅力的だから出来るコトだろう」



 彼はニッコリと、嫌味の無い笑みを浮かべた。



「俺はヒトや魔物の心の声が聞こえるし、出来るだけ言葉にするからね。だから言葉で誰かの頬を赤くさせるコトは出来ても、流石に服やベンチ、花までもを真っ赤にさせるコトは不可能だ。ソレだけ君は……おっと」



 言い掛けていたのを中断し、ビッグイヤーキャットはパチクリとその目を瞬かせる。

 直後、嬉しそうにその顔をほころばせた。



「殆どのモノがその身まで赤らめる程に魅力的な君は、どうやら俺の言葉に染められてくれたようだな」



 ……まあ、凄まじい殺し文句でしたものね。


 先程から無言になっているリナの顔は、赤く染まっていた。

 ソレを見て、ビッグイヤーキャットはより一層機嫌良さげな笑みを浮かべる。



「うん、綺麗だ」



 ビッグイヤーキャットは満足げに頷いた。



「君はどうやら赤色を疎ましく思っていたようだが、しかし赤色は君にとてもよく似合っているよ。特に他のモノ達を魅了して赤く染める君が俺の言葉によって赤く染まっているその顔はとても魅力的で、最高に素敵だ」



 本気で愛しげな相手を見るように熱の篭もったビッグイヤーキャットの目を真正面から見たリナは、より一層顔を真っ赤に染め上げ、その目から逃れるように隣に座っていた自分の膝に顔を埋めた。





 コレはその後の話になるが、リナはビッグイヤーキャットに口説き落とされ、パートナーになった。

 いや、凄かった。

 あの後リナは隙を見て逃げるように立ち去ったのだが、ビッグイヤーキャットはまったく引かなかった。


 ……まあ、本心とか聞こえてますしね。


 恐らくソレで本気での拒絶はされていないと判断したのか、ビッグイヤーキャットは押した。

 ソレはもう押しに押した。

 リナが授業を終えて少し暇しているようなタイミングを狙い、顔を合わせ、めちゃくちゃ本気で口説いていた。

 結果、自分の体質をコンプレックスに感じていたリナはビッグイヤーキャットを受け入れた。

 恐らく決め手となったのは、ビッグイヤーキャットのあの言葉だろう。



「俺はこの通り魔物だから、わかりやすく君に染められるコトは無い。変化無しの銀の毛並みだ。……けれど」



 あの時ビッグイヤーキャットはリナの肩に乗って、耳元で囁いていた。



「……見た目に表れていないだけであって、俺の思考は全て、君の色に染められているとも」


「~~~~~っ!」



 そんな殺し文句を言われて、自分の体質を否定し続けてきたがゆえに自分の体質を魅力的だと褒めてくれたビッグイヤーキャットに対する高めの好感度は、告白イベントが発生するまでに高まった。

 恐らく赤色に染めるというのは当主の証という感じだったので家族間でも褒められたりするコトは無かったのだろう。


 ……家系の方は皆、ナニかの色に染める体質らしいですしね。


 つまりソレが常識だから、当主であるコトは認められても、染めるコト自体に関して褒められたりも、慰めてももらえないのだろう。

 そして自分達の場合は大変だねと慰めはするものの、肯定は出来なかった。


 ……体質なら仕方ないコトだから、と受け入れるだけであって、肯定ではありませんでしたわ。


 困っているのがわかるから、自分達は肯定をしなかった。

 しかしソレを肯定してくれて、褒めてくれた相手。

 その上、リナが染めやすい色だからこそ染められないままでいるのが好きと言っていた銀色を毛並みとして持つ相手だ。


 ……んで、色は染められてないけど中身は染められている宣言とか、完っ全に落としにきてますわね。


 まあ少しキザっぽいビッグイヤーキャットではあるが、リナへ対する想いは本物らしいので問題は無い。

 心が読めて、銀色で、魔物だから染まらないビッグイヤーキャットであれば、メンタルがダメージを負いがちなリナのパートナーとしてピッタリだろうし。

 そう思いつつ、中庭のベンチでラブラブしている一人と一匹を見る。



「ああ……ビッグイヤーキャットが染まらないでいてくれるのがホントに嬉しいわ」



 リナは膝の上にビッグイヤーキャットを寝転がせながら、その毛並みをモフモフしていた。



「素敵な銀色……染まらない銀色……」


「中身は君色なんだが……まあ、君が望むならナニ色でも構わないさ。俺は君に惚れて欲しいからね」


「私の好きな銀色のままで居てちょうだい」


「モチロン、そう望むなら。染めたりするのも手間だしね」


「なのにサラッと染めようとしたの?」


「染めるとまでは言っていない気がするけれど、俺は君に惚れてるから。君が望むのであれば、そして君がソレを喜んでくれるならそのくらいはするさ」


「喜ばないからやらないでよ。私はそのままのビックイヤーキャットが……いや、ちょっと口説く時に小休止とか欲しいけど、まあ、そのままが好きだし」


「……ふふ、嬉しいコトを言ってくれるね。魅力が止まない愛する君を口説くのは最早呼吸に等しいから小休止は無理だけど……ソレ以外は了解するよ、リナ」



 お互いにお互いを見る目が愛おしいという感情に満ちているのを()て、この状況での読書は少しいたたまれないなと思い、自分は落ち着ける場所に移動しようと中庭を去った。

 あんなにもハートが見える空間で、ミステリー小説など読めはしない。




リナ

ヒトや魔物、あとは空気以外であれば真っ赤に染めてしまう体質。

かなりメンタルに不安定さがあったが、ビッグイヤーキャットがパートナーとして常にそばに居るようになってからは染まらないモノが居てくれるという安心感から安定してきている。


ビッグイヤーキャット

千里眼の耳版みたいな聴力を持つ猫の魔物。

リナには一目惚れであり、コレは他のモノが真っ赤に染まるのも頷ける、と思ってあの口説き文句になった。


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